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思い込みは盲信より罪深い

「マドナ!」


銃弾を受けたマドナは足をガシガシ叩くと、ライフルを取った。


「あと数センチ逸れてなかったら、駆動系をやられてました」


マドナは損傷箇所に指を突っ込み、弾を摘出する。


「良かった、死んじゃったかと思ったよ。それで、向こうの獲物は?」


「7.62mmNATO弾、当たると痛いですよ。まぁ私に痛覚はありませんが」


摘出した弾を調べると、近くの排水溝へ投げ捨てた。


「誰か敵の位置はわかる?」


「さぁ、だが少なくとも同じ場所にはいない。向こうは素人じゃないぞ」


「空爆しよう」


「いい案だな」


―無線機にスイッチを入れ、上空待機している攻撃ヘリに空爆要請をした時だった。


上空を飛んでいたヘリにミサイルが着弾する。


「くそ、スティンガーだ。まずいぞ」


無線機を握ったまま、ジャックが声を上げる。


兵器の数が足りてない今、少しでも航空機の損耗を減らすため、対空兵器を完全に制圧しない限り、近接航空支援は呼べないことになっていた。


「誰か他に、いい案はあるか?」


「私とアールで狙撃手を見つけ出します。二人は直接建物を捜索して下さい」


「危険だ、全員で動いた方がいい」


「向こうは足を狙ってきました。負傷した仲間を助けに来たところでズドンの、典型的なやり口です」


「プライベートライアンのカパーゾ 二等兵になりたくはないでしょう」


「ツーマンセルだ、各個撃破される可能性を減らしたい」


「それでいきましょう」


マドナとヒガナ、アールとジャックにチームを二分すると、建物内へ突入した。


誰か住んでいたようで、生活の後が残っている。


廃材をかき集めて作った粗末な家具に、雑多な部屋がそれを物語っていた。


「人間屋根さえあれば、何処にでも住めちゃうのかな」


「私は整備ポットがあれば文句言いませんよ」


「今度探しに行こうよ」


「発売から30年経ってますよ。あるんでしょうか?」


「あるんじゃない」


遠くの方で銃声が聞こえてくる。


ジャック達が交戦しているのだ。


「ジャック、援護に向かう」


「は?この銃声はお前達じゃないのか?」


「……………………! これはトラップです!」


直後、ジャック達が捜索していた建物が崩壊する。


マンションは別の建物を巻き込みながら、呻き声を上げるように倒れていく。


「アール?ジャック?……クソが!」


粉塵で日の光が遮られ、口の中がジャリジャリとする。


マドナは、サーマルで敵の位置を割り出そうとするが、倒壊した建物の粉塵で全く見えなかった。


「これアスベストとか入ってない?」


「対策法成立以降の物だから、大丈夫な筈です」


物影から顔を覗かせ、周囲を見渡すと、不自然な積まれ方をした瓦礫を発見する。


それが幾つも点在していた。


「敵のスナイパーハイドを見つけました。囮かもしれませんが」


もしかしたら、あの中に潜んでいるのかも知れない。


しかし、不確定要素が多すぎる。


罠か?それとも露呈する前提で作った待ち伏せ場所か?


「ヒガナ、建物が崩れたのはどの方角でした?」


「何か妙案が?」


「妙案とは言えませんが、敵の考えに乗ってやろうと思って」




たった10センチの隙間、その壁に空いた穴から襲撃者はこちらを見ていた。


「さぁこいヒガナ、先ずはお友達から殺してやる」


ロシア製のSV98狙撃銃を手に、ヒガナ達が入っていった建物を凝視していた。


何度も逃がしてきたが、今回は完璧だ。


あの女には仲間がいるが、私には必要ない。


村を襲い、私の家族を殺しておいて、まるで被害者のように生きているアイツを私は許さない。


銃声が鳴り響き、瓦礫に弾が着弾する。


「囮を撃ってるのか、あんな分かりやすい物に引っ掛かるなんて」


いや待てよ、あの女のことだ。


仲間にこちらの注意を引かせて、フルオートショットガンで近接戦を仕掛けてくるに違いない。


舐めるなよ悪人、ここは私のフィールドなんだ。


襲撃者はバカスカと瓦礫の山を撃ち抜く敵を、哀れに思った。


「多分病院で会った変な髪色の女か、哀れなものだ。自分が誰に協力してるかも知らないで」


あれは無視だ、きっと私の気を引くための陽動だ。


しかし、ここは敢えてその陽動に引っ掛かったフリをしてやろう。


カバンからノートPCを取り出すと、遠隔操作が出来る狙撃銃を起動する。


古いタイプの物で荒い画質だが、銃のマズルフラッシュが容易に場所を特定した。


発射ボタンをクリックすると、別の建物からドン!とライフル弾の良い音がする。


餌は撒いた、あとは獲物が食いつくのみ。


偽装した発射位置に着いたが最後、私の後ろを取ったと思った瞬間、その更に後ろから私が狙っているのだ。


スコープに影か写る。


これで終わる。


そう確信したが、拍子抜けした声を上げる。


「病院で会った方の女?」


ダークブルーの髪を靡かせ、こちらをじっと見詰めていた。


砲撃に似た音が響き、音速を超える速度で弾はコンクリートの柱にぶち当たった。


「クソ外した!」


ヒガナの渾身の一撃は見事柱に命中し、無駄弾に終わった。


襲撃者は急いで照準を合わせ、ヒガナの頭へ狙いをつけるが、肩へ激痛が走る。


「ヒット、右肩に命中、キルに至らず」


「よく当てたな」


アールは30階まで登り、息が上がった状態で1200m先の標的を狙ったのだ。


当然風は吹くし、照準はぶれる。


いつもは一撃必殺を誇るアールが、仕留め損なったのも無理はない。


負傷しながらも、襲撃者は離脱用に用意していたジップラインで、ビルから脱出する。


しかし、その途中で滑車から手を滑らせ、地面に叩きつけられた。


「あ、生きてる……かな?」


「さぁ、死体を確認しないことにはなんとも」


マドナとジャックは手を振り合い、互いの無事を確認する。


「死んだフリとは、プロに似合わないですね」


「これも長年の経験さ」


「いつから敵が無線を傍受してたことを?」


「ヘリだ、ヘリが都合よく落とされた時だ。大抵そういう時は、誰かが仕組んでいるものだよ」


「今から襲ってきた奴の生死を確認します。一緒にご覧になります?」


「いや、俺達は周囲を警戒しておく。何かあったら呼べ」


ヒガナは一足早く、襲撃者の所へ向かっていた。


まだ生きてたらしく、連射の速いmac10をばら蒔きながら、抵抗を続けていた。


ヒガナは工学迷彩を起動すると、背後に回り込み手に持っている武器を蹴っ飛ばした。


そして、もう片方の肩を銃撃する。


完全に勝負がついた状況の中でも、襲撃者は憎悪の目をこちらに向けていた。


「何から話そうか、そうだね、自己紹介とかしない」


「お前を殺した後に、私の名前を刻んでやるよ」


ヒガナは悲しげな表情を浮かべ、全てを話すことにした。


あの時殺そうとしたのは貴方の父親だけだったの。他の人達は巻き込むつもりじゃなかった」


襲撃者は激昂し、立ち上がろうとするが、ヒガナが足を払い立ち上がるのを阻止する。


「ふざけるな!殺してやる!殺してやる!お前のせいで母は自殺したんだ!」


「私の父親が何をしたって言うんだ!」


「それじゃあ聴くけど、私の父親が何をしたの?」


「は?」


一瞬襲撃者には、何のことは分からなかった。


「あの銃の使い心地はどう?」


「いいでしょ?」


「いいよね?」


「だって私の父親の銃だもん、ロシア人の知り合いから貰ったって言ってたし、銃声で分かった」


「私貴女と最初に会った時言ったわよね。何か勘違いしてる話し合おうって」


襲撃者は徐々に理解していった。


それと同時に理解したくなかった。


自分が何をしていたかを。


「貴女のお父さんは、私のお父さんを襲った内の1人なの」


「私の家が燃えてても、その中に飛び込んで奪おうとする強欲な連中の1人」


「貴女のお父さんの最後の言葉は、おいやめろよ………なぜそれを、私の時に言わなかったの?」


「………………………………うそだ」


「嘘じゃないよ、嘘は貴女の父親が言っていたこと」


「見てほら、このどこまでも赤い手を」


「何人もの人生を踏み潰してきた足を」


「見すぎてしまった黒くて汚れた目を」


思い当たる節は幾つもあった。


思い出せば、父親はいつも口癖のように悪いことはするな、苦しい時は誰かを頼れと言っていた。


それは、優しい心からではなく、経験から来る反面教師的な意味だとしたら。


全てに合点がいった。


「ねぇ、もうやめよう。お互いに被害者なんだから」


ヒガナは手を差し出した。


小さくて血だらけの手を。


「嫌だ、認めない!」


襲撃者は手へ噛み付いた。


現実を受け止め切れなかったのだ。


ヒガナは少しも痛がらず、少しも心が動かなかった。


「貴女も麻痺してるのね」


銃を頭へ押し付けて引き金を引いた。


空薬莢が勢い良く飛び出し、襲撃者は手の上で死んだ。


ヒガナはため息をつくと、頭を抱え、その場に蹲った。





旧ECR空軍基地にて


ECRの旗が降ろされ、星条旗が翻る。


「戦争が終わったと思ったら、また戦争か」


「ああ、何度も経験してきた。いつものことだ」


マローダ12と14は、C5に積み込まれる兵器を眺めていた。


「これは一体何の騒ぎだ?」


そこへ、掃討戦から帰投したジャック達が合流する。


「ロスにECR軍の残党が進軍してる。報告を行った観測所から連絡が途絶えた」


「今、使える輸送機全てかき集めてるが、足りないぐらいだ」


「人員は?」


「こいつに乗るのは、M1戦車2両と歩兵だ」


「俺達はこれからロサンゼルスに向かう」


マローダ12が手を差し出し、同意の握手を求める。


「我々は死ねる人間を求めている、一緒に来い」


勝利の実感を味わうことなく、ジャック達は輸送機に乗せられロサンゼルスへと向かった。


輸送機内は、ガタイのいい屈強な兵士ばかりだった。


そこへ子供がやってくると、嫌でも目につく。


「おい!俺達は子守りをさせるために乗り込んだ訳じゃないぞ」


兵士の1人がそう叫び、無言の圧力が気圧と共に高まる。


ジャックは大袈裟な身ぶり手振りで話す。


「落ち着けよお前ら、この子はブラッドリー・ロスの娘だ」


機内はざわつき、伝説の男の存在が如何に強大であるか実感する。


「この子は、あの伝説の男を殺した奴らを、1人づつ2年掛けて殺した死神だ」


「考えを改めれば、お前らの命を取りやしないだとさ」


ジャックの語りによって、ヒガナを馬鹿にする者は1人も居なくなった。


「悪く思わないでくれ、誰だって子供と戦いたくないんだ。敵でも味方でもな」


「わかってるよ、わかってる」


マドナは安堵し、脚部の関節を整備するためにズボンを捲った。


すると、機体が上昇してる最中、雑誌がどこからともかくヒガナの足元へ滑り込んでくる。


アンディエンジン社の青写真家 キング氏の栄光と言う見出しの、ミリタリー雑誌だった。


自分を作った人間が、どんな顔してるか拝んで見たかったマドナは、早速ページを捲った。


「やっぱり……そんな感じしないと思いましたよ」


輸送機はロサンゼルスへと進む。


最後の試練への片道切符を手にしたまま

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