アルファ
「ヒガナは大丈夫でしょうか?」
遠い場所で聞こえる爆発を尻目に、マドナとキング、ジャック達は別の目的を果たそうとしていた。
「なに、あの子なら心配ないさ。俺達はトレバーを殺すことに集中しよう」
マローダ12から送られた情報から、敵の指揮官であるトレバー大佐が試練を受けている可能性が高いと踏んでいた。
そこで、ヒガナを一番守りが硬い場所へ軟禁し、アルファ隊のみで目標を仕留める作戦に打って出た。
空の光り輝く太陽が、防寒着を着た彼らを苦しめていた。
「なんか暑くないか?」
「前来た時はもっと寒かった。短期間でこれだけ変わるなんて不自然だ」
「そもそもロスは暑いもんだろ」
敵の後方へ進むに連れ、ECR軍の砲撃が更に激しさ増してくる。
「なぁ、さっきから連中は何処を撃ってるんだ?」
注意深く観察していると、砲撃の後から、黄色い煙がモクモクと広がっていた。
「あれ何か判るか?」
「ガス……?何でそんなもんばら蒔いてやがる」
砲撃された場所とガスの散布範囲を見て、ジャックは随分荒っぽい手段に出たなと思った。
「俺達の行動を潰しにきたな。わざわざガスに着色するのも手が込んでる」
ECR軍はアルファ隊を囲むようにガス砲弾を放った。
アルファ隊の行動範囲を狭める為に。
「どうします?ガスマスクはありますが」
「止めておく方がいいですね、あれはマスタードガスです。皮膚からでも浸透してきますよ」
「今の装備では、ケロイドだらけの死体になって下さいと言ってるようなものですよ」
「それも御免だが、撃ち殺されるのも御免だ」
ガスの包囲網に蓋をするように、敵部隊が展開する。
「わざと包囲に穴を開けたのは、部隊を送り込んで確実に俺達を殺す気だな」
「分隊で1000人に勝てると思うか?」
「知ったことか」
アルファ隊 VS ECR軍旅団戦闘団
ヒックスは指揮車の中から、敵コマンド部隊を追い詰めようとしていた。
「少数精鋭の特殊部隊を潰すのに、最も有効な方法はなんだ?」
「こちらも精鋭ぶつける?」
「大規模な火力をぶつける?」
「否!出し惜しみ不要!全てぶつけろ!」
「強力な火力と大人数でガスの壁に押し付け、圧殺セヨ!」
81mm120mm155mmの有象無象の砲弾が、容赦なく襲いかかる。
たった十数名の兵士達が、何か別のものに見えているのだろう。
「キタキタ!」
「It's Showtime!!!!!」
キングの仕掛けた罠が一斉に起爆し、前進してきた敵集団を吹き飛ばした。
C4、クレイモア地雷が、一瞬にして数十名の命を掻き消した。
次に手榴弾、グレネードランチャー、機関銃の高火力兵器がキルゾーンに迷い混んだ敵を、文明が作り出した愚かさによって惨殺する。
「押し込め!奇策に構う暇はない!」
ECR軍は砲撃の最中にも突撃を敢行する。
部隊が巻き込まれる寸前に砲撃が止み、アルファ隊が立て籠る建物へと突入する。
「なんて、命知らずな連中だ!」
歩兵が砲弾の加害範囲ギリギリまで接近したところで、砲兵隊は砲撃を止め、爆煙の中から敵が斬り込んできた。
死者の楽園に迷い混んで尚突撃し、死神が息を吹き掛けてくるその瞬間まで戦い続ける。
ジャックは、サイト越しに見えた敵の頭を狙い、一発づつ正確に引き金を引いてゆく。
アサルトライフルを単発で運用すれば、反動制御を容易に行え、尚且つ弾薬の節約に繋がる。
「くたばれ老兵ども!消え去る暇も与えるな!」
敵の機関銃が顔を出させないよう、執拗にこちらを狙う。
そして、アールに狙撃される。
「ジャック、撤退しよう。ここは限界だ」
「わかった!総員第2防衛線まで後退!」
「殿は俺がやる」
エーカーはそう言うと、M249軽機関銃を持つ。
先の戦いで重傷を負い、医者から歩くことをストップさせられていたが、無理を言って今回の戦いに参加したのだ。
「エーカー!我々は仲間を見捨てることは許されない。貴様は俺に、味方を見捨てた汚点を残したいのか!さぁ、行くぞ!」
「ジャック!俺は腰をやってる。あまり動けないんだ。だから放っても構わない」
「俺は死ぬ訳じゃないぞ、あの世で待ってるマイクに会いに行くんだ。ここが俺の死に場所だ!」
ジャックは覚悟を決めると、エーカーを置いて撤退する。
第2防衛ラインに定めた警察署へ退却するのだ。
ジャック達が後退する最中、機関銃の連射音が暫く響いていたが、それが聞こえなくなった。
「クソ!何人やられた!」
「2人だ!残弾を確認しろ!最悪近接戦に持ち込んで道連れだ!」
マドナは警察署の壁の一部を崩し、覗き穴を作る。
「キング、まだ面白い仕掛けはある?」
生みの親であるキングにマドナは、多少の期待を込めて問いかける。
「ねぇよそんな物、この短時間に陣地を構築出来ただけでも感謝しやがれ!」
「ふうん……」
「なんだ?クソしょうがねぇな」
キングは筒状の物を取り出すと、敵の背後に打ち上げろと言った。
「お前はガスの効果を受けない。だからガスの中を通って敵を迂回して、砲兵陣地にこいつを撃ち込め」
「何ですかこれ?」
「とっておきのおもちゃさ!」
「敵集団接近!」
「早く行け!俺達を殺す気か!」
マドナは毒の霧を突き進み、後方へと浸透して行った。
「突撃に毒ガス、第一次世界大戦だなこりゃ」
「そりゃ、塹壕が無くて幸いだな」
「とんでもねぇ、俺は歴史家なんだ。忠実に再現してなんぼだろ」
「それじゃあ、ここで死んで史実を再現してやろう」
「あぁ、奴らとな」
キングとジャックはそう言って笑い合うと、撃ちまくった。
迫り来る敵は烈火の如く熾烈で、それを迎え撃つ
ジャック達は、日本人やドイツ人に負けないくらい働いた。
「裏から回ってくるぞ!」
M32グレネードランチャーの6連射で、背後を脅かす敵を粉砕する。
機関銃の絶え間ない銃声が耳を麻痺させた。
「弾がない!」「大事に使え!」
M4のマガジンを渡し、慎重に狙って撃つ。
あれだけあった弾薬は枯渇し、拳銃で応戦し始める者も出てきた。
ジャックもUMPサブマシンガンで、室内に入り込んだ敵へ応戦する。
仲間も弾の節約関係無しに、カービン銃を連射する。
「RPG!」
敵はバリケードを強引に抉じ開け、警察署内へ雪崩れ込む。
「下がれ!下がればか!バカ野郎!」
地下室まで後退しようとするが、後ろにいた隊員が中々引こうとしない。
「ジャックそいつは死んでるぞ!」
良く見ると、RPGの破片が顔面に突き刺さっていた。
ドアを塞ぐ戦友を退かすと、地下室へ飛び込んだ。
全員が階段を転げ落ち、地下の小さな部屋に転がり込んだ。
「クソ、無事か?」
そして、彼らの後から、何かが転がり込んでくる。
「グレネード!」
その爆発で全ての銃声が止んだ。
「中を確認しろ!」
ECR軍兵士が、恐る恐る部屋の中を確認してみると、アルファ隊員の死体がズタボロになっていた。
「畜生、ミンチだ」「死体を調」
死体の陰に隠れたジャックとキングは、拳銃で油断した敵の頭を撃ち抜き、射殺する。
「第2ラウンドだクソッタレ!」
ECR軍のライフルを拾い、無茶苦茶に撃ちまくる。
ECR兵を何人か殺すが、反撃を受けた。
キングは凪ぎ払われるように撃たれ、壁に寄りかかって死んだ。
「誰か下の様子を見てこいよ」
「馬鹿言うな!殺されたいのか」
「わかった手榴弾だ、手榴弾を投げよう」
手榴弾はピンを抜いて、すぐ投げ込まれた。
ジャックは手榴弾を掴み投げ返す。
「逃げろ!」
また爆発が起き、敵が恐れをなして近付かなくなった。
ジャックは座り込むと、戦友のポケットからスキットルを取り出した。
穴が空いて中身が漏れだしていたが、酒の味を感じた。
ジャックはため息をすると、そのまま動かなくなった。
砲兵陣地にて
「了解!敵勢力掃討を確認!」
「これより陣地転換後、敵本隊攻撃を行う!以上!」
ECR軍砲兵隊は、速やかに陣地転換を行う。
「急げ!もたもたするな!こうしてる間も味方は最前線で苦戦を強いられているのだ!」
パシュッと何かが天へ上がった。
「なんだ?砲が暴発したのか?」
空中で破裂した物は液体を撒き散らした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ」
兵士達が突然苦しみ出すと、蠢くように這いつくばった。
「こ、れは……毒か!」
苦しむ有象無象の人間達の間を、一体の機械が歩いている。
そいつは対物ライフルで、一人また一人と動けない人間を撃ち抜いた。
何人かの兵士が立ち上がり、そいつを倒す為に銃を構える。
そいつはガス砲弾を爆発させ、更に我々を苦しませた。
「ちくしょう!ち、ち、くしょ……かあさん」
ガスに苦しむ人間を横目に、マドナは無線を取り出す。
「こちらマドナ、敵砲兵隊を無力化しました」
「……………」
「ジャック?」
「ジャックならもう出ない」
ジャックの代わりにアールが無線に出た。
「………次の指示は?」
「今から指示する座標に、ガス砲弾を撃ち込め」
マドナは砲にガス弾を装填する。
足にしがみつく兵士を振り払い、砲弾を発射する。
何度も何度も撃つ。
敵の無線から声が聞こえてくる。
「砲兵隊何をやっている!俺達の退路を塞ぐ気か!」
無線から、叫び声が聞こえなくなるまで撃ち込んだ。
そして、黄色い雲が空へ浮かんだ時、マドナはこの世で最も人を殺した機械になった。




