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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
二人の英雄
146/190

再浮上

先週はどうにも執筆出来る時間が設けられませんでした。

出来ない要因は恐らくしばらくは来ないはずなので、またしばらくは通常です。

よろしくお願いいたします。

 実際のところ少しずつ真実に近付いているのだから、そこまで事件解決を焦る必要はないと零は思っていた。


 しかし、現実は零にとって残酷だ。零が知らないところでは更に被害者が増えており、地嶋グループとしてはこれ以上待てない状態だった。零が沙菜と城跡へ向かっている一方で詩穂は沙希に呼ばれていた。


 会社のミーティングルームには詩穂と沙希の他に奈月、透夜、そして長瀬がいた。詩穂は自分の父親がここにいることが気になったが、それよりも長瀬が呼ばれていることの方が不思議で気になった。とはいえ、それを口にする気はない。


 チラチラと詩穂に見られていると気付いた長瀬は、いつもの気さくさで詩穂に話しかけた。



「やあ、黒山さん……って、透夜君がいるとちょっとややこしいね」


「…………」



 詩穂は一応、長瀬の方を見たが、特にこれといってコメントを残さなかった。詩穂だけに限らずこの場にいるものは皆、長瀬に注目しているが、反応に困った娘を庇うかのように透夜が反応した。



「元より俺のことは苗字で呼ばないだろう? 誰も違和感など感じない」


「それもそうだね」



 詩穂にとっては意外なことだが、透夜と長瀬は仲が良い。透夜は重度の中二病の後遺症で重度の中二病患者による攻撃を無効化することはできるが、かつてのように戦えるほどの能力はなく、詩穂のように武力で解決はできない。


 しかし、透夜には小学生の頃から重度の中二病患者と戦ってきた経験がある。その経験は、重度の中二病患者が起こす事件を追う長瀬にとって大きな助けとなっており、零が現れるまでは透夜から経験に基づいた助言を受けていた。それを繰り返し、歳が近いということもあって、二人は仲良くなったのだ。


 少しだけ緩んだ空気を沙希が引き締め直した。



「……それで、これだけの人数を呼んでお話ししたいこととはなんでしょうか、刑事さん?」


「ああ、そうでした」



 本題を忘れていたわけではないが、黒山親子が揃っている珍しさを「イジって」しまいたくなり、つい話が脱線してしまった。元より長瀬は表情や感情の切り替えが苦手であり、今も顔はにやけたままで話を続けようとしている。


 だが、それを咎める者は誰もいなかった。



「今回の事件における重要参考人として旧姓・長谷川咲枝さんという方が浮上しました。それは皆さんも承知のことだとは思いますが、実は新たな重要参考人となるであろう方が判明しました」



 その言葉を聞いた奈月は驚いたような顔をしたが、沙希は左の眉がピクリと動いただけだった。黒山親子は微動だにしない。そんな反応を窺いつつも、長瀬は話を続ける。



「その前に、長谷川咲枝さんの現在ですが彼女は中沼家へと嫁入りし、今はお孫さんもいるようです。そしてそのお孫さんの中には御社で勤務されている中沼奈美さんも含まれています」


「えっ?」



 やはり驚いたのは奈月だった。奈月は以前、零から「中沼奈美が怪しいようで怪しくなく、警察もマークはしている」という旨の話は聞いていた。


 そして警察による捜査の結果「中沼奈美は怪しくない」だった。それはこの場にいる透夜も知っていた。



「待ってくれ。警察は中沼を重要参考人の候補として調べたが何も出てこなかったという話だったはずだ。それがどうしていきなりひっくり返った?」



 透夜の言うことは最もだ。長沼をシロだと信じている奈月は発言している透夜を見た後、再浮上した根拠をしっかり聞き逃さないよう長瀬をジッと見た。



「なんだか圧を感じるなー……。確かに透夜君の言う通りだよ。ただそれは、祖母である咲枝の関与がなかった場合の話だ。地嶋さんから提出いただいた手紙が無ければこの繋がりには気付かなかったよ」


「つまり、警察としては祖母である咲枝とのやりとりを調べたいということか?」


「流石は透夜君だ、話が早い。───とはいえ、今のところは家系による繋がりが判明しただけで、中沼奈美さん自身がこの件に関与している証拠があるわけではない。任意同行、という形になるだろうね。だから……」



 長瀬は沙希の方を向き、頭を下げた。



「地嶋さん、お願いがあります。中沼奈美さんが任意同行による捜査協力をしてもらえるよう、計らってもらえませんか?」



 そのお願いを聞いて、真っ先に反応したのは沙希……ではなく奈月だった。



「待ってください刑事さん! なみんは……中沼さんが事件に関与している証拠はないんでしょう!? だったらそんな疑っているようなことは……」



 奈月の抗議は途中で止まった。沙希が立ち上がり、奈月を手で制したからだ。



「……沙希ちゃん」


「奈月、これは中沼さんの無関係を証明する機会ということよ。我が社の社員が会社を貶めるようなことをしているわけがないもの」



 沙希は奈月にそう優しく諭して、再び長瀬の方を向く。だがその表情と声色は奈月に向けた優しさと相反しており、部下を守ろうとする上司の強さと長瀬……警察を相手取ろうとする攻撃的な強いものだった。



「刑事さん。そのお願い、承りました。だけど約束してください。無理な捜査はせず、彼女を傷付けないと」


「も、もちろんですよ」



 初めから無理な操作をするつもりが長瀬にはなかったが、顔を上げて見えた沙希の強さに圧倒されてつい動揺してしまった。追い討ちするように沙希はキッと長瀬を睨むが、このまま膠着してしまえば時間を無駄にするだけだ。透夜は気になったことを口にして空気を変えた。



「しかし長瀬さん、あんたが首を突っ込んでくるということは重度の中二病による『何か』があると睨んでいるのか?」


「ああ、うん。私は重度の中二病患者による事件を専門としているけど、どうにも関わってそうな気がしてならないんだ」


「勘……ということか?」


「まあ、そうだとも言えるね。透夜君の調べだと、中沼さんは重度の中二病患者じゃなかったんだろう?」


「ああ、違うな」



 透夜には相手が重度の中二病患者かどうかを見極める能力がある。これは透夜がかつて持っていた『漆黒』の能力とは何も関係がないので、後遺症程度しか能力を使えない状態であっても、目だけは機能していた。


 そしてそれが中沼奈美が「少なくとも重度の中二病による能力を使って事件を起こしていない」という何よりもの証拠となっている。



「透夜君がそういうのだから間違いないんだろう。だけど、痕跡の方はどうだった?」


「痕跡か……」



 透夜には目を活かした能力でもう一つ、重度の中二病による能力が使われた痕跡を見る力も備わっている。しかし、それは小さいと発見することができない。



「成程、俺が見た時は痕跡は無かった。しかしそれが最小限の能力によって操られている可能性は否定できないな」


「そういうことだよ」



 しかし、そういった可能性があるとはいえ長瀬にはどうしても釈然としないことがあった。

 それは、今回の事件において二つの現象が起きているということだ。


 一つは、中沼奈美を利用できるだけの能力。そしてもう一つは、被害者を鏡に閉じ込める能力だ。

 長瀬は実物を見たわけではないので「人が鏡に閉じ込められる」だなんて容易には信じられていない。ある意味、それは零による情報という、情報の出所で信用が成り立っているものだった。


 無論、二種類の能力を併せ持つ可能性も否定はできない。実際、最終的には一つの能力として集約されているが、黒山親子の『漆黒』や《クリフォト》による女子高生誘拐・監禁事件を起こさせた主犯格である白河現輝の『純白』は元を辿れば二つの能力に別れていたのだから。



「では、よろしくお願いします」



 色々と考えるべきことはあるだろうが、長瀬はこの場から去るために適当な挨拶をして会社を後にした。一方で、長瀬が去ってから他のメンバーは何故かすぐに動き出せなかった。

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