目的の色は?
かつて闇に潜んでいた影は、その輪郭を大地へ写し、影はより異形の存在へと近付いた。
そして、彼女もまた異形の存在へ近付いていた。
「バケモノだ!化け物が来た!」
ECR軍 第32歩兵連隊 第3大隊臨時拠点にて
第3大隊は本隊から外れ、偵察と現地の安全確保を命じられていた。
経済崩壊時代に建設され、仕事を増やす為に造られた雑な造りの建物だ。
田舎町には似合わない立派なコンクリートの建物は、ならず者の溜まり場となり、周辺住民を困らせていた。
ECR軍は午前中に掃討を完了し、住民達から感謝される筈だった。
「無線が通じない、電波障害だ!これは一体!?」
通信兵は無線機ごと撃ち抜かれ、一面にどす黒い血を撒き散らした。
コンピューター制御による射撃と、対物ライフルの組み合わせは、正確な命の奪い方を与えた。
「あれはなんだ!あれはなんだ!」
新兵の1人が恐怖に怯え、やたらめったらに撃ち捲っていた。
「闇雲に撃つな!」
12.7mm弾はボディアーマーを貫き、臓器を体外へ引っ張り出すように飛び、皮膚に隠された紅白色が見えた。
「信じられない、M107をあんな風に撃つなんて」
あれだけの重量物を振り回し、近接戦闘で使うなど、人間技とは思えなかった。
「外にいた連中はどうしてこない?」
「全滅したんだよ」
「まさか、250人居たんだぞ」
机の裏に隠れて、自分に言い聞かせるように話していると、壁を突き破ってマドナが姿を現す。
「!」
銃剣を取り付けたM107を、敵の口へ突き刺すと、引き金を引き頭が弾け飛んだ。
一定のリズムで発射される弾丸は、隠れていた兵士を肉塊にした。
10発撃ち終わると、銃剣を敵の死体へ突き刺し立て掛けると、敢えて急所を外した部隊長の元へ、ゆっくりとした足取りで近付いた。
「3週間前、女の子を見掛けませんでした?」
写真を取り出して、片腕のない兵へ写真を見せる。
「見た……みた……司令部に忍び込んで、次々殺していった、おまぇ、あれの仲間か」
荒い息遣いの男は、怪物を見るような目でマドナを見た。
「どこに行ったか分かりますか?」
「本国だ、東海岸、あとは知らない」
血の気が引いて行くのがわかる。
「なぁ、俺を、あ゛ぁ゛……殺すのか」
「もう、助かりませんから」
兵士の亡骸からライフルを拝借し、片手で構える。
「私がここに来なければ良かった」
「確かに、お前さぇ来な、ければ、よかった」
「いつか必ず、破壊される時が来ますから、もう少しだけ、あの世で待っていてくださいな」
建物から出て来たマドナは、玄関口に弾切れになったライフルを捨て、ジャック達と合流した。
「中はどうなってる?」
「見ない方がいい」
マドナは体に巻き付けたM2用の弾帯から、弾を取り出してマガジンに込めると、マガジンポーチに戻した。
「やっぱり東海岸に連れてかれた」
「取り戻すのか?」
「それ以外に何がある」
「君は変わったな、前は良い人に似ていた」
「どういう意味ですか」
鋭い目でジャックを見るマドナは、目付きが変わっていた。
「今も人に似ている、悪い意味でな」
武器を調整する手を止め、手のひらを見詰めた。
「それはまずい、ヒガナに嫌われてしまう」
そう言うと、廃屋にあったリボンの付いた帽子を被り、これでどうでしょうか?と、ジャックに見せた。
反応に困ったジャックは、人形のように綺麗だとお世辞を言った。
第1艦隊 旗艦 エンタープライズにて
浮かない顔して食事をするヒガナは、ポテトをフォークで突っついていた。
片耳を失っただけで、ラッキーだったかも知れない。
医者からはもう少し、別の角度から撃たれていたら脳を貫いてたと言われた。
失った耳を髪で隠して、空母で生活しているが、時々耳のことや拷問の跡を尋ねてくる無粋な連中もいた。
そしてそういう時は、決まってこの冗談を言った。
「知りたいならその耳くれよ」
あまり触れて欲しくなかったし、あんな出来事は思い出したくもなかった。
口の中に芋を放り込み咀嚼するが、味が薄く塩を掛けた。
「男は傷があると持てるが、女はそうもいかんぞ」
マローダ12が目の前へ座り、朝食を取り始めた。
マローダは口に芋を放り込んだ瞬間、むせて水を飲む。
「あ〜鼻にくるな」
「あんたの場合、女が逃げ出すぞ」
「ハッ!そりゃいい、こんな人間には寄り付かない方がいい」
塩をダバダバかけるヒガナを見て、マローダは不思議そうな顔をしていた。
「なに?味が薄いのよ、出して貰っといて悪いけど、この艦の食事は随分質素だよね」
「お前」
「さっきから何?」
「そのポテトの味は分かるか?」
「え?」
皿の中へ目を落とすと、ブラックペッパーがこれでもかとかかっていた。
フォークが指から滑り落ちる。
「麻痺してる……」
食事を止めて、艦内を駆け抜ける。
荒い息遣いとシンクロして、手が震える。
ヒガナは体を酷使し続けた結果、麻痺という症状になって出て来たのだ。
「クソ!このくそったれめ!」
思えば最近、怪我をすることが多かった。
殴られるし、蹴られるし、針を通されるし、散々だった。
「この体が動かなくなる前に……」
一刻も早く、ECRを崩壊させなければならない。
ヒガナは艦の通信アンテナを使って、ウォーレンに連絡をとった。
「こんにちはヒガナです。はい、えぇ、耳が吹き飛んだぐらいですよ。もうなりふり構ってられません、皆殺しにします」
第4軍団司令部にて
「お言葉ですが、現在の戦力では攻撃は到底不可能と思われます。増援を送っていただかないと」
「司令部を壊滅させられたのは君の落ち度だ。小娘一匹に、軍団が行動不能になるとはな」
トレバー大佐は、お前が責任を取れと暗に言う、上の無責任さに呆れた。
「好きにしろ、どうせお前らの国は終わりだ」
「なんだと!貴様を、西方軍司令に推薦しようと思っていたのに!」
「嘘をつけ、奴隷制で差別階級を作り、国民の目を誤魔化す国など先が知れてる」
「国とは民を守る為に存在している。その存在意義を否定し、領土を広げる野心的な方針には賛同しかねます」
「貴様!この!能なし!野」
「電話線を切ってくれ」
部下の1人が電話線を切り、本国からの通信を断った。
「どうします?」
ヒックス小佐は、こうなるだろうと予想していたのか、部隊編成表を手渡した。
「仕事が早いな」
「大佐殿がこうなさると、分かっていましたから」
「鋭いな」
「イランの時に、この鋭さを発揮出来れば良かったのですが……」
そう言ってヒックスは、誰のかも知らない家族写真を眺めた。
「この体の主が、BP汚染地区で自殺しなければ、私は貴方に出会えませんでした」
トレバーは、ヒックスと出会った時の記憶を、思い出した。
「確かあれは……視察に向かう途中だったな、ヘリが落ちた時の」
「はい、BPに囲まれ窮地に陥っていた大佐を、私が仲裁に入って止めた時でした」
「君がイランで戦死した、私の部下と同じ名前たったのは驚いたよ」
トレバーは、戦死した部下の名前全員を記憶していた。
だからこそ、イラン侵攻の時に死んだ、顔も合わせていない部下を知っていた。
「貴方のイランでの手腕はお見事でした。あの放射線と炎に曝されながらも、混乱していた我々を導いて下さった」
「私は貴方に付いていくと決めました。そして、戦友達も皆、試練を受ける資格があると言っています」
「試練か……」
「失礼します!」
「各員集結しました!トレバー戦闘団いつでも出撃可能です!」
トレバーはゆっくりと席を立ち、少し高い位置から部隊全体を見渡せる位置に移動する。
「諸君、よくぞ集まってくれた」
今、私を見ている彼らの多くは死ぬだろう。
「我々の目的は、西方へ新たな国家を作ることにある」
皆、何者の抑圧も受けない国を作りたいと思っている。
「ロサンゼルスを支配しているBPを、制御する方法を見つけた」
「そして諸君らが、新しい秩序の番人となるのだ」
「友の屍で橋を掛け、対岸へ渡って来た君達なら出来る筈だ!」
「妻や子を飢えさせたくないなら!親や友を守りたいなら!私に付いてこい、全てを叶えよう」
兵士達は車両に乗り込み、世紀の大移動を開始した。
車道は瞬く間に車で埋めつくされ、帰省ラッシュの高速道路のようになった。
百を超える鉄の蟻が、列を連ね蛇へと姿を変えだ。
「OS軍基地を迂回しろ、燃料車は残量に気を付けながら走れ!脱落した車両はパーツと燃料を抜いて放棄せよ!速度が命だ」
「戦え何かの為に!」




