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10 1日前(赤いちゃんちゃんこー中)


【赤いちゃんちゃんこ】への対処方を考えながら、私は2年前の事を思い出していた。【ひきこさん】に襲われた時の事を。

香織や他のみんなは、怪異から逃れる事は出来なかった。けど、霊斗先輩だけは【ひきこさん】に襲われたにも関わらず生き延びている。それは何故か。それは、怪異に対する知識が、人一倍あったからだ。あの時は動転していて霊斗先輩が何をしているのか分からなかったが、小説を書くに当たって調べてみると、霊斗先輩は【ひきこさん】に対して、少なくとも二つの対処法を知っていた事になる。【引っ張るぞ】と3度言う事と、【ひきこさん】をいじめた人間の名前を知っていた事だ。もっとも、名前を知っていた事は厳密には対処法じゃない。【ひきこさん】は、いじめを苦に怪異になったのだが、いじめられたのは怪異となった今でもまだトラウマとして残っている。だから、いじめた人間と同じ名前の人間は襲わない。いや、襲えないのだ。………何故、霊斗先輩がいじめっ子の名前を知っていたのかは分からないけど。


とにかく、対処方を間違えなければ、生き残れる筈だ。そういえば、【赤いちゃんちゃんこ】もいじめられた少女が原型だったのでは無かったか?「ちゃんちゃんこを着ない」と言う宣言が駄目だとすると、その辺りに生き残りの可能性があるような気がする。


私は、自分がこれほど冷静に思考できている事に驚いていた。霊的な現象に慣れたという事もあるが、きっとそれは私の心境の変化だろう。2年前、私は何もできなかった。そのせいでみんな死んでしまった。もうこれ以上、このカルタに関する事で、犠牲者を出したくない。


「……………ぐ!?」

体にいきなり衝撃が走ったかと思うと、私の体は、指先まで固まってしまった。

………そんな。また、だ。【ひきこさん】の時と同じ。


がらがら、と急に大きな音が背後で響いた。今まで何の気配も感じなかったのに、急に背中にぞくぞくするような圧迫感を感じた。

ずず、ずず、と何かを引きずるような音を立てながら、その何かは近付いてくる。

「赤いちゃんちゃんこ着せましょかぁ?」


背後から、またあの声が、今度は直接私の耳に聞こえてくる。

「着ない!!……………!?私は着ないわ!!」

どういう訳か口だけは動く。私は必死に着ない事を訴える。体が動かない今、出来る事をしなければ。


「赤いちゃんちゃんこ着せましょかぁ?」

私の声など意にも掛けず、ずず、ずず、という音は、私の背後までたどり着いた。

いやっ!!何?見えないから、余計に恐怖感が高まる。

「赤いちゃんちゃんこ着せましょかぁ?」


「着ない!!着ないわっ!!」

落ち着いて対処しようと思っていたのに、やっぱり無理だった。私はすっかり恐怖に支配され、叫んでいた。


ずず、ずず、背後の気配はさらに前進し、私の横を通り抜けた。

少しうつむきがちなその顔は、長い髪で覆い隠され、表情が伺えない。

両手で、血塗れの大きな鎌を引きずっている。

「……………うぅ」

恐怖で声が引きつる。あんなもので首を跳ねられたらひとたまりもない。


「赤いちゃんちゃんこ着せましょかぁ」


「着ないって!!!言ってるでしょう!!!」

ありったけの声を振り絞り叫ぶが、女はゆるりと鎌を振り上げた。そして、長い髪の隙間からぎょろりとした目を覗かせながら私の顔を覗き込む。

気持ちの悪い笑みを貼り付けたまま、女は一言一言確認するように言う。

「赤いちゃんちゃんこ着せましょかぁ」


「着ない!!着ないわ!!嫌よ!!着ないわ!!」

何で?何で?何で私の話を聞いてくれないの?


女は、振り上げた鎌を、私の首目掛けてゆっくりと振り下ろした。


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