暗がり
「このアマ!よくも娘を殺しやがったな!」
少女は首を締められて、もがき苦しむ。
「あっ ぁ゛っぉ」
銃のストックで何度も腹を殴り付けられ、先ほどまで食べていたクラッカーが、胃液と共に吐き出される。
「行儀もなってないな!野蛮人め!」
少女が泡を吹いて倒れていると、ベルトを外す音が聞こえてくる。
「おいハワードそれは不味いだろ、拷問することはない」
「黙れ!お前に俺の何が分かる!お前はいいよな娘を強姦されて、看板に貼り付けにされてないんだからな!」
朦朧とする意識の中、少女は父親から叩き込まれたこの世界で生きる術を、恐怖へ抗う手段に転用する。
「つらい…しにたい……」
だが
「死ぬことは許されない」
敵2名が口論に夢中になっている間に、不用心に立て掛けてある自動小銃を手に取り、あらゆる憎悪と仕組みを駆使しながら、動く物全てを撃った。
みんな善人なのに
起動から20分後…
「つまり、この世界は西部開拓時代に逆戻りしたのですね」
「まぁ、そうなっちゃうかな」
「マジでうける」
アンドロイドは、人工生命体用経口液の缶を飲み干す。
「うぇ…まっずこれアメリカ産?アメリカのレーションはアンドロイド用も美味しくない」
「いやこのMRE噂ほど不味くないね、てかそれ味あるの?」
スプレー缶のような見た目をしているが、彼らにとってはこれが食事らしく、アンドロイドは嫌な顔をしながら飲んでいた。
「純度によって味が変化する仕組みですよ、因みに私が1番好きな味はミルクセーキ味です」
「へぇ、コンセントとかで充電してるのかと思ってた」
「よく言われてました」
一段落したところで、アンドロイドは単刀直入に聴く。
「それで、私を再稼働させた理由は?」
「ちょうど、荷物運びが欲しいと思ってたんだ」
「いいですよ他に行く所も無いですし、ただ一つ問題が」
ヒガナの持っている端末を指差し、ここに繋げと指差す。
不明なデバイスによる接続です許可しますか?
の問いにyesと答え、ログを表示させる。
「えーこれはなに?窓7?」
「OSの名前です」
「軍が企業から買い取ったもので、アンドロイドとの相性が良かったそうです」
「そんなことよりもログを確認してください」
ログには、1番最後の命令が表示されていた。
殿として、残存部隊の撤退を支援しろと言うものだった。
「武器弾薬を可能な限り温存し、交戦規定に乗っ取りつつ、持久戦を展開せよ、か…」
「この命令がある限り、私はこの街を放棄するのことが出来ません」
「それで?どうすれば」
「師団指揮所に行って命令解除が出来ます」
「最後は、国防長官から現場レベルで事態に対処しろって伝達が来ましたから、私の最高責任者は師団長になります」
説明を終えたアンドロイドは、限定的な自由を求めて行動を開始する。
MV22Bオスプレイ 機内にて
「まもなく降下地点だ、準備しろ!」
ズシンとした感触が下から伝わってくる。
これまでに何度も経験した感覚だ。
「UAVからの情報によると、目標のB52は活動を休止中、再び動き出す前にB52に搭載されている核弾頭を無力化せよ」
暗闇の中で暗視装置を起動し、周囲を見渡す。
「予定通りだ、Aが先行するBは後方警戒を」
「了解だ、上手くやろう」
部隊は廃墟となっている街へ突入する。
「前方200m人影を確認」
IRレーザーで目標を照射し、味方へ敵の位置を知らせる。
IRレーザーは暗視装置を装着していなければ、肉眼で捉える事は出来ない。
その代わり、敵も暗視装着を持っていれば、此方の位置が露呈する危険性があるので、注意が必要だ。
「どうします、撃ちますか?」
「いや、迂回する」
「ありゃ警備だ、定時連絡ぐらいするだろうな」
「とは言うがジャック、迂回すれば日が昇って照明弾のように俺達を照らすぞ」
ジャックは、辺りをキョロキョロと見渡すと、丁度良さそうな迂回路を見つけた。
「見ろ、地下鉄だ」
「地下を進むのか?あまり乗り気はしないな」
「それじゃあ暗闇のアドバンテージ失うのか?」
ジミーは渋そうな顔をして、少し考えるとBチームに地下鉄を進むと言った。
恐らく普通の人間なら、地下鉄へ進む事を躊躇うだろう。
階段という歯が、一歩降りる度に平常心を噛み砕き、迷路のような通路が方向感覚を奪いとり、暗闇の胃袋へ案内する。
だが、彼らは普通ではない。
烈火のような訓練に耐え、世界で最も優れた装備を保有し、幾つもの実戦を潜り抜けた一騎当千の戦士達だ。
「本当なのか!」
地下鉄の中を声が反響する。
「どうやら奴らの寝床に来ちまったみたいだ」
足音も立てずに声の主へ迫る。
「本当だ、西の油田を占拠してた連中は皆殺した」
「よし、ドラム缶の側の二人を殺れ、俺は寝てる奴をやる」
3人のならず者の頭部を光学照準が捉える。
「軍の車両からパーツを抜き取ってきた甲斐が、少しはあったな、砂漠の偵察隊が死んでなきゃ、もっと遠くまで」
パシッ!
サプレッサーのくぐもった音が響き、それからパッタリ声が聞こえなくなる。
「流石、元デルタ、ど真ん中だ」
「………」
無口な男は、淡々と既に息絶えた死体へ止めを刺す。
アールは同僚から、機械のような奴と言われていた。
必ず止めを刺す男として知られ、用心深く、また冷徹な一面も見せた。
だからこそ、同僚からは信頼があった。
「よし、暗視装置の電池を確認しておけ、まだまだ先は長いぞ」
ビル街にて
「狙われていますね」
「今更?」
横倒しになっているバスを盾に、ヒガナ達はスナイパーに狙われていた。
「この音、前にも聞いたことある」
「結構恨まれてらっしゃるんですね」
「小言は後にしてよ、それよりスナイパーが何処にいるか分かる?」
アンドロイドはサーマルを起動し、周囲を索敵する。
「目標を捕捉出来ない、向こうは、熱センサーを防御する術がある」
「そう、まぁどのみちカウンタースナイプは無理か」と、両手に持つAA12を見つめて言う。
「なぜ、わざわざAA12を?アサルトライフルなら大抵の脅威に対処出来ますよ」
ドラムマガジンをリュックにしまって、8連装マガジンに変更していたヒガナは疑問に答えた。
「弾の消費が激しいからね」
フルオートショットガンを持つ人間の台詞とは、思えない発言に、アンドロイドは個人の考え方 次第で物事は変化するという事例を元に、処理した。
「それで、何かいい案はない?」
「打開策が3つあります」
アンドロイドは、聞き取りやすい速度で説明を、始める。
「400m先の地下鉄まで退避する・リスク高」
「100m先にあるMRAPの中から武器を探す・リスク中」
「157m先にある戦死した兵士のAT4ロケット使用する・リスク高」
ヒガナはまだ死にたくないな、と思い1番リスクの低い案を採用した。
「スモークある?」
「これしかありません、使用期限過ぎてますけど…」
「よーし、ちゃんと動けっ!」
スモークは白い煙を巻き上げ、辺りを真っ白にする。
スナイパーもこちらの意図に気付き、煙に向かって盲撃ちしてくる。
その攻撃を掻い潜り、MRAPへ辿り着く。
「ほら、早く!早く!」
カンッ!
敵の放った銃弾が頬を掠め、車に当たる。
「早くして!」
スモークが風で流され、姿が露呈してしまおうとしたその時、更に厄介な物がやってきた。
ビルが突然爆発し、瓦礫が落下する。
背後からとてつもなく重い物体が、アスファルトを削り取りながら進んで来た。
「エ、エイブラムス戦車…」
銃座に座っているならず者が、逃げてみろよ!といきり散らしながら、M240機関銃を乱射する。
「終わりました、逃げましょう」
ケースを持ったアンドロイドが、車の中から出てきた瞬間、手を引っ張り力一杯逃げる。
「地下鉄まで逃げる気か!腰抜け!」
ならず者は、わざと機関銃を外して、狩りを楽しんでるようだった。
「逃げろ!逃げろ!どうせ逃げら」
ならず者は頭を撃ち抜かれ、戦車の天板を赤く塗りあげる。
「リコがやられた!」
「おい、誰か機関銃につけ!」
「やだよ、俺怖い」
「それよりスナイパーがまだ生きてるぞ!」
戦車は、ビル群へ照準を合わせると、片っ端から砲撃してゆく。
戦車がスナイパーに気をとられている隙に、地下鉄へ逃げ込む。
「女が逃げたぞ!」
「そんなの後からでもいい!それよりスナイパーを殺れ!」
砲撃と機関銃の音が絶え間なく続く中、ヒガナとアンドロイドは、おくえおくへと進む。
ヒガナは緊張の糸が切れ、放置してあったスーツケースに腰掛ける。
「毎度まいど、こんなことばっかり」
ため息をするヒガナと対称的に、アンドロイドは感嘆の声を上げた。
「M107CQですよ、弾倉にクリーニングキットまで付いてる」
長距離狙撃用のスコープと拳銃用サイトが付いた物のようで、銃を傾ければ近接戦闘用のサイトに切り替える事が出来た。
「良い銃ですね、シャーリーンとでも名付けましょう」
「教官を撃ち殺しそうな名前ね」
案内板をライトで照らし、地下鉄内の地図を確認する。
「地下鉄ってこんなに広いの?」
「2039年に行われた大規模な都市改造計画の影響ですね、お陰で地図のダウンロードに時間がかかりました」
「4番ホームから線路を下って9番路線に行きましょう、そうすれば師団の拠点まで行けます」
「もうひと頑張り?疲れたなぁ」
アンドロイドは、人心の欄のメモリから、言葉を選びヒガナに話す。
「早くここから出ないと虫が一杯寄って来ますよそれに加えて蜘蛛も」
「え゛それはやだなぁ」
ヒガナは、自らの足を叱咤すると、再び歩き始める。
ホームから線路へ降りて、暗がりを進む中、気になっていた事を質問する。
「そう言えば、軍の頃はなんて呼ばれてたの?」
少しの沈黙の後、マイクロイドとかターミネーターと呼ばれていたと言う。
「アンドロイドは呼びにくいから、何かいい名前ないかなぁ」
「そんな事を言われましても…」
「そうだなぁ、じゃあマドナで!」
「OSの名前が由来ですか?」
「いいですよマドナで」
「じゃっ、今からよろしくマドナ」
そんな会話をしながら、彼女らは暗闇の底へ足を踏み入れた。




