ハイブリッド禍福
仕事ができる人にコツを聞くと、おそらく十人十色で答えが異なると思う。
だけど、人に好かれる人のポイントはそれほど違いがなく、いつも機嫌がいい、ニコニコしている、と大抵挙がるだろう。
僕の職場の営業成績ナンバーワンの先輩は、いつも穏やかで、いいことでもあったかのように暖かいオーラを出している人だ。
この先輩の不思議なところは、どんなに理不尽な客に怒られても、取引先のミスで仕事が不意になっても、ケーキ屋さんに行って目当てのモンブランが目の前で売り切れても、次の瞬間には仏のように慈悲深い表情を浮かべ、苦言のひとつもこぼさないところだ。
どうにもできないことや、仕方がないことも沢山あるとはいえ、愚痴のひとつも言いやしない。
その上、顔がいい。柔和なイケメンである。いつもピシッとしたスーツに、きちんと整えられた髪で、清潔感もある。
当然、社内での人気も高く、上司からも部下からも尊敬を集めている。
天は二物も三物も与えている⋯⋯と僻むのは簡単だが、僕は先輩にご機嫌でいる方法を教えてもらおうとした。
それで成績も上がらないかなぁと下心はあったが。
昼時、お湯を入れたカップ麺を持って、先輩が昼食を食べている横に行った。
「またカップ麺?」
先輩の昼食は、自作だというお弁当。料理はあまり得意ではないようで、行き過ぎた茶色の卵焼きが端に鎮座していた。
「たまには野菜も食べなよ」
「たまにでいいんですか?」
「うーん、やっぱ毎日」
「でもネギ入ってますよ、これ」
「ちょっと足りなさ過ぎるね」
くすくす笑う先輩。お節介でお茶目なところも、人が懐く理由なんだろう。
僕は本題に入ることにした。
「先輩って、なんでいつもご機嫌なんですか?」
「え、そう見える?」
「はい。いっつも、良いことあったんだろうなーって感じの、ほわほわーんとした雰囲気です」
「あー、それよく言われる」
「でしょ?」
「でも、良いことがいつも起こってるわけじゃないよ」
それは知っている。この前、同伴して営業に行って断られた帰り、先輩だけ烏に糞を落とされた。それでもびっくりしただけで、拭き取った後はニコニコしていた。
先輩はこともなさげに答えた。
「簡単だよ、良いことがあったときはアメリカ式で、悪いことがあったら日本式で立ち直ってるだけ」
「なんですか、それ」
アメリカ式と、日本式?
初めて聞いた。会社の研修でも聞いたことがない。先輩独自のワードだろうか。
「えーっと、日本だと、良いことと悪いことは交互に起こるっていうだろ?」
「禍福は糾える縄の如しってやつですか」
「そうそれ、よく知ってるね」
「やった、褒められた」
三分計っていたスマートフォンが鳴った。蓋を剥がして横に置いておく。
「で、アメリカでは、良いことがあると、これからもっと良いことが起こるに違いない! って考えるんだって」
「えーっと、ホップステップジャンプみたいな?」
「かもしれないね、実はよく知らないんだけど。混ぜて考えたら、落ち込まなくていいんじゃないかと思ってそうしてる」
「良いことがあればアメリカ式で次も良いことが起こって、悪いことがあれば日本式で、次は良いことが起こるんですね」
それをポジティブと捉えるか、お気楽と腐すかは受け手の問題だろう。
だけど僕はそれがすごく面白くて、どっちでもいいからなにか起こって欲しい、と思わず口にした。
「うーん、じゃあ、はい」
先輩はお弁当からブロッコリーをひとつ、カップ麺の蓋の裏に置いた。
「お野菜食べて」
「⋯⋯これ食べたら次は良いことがありますよね?」
「そこはアメリカ式でしょー⋯⋯」
2021/02/05
お気に入りのパン屋さんで大好きなレザンチーズが残ってて、たまたま入った本屋さんで探していた本が買えたので、たぶんすごく来てます!