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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
複合能力者の邂逅
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鷺森零の能力①

 零は長瀬から場所を教えてもらった後、すぐに別れて教室へ向かおうとした。


 校長室から出る時、校長から「よろしく頼むね」と言われたので会釈をしてから退出した。


 一緒に詩穂も校長室を後にする。2人で一緒に教室へ向かって歩き出す。



「鷺森君。いつ、現地へ向かうつもりですか?」


「今日の放課後に早速向かうつもりです。……というか、僕は1年生なので敬語でなくて大丈夫ですよ」



 零は詩穂の方をチラリと見るが、そこには何の表情もない。とはいえ、言われたことをそのままスルーするわけでもなく、前を向いたまま頷いた。



「わかった。私も同じ1年生だからタメ口でいい」


「あ、うん……」



 零は正直、タメ口で話す彼女の雰囲気が「恐い」と感じた。敬語で話す時は高貴でお淑やかな雰囲気があったのだが、それが無くなった途端、少しばかり無愛想に感じた。


 零が詩穂を知らなかったのは無理もなく、2人は違うクラスの所属だった。また、零が1組に対して詩穂は6組なので教室も離れている。


 校長室からは6組の方が近いので詩穂が先に零と別れて教室に入っていく。



「それでは鷺森君。また放課後に」


「うん。あ、ところで集合は現地でいいのかな?」


「昇降口で。別々に行く理由はないでしょう?」


「わかったよ、また後で」



 詩穂は手を振ることも無ければ会釈もせずに、そのまま背を向けて教室に入っていった。あまりに無愛想な別れ方ではあるが、零は「まあ、そういうものか」と思うことにした。


 1組は至って普通のクラスではあるが、6組は進学を意識した優秀な生徒が集まるクラスだと言われている。入試で高い成績を収めて入ってきた生徒は必然的に6組の所属となる。



(黒山さんって、頭いいんだな……)



 ───というのが、零が抱いた正直な感想だった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 1組の教室に戻って席に座ると、真っ先にクラスメイトである神田川(かんだがわ)(じゅん)が零に話しかけてきた。



「零、また呼ばれたのか?」


「ああ、うん。今回はまた特殊な案件だけど」


「お前を頼る案件で特殊でないものはないだろう……」



 零と潤はクラスメイトだが、同時に幼馴染でもある。家が近いというわけではないが、小・中学校ともクラスまで一緒だった。


 そして潤も重度の中二病患者であり、実力行使で暴走した重度の中二病患者を取り押さえる役割を担っている。


 それ故に、零の能力についてや任される仕事に理解があった。



「あまりに危険なら、予め俺に話しておけよ? 何かあってからでは遅いからな」


「ありがとう、潤。でも今回は大丈夫だと思う」


「そうか」



 潤は零の言う「大丈夫」の根拠を聞こうとしない。そもそも零は無理をするような性格ではない為、場合によっては武闘派の潤を頼ることだってあるから、潤も零の「大丈夫」を信じていた。


 零は細身だから、素の戦闘力では特に頼りない。それと対照的で身体が筋肉質であれば、能力もかなり戦闘向となっている。


 だからこそ、零は潤のことを「頼もしい」とずっと思っている。



「そろそろ授業だな」


「そうだね」



 2人はそんなやりとりを交わした後、潤は席に戻って授業の準備を始め、零もそのまま机の引き出しを漁って次の授業に必要な教材を机の上に広げた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして迎える放課後。


 約束通りに零は昇降口で詩穂を待っていた。靴を履き替える下駄箱もクラス毎で分けられている為、既に靴を履き替えた零は6組の下駄箱付近で突っ立っていた。



(……まだかな。来ないじゃないか)



 部活をせず、下校しようとする生徒が物珍しそうに横目で零を見て去っていく。変に恥ずかしくなって、かなり居心地が悪い。


 そもそも6組の生徒でもない人間がそこに立っていること自体が珍しいことであるのに、加えて零は真夏なのにコートを着用している。今でも寒いのは変わらないし、凍えて辛い思いをするくらいなら物珍しそうに見られる恥ずかしさを我慢する方が彼にとっては100倍マシだった。


 しばらく待っていると、ようやく詩穂が姿を現した。彼女は特に急ぐ様子も見せずに、さも「これが普通です」と言わんばかりに落ち着いて歩いてきた。


 靴を履き替え、零の前に立つ。



「では出発しましょう」


「え? あ、うん」



 零は詩穂が謝罪の一つもせずに出発しようとしたことが理解出来なかった。とはいえ、零の方から謝罪を要求するのも違う気がしてしまう。


 目的地に向かって歩き出しながら、零は詩穂に疑問を投げかけた。



「黒山さんは誰かと待ち合わせするの、初めて?」


「いえ、そういうわけじゃないけど。どうして?」


「いや、別に……」



 零は詩穂と目を合わせようとしない。ジトッとした目で見られているような気がするが、彼女の方を見るのがどうしても怖かった。


 目的地に向かって淡々と歩く。特に会話をすることもなく、寄り道もしない。普通なら詩穂のような黒髪美少女と肩を並べて歩けることに幸福を感じるのだろうが、零としてはただ恐怖しか感じなかった。


 目的地まであと少し。そこで詩穂が長い黒髪をなびかせながら、零に問う。



「どうして、現場を見に? 既に現場の捜査は終わっているはずでしょう?」


「ん? ああ、僕には普通の人では見えないものが見えるからだよ。てっきりその辺は長瀬さんから聞いていたと思っていたんだけど……」


「いえ、長瀬さんとはつい最近会ったばかりだから。むしろ、鷺森君を紹介してもらうために関わりを持っただけ」


「へぇ……え?」



 零は一層、詩穂のことがよくわからなくなった。何を目的に接触してきているのか、不明すぎて気味が悪い。



「───着いた。ここが現場か」



 あるのは赤い鳥居。桜の木に囲まれ、風に吹かれて揺れる枝と葉が擦れあう音。そして時期相応にアブラゼミの鳴き声だけが聞こえる。


 そこはあまり人が近付いて来なさそうな寂れた神社だった。今のところ、詩穂と零以外の人がいる気配はない。


 本当に静かな場所だ。



「ここが現場? 神社は神聖な場所なのに」


「ここを選んだ理由は彼にしかわからない。───仕事を始めるよ」



 詩穂が零を凝視する一方、零は鳥居を潜って辺りを見回した。


 零の目には色んな人が映っている。縁日なのか、はしゃぐ親子や、参拝に来る客。歴史に残ったいくつもの思い出が飛び交う中、葉桜の下で落ち込むように肩を落としている青年を見つけた。


 零が青年に近付く為に歩き出すと、詩穂はその後をついてきた。


 青年が近付いてくる零に気付く。青年は零に対して何かを語りかけているように口を動かしているように見えるが、零にもそれは聞こえていない。


 そこで零はコートの内ポケットから古い携帯電話を取り出した。現代でいうところのフューチャーフォン。或いはガラパゴスケータイだ。


 詩穂の中に疑問だけが募る。しかし、彼女もまた能力を持っている者であるから、そこで零に話し掛けるのは良くないと察することが出来る。


 彼女が心中に募らせる疑問など知らず、零は携帯電話を操作した。耳に当て、通話を開始しようとするが携帯電話の発信音は一切しない。


 目の前の青年と携帯電話が繋がる。携帯電話を介して、青年の声がようやく聞こえるようになった。



『お前、誰だ?』


「僕は鷺森零。君について色々教えて欲しい」


『……俺はこれから死ぬ。お前が俺のことを知ったところで何になるというんだ?』


「君のメッセージをちゃんと届ける。その為に、ナンバリングした遺書について聞きたいんだ」


『───えっ!?』



 流石に青年も驚いたようだ。ナンバリングされた遺書についてなど、本人か関係者にしか知り得ない情報である。


 だが、それにより青年はここに零が来ていることの意味を悟ったようだ。



『ああ、そうか。そういうことか。俺はもう果たしたんだな』


「その通り。安らかに眠りたいところ申し訳ないけど……」


『わかった。No.1はもう知っているな? ナンバリングした遺書は全部で10個ある』


「ということは残り9つ……。それぞれ何処に置いたのかな?」


『2つは大切な人に。1つは職場に。4つは母校に。もう2つは高校の最寄駅と、あそこに置いた』



 青年が指差した先には賽銭箱があった。まさか、賽銭と一緒に投げ入れたとは思いたくないが───。



「わかった、ありがとう。探し出して君のメッセージをちゃんと伝える。……約束するよ」


『本当は時間を掛けても見つけてもらいたかったんだけどな』


「世の中は思い通りにいかない。それは君が1番よくわかっていることのはずさ。そして、君の願いが届くことなく残り続けるより、ちゃんと伝わった方が君のためになるだろう?」


『……確かに』


「後は任せてくれ。では、安らかに」



 零が通話を終了させ、携帯電話を元の場所に戻した。その直後、賽銭箱に向かって歩き出し調べてみると、箱と柱の隙間にNo.1の遺書と同じような紙切れが挟まっているのが見つかった。

読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


前作「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」には1つ、こだわりがありまして。

病死など以外では絶対に死人を出さない、というこだわりがありました。そのため、沙希の祖母と恋仲だった伊塚勇の死因については明記していません。ご想像にお任せします。


今作は死人が出るかもしれませんが、正直なところ、ファクションだとはいえ、能力を持った高校生が人を殺める作品を作っていいのか考えてしまいます。


重度の中二病とは、あくまでも「他人とは違う、特別な自分を確かにするもの」。

想像力が豊かな人に、更なる想像をしてもらう為の種。それを人殺しに使うことは、自分の理念に反しているような気がしてならないのです。


とはいえ、戦いとは殺し合い。現在では五輪が開催されるように「競い合う戦い」というものも存在していますが、重度の中二病患者とはそういう存在でもありません。


……と、書きつつ「そういえば、高校生が魔法を使って敵を葬ってるラノベがあったわ」と思い出してしまいました。私にとって、憧れのラノベです。


どうしよ。



それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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