12 1日前(リビング)
私は、そわそわそわそわと落ち着かないまま、携帯メールを打つ手を止め、霊斗先輩を盗み見る。
霊斗先輩は、私の机に座って、【赤いちゃんちゃんこ】の絵が書かれた例のカルタを眺めている。表の絵だけでなく、裏やふちなど、角度を変えて観察していた。
それにしても情けない。何を動揺しているのか。本当に私は、何を動揺しているのだろうか。
「あ、あの、何か飲み物いりますか?」
沈黙に耐え切れず、声を掛ける。だから、何をつかえているのよ私。沈黙を気まずいと思っているのが私だけらしいというのも何だか嫌だった。
「ああ、ありがとう。でも気にしないでいい」
「いえ、私入れて来ます。お茶でいいですか?」
「そうか?なら頼むよ」
「はい」
ドアを出ると、私は一つ大きく息をはいた。
……………情けない。ああ情けない情けない。何を変に意識しているんだろう私。気持ちを切り替えなきゃ。
確かに落ち着いて話をしたい所だったけど、何で私の部屋なんだろう。いや、まぁ嫌ではないんだけど。……きっと、霊斗先輩は本来居ない筈の人だから、あまり人に見られたくないのだろう。
とす、とす、と間抜けな足音が階段に響く。あぁ何か今日は疲れたな。
「あら美穂?帰ってたの?」
「えぁ!!母さんこそ!?」
「はぁ?何変な声出してんのよ」
……………まさか母さんが帰ってたなんて。どうしよう、霊斗先輩が部屋にいるのに。
「な、何でもないわよ」
「そう?あ、今日母さん高校の同窓会だから、戸締りよろしく頼むわよ」
「え!!え!?そうなの!?」
「……………あんた、本当に変よ。何か隠してるんじゃないでしょうね?」
「…別に。同窓会、楽しんで来てね」
私は、何気ないふうを装いながら、リビングへ向かった。
母さんの事だから、私が何かを隠しているのはばれているのだろうけど、それが何かまではきっと気付かれないだろう。