Battle of Los Angeles
ロサンゼルスでは既に戦闘が勃発し、曳航弾がキラキラと輝いていた。
あれだけ侵入者に敏感だったBP達は、ただその争いを眺めていた。
「上空のC5へ、こちら第66空挺師団のオリバーだ、貴機の所属と積み荷を問う」
「所属は騎兵隊!積み荷か?殺しのプロばかりだ」
燃料がそろそろ限界なので、近場の空港へ着陸することになった。
「雪が積もってる、少し揺れるぞ」
タイヤを勢い良く滑走路へ叩き付け、いつもより着陸の衝撃が激しかった。
C5から戦車と隊員を降ろすと、機体を端へ退ける。
「まだ増援がやってくる。CCT(戦闘航空管制員)は後続機の誘導を、我々は友軍の支援に向かう」
相変わらずの雪景色に、思わずため息がこぼれる。
クソッタレ!という感じに。
タンクデサントよろしく、戦車の上に乗って移動する兵士達は、この戦いの意味を知りたがっていた。
「この戦闘の戦略目標は何なんだ!?」
戦車のエンジン音は、その大きな稼働音で会話を阻害するので、互いに大声で話すことになる。
そのせいで、少し怒ってるように見えるのだ。
「敵指揮官の殺害!」
「敗北条件は!?」
「私がくたばる!」
BPが最後に与えた試練は、至極単純で安直なものだった。
どちらかが先に死ねば、BP制御装置を入手することが出来ると、あのゲームマスター気取りの政治家が言っていた。
どこからともなく気取った声で現れ、道化のふりをしながら人を操る計算高い男だ。
「敵戦車発見!早く降車しろ!」
戦車長の声で思考にふけっていた頭は、戦闘状態に移行し、その横で120mm滑腔砲が即座に射撃を開始する。
市街地での戦車戦が幕を開け、互いの砲火が交わる。
「敵はM5軽戦車、どこでも抜けるぞ!」
低強度紛争への対処と輸送能力重視で造られたM5は、装甲と攻撃力を犠牲にして機動性を確保した戦車だ。
主力戦車との殴り合いは、自殺行為だった。
しかし、トレバー大佐率いる部隊に撤退や迂回の選択はあり得なかった。
ここが決戦の場であり、ここが建国の場であるからだ。
ここを制圧した者こそが、BP制御装置へたどり着けるのだ。
両者に撤退の文字はなかった。
「距離400 弾種HEAT ファイア!」
エイブラムス戦車の砲弾は、M5の装甲を易々と貫通し、乗員を殺傷する。
「9時の方向、4両向かってくる!」
2両のエイブラムスは、建物を盾にしながら迫りくる敵戦車を撃破してゆく。
「装填よし!」「ファイア!」
山なりに飛ぶ砲弾は、砲塔へ着弾すると、火柱を上げた。
中から乗員が飛び出してきたので、7.62mm同軸機銃をばら蒔く。
敵の血がサーマル越しに白く映り、まるでペイントボールをぶつけたように映る。
「敵弾来る!」
砲塔側面へ命中するが跳弾する。
跳ねた弾が建物へ当たり、戦車にコンクリートの粉塵を降らせた。
「反撃しろ!ネズミ共をぶち殺せ!」
真っ直ぐ突き進む砲弾が、敵戦車の砲身の中へ入り込み、砲閉鎖機をすり抜ける。
炸裂したHEAT弾は、乗員の原形は勿論のこと、影すらも留めさせなかった。
「敵戦車更に接近!クソッタレ!」
「押し潰せ!質に勝る数はなく、数に勝る質はないのだ!」
敵戦車隊とのドッグファイトに突入する。
「エイブラムスの背後を取れ!105mmでもAPFSDSなら抜けるぞ!」
ECR戦車隊指揮官は、数と連携によって性能に勝るOS軍戦車を撃破しようと、集団による狩りを開始する。
エイブラムスは尻を守る為に後退し、M5はケツに食らい付こうと足と砲を動かす。
「どこもかしこも軽戦車だらけだ!」
「それがどうした!こっちはMBTだ!尻軽共より主人に忠実だぜ!」
敵戦車に側面へ回り込まれてしまい、APFSDS弾が叩き込まれる。
すぐさま砲を向け、M5に照準を合わせるが、向こうも学んだらしく、物陰にスッと隠れてしまった。
「素人め!弾種変更APFSDS、ファイア」
M5が隠れたコンクリート壁ごと撃ち抜いた。
「やったぞ撃破!」
その瞬間、バコン!と背中から衝撃を受けた。
「真後ろにいるぞ!」「砲を旋回させろ!」
エンジンが歪な悲鳴を上げ、焦げた匂いが車内に漂う。
「スモーク発射!このままじゃディーガーとシャーマンだ!」
更に砲弾が撃ち込まれ、衝撃でくらくらと頭が回る。
砲塔を180°回転させ、背後に回り込んだ敵を排除すると、接近してくる敵戦車へ砲を向ける。
「背後に回り込んでくるぞ!」
「クソこの××野郎め!」
「なんだよレックス、俺のこと言ってんのか?」
「てめぇじゃねぇ!ファイア!」
弾は民家を突き破り、敵戦車へ命中する。
家の後ろで大きな炎が上がった。
エンジンの火災は鎮火することを知らず、今ならBBQグリルの代わりになれるレベルだった。
スモークが晴れてくると、敵の攻撃は一層激しさを増してくる。
「4時の方向!」「クソまたか!」
車長用のスコープで覗いてみると、M5がまた現れた。
しかし、形状に違和感を覚えた。
砲塔の横に何かコンテナのような物が、付いていた。
「TOWミサイル……」
撃てば直ぐに居場所が露呈し、陣中半自動指令照準線一致誘導方式(着弾するまで誘導する方式)の為、迅速な陣地転換が出来ないミサイルだ。
いい兵器だが誘導方式に難があり、撃ち放し式に置き換えられる予定だった。
だがそんな欠点、この至近距離で撃てば関係ない。
レックスの乗るエイブラムス戦車は、撃破された。
弾薬庫に誘爆し、火柱が上がった。
乗員保護の為にブローオフパネルが吹き飛び、弾薬の爆風を外へ逃がす。
中にいる乗員達は、有毒ガスから身を守る為に、急いで防護マスクを装着するが、レックスは着けなかった。
「車長何をしてるんですか!マスクを着けて下さい!」
「無駄だよ」
履帯がアスファルトを踏み締める音が、戦車の中からでもはっきりわかった。
「たった一回の戦闘でエースだな」
M5戦車は、撃破されたM1戦車の少し高い位置に移動すると、戦車の上面にTOWミサイルを撃ち込んだ。
「もう1台はどこだ!?」
最後の戦車を探していると、先頭と後方を走っていたM5戦車が突如爆発した。
「IEDだ!逃げろ!ここは敵のキルゾーンだ!」
退路を断つと、なけなしの対戦車火器で巨釜に薪をくべるようにロケット攻撃を行う。
こうして、アルファ隊とM1戦車の活躍によって、ECR軍戦車隊は消滅した。
OS軍防御陣地にて
「よく来てくれた。もう少しで我々は全滅する所だった」
オリバー中佐はそう言うと、敬礼をする。
「師団長はどこに?」
「死んだよ、俺は3人目だ」
「いくらなんでも死にすぎじゃないか?」
「あぁ、敵がこっちの指揮官ばかり狙って、狙撃手やらミサイルやらを送り込んでくるからだ。さっきの戦車隊も指揮官狙いでやって来た連中さ」
ヒガナはその話を聴いてピンときた。
敵は私の顔を知らないのだと。
一応それらしい人間を狙ってはいるが、殺傷出来ずに反撃で損害を出しているのだ。
最悪、私か向こうが最後まで死ななかったら、最後の1人になるまで続くだろう。
そうなるのは勘弁願いたい。
慌ただしく動く兵士達を眺めると、これが最後の戦いになると実感する。
どこか落ち着けなく、心臓が今にも炸裂しそうになる。
散弾の薬莢に顔文字を描いて気を紛らわせていると、見知った顔が現れた。
「ウィリアム、あんたも戦うの?」
「ああ、まあな。ところでマドナはどこだ?」
「上にいる。狙撃場所を探してるみたい」
ウィリアムは一言礼を言うと、マドナのいる屋上へと向かった。
階段を上がる途中、何発かの銃声が聞こえてくる。
弾道を見極めているのだろう。
アンドロイドは、戦争の道具として造られた本分を、忠実に全うしていた。
ウィリアムがマドナの後ろに立つと同時に、射撃を止め、前を向いたまま話し始めた。
「私は目覚めてからまだ一年も経っていません」
「ですが、様々な体験と出会いがありました」
「人間は生まれた時、必ず親に会います。でもアンドロイドは違う」
「出会いには貴方も含まれていますし、創造者である貴方も含まれています」
「ハンディエンジンの青写真家、キング殿」
ウィリアムは深いため息をついた。
「俺は色んな場所で戦ってきた。アイルランド、アフガニスタン、イラン」
「ある朝だった。建物に突入した部隊が爆弾で攻撃を受けた」
「部隊は2名の死者と1名に負傷者を出した」
「戦死奴の中には俺の親友もいた」
「嘆いたよ。俺が死ねば良かったって」
「だから俺は、俺の分身を創ることにしたんだ」
「感情のない。誰とも親友にならない機械なら、誰も辛い思いをしなくて済む」
「本来、お前達は消耗品として消費されることが望ましかったんだ」
「誰かが感情なんて入れ込んじまったせいだ、クソッタレ」
キングの作ったアンドロイドは、確かに戦争に道具として役にたった。
しかし、アンドロイドが与えられた役は、自国民の鎮圧という、本来の役割から外れたものだった。
「気休めにしかなりませんが、少なくともこの感情は、一人の少女を救うのに役立っています」
「国家予算をたった1人の為に使うなんて、大層でいいじゃないですか」
「一緒に生き延びましょ、私が貴方の分身なら、貴方は分身を有効活用して下さい」
こうして、誰も救われない1日が始まった。




