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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
二人の英雄
152/190

最後のピースは……

『む……?』



 ミラクル⭐︎アリサによる『奇跡』の光を浴びた直後の記憶がない。落武者は気付けば城跡に立っており、ただそこには冬の冷たい風による音しかなかった。


 一つ、また続いて一つ。何かが地面に落下する音がした。最初の一つは御神鏡であり、柔らかい地面に落ちたようだ。続くもう一つは零のものであり、その存在に気付いた落武者はまたも笑った。



『くかか! 何がしたいのかはわからぬが、ここなら有利に戦えるとでも思うたか?』


「むしろ不利になる……だろうね。僕にとっては敵が増える場所でもある」


『それがわかっていながら、何故ここを選んだ? 到底理解出来んな』



 理解できないからこそ愉快。落武者はとても上機嫌に問答をしていたが、もう一人近付いてくる存在に気付き、刀を構えた。



「理解できないとは残念。あんた達が封印されていた場所だというのにね」


『貴様は……』



 やってきた少女は零にとって「勝利を作るピースの一つ」である沙菜だった。詩穂と亜梨沙、そして沙菜がこの場に現れてようやく勝利への道が完成する。



「首尾よく悪霊と御神鏡をここへ誘導したようで何より。入り口を張ってたのに現れなかったのが不可解だけど」


「ごめん、それは話せない事情みたいなのがあるんだ。それより……」


「はいはい」



 沙菜の格好はどちらかといえば、剣道の稽古をしている時の方が近いといえる格好だった。だが、鷺森家に伝わる礼装とは全く異なる。沙菜の礼装は陰陽師を彷彿とさせるものだ。


 そんな沙菜は地面に落ちて月明かりを反射していた御神鏡を手に取った。その中には奈月と歳の近い女性達の姿が見える。沙菜の最初の役割はこの御神鏡から囚われた女性達を解放することだが、鏡をじっと見てから零の方を見た。



「残念だけど、これは無理だ」


「えっ? 沙菜さんにも無理なくらい高度過ぎるってこと?」


「いや、これは霊的な力によるものじゃない」



 沙菜は視線を落武者へと移し、鋭く睨みつけた。



「これ、御神鏡本来の力じゃないよね。一体何をした?」


「…………!」



 零も驚いて落武者を見る。すると落武者は再度高らかに笑った。



『くかかか! 流石は北見の魂を宿す者か! それには我が呪術を込めたのよ!』


「呪術……? それもまた違うように思えるけど」


『某にも正体はわからぬ。だが、呪術と呼ぶに他あるまいな。……お喋りはここまでだ。貴様の先祖には苦汁を嘗めさせられたからな。そこの童とまとめて切り捨ててくれるわ!』



 かつて、北見家の先祖に封印された屈辱。その怒りは怨念となって刀身を妖しく光らせる。予定外にもいよいよ戦わなくてはならなくなったようだ。



「沙菜さん!」


「残念だけど、これじゃあ御神鏡は使えない。私とあんたでやるしかないよ!」



 零は刀を構え、沙菜は呪符を取り出す。最初に動いたのは意外にも沙菜だった。沙菜は何か呪文のようなことをぶつぶつと呟き、呪符の文字が書いてある面を落武者に向けると、そこから青い炎の球がいくつも出てきて落武者に向かって放たれた。



『くかか! 技は劣っておらぬようだ! だが!』



 落武者は臆することなく青い炎の球達を刀で斬り捨てる。その力は呪符そのものへと渡り、まるで鋏で切ってしまったかのように二つへ割れた。


 そこに間髪いれず、零が斬り込む。落武者の太刀筋は脅威だが、こちらから攻撃を仕掛ければ勝ち目があるかもしれないと踏んだのだ。



「はあっ!」


『くかか!』



 零の刀と落武者の刀が激しくぶつかる。月の明かりを放つ刀身は落武者の妖しい刀身から妖力を祓うが、それは一時的なものであってすぐに刀身の妖しさは戻る。



「まだまだ!」



 零はその結果に落ち込むことなく剣を振り続ける。何度も刀同士がぶつかり合い『黄零』の能力は確実に落武者の妖力を祓っているが、純粋な剣の腕では落武者の方が上手なので、必然的に零が押される。



「くっ……!」


『くかか! そんなものか!』


「どいて!」



 沙菜の声が聞こえ、零は落武者の刀を振り払って後方へ退がる。すかさず入れ替わった沙菜は呪符から新たな術を編み出し、呪符を刀の姿へと変えて落武者に襲い掛かった。



『むっ!』



 沙菜の刀と落武者の刀がぶつかる。『黄零』のような力はないが、奈月直伝の剣術は落武者を十分に驚かせた。



『貴様、竹刀の女と同じ剣を……』


「問答無用!」



 沙菜は零と比べものにならないくらいに鋭く素早い攻撃を繰り出し続ける。二人の攻防はほぼ互角だが、このままでは生身である分、体力の限界がくる沙菜が不利になるだろう。



「…………」



 零も加勢すれば圧倒できるかもしれない。だが、零と沙菜は稽古こそ一緒しても共闘したことはない。下手に混じったところで不協和音となり、むしろ不利になるだろう。


 零は石柱に立て掛けられた御神鏡を手に取り覗き込む。そこには囚われた女性達が零に助けを求む姿が見える。


 沙菜は「このままでは使えない」と言ったが、それは正確ではない。このままでも御神鏡は本来の力を発揮し悪霊たちを封印するだろう。

 しかしそれは、囚われた彼女達を一緒に封印することとなる。この中では永遠に生き続けることとなるだろうが、そこには終わりがない。文字通り永遠に囚われ続けることとなる。


 だが、御神鏡を使わずにいれば沙菜と零は敗北し、城跡を中心に怨念は広がってかつての災厄がこの地を襲うこととなるだろう。


 零は悩んだ。時には何かを成すために犠牲を払わなければならない。この地に住む大勢の命に比べたら、彼女らの犠牲で済むのであればそれが合理的だろう。しかし、それはあまりにも非人道的であり、その決断は高校生である零には耐えられないものだ。



「その鏡、重度の中二病による痕跡があるな」



 零が悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声がした。すぐさま振り向くと、そこには黒山透夜が娘の詩穂と同じような真顔で立っていた。



「どうしてここに?」


「詩穂から聞いてやってきたんだ。その鏡から重度の中二病の気配がする気がするってさ」


「それなら、黒山さんも……詩穂さんもここに連れてくるべきだった?」



 零が自身の選択ミスを追求していると、透夜は首を横に振った。



「いや。あの子は長谷川咲枝と相対していなければ、魔法少女の女の子が手に落ちていただろうな。……その鏡、俺に貸してくれ」


「は、はい」



 零は透夜に言われるがまま鏡を渡した。透夜は零に向かって頷くと『拒絶』を両手に込めて御神鏡へと流した。

 直後、鏡は眩しい光を放ったかと思うと、いくつかの光弾を吐き出す。その光弾は地面へ着地すると囚われた女性達の姿へと代わり、外に出られたことを悟った彼女らは一斉に喜んだ。


 様子の変化に気付いた沙菜と落武者の手が止まる。注目は御神鏡へと集まり、落武者は怒りで吠えた。



『貴様! 何をした!』


「…………」



 しかし、霊感のない透夜には落武者の声が届かない。透夜は鏡を零に返して微笑んだ。



「俺は彼女らを連れてここから離れる。後は君達の出番……でいいよな?」


「はい! ありがとうございます!」



 透夜は頷いた後、すぐに囚われていた女性達へ声を掛けて一緒にこの場を去った。落武者の意識が透夜に向いている隙を狙って零に接近していた沙菜は零から鏡を奪い取った。



「わっ!」


「これで封印を施せる。でも、その準備をしている最中は自衛が出来ない。私の準備が終わるまで、あんたはアイツの相手をして」


「う、うん」


「シャキッとしなよ。私が稽古してやってるんだ、あんたならちゃんとできる」


「うん」


「私の時間を無駄にするなよ!」



 沙菜はそう言って封印に必要な道具を取り出すため、入り口付近に置いていた鞄を取りに走った。零にとって思わぬところへ走っていったので本音は「え? あれ?」と言いたいところだが、だからといって課せられた役割が変わるというわけではない。


 御神鏡に囚われていた女性達は、長谷川咲枝にとって「救うべき人」ではあったが、その実、落武者にとっての「人質」だった。彼女らの存在が鏡の中にあれば、現代人なら封印に使えないと踏んでいたのだ。


 しかし、その思惑は透夜にとって壊された。今の落武者には先程までのような余裕が失われていた。



『貴様ら……許せぬ! 封印などされる前に、貴様らを切り捨ててやる!』



 落武者は再び刀を構えて零を睨む。しかし零は刀を携帯電話の姿に戻し、保存されているある能力を呼び出した。

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