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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
狼狽する鷺の家
176/190

弓美を狙ったのは───

「弓美。零さんを連れてここに」


「はい」



 襖を開けた弓美に続いて零も部屋に入る。その部屋は当主の部屋であり、流石は本家と分家というべきか、鷺森の家にある霰の部屋より広いが、部屋のレイアウトは殆ど似通っていた。


 弓美と零は向かい合った梓と焔の横に座り、どちらの顔を見られるようにした。一方、焔は弓美の姿を見て顔色が曇った。



「焔さん」


「はい?」



 梓に名前を呼ばれた焔はまたすぐに顔色を戻して梓を見る。



「貴女は私が貴女の行いを理解しているとお思いのようですが、残念ながらそうではありません」


「へ?」


「そちらにいる零さんの能力によって、貴女が女子トイレで五寸釘ならぬ、五寸蟲とやらを使って弓美の心を食い違っていたのだとわかったのです」


「……へえ」



 焔は目を丸くして零を見る。反応こそ薄いが、本当に心底驚愕していた。



「鷺森零さんは、男子ですよね? 男子なのにそんな能力が宿るものなんですか?」



 焔に敵意はない。ただ純粋な好奇心による質問だ。それに対して零はゆっくりと首を横に振った。



「僕のこれは鷺森家によるものじゃない。正直なところ、僕にも何でこんな力が宿っているのかわからないよ」


「だけど、その力によって私の目的を暴いたわけですね? それなら話が早い。私の目的がわかっているなら邪魔しないでください」


「……コホン!」



 焔は妖しい笑顔で零にそれをお願いするが、言うまでもなく受け入れるわけにはいかない。零がそれ拒もうと口を開いた瞬間、梓の咳払いで一先ず止まった。



「零さんは今回の事件において、解決に向け力を貸してくれています。当然、焔さんの目的を承知の上ですから焔さんの目的が達せられることはありません。───さて」



 梓は「ここで一旦話を区切る」という意思を伝えるべく手を叩いた。当然の行動に一同は驚くが、そのおかげで本題へと話を進めることができる。



「焔さんが白を切った場合、多少強引な手を使わねばなりませんでしたが、その必要がなくなりました。いざとなった時のためにお二人に来ていただいたので意味が無くなってしまったわけですが、思わぬところでお二人のお力添えが必要になりました」


「思わぬところで?」


「はい。先程、焔さんからお話を伺っている中で少し気になるお話しがあしまして。焔さん、鷺守家の祖先とどこでお話をされたんです?」


「えっ……?」



 焔は「そんなこと教えるまでもない」と言わんばかりに、驚くような声を上げた後無言でとある方向を指差した。

 指差す先にあるのは、ただの柱だ。しかし、当然ながら焔は柱を指差したのではない。その「方角にあるもの」を指差したのだ。


 零にはその先にあるものが何なのか知らなかったので焔が何を指していたのかわからなかったが、梓と弓美にはその正体がわかっていたようで、顔色が少し悪くなっていた。


 動揺した梓が焔に問う。



「し、しかし焔さん。何故、貴女があちらの方向に? 確かに本家としても立ち入り禁止にしているわけではありませんが、意図せぬ限りは近付くこともないはずです」


「呼ばれたからですよ。女の人の囁く声が私には聞こえたのです。名前こそは知りませんが、あの方は私が妹に相応しいと……代々もそう言っていると教えてくれたんです」


「…………」



 梓は珍しく余裕がなさそうな顔をしていた。焔の証言に対して余裕のある答えが出来ない。

 色々と思考が頭の中を巡っていたが、やがて弓美と零の顔を交互に見て納得したように首を縦に振った。



「成程、どうやらお二人を呼んだ意味はここにあったようです」



 零は首を傾げていたが、弓美には何となく梓の言いたいことがわかっているらしい。小さく頷いて姉の言葉を待った。



「これは予想ですが、恐らく弓美を狙った張本人は焔さんではなく別にいるようです。なので、私たち4人でその場まで向かった後、焔さんを唆した犯人を鎮めようと思います」



「捕まえる」ではなく「鎮める」という表現だけで、零と弓美は相手がこの世ならざるものだと察した。

 とはいえ、今から行ったところで姿を現すことはないだろう。昼間はあくまでもこの世に生きる者たちの時間だ。夜になれば姿を現すだろうということで、後ほど集合するため具体的な時間と場所を提示したうえで梓と焔、弓美と零が一緒に行動することを前提に一度解散した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 弓美と零が一緒に行動しているのは「黒幕が別にいるから」というものであるが、とはいえそこらじゅうを歩いていていいというわけではない。

 というのも、原因は零ではなく弓美の方にあり、本家当主である梓の妹ではあるが、歴史の流れからして双子の片割れが忌み嫌われるのは現代でも分家にはある意識なのである。

 つまり、弓美は分家から疎まれている存在なので出来るだけ分家の目に触れる場所にいたくないという気持ちがあった。


 そうなると、他の分家に近い部屋を与えられている零の部屋で待機するというわけにはいかない。どちらも気乗りはしないが、弓美の部屋で待機することにした。

 女子トイレで残留思念を見ていたということもあり、零としては軽蔑されているようで、少し怖かった。



「と、ところで弓美さん」


「何?」



 弓美の機嫌は比較的普通のようだ。声のトーンそのものはずっと変わらないが、少し首を傾げている。

 それだけで零は少し安心したが、それを知りたかったわけではない。



「焔ちゃんが指差した先、そこに何があるんだろう?」



 零の疑問に対し、弓美はその方向を見ながら答えた。



「中庭でも話したけど、この家では双子の片割れって忌み子として扱われるんだよね。そして忌み子はこの家に災厄をもたらす前に殺される。その殺された子どもたちを供養する祠があっちにある」


「忌み子の祠……か。でも、弓美さんの話からして双子の片割れは赤子のうちに殺されるから、この世ならざるものとなって出てきてもまともに言葉を話せないんじゃないかな?」


「……確かに」



 驚きこそはしなかったが、零の指摘を受けて考える姿勢をとった。

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