危険と仲良し
東海外共和国 近海にて
「データ入力完了、向こうは我々に気付いていない」
イージス駆逐艦 USSシャーロン及びに、イージス巡洋艦USSスティルウェルは、トマホーク巡航ミサイルを発射する。
エンタープライズからF/A18戦闘機が発進し、制空任務に向かった。
「こちらホークアイ、レーダー上に多数の敵機を確認、前回より数が多い注意せよ」
「了解したホークアイ、引き続き宜しく頼む」
早期警戒機から発せられた情報を元に、目視外戦闘に移行する。
「残り少ないミサイルだ、1発も外すなよ」
「了解!」
アムラームは素直に飛んで行き、敵機へ吸い込まれるように命中する。
レーダーの点が消えるのを、ただ待つだけだった。
「トマホークまもなく着弾します」
ECR軍は、VADSによるミサイル迎撃を行っていたが、増強された筈の機関砲が全く稼働していなかった。
「こちら第879高射砲連隊!貴官らはなぜ迎撃しない?」
ECR軍の陸軍将校が、ミサイルを迎撃しない味方へ怒号を飛ばす。
しかし、無線は繋がらず、ミサイルは施設へ次々と着弾してゆく。
「クソ!いったいなにが」
その時、反対側にいた機関砲が突如発砲してきた。
毎分3000発のM168機関砲は、人も金属も凪ぎ払った。
「同士討ちだぞ畜生」
そして弾薬に引火した。
火柱が夜を照らし、また人が死んだ。
「無政府主義の俺が、まさか政府と手を組むとはな」
上で喧しい音を立てて飛行する戦闘機を見ていたパールは、独り言を言った。
「よ〜し、戦闘機が来たから撤収するぞ。誤射されるのは御免だからな」
巡航ミサイルを放ち、それを迎撃しようとした対空兵器を炙り出し、あとは俺達ゲリラが潰す。
全くもって見事だ。
OS軍は戦争のプロフェッショナル揃いだ。
OS軍について行けば、間違いなく勝てるだろう。
だが、問題はその後だ。
今は互いの利害が一致しているから協力してる訳であって、戦争が終わったら、その矛先が我々に向かないとは限らないのだ。
「これが終わったら、姿を眩ますとするか」
仲間達と合流すると、大通りで警察に火炎瓶を投げつけながら、前進していった。
「こちらUSSシャーロン、ECR軍のLCS(沿海域戦闘艦)が2隻接近中、指示を求む」
「こちら司令部、脅威は排除せよ。LCSは戦闘艦だ」
即座にシャーロンは対艦ミサイルを発射する。
8発のハープーンミサイルが、1隻に2発つづ飛んでゆく。
それを受けて、LCS側もミサイルを迎撃しようとするが、艦対空ミサイルの在庫が切れていたLCSには、無理な話だった。
「迎撃しろ!吹っ飛ぶぞ」
57mm砲に30mm機関砲がミサイルを撃ち落とそうと、必死に迎撃するが、焼け石に水だった。
2隻は漁礁となるべく、海の底ヘ沈んでいった。
ECRは陸軍国家だ。
従ってリソースは陸へと割かれ、必然的に海軍が疎かになった。
その結果が、先の攻撃による艦隊消失と強襲上陸である。
上陸地点の敵をあらかた排除すると、今度は海兵隊の出番だった。
強襲揚陸艦から、AAV7やLCACが発進する。
海岸に近づくにつれ、散発的な攻撃があったが、AH-1Z攻撃ヘリの20mm機関砲で消え失せた。
上陸に成功した海兵隊は、戦車と共に市街地へ突入し、ゲームの主導権を握るべく動いた。
48時間後……
アルファ隊にて
戦車の協力と共に前進する彼らは、たった4人だったが、精鋭だった。
OS軍は順調に進撃し、ECRの政治の中心地まで迫りつつあった。
「いいねぇ、南米にいた頃を思い出す。戦車に攻撃ヘリ、120mの迫撃砲それにM4カービンの銃声」
迫撃砲が家を粉砕し、中から腕のもげたECR兵が出てくる。
マドナは狙いを定め、自慢のバレットで頭をもいだ。
「そいつで部屋の中入ろうってのか?」
ジャックは、バレットの長さと取り回しの悪さを指摘する。
長いセミオートライフルは、室内戦には不向きだからだ。
「確かにそうですけど、ヒガナが居ますし」
話を背中で聴いていたヒガナは、心なしか嬉しそうだった。
「やせ我慢は良くないぞ、俺のを持って行け」
そう言って、マドナにUMP45を渡した。
「グリップにダットサイト、フラッシュハイダーですか。CQB(近接戦闘)用カスタムですね」
「ドイツ製の銃は好きですよ。革新的で堅実ですから」
「そのパーツを手に入れるのに大分苦労したんだ。壊すなよ」
マドナはバレットを背中に背負うと、UMPを構え国立図書館へ突入する。
敵は本棚を盾にしながら立て籠っていた。
先ほどまでは、立て籠る敵に砲弾を降らせていたが、図書館でそれをすれば、貴重な本が燃えてしまうと上が砲撃ストップをかけた。
その結果、人員を突入させる極めて危険な方法で制圧に取り掛かったのだ。
「グレネードの使用は最小限に抑えろ!歴史を消し去る事は許されない!」
ここには、彼らの先祖が培ってきた文化や歴史が詰まっている。
その中には、彼らが戦った戦争の記録も残されていた。
かつて忘却政策によって忘れ去られた老兵は、二度と忘れられないよう戦っているのだ。
「老いぼれ共を殺せ!」
まるで大聖堂のような豪華さを備えた図書館内は、きらびやかな装飾品と大理石をふんだんに使い、さながらヴェルサイユ宮殿のようだった。
……のだろう。
互いの5.56m弾が飛び交い、同じ国の、同じ会社の、同じ兵器で殺し合う皮肉めいた戦争が繰り広げられる。
マドナは本棚をよじ登ると、棚から棚へ飛び移り、敵の真上からモリを突くように短機関銃を撃ち込んだ。
ヒガナは、狭く入り組んだ通路をAA12で制圧してゆく。
「駄目か、散弾じゃ貫通しない!」
散弾ではアーマーを着込んだ敵に力不足だった。
敵の足を狙い、転ばせたところで顔面の露出した部分へ撃ち込む。
弾が切れると、急いでスラッグ弾に切り替え、射撃する。
スラッグ弾はパワフルを体現したような弾だ。
ボディーアーマーを粉砕して、衝撃による破壊を与える。
しかし、正規兵相手にはいささか力不足だった。
どうしても対処しきれない場所に居る敵は、マドナのライフルや榴弾で凌いだ。
「この部屋の奥に最後の敵がいる!」
ドアを破壊しようと、海兵隊員がハンマーを持って来た時だった。
重く重量感のある発射音と共に、味方がマガジンポーチごと撃ち抜かれ、腹に着けていた手榴弾から煙が吹いていた。
「そいつを向こうに投げ入れろ!」
マドナは一瞬躊躇ったが、直ぐに迷いを捨てて放り投げた。
「吹っ飛ぶぞ!」
大きな爆発の後、パチパチとポップコーンのように弾が弾け暫くすると収まった。
海兵隊のライフルマンに多数の犠牲が出たが、国立図書館を制圧下に置いた。
静けさを取り戻した館内を歩く。
ブーツの歩調に合わせて、空薬莢の転がる音が響く。
ヒガナは館内を見て回っていると、石で出来た柱が目に留まった。
「この黒い柱はなに?」
ヒガナの前には、黒く煤だらけの柱が鎮座していた。
「これは議会図書館焼き討ち事件の奴だ。図書館にネオナチが流れ込んできて、手当たり次第に放火していったんだよ」
「警備は何してたの?」
「例えファシストでも国民だ。銃を向けて撃ちまくるのは世論が許さなかった」
議会図書館焼き討ちの後、国立図書館が新設された。
この煤だらけの柱は、過去の悲劇を繰り返さないよう教訓の意味も含め、再利用された物だったのだが、結果はご覧の通りだった。
外ではECRの旗が下ろされ、星条旗が各所に掲げられていた。
歓喜の声を上げる者、泣き出す者、ただ真っ直ぐ見る者、様々だった。
「残敵掃討に向かう。民間人に気を付けろ」
掃討の方法は色々あるが、今回のやり方は自ら姿を晒し、攻撃してきた敵を倒すというやり方だった。
「マドナもう少しです、行きましょう」
「うん」
戦車に随伴しながら進んでいると、道路脇に4体ほどの死体が並んでいた。
1人はECRの軍服を着ており、残りはその家族だろう。
暴徒による敗残兵狩りが始まり、かつて守るべき存在だった者は、今や金品を奪おうとする敵に変わっていたのだ。
死んでから新しいらしく、まだハエも集っていない。
触れれば、生暖かい体温を感じることが出来る筈だ。
「警戒、3時の方向」
たった今、処刑を終えたようでマチェットの側に、生首が落ちていた。
民生用のAR15ライフルを持ち、こちらを眺めていた。
南軍の旗を掲げ、にこやかに手を振ってきた。
新聞をポストから取りにきた隣人へ、おはようと挨拶するみたいに。
ジャックは手を振りながら、ヒガナにだけ聴こえるように話す。
「見ろ、あれが戦争だ。戦争は自分を正当化することができる」
敵の敵は味方なのだ。
「随伴中の歩兵へ、戦車が瓦礫で通れない。すまないが迂回する」
「了解した。俺の隊はこのまま進む」
「4人で大丈夫か?」
「ビルの中から、ATミサイルを撃たれるかも知れんだろ?」
「もし敵がいたらどうする?」
「その時は、ビルごと吹っ飛ばす」
アルファ隊は、海兵隊と別れコンクリートジャングルへ繰り出した。
作りかけのビルの周囲を、パック詰めされた乾電池のようにマンションが建ち並び、骨組みだけの建物が多くあった。
「銃声が少なくなってきたな」
「ヘリのお陰ですね。ミサイルが着弾する度に、音が消えているのが分かります」
「だが、今回の戦争で工場が破壊された。これでまた復興が遠退いた」
「また造ればいいんじゃない?人はいるんだから」
「あぁそうだとも、あまり悲観的になるなよアール」
「造るならアンドロイド工場を造って欲しいですね。そろそろパーツにガタが来てますから」
と言った直後、マドナが撃たれた。
ジャックとアールが直ぐに反応し、撃ちまくった。
「狙撃だ!」
狙撃、それだけで、誰が撃ったのかは分かっていた。
「ここで全て終わらせましょ、ヒガナ」




