忌み子の由来
短めです。
すみません……。
零の目の前に広がった光景は今とは違う景色だった。
一緒に行動していた3人はいない。今よりずっと手入れされているのが印象的で、どうやら畑をやっていたらしいことがわかる。
それはまだ「忌み子」という存在が生まれる前なのだろう。祠はなく、のどかな雰囲気が印象的だ。
二人の娘が歩いてくる。一卵性であることが一目でわかるように、二人はよく似ていた。仲睦まじく歩いており、からからと笑いながらこちらへやってきた。
零にはそれが、原初の忌み子の生前であることがわかった。しかし、どちらも同じ顔をしているので、どちらが忌み子になったのかはわからない。
二人の娘はちょうど祠がある場所に立ち止まった。零はピンク色の携帯電話が原初の忌み子と繋がっている状態だったことを思い出し、目の前に見えている相手へと通話の相手を変えた。
相手は零の存在を認識した。だが、今の零には特段聞きたいことがあるわけではないため、残留思念はその場に残った記憶の再現を優先する。
『うちは姉様に負けてない! 二人ならきっと、今までの当主よりも強くなれる!』
双子の妹と思われる方が力強くそう言った。もう片方を姉と呼んだということは、強気に話している女性が原初の忌み子といったところだろう。
戦闘の時には想像できなかったほど、彼女は明るい表情で語っていた。姉よりも先に祠があった場所へと走り、そこから見える景色を一望して深呼吸をした。
姉が後に続いて背後に立つ。その瞬間、零は嫌な予感がした。
その予感は的中し、零が思わず前に出た直後には姉の方が妹を突き落とし、顔を背けたくなるほど、恐ろしい形相で下を見下ろしていた。
零は急いで通話の相手を切り替える。
「どうしてそんなことを!?」
姉は睨むように零の方を見た。その目はまるで全てを恨むような目であった。相手はこの場所に残った単なる記憶でしかないとわかっていても、不気味な怖さが零の危機感センサーが激しく反応した。
『次期当主はこの私。桃と二人でなんてありえん』
「だからといって突き落として殺めるだなんて間違ってる!」
『ふん、お前に何がわかる? このまま桃が強くなれば、私の立場が危ぶまれる。桃は忌み子として私が始末した。ただそれだけのこと』
「今のはただの殺人だ。次期当主だからって本家の人たちは、妹を殺めた貴女を絶対に許さないはず」
零の言うことは正論だ。原初の忌み子……桃を殺めた理由は純粋に己の都合によるものだ。
しかし、零の発言に対して双子の姉……梅は鼻で笑った。あまりに零の言葉が「綺麗事」にしか聞こえなかったからだ。
『お前のくだらん綺麗事で鷺守を語るな。二人で鷺守の当主になるなどあり得ん。当主は唯一無二の存在。陰の力を持つ桃は危険なだけ』
零と梅が意味のない押し問答をしているうちに、突き落とされたはずの桃が這い上がってきた。無論、無傷だったわけでもなければ蘇ったというわけでもない。
零が再び桃に通話を繋ごうとするが、それよりも早く桃の陰が霊気を放って梅を襲う。そして梅が陽の力を持ってぶつかり合ったところで、零が見ていた残留思念も終わってしまい、元の現代へと景色が戻った。
零は慌てて原初の忌み子となった桃へ通話を掛ける。すぐに繋がって会話が可能になった。
「桃さん、もうやめましょう! 僕達が戦う必要はないです!」
『……!?』
原初の忌み子は動きがぴたりと止まって零を凝視する。その姿は先ほど残留思念で見た時と同じだったが、零の「残留思念との親和性」によって、零に対する敵対心は薄れていっている。
しかし、それはあくまでも「零に対する」ものだ。他の三人。特に同じ状況にも関わらず、今も生きている弓美に対しては憎悪が減ることはない。
桃の狙いは弓美へと向いた。
『忌み子はこっちぃぃぃ!』