5 1日前(通学路)
「行って来ます」
「あら美穂、どうしたの?今日はやけに早いのね」
「うん、ちょっと今日は約束があるんだ」
適当に適等な言い訳を、母さんに対して返し、私はいつもより早めに家を出た。学校へと歩きながら、北西高校に通う友人に電話を掛けた。
ぷるる、ぷるる、
という呼び出し音が続く。一向に出る気配がない。
「……………?」
おかしいな。いくらあの子でも、さすがに起きてる時間だと思うんだけど。仕方ない、後から掛け直そうと、電話を切りかけた私の耳に、友人の眠そうな声が響いてきた。
「……………あーい、もしもーし、誰ですかー?」
今起きたらしい。……いくらなんでも遅すぎじゃない?
「おはよう、もう8時30分よ」
「え"!?しまった!!寝坊した!!……………ていうかその声まさか美穂なの?」
「うん、久しぶり」
「久しぶり久しぶりー。元気してたー?」
「まあまあ、ね。良くも悪くもないかな」
「ふーんまあまあかー。変わってないわねーその微妙な言い回しが好きな所」
「それはいいでしょ、私の癖なんだから。貴方はどうなのよ?」
「えー私もまーまー」
「ちょっと何よそれー」
あはは、と二人して少しの間笑う。電話したのは約2ヶ月ぶりだけど、そんな事を感じさせないのが、この子のいい所だった。そして私が、電話する相手に彼女を選んだのにはもう一つ理由がある。
「それで?どうしたの?」
この切り替えの早さだ。他の子ならこうはいかないだろう。こういうのもなんだけど、ほとんど意味のない話を後30分くらい続ける必要がある。別にお喋りが嫌いな訳じゃないけれど、今はそういう気分じゃない。
「ん、あなたが学校に遅れてもいけないから、手短に言うわ。聞きたいことがあるの」
「うん、何?」
「伊藤要って、どういう子?」
「いとうかなめ?」
疑問系で聞き返された。もしかして、知らないのか?まあそれも仕方ないか、私だって同じ学校の子の名前を全員知ってる訳じゃない。私は、最悪の事態を振り払って考えた。最悪の事態とはもちろん、昨日あの後に殺されていて、存在が消えている場合だ。
「いとう………いとう………」
「あ、知らないならいいのよ」
「あ!!」
「知ってるの?」
「あーうん。どうしたの、興味あるの?」
どうやら、最悪の事態には陥ってないらしい。ひとまず安心だ。それにしても興味があるとは妙な表現だ。
「うん、まあ、そう、かな」
自分でも煮え切らない返事になってしまう。どうなんだろう。この場合、興味があるという表現でいいのかな。
「へー、そうなんだ。へー、美穂がねぇ」
?さっきからなんなんだこの反応は。
「それで、どんな子なの?」
「それよりさ!!どういう所がいいの!?」
……………。
……………まさか、この反応は。
「あの、さ。伊藤要って、男の子なの?もしかして」
「何であんたが聞くのよ!!興味があるから聞いて来たんでしょ?」
やっぱりか。それにしても、男の子だったとは。どうする?このまま興味がある振りを続けて聞きだそうか。んーでもなぁ。妙な噂がたっても困るしなぁ。うーん。
「………あのね、誤解してるようだけど、別に好きとかじゃないわよ?」
「え!?じゃあ何で!?」
まあ当然こうなるか。
「………それは言えないんだけどね」
「あ!!もうこんな時間!!遅れちゃう!!」
「あ、待って、切らないで。伊藤君はどういう人なの?」
「えー私もあんまり話した事無いから分からないよ。彼無口だから。シャイってやつ?まぁ顔はそんなに悪くないから、美穂が好きになるのも分からなくはないけど」
「ちょ、だから違うって!!」
「はいはい、まあいいんじゃない?悪い人では無いと思うわよ。また今度詳しく聞かせてね。なんなら私が紹介してあげてもいいわよ。ああ遅れるーじゃあね」
「あ!!待っ―――」
て、と言いたかったのだが、その前に切れてしまった。
「……………はぁ」
情報を得れたのは良かったのだが、変な誤解も招いてしまった。