15 7不思議の7番目
「どうしたんすか、今日やけにやる気っすねー」
私の宣言に対して、瀬戸がそう茶化した。見事に出鼻をくじかれた感じだった。
「何よ!!やる気があるのはいい事じゃない!!先輩!!やっと本気になってくれたんですね!!やっぱり文芸部なんかに負けてられませんよね!!」
瀬戸の言葉に対して、何故か双葉が対抗する。
んん。せっかく私を援護してくれた双葉には悪いのだけど、別に本気になったという訳でもないのだが。……文芸部のくだりが出てくるという事は、昨日一緒に北西高校に向かった記憶はあるという事なのだろうか?存在が消えるというのは、どこまで影響があるのかいまいち計りきれない。
「ん、どうした双葉?また文芸部のやつに何か言われたのか?」
「そうなんですよー、伊井田先輩!!あいつら本当に酷いんですよ!!私たちの部活なんて必要ないって!!」
「何だ双葉、お前まだそんな事言ってるのか?いい加減慣れろよ」
伊井田と双葉の会話に、堂間君までもが加わる。………部活を始めると言ってるのに。みんな好き勝手に喋り過ぎだ。ま、別に構わないけど。本当の所、私は別に部活などやりたくないのだから。
「慣れる!?慣れられないわよ!!何で部長も堂間君も、そうやって冷めてるのよ!!ねぇ伊井田先輩!?」
「え?ん、んん?まあ、ね」
伊井田も、双葉が言うところの冷めている側なのだが、双葉の勢いに負け、同意している。
「あのさぁ、双葉、お前小学生かよ」
ついに瀬戸まで本格的に会話に加わりだした。
「何ですって!?」
「だからそれだよ。そんな直ぐムキになんなって。堂間も困ってるだろ?」
「困ってないわよ!!ね!!堂間君!!」
「ん?………うん」
明らかに狼狽している堂間君。しかし双葉はそんな事に気付かないようだ。
「くくく、ほらまた困らせてる」
その様子を見て、瀬戸は嬉しそうに笑っている。
「何よ!!」
その態度を受けて、双葉がヒートアップし始めた。いよいよ部活どころでは無くなって来ている。
「おいお前らー、部長が困ってるだろ」
そのぐだぐだの流れを引き戻したのは、以外にも伊井田だった。双葉を宥めると、話の主導権を私に返してくれる。……本当に雨、どころか雪が降るんじゃないだろうか。
「えーと、まぁ別にそんな静まり返られても困るんだけどね」
「ちなみに、今日は何をするんですか?」
堂間君が聞いてきたが、特に何をするか決めている訳じゃない。
「いつも通りよ、誰か議論したい話題か何かあるかしら?」
「【学校の七不思議】とかどうですか!?」
双葉が元気よく発言した。
「それはつまらんぜ、小学生さん」
瀬戸がまたしても煽るように言う。
「小学生じゃないわよ!!」
「分かってるよ。軽い冗談じゃないか。それに、そんなありきたりなもん、今更話し合ってもつまんねーだろ?なぁ堂間?」
「まぁな。でも繰り返し議論する事によって、新たな発見があるかもしれない。……どう思いますか、伊井田先輩?」
「私はどっちでもいいわ。部長に任せる」
伊井田が私に丸投げしてきた。やれやれ、どうしようか。
「まぁ確かに今更感はあるけど、双葉がどうしてもというなら、今日はそれでもいいと思うけど。どう?」
「私はただ、七個目の不思議の、【七不思議の七個目を知ると呪われる】というのをもう少し詳しく調べて見たかったんです」
「ん、それは俺も興味あるぞ。呪われるなんて穏やかじゃないけど」
堂間君も同調する。それなら、今日はそのテーマでもいいかもしれない。
「あー、ちょっといいすか、先輩」
急に瀬戸が遠慮がちに割り込んだ。私は、別に拒否する理由もないので、発言を許可する。そもそも許可など必要ないのだけれど。
「俺からも一つ提案があるんすけど、今日はコレをやってみませんか?」
そう言いながら、トランプのようなものを取り出す瀬戸。
私はもう分かっていた。それは「トランプのようなもの」ではなく、まさしく【都市伝説カルタ】だ。
何故瀬戸がそれを持っているかとか、そんな野暮な事はもう考えまい。なるべくしてそうなったのだ。見えない力に引き寄せられるように。
私は、今日伊井田がふいに顔を出した時から、こうなるような気がしていたのだから。