13 1日前(自室)
「どうやら本物みたいだな」
「分かるんですか?」
「ああ、ここに蜘蛛のマークがあるだろ?」
霊斗先輩の指差す部分を見ると、カルタの裏の模様に上手く隠されているが、見逃してしまいそうな程の大きさだが、確かに蜘蛛のマークがある。
「確かにありますけど………このマークがどうしたんですか?」
「多分忘れてると思うんだが、俺たちが巻き込まれた【都市伝説カルタ】の仕掛け人は、このマークを好んで使うんだ。このマークにどういう意味があるのかまでは、まだ分からないんだけどな」
「覚えてます。確か露天商から買ったって香織が」
小説を書く時に、その部分は必死に思い出して書いたから、多分間違いない筈だ。霊斗先輩は、その私の返答を聞いて、ほう、と少し感心したような表情になった。何故か私は少し嬉しくなった。
「そうだ。そいつが作った作品には、だいたいこのマークがついている。例えばほら―――」
霊斗先輩は、どこからか鏡を取り出して、模様の入っている部分を指差した。なるほどそこには、綺麗な金色で、蜘蛛の模様が入っていた。
「―――他にもこういうのもあるぞ」
今度は、シャボンダマを取り出す。吹く部分が、蜘蛛の形になっていた。
「こんな感じで、蜘蛛の模様が入っている。まぁ本来これだけでは判断できないんだが、さっきの道路での事からして、間違いないだろう。まさかあの大鎌女が人間のわけないしな」
「……………やっぱりアレは、斉藤先輩なんですか?」
「どうだろうな。確かにアイツは、お前の声に反応したみたいだが、それは演技だったかもしれない」
「演技?」
「そうだ。怪異っていうのは、基本的に生きてる人間が嫉ましいものなんだ」
「嫉ましいから、引き込もうとする?」
「ああ、だから、お前をあっちの世界に連れて行くために、わざわざあの姿で現れたのかもしれない。でもまあ―――」
霊斗先輩は、少し顔を伏せ、
「―――あれは、本物の斉藤だろうなあ」
どこか寂しそうにそう続けた。さすがに2年前まで同級生だった人間が、怪異になっているのは抵抗があるのかもしれない。
「ところでさ、片桐」
「はい?」
「このカルタはどこで見つけたんだ?」
そう言えば、まだその事を説明していなかった。私は、伊藤要に関する事を昨日の夜から一通り説明した。霊斗先輩は、時折相槌を打ちながら聞いていた。
「………なるほど」
私が話し終えると、霊斗先輩は短くそう言った。
「となると近々このカルタに関する怪異が起こりそうだな」
「え?もう起こってるんじゃないですか?北西高校で」
「違うよ。今度は南東高校で、だ」
「な!!そんな!!どうしてですか!!」
「コレを見てみろ」
そう言って、霊斗先輩が差し出したのは、伊藤君から受け取った【赤いちゃんちゃんこ】の絵が書かれたカルタ、の筈だったのだが。
「……………え?せ、せんぱい?…………コレ」
本来絵が書かれている筈の部分に、【そろそろ死ね】という文字が書かれていた。
え?え?どういう事?
「おそらく、「もうお前は必要ないぞ」って事だろう。【都市伝説カルタ】の噂も、ネットロアとして広まりつつある事だし」
霊斗先輩は冷静に分析する。
「いやっ!!」
おもわず、霊斗先輩の手からカルタを叩き落とす。
「あ、ごめんなさい」
「いやいいよ。それよりそんなに慌てるな。お前は俺が守ってやるから」
「は。え?っな!?」
慌てて私は霊斗先輩に背を向ける。顔が熱い。この人はなんて事を言うのだろうか。私は、よくある表現でいうなら顔から火が出そうだった。煙くらいは出てるかもしれない。まぁ、面と向かってこんな事を言われたのだから、ある程度は仕方ないのではないだろうか?いやきっとしょうがないだろう。
「どうした?」
と、霊斗先輩の何でもないような声が背後から聞こえてくる。本当に分かっていないのか、それとも分かっていて私をからかっているのか、確認する方法が無かったが、私は背中を向けたまま「なんでもありません」と答えた。