愛してるよ
「装甲車前へ!」
コーヒーショップの影から顔を出した装甲車は、ATミサイルの直撃を受け撃破された。
「次段装填急げ!」
OS軍はロングビーチ海軍造船所周辺で、最後の戦いを繰り広げていた。
「誰か弾持ってこい!弾!」
ヒガナは駆け寄り弾薬箱を置いた。
「助かるぜ大将」
ヒガナはその言葉を複雑な気分で受け止めながら、補給役に徹した。
先に死んだ方が負けなのだ。
だから、ヒガナは一番守りの硬い頑丈な建物へと軟禁させられたのだ。
今のヒガナに出来ることは、敵の大将首を取りに行ったジャック達とマドナの帰りを待つことだった。
「それにしても……」
銃眼から機関銃がハリネズミのように突き出し、ミサイルが突っ込んできた車両を破壊する。
ヒガナが籠る六角形のコンクリート建造物は、砲弾が命中してもびくともしない頑丈な建物だった。
155mm砲弾の直撃を軽々と耐え、それでいて銃を覗かせるのに丁度いい穴まであった。
子供向け番組に出てくるUFOみたいなふざけた見た目をしてる癖に、実用性に優れた構造物だった。
恐らくバンカーバスター(地中貫通爆弾)でも落とされない限りは、崩れたりしないだろう。
元は宗教団体が作った建物なのだが、恐ろしいほど頑丈だ。
連中は、こういう妙な物を良く作りたがる。
会ったことも話したこともない存在を、何故ここまで信用出来るのかが、ヒガナには分からなかった。
反乱ECR軍 司令本部にて
「報告!敵要塞への攻撃は失敗しました」
「現在残りの戦力を集結させ、最後の攻勢に出ます」
「これは不味いぞ、砲兵も戦車も潰された以上、歩兵のみであの要塞を攻撃せねばならん」
トレバーが頭を悩ませていると、タクティカルベストを着た兵士が、足並み揃えてぞろぞろやってきた。
隊員の胸元見てみると、いつもよりやけに薄く感じた。
「おい貴様ら、アーマーはどうした?」
「新兵に譲りました。どうせ、動きが重くなるのでこの方がいいくらいです」
「大佐、我々は死ぬ覚悟でここに来ました」
「戦車を失った今、あの悪魔の巣を破壊出来るのは我々だけです」
目は覚悟を決め、体から死の香りを漂わせていた。
「大佐が必ずや新しい国を建て、我々の魂を導いてくださると信じて編成した」
「総員30名の決死隊です!」
その場にいた上官も負傷兵も皆、直立不動で敬礼する。
「煙幕用意!」
トラックのエンジンをブン回し、夜闇へ向けて飛び出す。
機関銃弾が雨のように襲い、防弾板当たって弾け飛ぶ。
「進め!懐へ斬り込むのだ!」
トラックの1台がミサイルの攻撃を受け、火だるまになる。
「俺達は死ぬためにここへやって来た!」
「我々の屍を踏み台に突入しろ!」
トラックはそのまま壁に激突し、その衝撃で運転手は即死した。
暗闇の中、突入部隊に攻撃していた機関銃の銃身を掴む。
指先が焼け、皮膚が真っ赤に染まるが、それほど痛くはなかった。
機関銃を引き抜くと、銃眼へ手榴弾を押し込んだ。
「突入!突入せよ!突っ込め!」
決死隊が雪崩れ込み、立て籠るOS軍兵士を攻撃する。
M4カービン銃が火を吹き、長身のM16で武装していたOS軍は苦戦を強いられた。
室内戦においては、銃身が短く取り回しの良いM4が有利だった。
火力においてOS軍が有利だったのだが、今その火力は外へ向けられていた。
室内でミサイルは使えないし、機関銃は取り回しが悪い。
結果OS兵は、小火器のみで、侵入してきた敵に対応しなければならなかった。
決死隊が突入してから30分後、銃声は聞こえなくなった。
「クリア!」「何人残った?」「わからない、だが俺達は生き残った」
OS軍の弾薬庫になっていた部屋へ突入したが、何者の気配も感じなかった。
「闇雲に撃つなよ、誘爆するかもしれん」
目線の高さまで積まれた弾薬の間を、最新の注意を払いながら進む。
「おっと、見ろブービトラップだ」
足首の位置に、細いワイヤーが見えた。
爆発物の近く張られ、殺意がひしひしと伝わってきた。
「俺達ごと吹き飛ばすつもりだったのか」
道連れにされなかったことに感謝しながら、ワイヤーを切ろうとうつ伏せになった。
そして、見えない何かに散弾銃で撃たれた。
光学迷彩のバッテリー残量は、もう残っていない。
しかし、その甲斐はあった。
遂に、散弾銃の威力を発揮する、最高の射程に敵が入ってきた。
顔を吹き飛ばされた親友の顔を見て、仲間の一人を怒りが支配する。
「ヘンリー!くそ!」
敵が居そうな場所へ手当たり次第撃ち込むが、隊長から制止される。
「止めろ!誘爆するぞ!」
我に返り射撃を止めた直後、足頭の順に撃たれる。
「敵がいるぞ!」
ライトを付けて索敵するが、それが仇となった。
ヒガナはライトの光へ向けて、散弾を撃ち込んだ。
アーマーを着ていない彼らは、散弾銃の前ではプリンのように柔らかかった。
発砲の度にプラスチックの転がる音を聞き、敵の武器は散弾銃だと悟った。
「総員密集せよ!固まって動け!」
隊長の言葉を即座に理解し、残った6人が背中合わせになりながら、全方位を警戒する。
物陰から物陰へ、影から影へと得体の知れない何かが移動する。
「!」
全身を赤く染め、暗視装置を装着した何かが見えた。
少しでも当たるようにと、フルオートで弾をばら蒔く。
何発かがヒガナの暗視装着へ命中し、眼球に破片が入る。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!!ひひひひっ」
獣よりも恐ろしい声で呻き、生物よりも制御された声を上げた。
「なんなんだ!あれはなんなんだ!」
マガジンを弾き飛ばし、次の弾を装填しようと、マガジンポーチに手を伸ばす。
ヒガナはその隙を見逃さず、榴弾を撃ち込んだ。
「炸裂弾か!畜生」
すぐさま陣形を崩し、散開すると、弾薬に誘爆することお構い無しに発砲し始めた。
弾薬箱の後ろに隠れていたヒガナは、5.56mm弾をモロに食らい、骨が砕け肉を飛び散らせた。
5.56mm弾は、ミキサーのように体内で回転し、ヒガナの肉体を刈り取った。
ヒガナは腕を抑えながら、コンクリートの壁に隠れ、何か逆転の一手は無いかと周囲を見回し、歪んだ笑みを浮かべた。
フレシェット弾仕様と表記されていた箱から、105mm砲弾を取り出し、台車に載せて敵の方へ押す。
「伏せろぉ!!!」
最後のエアバースト弾を装填し、砲弾へ撃ち込む。
爆発と共に鉄の矢が辺りに飛び散り、全てを串刺しにする。
跳ね返った矢が、ヒガナの腹へ突き刺さり、大量の血液が口から溢れる。
死ぬ間違いなく死ぬ、これは決定事項だ。
体中に鉄矢の刺さった状態で、決死隊の隊長が歩いてきた。
「クソォ……かおを見せてみろ!機械の獣め!」
ヒガナの髪の毛を掴み、顔を無理矢理上げさせる。
足に刺さった矢を抜き、ヒガナの喉元へ突き刺そうと振り上げた直後、彼は固まった。
「子供……あぁ、出来ない………許してくれオリバー」
瞬きの間に敵はぶっ飛んだ。
真っ二つだった。
この威力のライフルは良く知ってる。
「ヒガナ!」
あぁ、マドナ。
貴女は本当にいいタイミングで現れるんだから。
まるで、私の神様みたいに。
まるで、私の大切な人みたいに。
マドナはバレット置き、ヒガナを抱き抱えた。
「味方は空港へ撤退しました。私達も行きましょう」
ヒガナを抱き抱えて、マドナは建物を飛び出した。
「おい!誰か逃げてるぞ!」
パチパチと音が聞こえる。
マドナは必死に走っていた。
マドナの腕の中は、温かく、揺りかごの中のように心地いい。
「あぁ!こっちにもいる!」
すごく寒い。
「大丈夫ですよヒガナ、私がいますから」
そんなこと言うなんて、マドナらしくないよ。
「はぁ、はぁ、脚部パーツに損傷!?構うか!」
(推奨 ニゲテ)
「分かってる!」
だれとかいわしてるの?
銃弾が命中し、マドナからオレンジ色の液体が噴き出す。
「どうしよう、どうしよう!」
マドナは海岸へ逃げる。
背後から沢山の兵士が向かってきた。
「止まれ!撃つぞ!」
砂浜を踏み締めてできた足跡が、胎児のへその緒のように延びる。
「あぁ、これが故郷の海か」
マドナの頭へ銃弾が命中する。
その瞬間、マドナは全ての機能を停止した。
「マ……ドナ?」
ピクリともしないマドナを前に、涙が溢れてくる。
「マドナ、おきてよ。マドナ……マドナ…………」
波のさざめきだけが、その場を包んでいる。
「いや……だよ、なにかしゃべってよ………」
あたたかい涙が流れてくる。
拭っても、拭っても、溢れ出てくる。
声にならない声で泣いた。
そ
の
2
3
m
後
方
に
て
アールは最重要目標へ照準を合わせる。
「距離2304m、風はない、こいつの射程圏外だ」
ビルの上にそびえ立つ、建設用クレーンの先端にアールはいた。
彼を見た者は、ゾンビと見間違えるに違いない。
ガスに犯された彼は、最後の生命力で、ここを登ったのだ。
足りない分の射程を補う為に、銃は迫撃砲のような仰角になっていた。
スコープに目標は写っていない。
当てて見せるのだ。
いや、当てるのだ。
アールは自然体で引き金を引いた。
「あばよ、トレバー」
スコープ越しでは、トレバーが死んだかどうかは分からなかった。
だが、周囲の様子が慌てふためいているのを見るに、当てたのだろう。
「やったぞ、最高記録だ!」
アールは銃を落とすと、その場に倒れた。
目を瞑れば思い出す。
父とハンティングライフル片手に、鹿狩りへ行ったこと。
戦友のジャックと軍で出会ったこと。
そして、これまでの日々を。
アールは日の光を浴びながら死に絶えた。
海岸にて
トレバー大佐は突如倒れこんだ。
「スナイパー!」「どこからだ!」「撃て何か撃て!」
混乱するECR軍をよそに、ヒガナはマドナと共に眠っていた。
「やぁおめでとう!」
その隣に、スーツを着た場違いな男が立っていた。
「君が勝者だ!さぁ、BP制御装置を手に取る準備はいいかい?」
「……………べつに」
「おやぁ?」
「マドナがしんだらいみがない。だから生き返えらせて」
スーツを着た男は、手を顎に当て考える素振りをした。
「うーん、ヒガナ!、まず君の目的を果たさないと行けない!」
「我々は、目的の為に!手段を選ばない人間を必要としているんだ」
「だから君には、故郷へ行って貰わないと困るんだ」
あぁ、つまりそういうことか。
ヒガナは満身創痍の体を持ち上げ、身体中から血液を流す。
「我々は組織だ、組織は上の命令に従って行動を起こす。君の要望は、最初の要望より難しい」
「もしやるなら、手段を選んでいる暇はないぞ」
全てが冷えきり、全てが熱く感じる。
「私、やるよ。マドナ」
海から大量の光が見えた。
それはミサイルだ!砲弾だ!魚雷だ!機関砲だ!爆弾だ!
ECR軍へ、物量に次ぐ物量が降り注ぐ。
海岸にいた兵士は一瞬で消え、残りを消滅させる活動が始まった。
大量のヘリが、逃げ惑う彼らを機関銃で撃ち殺し、ローターで切り刻む。
爆撃機の群れが、絨毯爆撃で全てを焼き払う。
戦車の大群が、砲撃とキャタピラで人間を踏みつける。
全て、ヒガナの指示だ。
全て操っている。
ヒガナが手を振りかざす度に、一つの区画が弾け飛び、指を指せばスチールレインが降り注ぐ。
「消えなさい、邪魔よ」
「私の目的の為に消滅しなさい」
原子力潜水艦から弾道ミサイルが発射される。
ミサイルは世界中に飛び、ヒガナの目的を邪魔する全ての存在を破壊する。
上を見上げ、ヒガナを監視している者を見る。
他国の生き残っている衛星が、この惨状を覗き見しているのだ。
空を指を指すと、イージス艦からSM6が発射され、衛星を撃墜する。
全てを消滅させ、全てを消し去った。
ヒガナはマドナの亡骸を抱き抱え、港へと向かった。
その様相を、眺めていたマローダ12は笑った。
「こんなの、上になんて報告すりゃいいんだ?」
「神を見たと言えばいい」
「神?あれは軍隊だ、地獄から這い上がってきた」
「………また生き残っちまったな」
「人間いつか死ぬさ、神様は俺達にもっと苦しめって言ってるのさ」
無線のスイッチを入れ、マローダ12はオリバーを呼び出した。
「こちらマローダ12、本地域から離脱する」
「了解マローダ12、ご苦労だった。何か欲しい物はあるか?」
「休暇だ。俺はミシガンの父親に会いに行く、もう5年も会ってない」
「羨ましい限りだな、こっちは俺が18の時に家を出ていったんだ。あ、この話長くなるぞ」
「構わん、移動中の暇潰しに聞かせろ」
港にて
ヒガナは誰もいない船へ乗った。
ヒガナが乗船した直後、船は独りでに動きだした。
甲板まで行くと、ヒガナは腰を下ろした。
「見てマドナ、この先が私の目的地だよ」
静かに眠るマドナを抱きながら、ささやく。
艦隊は朝日を浴び、艦橋のガラスがキラキラと星のように光る。
あと、どのくらいで着くのだろうか?
まぁ、そんなことはどうだっていい。
「このまま行けば、太平洋を渡って故郷へたどり着ける」
そして、マドナに伝える………つたぇ………
ヒガナは疲れに耐えきれず眠った。
穏やかな海の上で
ここまで読んでくれてありがとうございます。
もし次の機会があれば、どうぞよろしくお願いいたします。




