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決戦前

「お前はよく飲むなぁ」


そう言って馬の飲みっぷりを見ていた。


ヒガナは川で水の補給をしながら、地図を確認する。


「もうすぐ着くかな?」


地図によると、目の前にある丘を越えれば、目的の場所が見えてくる筈だった。


高い所に登って確認してみようかな、と思い近くの鉄塔へ足を進めた。


少々急で面倒だなと思ったが、穏やかな風に煽られていい気分だったので登ってみる。


が、それを後悔した。


トレーラーハウスが密集して出来た住居の側に、死体が見えたのだ。


明らかに襲われた後だった。


直ぐにこの場から立ち去ろうとしたのだが、倒れている人間の1人が動いた気がした。


これから大量に殺す予定の癖に、何を思ったか助けに行ってしまった。


「はぁ、クソ誰に影響されたんだか……」


腰の拳銃を抜き、独り言をぼやきながらトレーラーで出来た集落へ向かった。


死体はまだハエがたかっておらず、殺されてからそれほど経っていなかった。


「ショットガン取りに行けばよかった」


まだ近くに敵がいるかも知れないが、動いた気がした人間が気になって、馬ごと置いてきたのだ。


トレーラーに寄り掛かる、気がかりの主の脈をはかる。


予想した通り、既にくたばっていた。


女の子の顔を見ると、皮がずり剥けて頭蓋骨が陥没していた。


「馬鹿馬鹿しい」


自分の迂闊な行動に呆れ果て、まだ善意なんて心を持っていることに酷く失念した。


「それだけ酷い目にあってるのに、どうして助けようなんて思った?ヒガナ」


私の体を借りている議員は、椅子に座って話し掛けてくる。


「うるさいなぁ、なるべく出て来ないでって言ってるでしょ」


BP汚染されてからというもの、度々こいつは姿を現してきた。


フォーマルなスーツに赤いネクタイをして、至る場面で小道具を持ちながら、姿を見せてくるのだ。


今はリンゴを手にしている。


「考えてることと、やってることが矛盾しているぞ」


議員はリンゴを齧りながら、椅子に座って瓶コーラを飲んでいる。


「また助言にくるよ」


「助言?」


「ああ、助言だ。身に迫る危機とか」


議員が指差した方向を向くと、ライフルを構えた男が立っていた。


すんでのところで避け、拳銃で反撃する。


近付きながら容赦なく撃ち込む。


首を撃たれた男は、両手で苦しそうに首を抑えて絶命した。


「試練の始まりだ」


議員はフッと姿を消し、代わりに集落を襲ったであろう連中が姿を見せた。


ヒガナは全力で逃げる。


丘を登る最中、銃撃を受けて土煙が上がるが、知ったことではない。


丘を登りきった後は下り落ち、急いで馬の所へ向かった。


「追え!逃がすな!」


馬と木を結んでいたロープを切り、馬へ飛び乗ると全速力で駆け出した。


流石に馬にはついて来れまい、と思ったのもつかの間、丘の向こうから20頭あまりの馬が追いかけてきた。


しかも、先頭を走る奴には見覚えがあった。


「あれは確か……騎兵のウィンチェスター」


ヒュンと銃弾が耳を掠める音が聞こえ、思わず耳を隠す。


「もう片方も失うのは御免だ!」


ヒガナはアスファルトの道を外れ、森へ向かった。


散弾やライフル弾が次々飛び、それを避ける度に木屑が散った。


「ホログラムFCS起動、距離130m移動目標」


エアバースト弾を装填したAA12で、体を捻りながら敵へ向けて撃つ。


炸裂した弾の破片は、馬の脚へめり込んで悲鳴を上げて転がり、騎手の首へし折った。


「注意しろ!注意しろぉ!敵は手強いぞ」


ウィンチェスターは、エアバーストの特徴を瞬時に理解し、仲間の騎兵を分散させた。


2人の騎手が、挟撃すべく両翼からヒガナへ攻め混む。


ヒガナは敵より少し低い位置に、相手が発射する瞬間を狙って飛び込んだ。


ヒガナに当たる筈だった弾は、ヒガナを挟み込んでいた敵の顔面と肩へ命中する。


見事狙い通り、フレンドリーファイアを誘発させた。


その後も、卓越した戦闘能力と戦術で、敵の人数を1人つづ数を減らす。


「クソ!待ってろよ今取っておきを出してやる」


ダイナマイトに火を付け、導火線ギリギリまで持ち、爆発寸前に投げつけようと腕を振り上げる。


が、その前に腕を撃ち抜かれ、神経をズタボロにされた。


腕は脳からの命令を受け付けず、火の付いたダイナマイトを離さなかった。


「あ゛あ゛あ゛ぁ!誰か俺の腕を切ってくれぇ゛!」


ダイナマイトは彼の目の前で爆発し、バックの中に入っていたダイナマイトにも誘爆した。


大爆発が起き、周囲にいた仲間を巻き込んで血煙となった。


「残りは大将首一人」


ウィンチェスターは、M1895レバーアクションライフルでヒガナを銃撃する。


30-06弾が樹木に跳弾して、ボディアーマーに命中した。


「あぐぅ!」


弾は貫通しなかったが、ジンジンとした痛みがやってくる。


「あぁ……はぁ」


何回か弾は食らったことがあるが、未だにこの感覚は慣れない。


「大枚はたてい買ったアーマーがパァだ!」


少しでも身軽になろうと、ボディアーマーの中に入っているセラミックプレートを捨てた。


一度被弾したプレートは防弾性能が落ちるため、ただの重しになるからだ。


「約束を覚えているか!」


「一方的な契約は押し付けがましいぞ、爺さん!」


ウィンチェスターはヒガナに接近すると、リボルバーを撃ち込む。


しかし、揺れる馬と唯でさえ視界の悪い森の中であったため、全く当たらなかった。


ヒガナはウィンチェスターから一旦離れると、32連装ドラムマガジンを装填する。


向こうもそれに気付き、ライフルに弾を込める。


装填を終えた両者は、並走しながら互いに牽制しあった。


15mの距離でにらみ合う姿は、さしずめ決闘中のガンマンと言ったところだろう。


「馬は何処で習った!」


「答える義理はない!」


「私はネームドを倒した称号が欲しいんだよ!」


鳥が飛び交い、馬の足音が森にこだまする。


「年食った人間ほど、傲慢になるもんだな!」


「若造の独り善がりも問題さ!」


両者の馬は更に加速し、息を切らしている。


「いずれお前もこうなるさ!」


ヒガナはその言葉に、悲しげな表情を浮かべた。


「もう、年をとることは出来ない」


一時の沈黙が生まれ、神妙な空気が流れる。


「だから、その前に……」


「挽き肉になあれ」


両者の間に現れた木々達が、鉄格子のように広がった。


ヒガナは引き金を引き、フルオート射撃を実行する。


12ゲージには9つの鉛弾が入っており、それが32発9×32の計288発の弾が敵に向かって突き進む。


ウィンチェスターも反撃するが、レバーライフルの火力では到底太刀打ち出来ない。


更に両者の間に隔たる樹木は、弾丸を妨げる。


必然的に多くの弾を撃った方が有利だった。


このまま火力で押しきる筈だったのだが、突然馬が倒れた。


倒れた衝撃で馬から投げ出され、地球にキスする。


見ると、馬はぐったりと倒れていた。


走らせ過ぎたのだ。


「あのカウボーイ被れはどこに?」


考える暇もなく、馬の蹄が地面を踏み締める音が聞こえた。


拳銃を抜き、音の方向へと銃を構えた。


そして、馬が現れたと同時にホルスターへ銃を戻した。


馬の上に乗っていたウィンチェスターは、ベーコンのようにベロベロになっていたのだ。


枝で小突いてみると、馬から滑り落ち、肉特有のベシャッとした音が響いた。


ヒガナは倒れた馬が立てるまで待つと、装備を取り外して2頭の馬を野に離した。


あんまりにも、2頭が寄り添って離れないものだから、解放したのだ。


「………………」


ヒガナは今傍らにいない、大切な存在を思い出してしまった。





原子力発電所にて


関係者以外立入禁止 許可無き者は射殺する


放射能のハザードシンボルと共に、えらく物騒な言葉が並べられていた。


「酷いとは聞いていたが、ここまでとは……」


原子力発電所前は、鉄屑と骨で埋めつくされていた。


「反政府組織と警備部隊の交戦後だな」


撃破されたテクニカルには、地球を壺で囲ったエンブレムが残っていた。


「反政府組織リガーディアとエコテロリストのコンビネーションか」


ジャックは、リガーディアのヘルメットを蹴っ飛ばした。


「確か、崩壊後も10年ぐらいは活動を続けてたんだよな」


「そうなんですか?」


リガーディアは左翼系の反政府組織で、権力からの解放を謳っていた団体だ。


警察署や原発、更には軍事基地まで、ありとあらゆる場所を襲撃した。


「活動があまりにも広がり過ぎてな、最後にはミリシアみたいな、狂信的愛国者共に治安維持を頼む始末さ」


「右も左も上も下、みーんな狂っちまった。いや、元から狂ってたのかもな」


「ジャック話は後だ。早く済ませよう」


昔話を切り上げると、ジャック率いるアルファ隊はドアを破壊し、原子力施設へと突入する。


施設内は、弾痕や壁にべっとり血の後が残り、20年立った今でもその凄惨さを物語っていた。


部隊は制御室を目指して突き進む。


「クソ、暗いな」


電力は既に落ち、天井からぶら下がる蛍光灯は、ホラーを演出するのにぴったりな雰囲気だった。


「お、見ろよトンプソンだ」


通路に倒れていたリガーディア兵の屍から、古風な銃を拾い上げた。


こんな骨董品を使う辺り、相当財政が苦しかったのだろう。


「ここを最終防衛ラインにしたらしいな」


制御室の惨状を目の当たりにしたマドナは、一安心した。


「ボロボロですね、もう使えそうな設備はありません」


「これだけ破壊されてるんじゃ、再稼働は不可能だろうな」


そう思った矢先だった。


遠くの方から爆発音が聞こえ、2人と1体は戦闘体勢に移行する。


「……爆発は原子炉の方からだ」


無数の屍を飛び越え、ドアを破壊し、非常階段を駆け上がる。


屋上にたどり着き、転落防止用フェンスの隙間から原子炉の方を見た。


黒煙が昇り、原子炉が破壊されていた。


「嘘でしょ!」


「いやまて、爆発の規模が小さい。入り口を破壊したんだ」


「一体誰が誰がそんなこと……」


「知らん、だが嫌な予感はする」




原子炉内にて


原子炉内に、オレンジ色に光る物を設置する。


「後は離れるだけ……」


目の前にある、史上最大の実験機材を前に、ヒガナは震えた。


「感謝するよアメリカ」


ヒガナは皮肉を込めてそう言うと、爆弾のタイマーを起動しようとした。


「止まれ!そこを動くな」「馬鹿なことしないでよ」


聞き覚えのある声と愛しの声が耳に届く。


「ジャックにアール、それにマドナまで」


ヒガナはある種の感動すら覚えた。


あんなに離れていたのに、また会うことが出来た。


今日という日に感謝しなければならない。


「ヒガナ……何をやっているんですか?」


「黒い雨を降らせる」


黒い雨、それは放射能を含んだフォールアウトである。


「馬鹿な事を言うな、原子炉は戦闘機が突っ込んでも破壊出来ないんだぞ。その程度の爆薬じゃあ無理だ」


ジャック言葉にマドナは、確かにと言って爆弾の梱包をひっぺがした。


「アンドロイド用のエネルギーパック!?まさかそれでメルトダウンを起こそうってのか」


「ご名答、20年間停止したせいでこいつは動かないが、それでも手順を踏めば吹っ飛ばせる」


この原子力発電所は普通とは違っていた。


世界が崩壊する前、この国は慢性的な電力不足に陥っていた。


その為、頼ったのが原子力だった。


「BPってさ、機械とか生物に侵食して動かない筈の物を動かすんだよね」


原子炉が突然稼働し、不気味かつ壮大な音を立てる。


「メルトダウンを起こした原子炉は、水蒸気爆発を起こし、放射線物質をECRへ向かって垂れ流す」


「敵を殺すんだよ」


恐るべき計画を実行しようとしているヒガナを、止めようと必死に説得を続ける。


「早まるな、ECRは確かに敵だ。だが、そんな事をすれば全てを敵に回すぞ!」


「いいじゃない。どうせ私は恨まれてるんだから、1人も100人も変わらないよ」


「いや結構変わると思う!」


ヒガナはジャック達へ自らの失った耳を見せた。


「私を恨む者は私の耳を奪った。今度は何を奪うの?私は奪われたのに」


怒りと恐れに支配されたヒガナへ、マドナは言う。


「ヒガナ、もし貴女がやりたいと言うなら、私は止めません」


「でも、もしやったら、私は貴女を嫌いますよ」


「……………………………………………やだ」


「それはやだ、でもこわい、ここで敵を殺さないのはもっとこわい」


ヒガナを受け入れたるために、マドナは両手を広げる。


「なら殺しましょう。もっと犠牲が出て、もっとやり易くて、私が貴女を嫌いにならない方法で」


ヒガナはマドナへ飛び込み、両手で抱き抱えられた。


それと同時に、原子炉は活動を停止した。


BP達は、ずるずる音を立てて消えていった。


「もう、甘えん坊なんだから」


腕の中で泣くヒガナを、マドナは優しく撫でる。


「なぁ、感動の再会を分かち合いたいのは皮肉無しでそう思うんだが、その方法は何なんだ?」


「私達は世界最強の軍隊の末裔です。国を崩壊させる方法の一つや二つ心得てる筈です」


「例えば、強襲上陸とか」


マドナはしたり顔で囁いた。

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