8 1日前(ファミリーレストラン)
店に入ると、よく冷えた空気が全身を包んだ。体中の汗が引いていく。……クーラーが利きすぎだ。今はいいけど、すぐに寒くなりそう。後ろから追いついて来た双葉が「あーすずし」と満足気な声を出している。
「先輩!!ちゃんと後で理由聞かせてもらいますからね!!」
「……………気が向いたらね」
「気が向いたらって先輩!!」
「それよりも、伊藤君はどの子なの?」
「え?私は知りませんよ?」
知らないのか。まぁ、そんな気はしていたが。
店内を見回す。学校帰りに寄る子が多いのか、北西高校の制服を着た子が意外と多い。うーん、ここを待ち合わせに選んだのは失敗だったかも。
しばらく二人して、店内を見回してみるがよく分からない。私たちは左右を見回しながら、テーブルの間を歩いた。
「あ、あの人じゃないですか?」
双葉の指差す先に、男の子が一人で座っていた。そこは店の一番奥まった場所で、入り口の部分からは見えない場所だったから、気付かなかったのだ。男の子は俯いていて、いかにも何かに怯えている様子だった。
「あなたが伊藤……要君?」
私が呼びかけると、伊藤君と思われる男の子はびくっと顔を上げた。
「あ、ああ。そうです。片桐さんですか?」
中性的な雰囲気を醸し出す男の子は、やはり伊藤君だった。心なしか顔が青い。なんだか気の毒になってくる。
「そうよ」
私の返事を聞き、伊藤君はあからさまにホッとした表情を浮かべる。私に何が出来る訳じゃないのに、そんな顔をされても困る。
「あ、どうぞ掛けて下さい。えーと……遠藤さんも」
「私の事は双葉って呼んで下さい、そっちの方が慣れてますから」
伊藤君の正面、私の隣りに腰を下ろしながら、双葉が言った。
その途端びくっ、と伊藤君が何かに怯えるように反応する。双葉っていう言葉に何かトラウマがあるのか?でもそれってどんなトラウマだろう。双葉も不思議そうにしている。
「どうしたの?」
「いえ、片桐さんならもしかしてと思ったんですが、やっぱり聞こえませんか」
「………何が?」
「あの、しょっぱなからこんな事を言って引かれると思うんですけど、今日の話の確信でもあるんで言います。あの、僕、昨日カードを引いてから定期的に聞こえるんです」
伊藤君は、そこでごくりと生唾を飲み込んだ。元からそういうつもりで来ているので、どんな幻聴を聞いていようが私が引く事はない。双葉も多分引かないだろう。そんな性格の子じゃない筈だ。それでも伊藤君はいい難そうだった。
「何が聞こえるの?」
「「赤いちゃんちゃんこ着せましょかぁ」、って声が、です」
私が助け舟を出すと、伊藤君は震えながらそう言った。