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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
二人の英雄
121/190

やべー存在

「黒山詩穂とは今も一緒に行動してるのかー?」


「えっ、あ、はい。今回は特に」



 零は友香の口から詩穂の名前が出てきたことに驚いた。実際に友香を捕まえたのは詩穂だが、思えばあの時、友香の扱い方がかなり雑だった。漆黒の帯で掴まれるように運ばれていた(というより、連れ去ったという方がしっくりくる)のだから、友香が詩穂に対して何かしらのトラウマを抱えていたとしてもおかしくはない。


 しかし、友香は詩穂に恐れを抱いたというわけではなかった。



「ならお前も知ってるよなー。一緒にいる悪霊のことー」


「悪霊!?」



 零は更に驚かされた。友香の言う悪霊とは『はつ』のことだ。零は純粋な霊力ではつを見ているわけではなく、残留思念が長い歳月で凶悪化した「この世ならざるもの」として捉えている。


 零にとって悪霊という認識はなかったが、友香がはつを知っていることに驚いたのだ。



「友香さん。黒山さんに憑いているアレのことをご存知なのですか!?」


「なんかなー、ここにぶち込まれてるあたしの元へわざわざ来て勧誘してきたんだー」


「勧誘?」


「あたしって、霊能者だろー? そういった特殊な力を持った人に声掛けて革命を起こすんだってよー」



 友香は笑ってそんな話をする。はつの力は確かに強大なものなのだが、所詮は死人だ。個々を殺めたりすることは出来ても世界を変えるだけの力は有していない。友香からすれば、そんな夢のような話をされたので面白かったのだ。



「友香さんはなんて答えたんですか?」


「んー? 考えとくって言ったー。恐らくは断るなんて選択肢無かっただろうからなー。あたしもまだ死にたくねーしー?」



 先程までの笑顔を失い、友香は真剣な顔になった。それは零と異なる霊能力を持つ先輩としてのアドバイスを語るためだった。



「言ってることもやべーが、あいつ自体はもっとやべー。あたしはそう感じた。お前はどうだー?」


「………」



 鷺森露によって与えられた霊能力によって、はつの姿は以前より人に近い形で見えるようになった。しかし、それははつの「この世ならざる者としての力」が弱ったというわけではない。むしろ零の前に出てきたあの姿でさえ力を抑えている。きっと彼女が本気を出したのであれば、想像を絶する力で大きな被害が出ることだろう。


 はつからは気が遠くなる程に昔から蓄積してきた怒りを感じる。彼女が本気を出すということは、その怒りが彼女を中心に爆発するということだ。飛び立った怒りの破片は、霊力に対して抵抗力を持たない人の心を蝕み、死に至らしめるだろう。


 そんな妄想に近い恐怖を途中で頭の中から追い出し、友香の問いに答えた。



「僕の認識も友香さんと一緒です。僕はアレに、邪魔しないよう言われただけですが」


「そっかー、ならまだ大丈夫だなー。今のうちに、黒山詩穂との付き合い方は考えた方がいいだろうなー。その辺の有象無象からすりゃ、あたしの言うことなんか間に受けたくないだろうが、お前は聞いてくれる。だから言うぞー? とんでもねー悪霊に取り憑かれる前に距離を置いた方がいいだろうなー」


「…………」



 零は友香の忠告に対して何も言い返すことができなかった。確かに相棒だというわけでもないのだから、せめて今回の案件が終わるまでは付き合って、それ以降関わらなければいい。


 しかし、はつの存在が怖いからといって詩穂と距離を空けるのが正解なのか? その結果、自分の安全を守れるだろうが、不思議と納得できなかった。


『友愛』を司る友香は、そんな零の葛藤を感じ取った。



「納得出来てねーみたいだなー。まあ、お前はまだ多感な年頃だからなー、あたしの言うことに納得出来てなくなって仕方ねーさー」



 友香は優しく微笑んだ。それはまるで、零の進むべき道を強制するのではなく見守って応援してくれるような姉を思わせる微笑みだった。



「よせよー? あたしはそう遠くないうちにいなくなる身だー。あたしがーとか、黒山詩穂がーとか、魔女っ子がーとかじゃなくて、お前の意思を持てよなー」


「…………」



 友香の罪は多い。彼女は既に成人を迎えている身だから、少年法には守られない。いつか罪を償う為に零の前を去るだろう。その時を考えた零は寂しい気持ちに襲われた。



「ったくよー、あたしなんかのことで悲しむなんて、お前も変なやつだなー。けど、すぐってわけじゃないからなー。先の話だから今気にすんなよ」


「……はい」



 友香は立ち上がる。後ろにいた警察官が友香の動きを止めようと動き出すが、零に背中を見せただけなので警察官も友香の肩に手を置いた後、移動中に逃走できないよう、友香を拘束して部屋を後にした。


 相変わらず零のことが気に入っているようで、口にはしていなかったものの友香の表情は「またなー」と告げていた。程なくして零も部屋を後にした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 警察が得たい戦果……つまり、友香が関与しているであろう他の事件を探ることは、本当の意味で一歩ずつしか進まない。彼女の狙いが何なのかは警察にもわからないが、唯一まともに話をする零相手にさえ、一回につき与える情報の量は毎回変わらない。


 それでも長瀬は零に感謝していた。



「いやあ、今回もありがとう。鷺森君」



 車の運転をしながらお礼を言う。それも殆ど毎回決まったようなやりとりなので、零も同じように首を横に振る。



「いえ。せっかく話す機会を与えてくれているのに、いつも得られる情報が少ないですから。こちらこそ申し訳ないです」



 長瀬も同じように首を振った。そして前を見ながら不敵な笑みを浮かべる。



「しかし、今回は別件で情報を得られただろう?」



 それは零も同感だ。今度は首を縦に振る。



「ええ。これが今の状況を打開できるヒントになるといいですが……。長瀬さん、友香さんが話していた河原の近くで降ろしてくれますか?」


「あー、そうしてやりたいのは山々なんだけど。まだ仕事が残っててね」



 先程までの不敵な笑みは何処へ行ってしまったのやら。長瀬の表情は申し訳なさそうな情けない顔になってた。


 しかし、それは零をちゃんと家まで送り届けることを前提に考えて出た言葉と表情だ。ならば、零が言うべき言葉は一つ。



「帰りは自分で帰るから大丈夫ですよ。警察としても……でしょうが、地島グループとしても解決を急いでいるようです。ましてや二人連続で行方不明になっていて、これ以上出ないとも言い切れないですから」


「しかし……」



 冬だということもあって、辺りは暗くなり始めている。大人としては帰宅を促したくなる。



「僕には呼び出して戦う術もあります。それは長瀬さんも知ってるはずですよ?」


「まあ、それは確かに……」



 一般人相手に重度の中二病による能力を使うのは好ましくない。ただ、正当防衛だというのであれば話は別だ。


 長瀬の判断は間違っていない。大人としては正しい。だが、鷺森零という人間に限って言えば、そもそも鷺森家の責務として深夜にこの世ならざるものと戦っているので今更である。



「……わかった! けど、成果がなくても19時には切り上げるんだよ?」



 零は車の時計で時間を確認する。時刻は18時を迎えようとしている。ほぼ1時間といったところだ。



「わかりました。ちゃんと時間を見て切り上げます」


「約束を守ってもらえるなら近くで降ろしていくけど……頼むよ?」


「はい」



 零は長瀬と約束を交わし、ちゃんと約束通りの時間に切り上げることを心に決めた。


 場所は瑠璃ヶ丘高校から近い河原だ。いざとなれば、瑠璃ヶ丘の教員に助けを求めることも可能だろう。


 そして帰るにも少しばかり時間掛かるが電車で帰られる距離だ。長瀬はそこまで考えて現地に向かい、零を降ろした。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


ちゃんと定時で帰れば執筆も集中できるというのに……と実感しました。


『愛の伝道師』は今のところ、純粋な悪では書いていないつもりです。友香は『友愛』という能力を持つばかりに相手の気持ちを読み取って共感できる存在です。


友香にとって零は「裏切られる痛みを知る仲間」なので、自身の罪を明かすし助言することもあります。


事実は小説より奇なり。そしてその中心は、理解できない人の感情や行動だと私は思います。



それではまた次回。来週もよろしくお願いします。





純粋な恋愛ものを書いてみたい(書けばいい)

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