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非情

マドナとジムにて


落としたライフルを回収すると、マドナは折れた腕を抱えながら歩いていた。


「大丈夫か?」


「えぇ、痛覚は無いし、腕が折れただけシステムが修復してくれるから少し待てば直ります」


「便利だな」


「そうでもありませんよ、痛みが無い分他の事に思考が回りますから死の感覚が曖昧になるんです」


無線を起動し、ヒガナを呼び出す。


「ヒガナ合流地点付近に居ます、現在位置を教えて下さい」


「ーーーーーーー」


無線から応答が無く、ザーと砂嵐のような音がヒガナの可愛らしい声に代わって返事をする。


「繋がらない、無線の感度が悪いのかな?」


「あ、あ、あ、おい、あれを」


無線を弄くるマドナへジムが声をかけ、指を指す。


広場に目をやると大勢の人だかりができ、まるでアフリカの紛争地域を見ているようだった。


「夜明けと共に外出禁止は解除ですから、外に出てきたんでしょうかね」


「いや!そうじゃなくて、あれ」


ジムが指差す物は、怒り狂った民衆でもバスの上から大声で叫ぶ男でも無く、ニックが履いていた靴だった。





広場にて


ニックは端的に言うとリンチされた。


角材や鉄パイプで殴り付けられ、耳と指を切り落とされた。


腹をナイフで切り裂かれ、内臓をズタボロにされた。


唾を吐きかけられ、小便をかけられた。


ヒガナも例外無く暴力の限りを尽くされた。


壁に叩きつけられた衝撃で目が覚め、顔面に一発お見舞いされた。


足蹴りされて息が詰まる。


呼吸が出来ない。


ニックの叫び声が聞こえてくる。


「助けて!助けて兄さん!」


「ヒガナ!ヒガナ!ヒガナ!」


その声はこの状況よりも、ずっと辛く堪えがたい悲鳴だった。


ヒガナは頭部を守る為に、うずくまってひたすら耐えた。


ダンゴムシのように丸まったヒガナを、民衆は虫でも踏み潰すかのように蹴る。


ポーチに付けていたマガジンが衝撃で曲がり、服に靴の跡を残しながら更に暴行を加える。


ただひたすらな暴力を、ただひたすらに耐えた。


銃はどこだ。


腰に着けた銃が奪われた。


取り返さなくては。


この状況から脱する方法を考えろ。


痛い。


ベルトを外そうとしている。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


怖い。


マドナ


ドン!!!


一発の銃声がその場を支配した。


「おいお前、そうだ、そこのお前だ、その銃を返せ」


ヒガナのAA12を持ったクソガキへ、マドナのM9ベレッタが向けられた。


ヒガナの拳銃で、人ごみからマドナを狙う1人の男を撃った。


寸分の狂いも無く、ヘッドショットで脳天をぶち抜く。


その射撃に恐れおののき、AA12をその場に置いて子供はそそくさと逃げて行った。


銃を向けられた民衆は後ずさりし、道を開ける。


「ヒガナ!目は開けられますか!?」


気を失いかけていたヒガナは、マドナの声で朦朧と目を開ける。


「ニックーーーーーーーー!!!」


ニックは、目を背けたくなるような惨たらしい肉塊に成り果てていた。


内臓がそこら中に散乱し、砂と一緒に混ざりあっていた。


目玉にはキッチンナイフが突き刺さり、串刺しになっている。


ニックの亡骸を抱え、泣くジムを見て民衆は初めて自らが獣であったことを自覚した。


怒りに震えるジムは、ライフルでバタフライナイフ男を狙う。


「ニックは苦しんだか?」


バタフライナイフ男は、死から逃れる為に嘘をついた。


「いや、楽に死んだ」


「嘘だ……嘘をつけ………」


ライフルの連射で男は頭を吹き飛ばされた。


次にニックを殺した大多数へ向かって銃を向けた。


熱が冷めた彼らは、銃口から逃げるように道を開けた。


だが、ジムの感情は悲しみで溢れていた。


「お前らも弟と同じになれ」


最早悲しみしかない。


叫んで叫んで、この悲しみを紛らわせた。


「ウワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


ジムは民衆へ向かってライフルを撃ちまくり、復讐の虐殺を開始する。


逃げ惑う民衆へ向かって、弾のある限り撃ちまくった。


四方八方ありとあらゆる物を攻撃する。


弾丸はニックが殺された時の、民衆達の手足のように飛んで行く。


そして、静けさが辺り戻った頃、辺りを死体が埋め尽くしていた。


ジムはニックの側に座ると、そのまま動かなくなった。


「ジム……?」


「ヒガナ」


ジムに声をかけ、肩に触れようとするがマドナがそれを制止する。


「もう壊れてます」


涙を流したまま、ニックの側で動かないジムを置き去りにして、ヒガナ達はその場を離れた。


そして日が昇った頃、街は焦土と化した。


白リン弾が街を襲ったのだ。


そして炎は街を飲み込み、建物から建物へと燃え広がり、本来焼く筈でなかった場所まで燃え広がりつつあった。


「凄い煙だ、先が見えない」


咳き込むヒガナをマドナが心配し、貴重な真水を布に染み込ませ、口にあてがう。


火の粉が髪を焦がし、煙が視界と空気を奪う。


「川が燃えてる!」


コンクリートの川に沢山の瓦礫と、それに人が紛れていた。


熱さの余り、川へ飛び込む人間が大勢いたのだろう。


おびただしい数の人間が、粥の米のように川に流れ、下水道に続く侵入防止用の鉄柵に絡まっている。


「水!もっと水はないのか!?」


消火活動に当たる住民は、誰も彼もが焼け爛れ、ケロイドが身体中を蝕んでいる。


「子供が!子供が家の中にいるの!」


泣き叫び助けを求める母親を無視して、煉獄の中を突き進む。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぇ゛ぇ゛ぇえ゛」


瓦礫の下敷きになっている真っ黒に焼けた何かが、ヒガナの足を掴む。


「あっ、熱つ!」


引き剥がそうと足バタつかせるが、腕を振りほどくことが出来ない。


「このぉ!」


掴まれていないもう片方の足で、腕を蹴り飛ばすと、何かは力尽きた。


肉や骨の感触は無く、まるで腐った木を折るかのような感触だった。


「助けてくれ!」「水を寄越せ!」「邪魔だ!」


怒号が飛び、ヒガナの物資を奪おうとする輩をマドナは拳銃で撃った。


ヒガナもそれに習い、ショットガンで略奪者の足を撃つ。


撃ち尽くしたショットガンをリロードしている最中、物資を奪おうとした者の家族らしき8歳ぐらいの子供が、呆然と立ち尽くしていた。


子供は皮膚が溶けて、酸でもかけられたような体だった。


白リン弾で爛れた皮膚を煩わしく思っているのか、腕の皮膚を千切って投げ捨てている。


言い様のない気持ち悪さが、そこにはあった。


地獄だ、ここはまごうことなき地獄だ。


「ヒガナ!航空機が来ます!」


マドナの声で我に帰る。


空から、双発の悪魔が私達を焼き殺ろそうと、迫りくる。


マドナはヒガナの手を引っ張り、人が塞き止められている川へ戻る。


「早く、榴弾でこの鉄柵を!」


マドナに言われるがままに、AA12ショットガンにFRAG12榴弾を装填し、鉄柵を破壊する。


下水道へ飛び込んだ直後、背後で爆発が起きた。




旧下水道施設にて


ヒガナ達は燃え盛る炎の海を避けて、古い下水道に隠れた。


あと少しで一酸化炭素中毒になるところだった。


目が慣れていないせいか、下水道は異常なほど暗い。


手は微かに震え、呼吸が苦しかった。


灰の匂いが下水道の悪臭を消し去るほど漂い、嗅覚を麻痺させた。


ヒガナは泣くことすら出来なかった。


今日だけで色々なことが起こりすぎて、気持ちがついて行けていないのだ。


この混乱が収まりどこかの廃墟で眠る頃、この事を思いだし、私は泣いてしまうだろう。


アドレナリンが正常値に引き下がり、正気に戻ったら、私はきっと。


そう思うと、あの地獄へと戻りたくなる気持ちが心の片隅にあった。



1時間後……


「少し休みましょうか」


下水を歩き回っていたヒガナは、体力が限界に近づいていた。


その事を察したマドナは、休憩を取ることにし、比較的清潔な場所に腰かけた。


ヒガナはフルーツ味のエネルギーバーを頬張り、マドナは外へ出る為に地図やコンパスで進路を確認していた。


過剰な疲れからか、また倦怠感とストレスが心身を蝕んでいる。


アドレナリンが正常値に戻ったのだろう。


その疲れを埋める為に、ヒガナはマリファナを取り出して一服する。


いつもは、注意するマドナも今日はしてこない。


いや、注意するのは燃える液体を飲んだ時だったかな?そんなどうでもいいことを、思い出していると、スパッツに何かが引っ付いていた。


指だ、ただの指、少し前に私の足を掴んで来た奴の指だろう。


ヒガナは何の感情も湧かず、作業的に指を引き剥がした。


真っ黒な塊を指で転がし、歪んだ目で見つめたがやがてどうでも良くなり、小石を投げるように汚水の川に放り投げた。


放り投げた指は、下水に落ちてヘドロと混じってわからなくなった。


「そろそろ、行きましょうか?」


マドナの問いに、ヒガナは頷く。


また、下水へと足を踏み入れ、歩みを進める。


「ねぇマドナ」


「何ですか?」


「ニックは私をあの世で怨んでると思う?」


ヒガナの質問に、マドナは当たり障りのない答えをする。


「どちらとも言えません、私は死後の世界について知りませんから」


「そういうことじゃなくて……」


「と言っても、ヒガナは色んな人に怨まれて長いですよね、もう答えが出てるんじゃありません?」


ヒガナの沈黙が会話を途切れさせ、足音が反響する音が響く。


「マドナ、私……」


チャポンと何かが水に落ちる。


「グレネー」


言い終わる前に下水の汚れた水が、一瞬白くなり爆発する。


汚水をもろに被ったヒガナは、逃げるより先に怒りが湧き出た。


なんでこういいタイミングで来るのかと、私は小説の主人公で、意地の悪い作者が話を遮る為にやっているのではないかと。


「怨んでるやるぞクソッタレ」


「手榴弾は上から落ちて来ました、早く出口まで走らないと!」


ヒガナは歩き疲れた足で力の限り走り、マドナは一定の速度を保って、機械制御された足で走る。


作業員用の梯子を昇り、鍵のかかった鉄格子のドアを対物ライフルでこじ開けた。


激しい息切れを起こし、口の中を鉄っぽい味が占拠する。


「ヒガナ急いで!」


外へ通じる階段を駆け上がり、ドアノブをひねるが開かない。


「ああ、クソ!ドアが歪んでる」


火災か爆撃の影響でドアが歪んでいるのだろう。


鉄のドアは開かなかった。


「どうする!?」


「こっちです!」


来た道を戻り、何本もの柱が立つ空間へと到達した。


床は泥で滑り易くなり、足場が悪くおまけに暗い。


だが、隠れる場所は多い。


マドナはここを決戦場に決めると、自分が囮になってヒガナが攻撃するシンプルな作戦を立てた。


「準備はよろしいですか?」


「死に方用意ってね」


「貴女を死なせはしませんよ」


フラッシュライトの光が迫り、ヒガナ達をコンクリートの柱から追い立てようとする。


マドナは暗闇の中から、敵の1人を狙い撃つ。


撃たれた敵の銃が、くるくると中を舞ってミラーボールのように回転する。


敵部隊は隊列を組み、速やかに応戦する。


マドナへ向かって光る銃口を頼りに、ヒガナは作戦通り攻撃を開始。


AA12の射程に入った彼らは、文字通り挽き肉と化した。


1人を除いて。


散弾をものともしないアーマーを着込んだ男に、ヒガナは榴弾にすれば良かったと後悔した。


M14を構えた男は、フルオートで撃ちまくる。


「またあったな、バレットガイノイド!」


マガジンを交換しながら、ヘルメットバイザー越し、からも判る薄ら笑いでマドナを呼ぶ。


「………」


「こんな場所でかくれんぼか?嫌いだ」


足音を大きく立て、隠れたヒガナ達を見つけようとするのは、遊んでいるからなのだろう?


動きが芝居がかっていて、余裕すら感じる。


マドナが柱の陰から執行官を狙うが、それを察知し、M14が連射される。


「もう1人は何〜処にいる?フルオートショットガンとは珍しいな」


「だが、散弾では私の装甲は貫けんぞ」


ヒガナは、残り3発の榴弾を執行官の背中へ向けて撃つ。


「ん?ん?ん?AA12か!だが弾切れだな」


よろけた執行官はゆっくりと後ろを向き、ヒガナの顔目掛けてぶっぱなす。


その横から、マドナのバレットライフルが執行官を狙う。


放たれた12.7mm弾はバイザーを吹き飛ばし、顔面を露出させた。


「惜しい!」


下水道はマズルフラッシュによって、一瞬の光が吹き込まれ、執行官のシルエットがマドナの目に焼き付く。


執行官はM14の弾が切れたのか、床に銃を置くと、ホルスターからS&W M500拳銃を取り出した。


これだけでも十分癖が強いのだが、更に右手にトマホークを持った時には、マドナは思わず笑ってしまった。


「マドナ、弾もうない」


「私もです」


連戦に次ぐ連戦で、弾薬が著しく欠乏した2人は、執行官のアーマーを貫く為の武器がなかった。


「言っただろかくれんぼは嫌いだって!」


2人の位置を察知した執行官は、トマホークを振りかざして来た。


それを避けると、ヒガナはAA12を執行官の顔面へ火花が髭を焦がすぐらい近くに向ける。


散弾が発射されると同時に右手で射線をずらし、銃身を掴んでヒガナごと投げ飛ばす。


「きゃ!」


ヨーヨーのように飛ばされ、壁に激突したヒガナは気を失った。


「ヒガナ!」


ヒガナの状態を確認する暇を与えず、M500のマグナム弾がマドナの太ももをかすった。


胸ベストに下げたナイフで、露出した顔面へ斬り込む。


その動きを読んでいたかのように、トマホークが脇へ突き刺さる。


そしてそのまま、腕をへし折られてもぎ取られた。


オレンジ色の液体が、噴水のように涌き出た。


安直な表現方法でしか表現できない光景を、マドナに見せつける。


ダメ押しにとばかりに、腹部へマグナム弾が撃ち込まれた。


人ならとっくに死んでいるが、マドナはアンドロイドであるため、死にはしない。


マドナは立ち上がり、CPUが闘志を燃やす。


「感動的だ、ここまで粘るアンドロイドは珍しい」


残っていた2発の弾丸で、立ち上がるマドナを撃ち抜く。


執行官の名に恥じない容赦なき攻撃だ。


だが、それでも立つマドナに執行官は尊敬の意を示す。


「素晴らしい闘志だ、アンドロイドである事を疑うぞ」


腕一本で戦いを挑むマドナに執行官は、トマホークを降り下げる。


トマホークをナイフで弾き飛ばすと、ナイフを露出した首元へ突き刺す。


「いいぜ、どっちが先に死ぬかのチキンレースだ」


マドナの頭を掴み、拳を振り上げる。


拳がマドナの頭を割るのが先か、マドナのナイフが執行官を殺すのが先か、互いに無我夢中で刺したり叩きつけたりした。


コンバットナイフの刃がこぼれ、柄の部分が粉々になる。


拳の骨が砕けて血が流れて出るが、マドナの頭を割って中の配線を引っこ抜くまで殴るのをやめない。


(電子回路に異常が発生)


(電子回路に異常が発生)


(電子回路に異常が発生)


(電子回路に異常が発生)


(電子回路に異常が発生)


システム警告が鳴り響くが、首をもぎ取るまで刺すのを止めない。


指がバラバラになるが、それでも殴るのを止めない。


止めた方が負け、殺された方が負けのシンプル過ぎる戦いだ。


バキン!と音を立てて、マドナのコンバットナイフが折れた。


マドナは首の割れた部分に指を突っ込み、首を引き剥がす。


ブチブチと肉の裂ける感触がCPUへ伝達し、無数の人工細胞回路を焼き切る。


マドナの頭を掴む執行官の腕が、首を引き裂く指を掴む。


首が、薄くスライスした牛肉のように裂け、コンニャクのようなブニブニした喉が姿を現す。


「こ゛ろ゛じ゛で゛み゛ろ゛ぉ゛ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ」


マドナはホルスターから拳銃を抜き、首の裂け目へ、処女を突き破るように銃口を潜り込ませた。


「Morire!」


引き金を引くと、鮮やかな脳ミソがヘルメット一杯に吹き出し、薬莢が胃液へと落ちてゆく。


巨体が膝から崩れ、誰にでも平等に訪れる死が静寂を運ぶ。


辺りは鉄と火薬の匂いで満ちていた。




BP感染体 B52爆撃機群より


彼らが、どうしてこの死に体の街を消し去りに来たのかわからない。


人類の醜さに怒ったのだろうか?


はたまた、自らの目的に不都合だから消し去りに来たのだろうか?


ともかく、この街は終わるだろう。


落下する爆弾を住民達が見上げる頃には、少なくとも30万人が死ぬ。


生き残った者は、これからやってくる厳しい冬と食糧難に喘ぎ、奪い合いながら数を減らし最終的にはバクテリアの住みかになる。


B52爆撃機はこう言った。


「我々を忘れたからだ」


B52編隊は街を破壊すると、西海岸へと帰途した。




旧陸軍基地内にて


「マドナ?」


動きが悪いマドナを心配し、ヒガナは不安そうに話す。


「大丈夫ですよ、あと5キロは持ってくれます」


「…………………………本当?」


泣きそうになるヒガナへ、マドナは片腕で優しく抱きしめる。


「私は日本車のピックアップトラック並みに、万能で故障しにくいんです!」


「だから安心して下さい!」


ヒガナの不安で今にも泣きそうな顔を見て、やせ我慢とはこういう事を言うのだなと実感した。


「大丈夫、陸軍基地に行けばパーツが山のようにありますから」


「大丈夫って言うのは、大丈夫じゃない時なの」


華奢な体でこんなに幼いのに、物事を理解しているのはなんと残酷なのだろう。


マドナに執着するヒガナは求めているのだ。


甘えて泣いて、子供らしくいれる時間を。


だから、私はこの子の為に生きていたいのだ。


だから、死ぬ訳には行かないのだ。


だから、壊れる訳には行かないのだ。


倉庫から自分に合う同規格のパーツを見つけると、パーツを人工皮膚に覆わせる。


(パーツ表面の除菌を開始)


(パーツを同期中、19%)


(除菌完了)


液体が脚を覆うと液体がゼラチンのように固まり、人工皮膚が生成され、以前と同じ柔らかな太ももが出来上がった。


「それじゃあ、私のここに頭を乗せて下さい」


マドナは修復したばかりの脚に、おいでおいでと手招きする。


膝枕なんていつ以来だろう。


「疲れたなぁ」


頭を撫でるマドナに身を任せて、このまま目を閉じていたい。


そうすれば、私が例え罪人だとしても、膝の上で眠る1人の少女として存在することが出来る。


そうして、ヒガナは静かな眠りについた。

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