16 完成に足りないもの
瀬戸がカルタを手に入れた経緯や使用方法について、双葉、堂間、伊井田に時折質問を入れられながら、自慢げに話しているのを聞き流しながら、私は霊斗先輩に小声で話しかけた。
「霊斗先輩」
先輩は、私の方をじとりと見て、非難するような声色でこたえた。
「……………先輩は止めろと言ってるだろ?年の差は気にしないでいいと、何回も言ってるだろ?俺はそんなの気にしないって」
「私が気にするんです」
「……これも何度も言ってるが、変に使い分けていると、そのうち混乱するぞ?」
「大丈夫です。私そこまで不器用じゃありません」
「そういう問題じゃないんだけどな。例えば今のこの会話だって、部の連中に聞かれたら困るだろう?」
「今は瀬戸の話にみんな夢中になってます。私たちの話なんか誰も聞いてません。」
「………まぁ、いい。それでどうした?瀬戸の話を聞かなくていいのか?」
「どうせ、2年前の焼き直しだから、聞く必要ありません」
「ふうん。片桐も分かってきたみたいだな。怪異が、都市伝説がどういうものか」
「亜種が生まれたりもするけど、基本的な話の流れは一本道だって事ですよね」
「そうだな。【赤紙・青紙】などの古いものは、いろいろストーリーが分かれたりもするが、この都市伝説は生まれてまだ二年しか経ってない。おおよそ前回同様に進行すると考えていいだろう」
やっぱり、そうなんだ。私の考えは間違っていなかった。耳を傾けると、瀬戸は露天商から買ったという事を、やはり自慢げに話している。
「それが分かっているんなら、どうしてお前が狙われるかも、分かるんじゃないか?」
「私が狙われる理由ですか?……………いえ、その、分かりません」
「なんだ、分からないのか。このカルタの都市伝説は、お前が死ぬ事で始めて完成するからだ」
「私が死ぬ事で?」
「お前が死ねば―――まあ、例外として俺が居るんだが―――この都市伝説を直接知る人間は居なくなるからな。ネット上の噂は、噂として確立する。友達の友達。都市伝説の完成だ」
「…………なるほど」
言われてみれば納得だけど。やっぱり理不尽だった。せっかく生き残ったのに、否、生かされただけなのか。
「だから、そんな顔をするなって。………そろそろ始まるみたいだぞ」
霊斗先輩に促されてみんなの方を見ると、瀬戸君が自分で考えた(と思っている)ルールを説明し、カードを裏向きに並べている所だった。