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3分読み切り短編集

ハイブリッド禍福

作者: 庵アルス

 仕事ができる人にコツを聞くと、おそらく十人十色で答えが異なると思う。

 だけど、人に好かれる人のポイントはそれほど違いがなく、いつも機嫌がいい、ニコニコしている、と大抵挙がるだろう。

 僕の職場の営業成績ナンバーワンの先輩は、いつも穏やかで、いいことでもあったかのように暖かいオーラを出している人だ。

 この先輩の不思議なところは、どんなに理不尽な客に怒られても、取引先のミスで仕事が不意になっても、ケーキ屋さんに行って目当てのモンブランが目の前で売り切れても、次の瞬間には仏のように慈悲深い表情を浮かべ、苦言のひとつもこぼさないところだ。

 どうにもできないことや、仕方がないことも沢山あるとはいえ、愚痴のひとつも言いやしない。

 その上、顔がいい。柔和なイケメンである。いつもピシッとしたスーツに、きちんと整えられた髪で、清潔感もある。

 当然、社内での人気も高く、上司からも部下からも尊敬を集めている。

 天は二物も三物も与えている⋯⋯と僻むのは簡単だが、僕は先輩にご機嫌でいる方法を教えてもらおうとした。

 それで成績も上がらないかなぁと下心はあったが。

 昼時、お湯を入れたカップ麺を持って、先輩が昼食を食べている横に行った。

「またカップ麺?」

 先輩の昼食は、自作だというお弁当。料理はあまり得意ではないようで、行き過ぎた茶色の卵焼きが端に鎮座していた。

「たまには野菜も食べなよ」

「たまにでいいんですか?」

「うーん、やっぱ毎日」

「でもネギ入ってますよ、これ」

「ちょっと足りなさ過ぎるね」

 くすくす笑う先輩。お節介でお茶目なところも、人が懐く理由なんだろう。

 僕は本題に入ることにした。

「先輩って、なんでいつもご機嫌なんですか?」

「え、そう見える?」

「はい。いっつも、良いことあったんだろうなーって感じの、ほわほわーんとした雰囲気です」

「あー、それよく言われる」

「でしょ?」

「でも、良いことがいつも起こってるわけじゃないよ」

 それは知っている。この前、同伴して営業に行って断られた帰り、先輩だけ烏に糞を落とされた。それでもびっくりしただけで、拭き取った後はニコニコしていた。

 先輩はこともなさげに答えた。

「簡単だよ、良いことがあったときはアメリカ式で、悪いことがあったら日本式で立ち直ってるだけ」

「なんですか、それ」

 アメリカ式と、日本式?

 初めて聞いた。会社の研修でも聞いたことがない。先輩独自のワードだろうか。

「えーっと、日本だと、良いことと悪いことは交互に起こるっていうだろ?」

禍福(かふく)(あざな)える縄の如しってやつですか」

「そうそれ、よく知ってるね」

「やった、褒められた」

 三分計っていたスマートフォンが鳴った。蓋を剥がして横に置いておく。

「で、アメリカでは、良いことがあると、これからもっと良いことが起こるに違いない! って考えるんだって」

「えーっと、ホップステップジャンプみたいな?」

「かもしれないね、実はよく知らないんだけど。混ぜて考えたら、落ち込まなくていいんじゃないかと思ってそうしてる」

「良いことがあればアメリカ式で次も良いことが起こって、悪いことがあれば日本式で、次は良いことが起こるんですね」

 それをポジティブと捉えるか、お気楽と腐すかは受け手の問題だろう。

 だけど僕はそれがすごく面白くて、どっちでもいいからなにか起こって欲しい、と思わず口にした。

「うーん、じゃあ、はい」

 先輩はお弁当からブロッコリーをひとつ、カップ麺の蓋の裏に置いた。

「お野菜食べて」

「⋯⋯これ食べたら次は良いことがありますよね?」

「そこはアメリカ式でしょー⋯⋯」

2021/02/05

お気に入りのパン屋さんで大好きなレザンチーズが残ってて、たまたま入った本屋さんで探していた本が買えたので、たぶんすごく来てます!

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