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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
二人の英雄
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亜梨沙の懸念

 透夜からすれば少し複雑だというのが本音だ。自身と詩穂の関係を心配してくれる気持ちはありがたく思っている一方で、少し放っておいて欲しいと思っているのも本音だ。周囲が心配し、自分が歩み寄ったところでどうにかなる問題ではない。


 そんなことよりも、透夜は現状の情報共有こそ大事だと判断した。



「それで、池本さんの状態は?」



 ここでいう状態とは、一緒に確認した部屋の様子と保護者への連絡について質問している。その意図を沙希は正しく聞き取った。



「小池さんと同様に荒らされた形跡や争った形跡もなかったわ。鍵などもないし、室内で何かあったというわけではなさそうね。それから緊急連絡先としては実家の番号が登録されていたわ。連絡が取れて事情を説明したけれど……。そう簡単には受け止められないわ」


「そうか」



 警察へは捜査協力という形で情報提供をするものの、向こうからはあまり共有されない。それもそのはずで、警察としても捜査情報を一般人には公開できない。


 ある意味ではここにいる三人が一般人としてカウントされるのもおかしい話だ。しかしながら、三人が重度の中二病患者に関わっていても、それを知らない警察官からすれば、一般人なのである。これが重度の中二病患者による事件だという見方が前提ならともかく、15年前に比べて治療や管理が徹底されている現代ではあまり考えにくいのいうのが警察の見解だ。


 それでも可能性は否定できない。だから三人がここに集まっている。



「この話、子ども達にはするのか?」



 透夜が沙希に判断を煽る。そして沙希は考える素振りも見せることなく頷いた。



「当然よ。無関係だとは思えないし……。むしろ、世間が危惧しているようなことはないでしょうね?」



 沙希が懸念しているのは、今回の事件が本当に「会社によるストレスが原因で失踪」となることだ。沙希は職場環境に問題がないと認識しているが、管理職からの見え方と現場の見え方ではまるで違う。沙希に見えていない「何か」がそこにあるのではないかと、そういう可能性も考えていた。


 そこは透夜が首を横に振って否定した。



「求められることのレベルが高いという意味では確かにプレッシャーやストレスを感じるかもしれないが……。少なくとも、小池さんは同僚とは上手くやれていたそうだ。特段業務量が多いというわけでもないし、いじめやハラスメントの類も無さそうだ。勤務時間も長時間ではないしな。36協定内だから労基署からの追及もクリアできるだろう」



 勤務時間という面で言えば、記録上での数字でしか語ることが出来ない。しかし、地嶋グループではゲート管理にも力を入れており、出入り口を通らなければ出退勤が記録されないようになっている。つまり、退勤処理だけして仕事に戻ることは出来ない仕組みとなっているということだ。またパソコンにもログデータが記録・送信されるようになっており、持ち帰って仕事したとしてもパソコンを開いているだけで勤務時間として記録される。


 それらのデータを見ても労働時間に問題はない。だから透夜は「クリアできる」と断言したのだ。


 しかし、別の面でも問題が起き始めている。



「ゲート管理で思い出したが、労働組合からの情報では従業員は不安を感じているようだぞ。既に2人が行方不明だからな、年齢が近い従業員は自分が次に行方不明となるのではないかと、労働組合に相談したそうだ」


「そう……」



 くだらないとは切り捨てられない。だからといって一人ひとりに「大丈夫」と言って回るというわけにもいかない。安全配慮についても対応しつつ、事件解決を急く必要がありそうだ。



「奈月」


「うん?」


「学生達に託すのも何だか大人として不甲斐ないけど、現状の情報共有をすぐにして。解決に向けて迅速に行動してもらうよう、それとなく二人を誘導して欲しい」


「えー、あ、うん。わかったよ……」



 正直なところ、奈月は人を使うのが上手くない。沙希からの指示は出来なくてはならないことだとわかっているものの、上手くできる自信が奈月にはなかった。


 それでもやるしかない。三人ともやることを明確にしてこの場はお開きとなった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クリスマスをどう過ごすか考えながらラフランスのケーキを食べる時間は、零にとって幸せな時間となった。本人は幸福というものを自覚していないが、それでもあの時間が終わってしまったことを惜しく思ってはいた。


 遅くならない程度に切り上げて店を出る。再び駅に向かって歩き出すが、ふと亜梨沙が立ち止まる。



「うん? どうしたの亜梨沙さん?」


「零君、最近はどういうことに対応しているの?」


「ん、最近?」



 今いまの話をすれば地嶋グループ社員の失踪だが、それを話すわけにはいかない。となれば、鷺森家の責務を全うしてるくらいのものだ。それ以外は長瀬からの依頼が少しばかりある。



「まあ、証拠隠滅とかに長けた重度の中二病患者が関わる案件とかくらいなものだよ。残留思念と会話するだけだから、そんなに戦闘もない……けど、なんで?」



 零には質問の意図がわからなかった。そう問うと、亜梨沙はペロッと舌を出してから答える。



「いや、私から助けを求めることはあっても、零君から助けを求められることはあんまりないからさ」


「そんなことは……。ああ、でもそうかも」



 否定しかけたものの、思い返せば確かにそうだと思った。とはいえ、零としては亜梨沙を助けているという認識はあまりなく、どちらかといえば亜梨沙の母親と交わした約束を違わないようにしているという思いだ。


 しかし、零の意図を亜梨沙が知らない以上、彼女からすれば頼りない、もしくは巻き込まないのではないかと邪推してしまう。亜梨沙はもっと零に頼って欲しいと思っていた。



「私って、あまり頼りない?」


「そういうわけじゃないよ。ただ、巻き込まない案件が多いというだけさ。それは黒山さんにも言えることだから」



 その言葉は気休めじゃない。長瀬と詩穂はセットで零に依頼するように見えがちだが、そもそも零と長瀬が出会った時点では詩穂の存在などない。余程大きくなりそうな案件ではない限り、詩穂が巻き込まれることなどそうそうない。


 詩穂も同じ状態であることを伝えたところで亜梨沙が満足するというわけではない。零はなんとなくそれがわかっていたからこそ、一言付け足した。



「大丈夫。トラ先輩の案件と同じように亜梨沙さんの力が必要なら頼るよ。だから今は心配しなくても大丈夫」


「うん、ならよろしい」



 亜梨沙は少しばかり満足げに微笑んだ。それから特に深い話をせず2人は社会人達の間を縫って電車に乗り、互いに帰宅した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 零の中で「そろそろだろう」と思っていたことが、翌日になって起こった。零は校長室に呼ばれて向かうと、そこには長瀬と詩穂がいたのだ。



「失礼します」



 いつもの礼だけしてから特に驚くことなくソファへと腰掛けた。いつもと違う零の様子を見て、長瀬が不敵な笑みを浮かべた。



「やあ鷺森君。いつもすまないね。……しかし、今回はいつもと違って抵抗感みたいなのを感じないな」


「ええ、まあ。長瀬さんが持ってきた案件は、僕が……僕達が抱えている案件と同一なのでないかと、そんな気がしたんですよ」


「へえ」



 長瀬は興味深そうに少しばかり前のめりになって零の話を聞く。このまま零からどんな話が出てくるのか、気になったので聞いてみるにした。



「地嶋グループの……小池美苗さんの失踪についてでは?」


「えっ!?」



 長瀬の様子は素直に驚き目を丸くしていた。それもそのはずで、今回の失踪事件については身代金目的であることも想定して報道を伏せている。他に情報の入手ルートがあるとすれば地嶋グループだが、長瀬は零と地嶋グループに接点がないことを知っているので、情報の入手ルートはないはずだと認識していた。



「ま、まあ、結論から言えばその通りなんだけど……。何故、君がそれを?」



 説明するのは容易い。だが、その時間が惜しいので零は詩穂をじっと見ることで、どういう繋がりなのかをアピールした。その意図を長瀬は汲んだようで、間に詩穂が入っているということがわかって深く頷く。長瀬は詩穂と地嶋グループの関係について当然のように知っていた。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


今日はこれといって語れることはありませんが……。


「女性の活動・活躍」を掲げる組織って多いですよね。

私的にそれってちょっと違う気がしていまして。

目指すべきは「男女問わずに活躍できる場」なのではないかと思います。


来週はもしかすると更新出来ないかもしれないという話をさせていただきます。

休みという休みではないような週末ですので、書けないかも。短くても更新できたらいいなという思いです。


それではまた次回。

可能なら来週もよろしくお願いいたします。

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