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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
二人の英雄
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密かな業務命令

いざ、新章!

今回もよろしくお願いいたします!

 20名程度を入れることが出来るミーティングルームで地嶋(ちしま)沙希(さき)は、絶大な信頼を置いている部下を呼び出し、やってくるのを一人で待っていた。


 このミーティングルームは大企業である《地嶋グループ》の販売企画部が置かれている本社のミーティングルームだ。沙希の仕事場(デスク)はちゃんと別に存在しているが、そこには販売企画部に所属している他の社員も仕事している部屋にある。これから沙希がしようとしている話は出来るだけ部下達に伏せなくてはならない内容だ。


 扉を叩く音が三回聞こえた。そのまま無言では「入室不可」と認識されて部下は去ってしまう。



「どうぞ」



 沙希は大き過ぎず小さ過ぎず、あくまで外にいる部下に聞こえる程度の声で入室を許可した。



「失礼します」



 入ってきたのは彼女が最も信頼している部下の一人、黒山透夜だった。社外では学生時代と同じ話し方をするが社内は別。ここでは地嶋グループの秩序を守る為、透夜は意識して敬語を使っている。


 学生時代と比べて変わったのは二人の関係性だけではない。かつて『漆黒』という能力を持ち、ありとあらゆる存在を『拒絶』していた透夜の目はどこか生気を感じさせなかったが、今は違う。後遺症は残るものの『漆黒』を手放し、他人を受け入れるようになった彼の表情はいくらか柔らかくなっていた。


 しかし、沙希が出している空気を読んだ透夜はすっと表情を消した。



「───ふふ」



 そんな彼を見て、沙希は思わず笑ってしまった。長い付き合いだが、表情が変わる透夜の面白さには未だに慣れない。


 他の社員からすれば理解出来ないことではあるが、学生時代の透夜を知っている人なら誰もが面白がるはずだろう。



「ごめんなさい。笑つもりはなかったわ」


「はぁ」



 透夜はわざとらしく溜息を短く吐いた。それは少し和んでしまった空気を改めて緊張感のあるものにする効果がある。



「それで、何か御用でしょうか」


「ええ」



 椅子に座っていた沙希は立ち上がり、窓に近付いて外の光を遮るブラインドの隙間から、僅かに漏れる夕日の光を見て話を始めた。



「先日起こった、社員の失踪事件は知っているわよね?」


「勿論」


「こちらとしてもご家族と一緒に捜査へ協力しているのだけど、全く解決の糸口が掴めないでいるわ」


「……つまり、これはただの失踪ではないと?」


「ええ。あくまで予想だけどね」



 沙希は体ごと透夜へ向けた。今にでも透夜の胸に飛び込みたいと思ってしまう程、心身ともに疲れているのだが、そんなことの為に透夜を呼び出したのではない。



「内密な業務命令です。この件について、重度の中二病患者絡みの側面から調べてくれるかしら」


「しかし、今の俺には役に立てるような能力は……」


「貴方には目と後遺症があるでしょう? 行方不明者のパーソナルデータを共有するから、周辺や我が社の関係者に怪しい人物がいないか調べて」



 透夜には「見ただけで相手が重度の中二病患者だとわかる目」を持っている上に、重度の中二病の後遺症である『拒絶』が僅かに残っており、自分に降り掛かる能力による攻撃相手なら無効化することができる。


 それを沙希は知っていて、当然本人も知っている。だから沙希の命令を拒否することができなかった。


 沙希は机の上に置かれた資料を持って透夜に渡す。受け取った透夜は茶封筒から中身を取り出して確認した。



「かしこまりました」



 透夜はそれだけ言って踵を返す。扉のレバーに手を触れた直後、思い出したように振り返って沙希を見る。


 微笑んだ沙希がその後を問う。



「どうかした?」


「調査の件は承りましたが、別の視点からも調べた方がいいと思います」


「別の視点?」


「聞けば、詩穂と一緒に警察へ協力をして次々と事件解決に繋げている高校生がいるそうで。その高校生に協力を依頼してみては?」


「成る程、そうね……」



 詩穂と一緒に行動している高校生には心当たりがある。まさかこんな形で再会するとは思ってもいなかったが、協力を依頼した方がいいだろう。



「詩穂ちゃんには私から連絡するわ。……まともに連絡取っていないのでしょう?」


「……まあ」



 深く答えなことなく、透夜はミーティングルームを後にした。


 協力を依頼する前にある程度は情報を集めて整理する必要があるだろう。それに詩穂と一緒にいた彼は高校生だ。危険があるとわかっている件に巻き込むわけにはいかない。リスクを見積もる為にも沙希は透夜からの報告を待つことにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 昼休みになって、零は弁当を広げようとした。


 しかし、クラスメイト達がいつもと違う騒ぎ方をしているのが気になり、何となく思い当たる節があって手が止まる。



「どうした、零?」



 目の前に座る潤が不思議そうに零を見て問う。零は額に手を当てて呆れたように答えた。



「いや、入口近くで騒いでいるのを見ると、何となく珍客が来ているような気がして」


「気のせいだろ……いや、気のせいじゃなかったか」



 潤が一蹴しようとしたらすぐにクラスメイトの女子が零に話かけようと近付いてきた。それを悟った潤はすぐさま「気のせい」を訂正する羽目になった。



「鷺森君、黒山さんが呼んでって」


「うん、わかった。ありがとう」



 御守りの効果で代償を『拒絶』して以来、体感気温が人並みとなった零はクラスメイトと馴染めるようになった。お陰で相手が女子であっても以前のようなぎこちなさはない。



「───というわけだ、潤。言ってくるよ」


「ああ、わかってるとは思うが……」


「深入りはするな、でしょ? わかってるよ」



「龍と虎の抗争」後に一度呼ばれてから、今の今まで詩穂から昼食に誘われることはなかった。


 だからこそ、このタイミングでまた何かに巻き込もうとしているのではないかと、潤は詩穂を疑っている。だから零に釘を刺したのだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 詩穂と零は適当な挨拶をして、前回と同じ場所で昼食を食べようと移動する。季節はもう冬を迎えており、寒さに対して一種のトラウマを抱えている零は正直なところ外に出るのが嫌だった。


 ただ、今向かっている場所は詩穂のお気に入りだ。寒いのが嫌だとはいえ、目の前にいる可憐な女子のお気に入りを否定するようなことは出来なかった。


 二人は向かい合わせて座り、弁当を広げる。気温の低さが零の体を震わせた。



「鷺森君、寒いの?」


「寒いに決まってるでしょ。黒山さんと亜梨沙さんのお陰で普通の人と同じように気温を感じられるようになったけど、寒さが恐いのは変わらないよ」


「そう」



 詩穂は外に出るのがわかっているので首にマフラーを巻いていた。それを一時的に取って、零の首に巻く。



「いや、流石にそれは……」



 目の前の女子に寒い思いをさせて自分だけ暖まろうなど、零のプライドが許さなかった。必死に遠慮しようと手を動かすが、詩穂に睨まれたので大人しくした。



「そんなつもりはなかったんだけど。ごめん、ありがとう黒山さん」


「いいえ。鷺森君を教室から連れ出したのは私だし、私はお願いする立場だから」


「お願い? 愛の伝道師を二人捕まえたからと言って、僕は誰ともコンビを組む気はないよ」


「それは今でもお願いしたいことだけれど……今回は違うわ」


「え?」



 零と詩穂は寒気で弁当の中身が凍ってしまう前に口の中へ運ぶ。零は平気で食べながら話をするが、詩穂は必ず飲み込んでから話をした。



「鷺森君は沙希さんを憶えているかしら?」


「サキサン……? どちら様?」


「以前、私達を送ってくれた女性の方よ。運転手がいた」


「あー、うん。わかった」



 零にとっても沙希はかなり印象的で、零の中で彼女は「才色兼備」という言葉を体現しているように見えた。その中には詩穂の秘密を話すお茶目なところもあり、その裏で色々と画策している腹黒さも垣間見える。


 そんな彼女の姿を思い出して、詩穂に思い出した旨を示した。


 詩穂は話を続ける。



「実は沙希さんから呼ばれているから、行かなくてはならいのよ」


「そうなんだ」



 零にとって他人事だ。幼い頃から知っている仲・知られている仲なのであるなら何を他人に相談することがあるだろうか。



「私と鷺森君、二人を呼んでいるわ」


「ああ、そうなんだ……ってええ!?」



 零は驚き、思わず箸を置いて目を丸くした。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


黒山透夜は前作の主人公ですが、前作での名称は黒山にしていたので、透夜と下の名前で書くと不思議な感覚になります。

透夜の設定はラノベあるあるモテモテ主人公でしたので、前作の未来である今作はかなり人間関係が複雑になっています。

今のところ、詩穂の母である詩織と、魔法少女ミラクル⭐︎リリカこと梨々香。そして地嶋グループの商品企画部長である沙希の三人が出てきており、詩織と沙希の関係はかなり複雑となってます。

他にもヒロインはいましたが、勿論今後も出していく予定ですのでお楽しみに!


今作は前作を読んでなくても楽しんでいただけるように配慮させていただいていますが、その分逆にネタバレになってしまうかもしれません。

難しいですね。



それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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