表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
複合能力者の邂逅
14/191

「何故?」

 恋悟に店を出ることを促され、零はその通りに出ようとした。だが、詩穂によって止められる。



「敵だと思う相手に背中を見せるわけないでしょ」


「成程、確かにそれもそうですね」



 恋悟は背中から不意打ちをするつもりはなかったが、詩穂の言うこともわかる気がした。だから無駄に言い争うことはせず、あえて背中を見せて店を後にした。


 後に続いて詩穂と零の2人も店を後にする。しばらく路地裏を歩き、唐突に恋悟が振り返った。



「それで、僕に何の恨みがあるんですかね?」


「……恨みなどないわ。ただ、貴方の行動によって不幸になる人もいる。だから、私は貴方を倒しに来たの」


「不幸になる? そんなことはあり得ませんかね。だって僕は『恋愛』を司る者・恋悟。人の『恋愛』を成就させるのですからね」


「それによって、自ら命を断つ者がいるというのに?」



 零は恋悟の言葉に違和感を覚えた。確かに恋愛を成就させることが可能なのかもしれない。だが、だからといって誰もが幸せになれるということはない。誰かにとっての幸福は、誰かにとって不幸だということもあるのだから。



「自ら命を断つ? それは成就までの過程であって結果ではありませんね。それによって成就されたのであれば、当人達は幸せですからね」


「知らないとは言わせないよ。つい最近、あなたに相談をした結果、彼女からの愛を確かめる為に命を経った人がいるということを。そして彼女は彼を失った悲しみに暮れているんだ」


「……なら、この世を去った彼は彼女の愛を知って満足しているでしょうね。死してから愛を悟るだなんて、なんて不器用な『恋愛』なんでしょうね」


「…………」



 恋悟は死を喪失だとわかっていない。あくまでも恋愛を成り立たせる為の手段だとしか思っていない。そして、そんな考えで青年に自殺を助言したことに全く罪を抱いていないどころか、彼らの愛を不器用とさえ罵った。


 零はそれが許せなかった。



「人命軽視を甚だしい! お前が人の幸福を語るな!」



 零はいつのまにか《妖刀・現》を呼び出していた。今の恋悟相手ではそれが通用しにくいことをわかっているはずなのに。



「鷺森君!?」



 詩穂は零の行動に驚愕を隠せなかった。止めようにも間に合わない。見届けることしか出来なかった。


 零が叫ぶ。



「武装型・呼び出し!」



 《妖刀・現》から冷気が出ているのが見える。零が刀を振ると、刀身から氷柱が射出されて恋悟に飛んでいった。



「おやおや、これは困りましたね」



 詩穂が目の前で起こった現象に驚いている一方、零の能力をほんの少しも知らない恋悟は困ったように笑った。そして彼も戦闘モードへと移行する。


 零が放った氷柱を恋悟は回避せず受けた。しかし、恋悟の姿は揺らぎ、消えてしまった。



「何!?」



 零は手応えを感じなかったことに驚き、氷柱が飛んでいった方向を凝視する。それはほんの一瞬程度だったにも関わらず、その行動が命取りとなってしまった。


 何故なら、恋悟はいつの間にか零の後ろに立っており、そして鮮やかで力強く零の背中を蹴り飛ばしたからだ。



「ぐっ!?」



 零は吹っ飛ばされて壁に思いっきりぶつかった。どうにか顔から衝突することは避けられたが、激しくぶつかった体は痛み、すぐに立ち上がることが出来ない。



「威勢のわりにこの程度ですかね。そんなことより、こちらにいる彼女との『恋愛』を成就させたほうが余程、人生を素晴らしくさせることが出来ると思うんですがね」


「戯言もここまでよ」



 恋悟が詩穂の方を見ると詩穂も戦闘態勢になっていた。漆黒の帯が詩穂の周りで浮き上がり、そして恋悟に向かって伸びた。



「やれやれですね、本当にね」



 漆黒の帯も恋悟をすり抜けて通り過ぎていく。零の時と同じように背後へと回るが、それでやられる詩穂ではない。すぐに恋悟の場所を察知し、右腕で払った。


 右腕が漆黒の軌跡を描く。それが単なる払いでないことは誰にでもわかる。



「これは……!」



 流石に連続で躱すことも出来ず、恋悟は両腕で防御した。それでも致命的なダメージを避けられただけで後退りしてしまうくらいダメージはあった。



「流石は逃げ続けてきただけのことはあるわね。あれでやられないだなんて」


「お褒めの言葉をどうもですね。しかしながら、この力は黒山のものだったと思いますがね」


「私がその、黒山の娘だから、よ」



 詩穂は恋悟に向かってパンチを放った。その威力は人間離れしており、普通であればとても無事ではいられないだろう。


 それ程までに詩穂の能力を乗せた攻撃は高威力だった。


 しかし、当然ながら黙って攻撃を受けるだけの恋悟でもない。またも姿は揺らいで消え、今度は側面から詩穂に攻撃した。



「くっ……!?」



 間一髪で回避するが、追撃は来る。恋悟のパンチから放たれる衝撃波は詩穂にダメージを与える。



「どうですかね、どうですかね! 貴女をここで倒せば、しばらくはまた『恋愛』の成就に集中出来るでしょうね!」


「図に乗らないことね……!」



 恋悟の乱撃から逃れる為に詩穂は漆黒の帯と格闘を駆使して攻撃と防御を交互に切り替えて応戦する。


 しかし、戦闘能力は恋悟の方が一枚上手だった。詩穂といえども場所を移動されて察知するにも限界があり、何度も攻撃を受けてしまっていた。



「がっ!?」



 恋悟の回し蹴りが詩穂の横っ腹を捉えて、ついに詩穂も吹き飛ばされた。


 恋悟は攻撃を受けて痛むところをさすりながら、ダメージで動けない詩穂に近付く。彼女を見下し、微笑を浮かべた。



「やれやれですね。かの有名な黒山と同じ能力を使うものですから焦りましたが、どうということはありませんでしたね。女性に手を出すのは不本意ですが、ここで終わらせていただきましょうね」



 恋悟は右足を上げた。踵落としで戦いの幕を引こうとしたのだ。



「まだだ……!」


「うん?」



 横から声が聞こえるのでそちらを見る。すると、痛みで(ひたい)に汗を浮かべた零が立って恋悟を睨みつけている。


 そんな零の姿を見て恋悟は苦笑いを浮かべた。



「貴方はどうして立ち上がろうとするんですかね。というよりも、とても戦いに向いているとは思えないんですよね」


「それは、僕にもわかっているよ……」


「では何故ですかね?」


「僕は彼の過去を見て悲しくなった。きっと、導き方さえ違っていたなら、彼は彼女との愛を育む幸せな人生を歩めていたのかもしれない」


「…………」


「僕こそ聞きたい。何故、彼に自殺を助言した? 他の手段だってあったはずだろう?」


「さっきから彼と言っていますが、誰の話をしてるんですかね?」


「なっ……!?」



 零は恋悟か青年のことだとわかっているものだと思って先程まで話をしていた。しかしその実、恋悟が誰の話をしているのか理解していないのを今になって知り、驚いた。



「今日、僕達にお前を紹介した女性の先輩だった人だ……。わからないのか?」


「ああ!」



 ようやく誰の話をしているのか理解出来た恋悟は理解した瞬間だけ笑顔を浮かべ、そうして困った顔へと表情を変えた。



「簡単な話ですね。彼は上手くいっていない彼女と向き合う必要がある一方で、先程の女性にも好意を抱いていたようですね。しかしながら、先程の女性に好意を抱いている他の男性からも助力を求められたんですね」


「なっ……! それはつまり───」


「その通りですね。彼の死によって彼女の愛は証明され、そして先程の女性を愛した男の好意も報われる。これを幸福と言わずに何と呼ぶのですかね?」


「…………」



 青年がこの世を去ったことで、後輩の女性に好意を抱いていた人の恋愛は成就した。つまりは、女性が今付き合っている彼氏にとって青年の存在は邪魔だったということである。


 それならば、恋悟の言うことも見方によっては正しいかもしれない。だがそれでも、零は恋悟を許すわけにはいかなかった。



「もう、同じような人が生まれないように僕達はお前をここで止める……!」


「……理解されなくて残念ですかね」



 恋悟の姿が歪んで消える。零は刀を構えて動き、恋悟の攻撃に対応しようとした。


 恋悟の裏拳が零の後頭部に向かって放たれる。それに気付いた零が刀を振るうと、刀身から炎が噴き出た。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


年内最後の更新となりましたが、今年も皆様には大変お世話になりました。


「隣の転校生は重度の中二病でした。」が連載終了した一方で、書き始めたのはいいものの、消してしまった小説もありました。


それでも物書きを続けられてきたのは応援してくださる皆様のお陰です。


来年こそは公募に挑戦したいところです。


今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします!


良いお年を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ