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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
二人の英雄
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『友愛』の経験談

 長瀬に送られて留置所へ着くと、零は迷うことなく面談室へと向かった。どういうわけか、いつも同じ場所で行われる。慣れていない頃は毎回案内してもらっていたが、今はもう長瀬が近くにいるだけで良くなっており、以前ほど時間は掛けない。


 とはいえ、友香の方は「いつも通り」というわけにはいかなかった。彼女は危険過ぎる。面会室へ向かうまでの間も全力で警戒されながら連れて来られる。故にいつも時間が掛かってしまう。


 面会室へ連れて来られた友香は少し気怠そうであったが、座っている相手を見て零だとわかった途端、花が咲いたような笑顔を零に向けた。それから席に座るまでは急に動きが良くなっており、連れてきた警察官も心底驚いていた。



「こんにちは、友香さん」


「おー、零。来てくれたんだなー」



 罪を償っていない重犯罪者と仲良くなっているという意味では、世間的に見てこの状態はあまり良いことではないのかもしれない。だが、面会(という名の取調)を繰り返すうちに、友香が零を下の名前で呼び捨てし、零がそれを許して違和感が無いほどに二人は仲良くなっていた。



「何だか元気がないようですが、大丈夫ですか?」


「んー? まあ、あれだ。あたしってまだ余罪がないか調べられている身で、刑が決まってないだろー? だから取調に加えて弁護士も来やがるんだー。あたしの弁護がしたいんだそーだ」


「それで、どうしたんですか?」


「断ってるなー。けど、諦めずに色んな弁護士が来るから鬱陶しくて疲れるんだよなー」


「いずれは必要になるんですから、ちゃんと選んだ方がいいんじゃ……」


「ま、そのうちなー。けどあたしにはまだまだ話してねーこと、沢山あるからなー。今すぐに必要ってわけじゃねーよ。つーか、それはそれとしてお前の話を聞かせろよ。あたしに外の話をしてくれるの、お前だけなんだからさー」


「勿論ですよ」



 実のところ、不思議なことに友香の交友関係は割と明らかになっている一方で、親族に関しては全くわかっていない。つまるところ、友香相手に面会に来てくれる親族が誰一人としていないということだ。


 零はそれを本人から直接聞いたわけではない。ある時、ふと気になったので長瀬に「他に面会を希望する人はいるのか?」という質問をした際に返ってきた答えがそれだった。


 だから零は自分の身に起こった話を友香にする。彼女は霊能力を有しているから、零が全うしている鷺森家の責務についても理解がある。



「そういえば友香さん。一つアドバイスをお願いしたいことがあるんです」


「アドバイスー? 珍しいなー、零があたしを頼るなんてー」


「ええ。数多の復讐心を見てきた友香さんだからわかるかもしれないことがあるんです」


「ほー?」



 零は現在受けている依頼の話をしようとした。だが、実際に起こっている事件と警察の捜査情報を話してしまうのは間違っているだろうし、一緒にいる警察官に止められるだろう。


 だから零は敢えて「とある企業からの依頼」ということを前提に話すこととした。



「ある会社の社員が二人行方不明になっているんです。同じ会社で二人も……というのが偶然に思えなくて。二人の共通点や友人などに話を聞いても犯人像が浮かんでこないんです」


「あたしは推理なんて出来ないぞー? お前はどう考えてるんだー?」


「二人を恨んでいる人による犯行。或いは負の感情による行動、でしょうか?」


「んー……」



 友香は顎に手を当てて考える素振りを見せた。だがその実、零の予想が正しいとは思っていない。何故なら───。



「行方不明になった二人は誰かを恨んでるのかー? もしくは誰かから恨まれるようなことをしてるのかー?」


「……いえ。そういった性格ではないと聞いています」


「確か、お前には残留思念を視る力があったなー。そっちはどうだー?」


「二人目はまだですが、一人目に関しては事件が起こるような予兆はなかったと思います」


「じゃあ、個人的な怨恨じゃないだろー」


「やはり偶然なんでしょうか?」


「それは早とちりだなー。あたしは、組織が狙われてるもんだと思うぞー」



 零は友香の予想を聞いて、目をぱちくりさせた。組織が狙われているという発想がなかったからだ。そもそもそう思わせるだけの要素はない。



「二人とも年齢が近い二十代の女性です。若い女性だから狙われたという可能性も……」


「いやそれもないだろーなー。社員一人目の前に同じことが起きてれば、不埒な連続誘拐もあり得るだろうがなー、そういうわけじゃないんだろー?」


「……そうですね。それ以前の被害者は出てないと思います」


「一企業が高校生であるお前に依頼するのもイカれてるとは思うけどなー、けどあたしは、お前に話した時点で依頼人は企業が狙われている可能性も考えていると思うぞー?」


「えっと、依頼者からそんな話は聞いてませんが……」


「そりゃ先入観があったら、真実が見えなくなっちまうこともあるだろうからなー。世の中なんてそんなもんだと思うわー。まあ、あれだー、お前には取調のついでに実体験を話してやるよー」


「実体験、ですか?」



 友香は不敵な笑みを浮かべた。気付けば、いつの間にか二人は仕切りを境に前屈みになって話をしていた。それだけお互い話に夢中になっているということだ。


 友香の話す実体験に、零は耳と目と心を傾けた。



「ありゃ、まだあたしが中学生の時だったかなー。地嶋グループって有名な企業、知ってるよなー? あの企業を恨んでるやつがいたんだー」


「中学生って……。友香さんはいつから罪を重ねてるんですか……」


「その話、今はどうでもいいだろー。まあ、それでだー。そいつは随分昔に死んだやつでなー。幽霊みたいなやつだったんだー。まあ幽霊っていうより、お前の言う残留思念の方が近かっただろーなー」


「昔の死者が現代の企業を?」


「そうだー。そいつはまあ、不思議な男で。自分の思い出が残る場所に自分の影を置いて分身してやがったのさー。あたしがそいつに話し掛けると、地嶋グループの社長と社長夫人を恨んでるって言ってたんだー。あたしはそいつからも裏切りの憎しみを感じたんだー。ありゃ珍しい経験だと思ったけどなー? 他にもいたんだわー」


「他にも?」


「そうなんだよなー。そいつは地嶋グループとは違う会社の社長を恨んでてなー。最初は社長に復讐しようと機を待ってたんだがなー、なかなかうまくいかなかったから、社員を狙うことにしたんだわー」


「その狙われた社員はどうなったんですか?」


「……自ら命を絶ったって聞いたなー。恨んでるやつから酷い仕打ちを受けてなー、会社を辞めれば嫌がらせを辞めるって言われたらしいから、その通りに会社を辞めようとしたんだが、辞めさせてもらえなかったそうなんだわー。結果、追い詰められてこの世を去り、噂が広がってその会社からは従業員がいなくなり、潰れたんだー。復讐をしっかり果たせたってわけだなー」


「それは……あまりにも報われない話に思えます」



 零が俯いて思ったことを述べる一方、友香は天を仰いだ。どうやらその話には続きがあるようだが、友香はそれ以上語ることをしなかった。



「復讐ってのは終わりがないからなー。今回についても、その会社を狙ってのことじゃねー?」


「仮に友香さんの予想通りだとして、中学時代に会ったという男の残留思念はどこにいるんですか?」


「んー?どこだったかなー。河原だってのは覚えてるんだけど、はっきりどこかは記憶が曖昧なんだよなー」


「この近くで河原と言ったら場所は限られます。僕の方で探してみます」



 河原どこかを聞くことが出来ずとも、零には見つけられる自信があった。何故ならその男の残留思念を漁るより、残留思念と話す友香を探せば間違いはないからだ。



「あいつ、場合によっては攻撃してくるから気を付けろよー? ああ、気を付けろと言えばー」



 友香は連想的にあることを思い出し、零に警告したいことを話し出した。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


小説と関係ない話になりますが、2023年末はカラオケにハマっていました。


一人で行く、所謂「ヒトカラ」というやつなのですが、何が楽しいかって精密採点なんですよね。

学生時代はあんまりいい点取れなくて嫌いな機能だったのですが、最近は80点代を採れるようになって楽しいんです。


さて、上記の話を読む方の中には「80点代かぁ、うーん」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そう。実はそんなに誇れるほど高いというわけではないんです。上手さ具合で言ったら「違和感なく聞ける」くらいのレベルなんだそうです。


歌うことが好きなので、なんか悔しいですよね。

歌声を褒められたことは何度かあるのですが、実は音程性格率が6割か7割程度なので「歌そのものを褒められる」という経験はありません。


中学時代、音楽の先生から「お前はもっと、音を一つひとつ大切にしろ」とアドバイスを受けたことがあります。全くその通りで、大きく外れることはないけれど、所々をうろ覚え。もしくは勝手な解釈で音を発してしまう……つまり、細かい音を覚えれないという欠点があるのです。


インフル明けてからは、何故かしばらく咳が続いていて昨年ほど歌えないのでまだカラオケに行ってないですが、少しずつ上手くなっていけたらなと思います。


劣っていると実感するのは、本当に屈辱だと思います。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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