1 2日前(放課後のやりとり)
前書きです。
この【都市伝説の変遷】は、【夏のホラー2009】に参加させて頂いている、【都市伝説の起源】の続編です。ですので、【都市伝説の起源】を読み終えた後に読んで頂く事を、お勧めします。こちらから読んで頂いてももちろん構いませんが、意味の分からない文が、出てきてしまうかもしれません。なるべくそうならないようにしますが、そうなってしまう可能性がある事を、ご了承下さい。
私は、少し憂鬱な気分を抱えたまま、部室のドアをがらりと開いた。
「あー!遅いですよ、片桐部長!!」
ドアを開けた私を、双葉の大きな声が迎えた。
「あーごめんごめん、日直だったのよ。」
私は疲れた様子を隠しもせず、そう答えた。この部に入って、まだ一週間しか経っていない双葉は、やる気が有り余っているらしい。やる気があるのは悪い事じゃないけど、ちょっとは控えて欲しい。
「えー!!昨日も一昨日も、その前もそう言ってませんでした!?先輩何日連続で日直やるつもりなんですか!?よく分かりませんけど!!何かの新記録に挑戦中なんですか!?」
余りある元気を声に乗せて、捲くし立てる双葉。………しまった。今日こそは違う言い訳をしようと思っていたのに。
「まあまあ、そんなのどうでもいいじゃない?てか、まだ部活始まってないわよ?ほら―――」
私の指差した時計は、4時35分を指していた。部活の開始は5時からだ。
「そんなの関係ないですよ!!早く部活を始めましょう!!」
そう言いながら、双葉が私の腕を引っ張り、席に座らせようとする。どう考えても、関係ない事はないだろう。
「待って待って、引っ張らないで、裾が伸びる裾が伸びる。というかね、まだあんたと瀬戸君しか来てないじゃない。他の二人は?」
「私は知りません!!」
知らない事を元気よく報告する双葉。その無駄な元気を少し私にも分けて欲しい。
「瀬戸君は、何か聞いてる?」
私と双葉のやり取りを、我関せずといった様子で見ていた瀬戸に、話を振る。瀬戸は、双葉と同じクラスだった筈だ。双葉が知らないのなら、きっと彼も知らないのだろう。そう思ったが、私はあえて話を振った。
「伊井田先輩は、「今日はパス」だそうです。堂間は、昼休みに姿を見かけたので、サボりじゃなければもうすぐ来ると思いますよ。」
が、私の予想とは反して、右手で眼鏡を直しながら、瀬戸はそう答えた。
「えー!!伊井田先輩サボりですかー!!!福部長がいなかったら部活始まらないじゃないですか!!」
「伊井田抜きで部活なんて、日常茶飯事でしょ。全然問題ないって。」
「え!!そうなんですか!?伊井田先輩って、サボり魔なんですか!?初耳です!!」
「………ああ、そういえば、あんたが部活に入ってから、伊井田の奴やけに出席率良かったわね。それまで毎日のように休んでたのに。」
「伊井田先輩は、双葉の事が好きなんだよ。」
瀬戸君が、何でもないようにそう言った。いや、普通に考えてそれはないだろう。だって伊井田は……
「え!?ええ!?そんな!?困ります!!副部長の事は嫌いじゃないですけど!!でも!!それはそういうんじゃなくて!!」
伊井田がその場にいる訳でも無いのに、うろたえまくる双葉。ちょっとは落ち着けないのだろうか。
「ちょっと落ち着きなって、双葉。そんな訳ないでしょ、また瀬戸君お得意の悪い冗談よ。」
「いえ!!あの!!やぶさかではないというか!!いえしかしやはり困ります!!」
双葉は、私の言葉に少しも耳を貸さない。何をそんなに慌てているのか。伊井田がこの場にいるならまだしも。責めるような視線を瀬戸に向けるが、瀬戸はにたりにたりと笑ったまま、止めようとしない。
とその時、がらりと部室のドアが開いた。
「すみません遅れましたー、って、どうしたんですか?」
別にまだ遅れてはいないのに、律儀にも謝りながら入室した堂間に、私が簡単に事情を説明する。堂間はふむふむと聞いていたが、話を聞き終わると、双葉の肩に手を置いて言った。
「お前はアホか。変な本の読みすぎじゃないのか?」
そう彼に言われ、双葉の混乱がようやく収まる。この部の中では彼が一番双葉の扱いに手馴れている。
ようやく騒ぎが収まった所で、騒ぎのある意味中心となった―――伊井田―――彼女抜きの部活が始まった。