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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
複合能力者の邂逅
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2人の決意

「その、手伝ってくれた人って恋悟……さんっていったりしませんか?」



 零は出来るだけ驚きを隠して自然に質問をした。まるで共通の知り合いを確認するかのように。


 しかし、女性は少しだけ考える素振りを見せてから首を横に振った。



「うーん、考えてみたら名前はよく知らない。私の彼氏と付き合いがあった人だし……」


「今でも偶に会ったりしますか?」


「私はあまり会わないけど、私の彼氏なら今でも付き合いがあるみたい。……もしかして紹介して欲しいの?」



 女性はわかりやすくニヤニヤしている。不思議なことにその顔は性格と見合わず清楚な雰囲気を出しているので、あまり彼女を知らない人は性格を勘違いするだろう。


 零は半分呆れながら否定しようとした。



「いえ……」


「───そうです」



 しかし、零が否定し切る前に詩穂が肯定してしまった。咄嗟に零は「どういうこと!?」って言うところだったが、詩穂には詩穂の考えがあると思って話を合わせることにした。



「その、横にいる彼とは上手くいってなくって……。恋愛相談のスペシャリストと名高い恋悟さんなら何かしら解決してくれるのではないかと思いまして」


「確かに、貴方達はうまくいってなさそうだもんね。わかった、こっちで手配してあげるから、日程決まったら連絡する」


「お願いします」



 随分と話が脱線したが、幸いなことに恋悟と接触出来る機会を得られることが出来た。特に詩穂にとっては最高の収穫である。


 欲しい情報も手に入った。話もひと段落したところで、特に積もる話もない初対面な彼らは短い時間で解散することにした。


 今回の会計は別。女性は奢ることもしないが、その逆もしなかった。


 会計が終わり、外に出た去り際。零はふと気になったことを女性に問う。



「あの……。彼が亡くなってからあまり日が立っていませんが、あまりショックを受けていないんですね」


「…………」



 女性は驚いた顔をした。その直後、難しい顔で零の質問に答える。



「そう見えてもおかしくないのかもしれない。実際、あの人が亡くなってから私は彼氏が出来たし、悲しむべきか幸せに浸るべきなのか、わからない。でもね、失って悲しんでいるのは本当。自殺の原因が何なのか私にはわからないけれど、原因の中に私もあるのかもしれないと思うと、怖い部分もある」


「…………」


「結局は見ないふりをしているのかもしれない。ごめんなさい、ずるい大人で」


「いえ……。彼のことを少しでも考えてくださっていたのなら、浮かばれるのではないでしょうか」


「そうだといいけれどね……」



 微妙な空気になってしまったが、女性としても信頼できる人間相手ほど余計に言いにくい心の内を少し吐き出すことが出来て満足したのだろう。思っていたよりも晴れやかな顔で零と詩穂の前から姿を消した。


 女性とは反対方向に向かって2人は歩き出す。



「黒山さん。彼は、さっきの人にも好意を抱いていたけれど、さっきの人からも満たされるだけの愛を貰えなかったんだね。黒山さんはどう感じた?」


「……さあ。私には恋愛とかよくわからないから」



 詩穂は相変わらず無表情で真っ直ぐを見つめている。そこには他人や恋愛に対しての関心を一切感じさせない。



「黒山さんは、好きな人とか出来たことないの?」


「ない」



 即答だった。その質問に対して咎めるような雰囲気を出さないが、その手の話を迷惑だとは思っているのだろう。零はそんな風に感じた。


 だからそれ以上、恋愛に対して質問しなかった。零自身も質問することに心苦しく感じる部分もあるからだ。話題を変えることで空気も変えることにした。



「……もし、さっきの女性が紹介してくれる相手が恋悟ならいいけど」


「ごめんなさい」


「え?」



 詩穂に謝られ、零は驚愕した。まさか謝罪を受けるとは思わなかったし、そもそも謝罪される理由に心当たりがない。



「ど、どうして謝るんだい?」


「本当は鷺森君と恋悟を接触させるつもりはなかった。でも、約束してしまった以上、鷺森君も一緒でないと怪しまれてしまうから一緒に来てもらわないといけない」


「それくらい、別に僕は───」


「神田川君から危険性について、聞いているんでしょう?」


「えっ、あ、うん。……というか、潤のこと知ってたんだ」



 よく考えてみれば不思議なことはない。潤は重度の中二病患者を取り締まる立場であり、詩穂のことを知っている。そして詩穂は潤と同じ立場ではないとはいえ、目的は似ているから知らない方がおかしいだろう。


 詩穂は少し俯き気味に話を続ける。



「鷺森君の言う通り、神田川君に任せるのが正しいかもしれない。でも……」



 詩穂が歩みを止め、立ち止まる。零も合わせて立ち止まって詩穂の方に振り向いた。


 夕焼けが詩穂の顔を照らす。彼女の瞳が潤んでいるように見えた。零が彼女と出会って以来、最も感情的で人間らしい瞬間だった。



「神田川君では恋悟と絶対に遭遇できない。任せているようでは一生終わらない。これ以上、重度の中二病で人々が苦しむのを放っては置けない。他人に任せるのではなく、私がこの力で阻止したい」


「……うん」


「鷺森君には手出しをさせない。私の力が鷺森君も含めてみんなを守る。だから、私に任せて一緒に来て欲しい」



 詩穂は右手を差し出した。強大な力を持っているだなんて思えない程に白く華奢な手指。零は優しく微笑んでその手を取った。



「勿論だよ。僕達でこの案件を終わらせよう」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「───というわけで多分、決着が付くと思う」



 翌日の昼休み。教室で昼食を食べながら、零は潤に進展があったことを話した。


 勿論、零と詩穂の仲が深まった……という報告ではない。恋悟まであと一歩まで来たという話だ。潤は苦々しい顔をしていて話を聞いていた。



「零。危険だとわかってて行くんだな?」


「うん。黒山さんからお願いされているということもあるけど、僕自身、彼を自殺に追いやったであろう恋悟の末路をちゃんと見届けたい」


「黒山が勝つこと前提なんだな。大した信頼だ」


「別にそういうわけじゃ……」


「何で照れてるんだよ」



 思わず零は吹き出す。そんな親友の姿を見て、潤は余計に心配した。



「零。お前がどう行動しようとお前の自由だが、余計な手出しをするなよ? いざとなれば、黒山を置いて逃げろ」


「え? 何を言ってるんだ、潤。どんなに強くたって黒山さんは女の子だよ? 倒すことは出来ずとも、彼女を助けてから撤退するべきでしょ」


「もしもの話……だがな。お前の能力はそもそも戦闘向けじゃない。戦い慣れしていないお前が人を助けて撤退出来るほど、恋悟という相手は易しくないぞ」


「……だけど」


「黒山もお前を戦わせないつもりだろう。付いていくまでならいいが、それ以上は絶対にするなよ?」


「……うん」



 潤は重度の中二病患者と戦い始めてから長い。零も実際、潤に助けられた経験が何回もあるから、彼の警告を無視することが出来なかった。



「さあ、早く食べないと昼休みが終わるぞ」


「そうだね」



 零と潤は黙々と昼食を食べ終え、飲み物をゆっくり飲みながら次の授業に備えた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 週末に差し掛かった金曜日のこと。


 電話で話せば良いものを、詩穂がひょっこり1組に顔を出した。慣れない教室でも怖気付くことなく、近くにいた1組の女子生徒を使って零を呼び出した。



「鷺森君、6組の子が……」


「うん? ああ、ありがとう」



 真夏だというのにコートを着込んでいる零の異様な光景は1組のクラスメイトからすれば、最早見慣れた光景だ。しかし、零とまともに話せる女子生徒は零を面白おかしくイジることの出来る、クラスの中心的な明るい女子生徒達くらいだ。所謂(いわゆる)「陽キャ」と呼ばれる存在である。


 それはともかくとして、呼ばれたので零は詩穂の方に向かって歩き出す。その一方で、潤は詩穂を険しい顔で睨みつけ、詩穂も冷たい視線を潤に送った。



「……怖い顔しているけど、どうかしたのかな?」


「いえ。以前、話をした女性から連絡がきたわ。明後日……つまり、日曜日の夕方に時間を作ってくれるそうよ」


「わかった。それじゃあ、今回は待ち合わせして行かないとだね」


「ええ。では15時に、場所は───」



 時間と場所を確認し、零は去っていく詩穂を見送った。自分達でも気付かないうちに、心の距離が縮まっていた。


 零が振り返って教室に入ると、零の方を見て皆が噂しているのに気が付いた。何か誤解されているような気はしたが、訂正するのも変なので放っておくことにした。



「潤、そういうわけで……」


「ああ、わかった」



 一応、潤にも約束の場所と時間を教えておく。今回、潤は一緒に行くことは出来ないが、それでも一応の為に伝えておくことにしたのだ。



「気を付けろよ、零」


「わかってるよ、潤」



 潤の表情から心配されているのを改めて感じたが、零は笑って答えた。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


アニメ、鬼滅の刃・遊郭編が始まりましたね。

実は、鬼滅では好きな考え方がありまして……。


鱗滝さんは炭治郎に「刀を折ったら骨を折る」と脅すくらいに刀を扱う技量を磨けと鍛えましたが、一方で鋼鐵塚さんの刀を折る炭治郎に対して刀鍛冶の里長は「折れる刀を作る方が悪い」と言っています。


つまり、互いに異なる技術を持ち合わせた2人以上が協力した時、上手く行かなくても「互いの所為にせず、己の未熟さを認識し改善しなさい」ということであります。

とても向上心のある良い考え方だと思います。私も他人の所為にせず、自身の未熟さを悔い改める人間になりたいです。


それではまた次回。来週とよろしくお願いします!

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