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嫌な世界

1つ判ったことがある。


今のままでは、私は太平洋を渡ることが出来ないということだ。


だから、こうして旧合衆国軍の生き残りに協力してる。


何故、一度も見たことのない故郷を目指しているかはわからない。


ただ、家を失ってから何もやる事が無かったのだ。


生きる為だけに生きるのは、とても辛いことだ。


昔は趣味を見つけたり、社会貢献だったりと、生きる理由を見つけていたらしい。


人生とは突き詰めれば突き詰める程、無価値な存在になってくる。


だから、快楽や大義でも何でも良かった。


何かやる事を見つけなければ、私が生きている意味はないのだ。


とベッドの上を見つめながら、故郷を目指す理由を伝えた。


「なるほど、私の似たような感じですね」


ヒガナは手持ちの弾薬を数えながら、ヒガナの身の上話を聴いた。



ジェラルド・R・フォード級航空母艦エンタープライズにて


今日は年に数回の祝いの日だったようで、空母の上でどんちゃん騒ぎだ。


貴重な乳製品や肉類が所狭しと並び、大量のアルコールが乗員達の腹を一時的に満たす。


ノリいい音楽に合わせ、飛行甲板はダンスホールと化していた。


それに混ざって、マドナが踊っているのを見ると、いよいよ人間との区別がつかなくなる。


空母での生活は順風満帆だった。


寝床は少々狭いが衣食住は保証され、朝はソーセージとパンケーキが出て、夜にはシャワーを浴びれた。


腰に拳銃を下げながら、川で水浴びしてた頃に比べたら雲泥の差だ。


メキシコ人の商人から手に入れたコーヒーを啜りながら、ダンスパーティーに明け暮れる大人達をヒガナはボーっと見ていた。


「退屈かい?」


唐突に声を掛けられ、振り返ると180cmぐらいの大柄な男が、マグカップを持って立っていた。


「あぁ、あんたか」


ジャックは、パーティーの雰囲気に似合わない野暮な質問をする。


「なぁ、あんたの光学迷彩……どこであんなもの仕入れた?」


「家の地下室にあった、多分父親が軍から離れた時に持って来たんだと思う」


「バッテリーが劣化してて連続稼働は出来ないけど、時間切れになる前に近付いてズドンだよ」


一口コーヒーを飲むと、コーヒーが少し苦かったのか、少しだけ牛乳を入れて回す。


「光学迷彩か……うちにも配備されたな、対空防護用だったが」


「特に開発競争が激しかったのは中東だ」


「大量に中国製光学迷彩が出回って、シリアやイランが実戦投入し始めて、イスラエルがそれに対抗して造るのいたちごっこだったよ」


ジャックはヒガナの光学迷彩が、アメリカとイスラエルで共同開発された第2世代型である事を見抜いた。


体を予めスキャンして、起動すれば加工布で体を覆わなくとも姿を消すことができ、暑い砂漠や熱帯雨林で汗だくになりながら、身を隠さずにすむ。


まさに未来の歩兵が持つ装備だろう。


「ねぇ……もし可能だったら、私に太平洋へ出る為の手助けをさせてくれない?」


「何故、ここが気に入らないのか?」


「そういうことじゃないわ」


「何か生きる意味が欲しいだけ……」


視界がぼやけてゆらゆらと揺れる。


船の揺れにしては大げさ過ぎる。


どうやら、さっき飲んだ不眠症の薬とロシア産の水が回ってきたようだ。


「うん?酔ってるのか?」


「いやぁ、酔ってないよ水を飲んだだけ」


「睡眠薬とウォッカを飲んだな」


「ひと昔前なら、警察署に一晩泊まる事になってたぞ」


水面にゆったりで浮かんでいるような、感覚の中でヒガナは立ったまま眠りについた。




次の日……


「諸君、我々は太平洋へのチケットを手に入れた」


マクドナルド大将は、アメリカ大陸の地図を取り出し、指を指しながら説明する。


「西海岸全域はBPによって制圧されている、その他にも南アメリカやアラスカから迂回するルートも制圧された状態だ」


「太平洋はBPの聖域という訳だ」


だが手立てがある、そう言ってPCから1つの音声を再生した。


「ブラッ*ホーク07からBP**へ、UAV*******とむ」


ノイズ交じりの音声は、軍人のように会話していた。


「あーこれは?」


マクドナルドの話によると、どうやら血液植物達が使っている暗号化通信を解読したもののようで、戦術的戦略的に我々を攻撃している事がわかった。


「我々は太平洋の制圧を武力によって行えると、思い込んでいた」


「たが、これを見て欲しい、辛うじて通じた偵察衛星からの映像だ」


映像には、船が折り重なるように集まっていてその姿は足に群がるドクターフィッシュのようだった。


10、20隻程度ではない。


100は優にこえるであろう大艦隊が、太平洋に展開していたのだ。


ニミッツ級、アーレイバーク級、アイオワ級、ロサンゼルス級、タイコンデロガ級、クイーンエリザベス級、スラヴァ級、キーロフ級、カシン型、あさぎり型、蘭州級などなど。


世界から集まった艦達が、鉄の海上要塞を作り上げていた。


「衛星はこの後、イージスのSM3で撃墜された」


「我が軍は実力による制圧は不可能と判断し、もっと知的に行こうと考えた」


「そこで丁度君達が運んで来てくれた、このA4サイズのアルミケースに入っていた物が役に立つ訳だ」


「さて、戦士並びに民間人諸君、1つ仕事を頼まれてはくれないか?」


ヒガナ達は艦の武器庫に案内され、大量の弾薬と大きな装置を持たされて飛行機に詰め込まれた。



ルイドゥアナ私立大学にて


「よし、開いたぞ」


ピッキングツールでドアを解錠すると、重装備にも関わらず、無音で施設内へ侵入する。


「世界が滅んだってのに、何俺達は大学に侵入してるんだろうな」


「運がないからじゃないか」


ここに来た目的は2つある。


1つは、この大学で研究中だったBP無力化装置(仮名)の捜索と回収である。


そしてもう1つは……


「ヒガナ昨日はよく眠れましたか?」


「うぅん………まぁね」


この2人の見張りである。


その姿は、まだ学校に行って勉強やスポーツ、友達とショッピングに行ってても良い歳だ。


例え今の世でも、人を殺すにはまだ早いくらいだった。


だが、その華奢な体に、とてつもない重圧がのし掛かっていたのは、彼女の目を見れば直ぐに分かった。


あらゆる闇を見すぎたのだ。


「バリケードを撤去する手伝ってくれ」


マドナはアルファ部隊の隊員と共に、階段に積まれた椅子や机、大型プリンタを持ち前の疲れ知らず知らずの腕で撤去する。


「あぁどうも、力持ちだな」


「おだてても何もお返し出来ないわよ」


「なら今度、整備でもどうだい?これでも大学じゃあ、ロボット工学習ってたんだ」


「考えとく」


隊員の1人とそんなジョークを飛ばしているマドナを見て、ヒガナは小さく笑った。


バリケードの隙間から2階へ進むと、またも前時代の面影を目視する。


催涙弾にゴム弾、レンガに火炎瓶、割れたガラスが、ここで何が起こったかを物語っていた。


「スチューデントパワーか……シカゴの家が燃やされた思い出しかないな」


「俺は中東から戻ってきた時、空港で生卵投げつけられたぞ」


ヒガナは、そんなに酷かったの?と質問する。


「酷い何てもんじゃないさ」


「毎日何処かの町の暴動で何人死傷者が出たとか、何処かの州で戒厳令が発令されたとか、そんなニュースばかりだった」


そして更に奥へ進むと、壁をキャンバスにしてスローガンや奇妙な絵が、雨水で黒ずんだ壁に描かれていた。


学生達は、一時の反抗を様々な形で楽しんでいたようだ。


「こうなってくると、装置が破壊されてないか心配だ」


「それなら、残骸や資料を持ち帰るだけだ」


「とは言っても20年前の物だぞ、残っているのか動くのかも怪しい」


「正確には23年と9か月21日だ」


「説明どうも」


アールとジミーの会話を耳にしながら、ジャックは斧でドアを破壊する。


頭1つ分の穴が出来ると、ジャックは穴に顔を埋めて「お客様だよ〜」と言う。


「海兵隊は気楽だな」


「陸軍はお堅いんだよ」


「「HAHAHAHAHAHAHA」」


場の空気が和んだ所で、装置の捜索に取り掛かった。


二手に分かれて、研究室と研究チームの寮を捜索する。


ヒガナは荒れ放題の校内を進み、寮へ向けて歩く。


州兵のトラックや臨時編成軍のアンドロイドが、レンガタイルの隙間から、日光浴の為によじ登ってきた雑草にしがみつかれている。


「もはや警察力では、怒り狂う学生達に太刀打ち出来なかったみたいだね」


「こうなるまで事態を放っておいた、大人達にも問題はあります」


釘の打ち付けられたドアをバールで外すと、寮内の捜索を開始する。


寮内は、20年前の生活を残したままだった。


そこに誰かが居るような、すぐそこから学生達の声が聞こえ、廊下を談笑しながら歩いて来そうな、そんなありもしない感覚が目に焼きつく。


「えいや!」


そんな雰囲気も露知らず、マドナがドアを蹴破り、鍵の掛かった机を力ずくで引き抜く。


「おやおや、これは……」


中から出てきたのは、ジャングルのトラップ(男の子)パラダイスという題名の薄い本だ。


「何で女みたいな見た目してる癖に……付いてるの?」


「さぁ?」


東の国の未知の異文化に触れ、困惑するヒガナ達は、気を取り直して次の部屋へ移る。


次の引き出しには、鍵が掛かって居なかった。


マドナは引き出しを覗くと、一冊のノートがあった。


「日記帳かな?」


何も書かれていない表紙を捲ると、日付と共にその日の出来事が記載されていた。


1月1日


学校に立て籠ってから1か月目、今日から日記を付けることにした。


いつからこの日記を振り返って、自分の子供に思い出話を聴かせてやりたい。


心配なことと言えば、ゾンビ映画みたいにノートが血で汚れて読めなくなることだ。


僕の日記を読んでいるそこの君!


昨日マイクの机から、マリファナを盗んだ事は内緒だぞ!


2月


今日はスーパーボウル開催日だったのだが、治安の悪化で中止のようだ。


クタバレ政府!


代わりに大学のフットボールチームが、試合をやるそうだ。


後でマイクと見に行こうと思う。


3月


今日はイースターの日なのかどうか知らないが、警官隊の喧しい説教が聞こえて来ない。


僕はキリスト教では無いが、今日ばかりは神に感謝だ。


暫くこの状況が続いてくれるとありがたい。


5月


昨日、州兵の銃撃で学生1人が死んだらしい。


みんなピリピリしてる。


過激な連中が、火炎瓶や石で武装し始めた。


女子達が、それを宥めて大喧嘩になってる。


僕も止めに入った方が良いだろうか?


8月


最近自分達のやってる事に疑問を感じ始めた。


元々は、イラン侵攻と大学の軍事研究への抗議のつもりで籠城したのだが。


何で僕達は、警察や州軍と戦っているのだろう?


昨日マイクが、フルオート改造したAR15を自慢げにぶら下げてきた。


店から盗んだらしい。


何で僕達は、店から物を盗んで右翼や政府と戦っているのだろう?


10月


ハロウィーンの日だが、今日も銃声と怒号がなりやまない。


僕らは、せめて帽子だけでも被ってハロウィーンの真似事をした。


昨日から臨時編成軍というのが動き始めたらしい。


アンドロイドと軍人の混成部隊らしい。


まるでターミネーターだ。


12月


朝から様子が変だ


ミサイル砲撃銃弾がおちてくる


赤いアンドロイドが攻撃してくる


ひかうきが撃ってくる地下に避難


1月


とても寒い


皆死んでしまった


家に帰れば良かった


暖炉にくべる物がなくなった


食料が底を尽きた


気力がない



最後


これが最後の日記になる


大学を出てどこか安全な場所へ行く。


ラジオは国が崩壊した事しか伝えない。


これから、黄色のダサい防寒着を着てヨタヨタ歩くと思うと、不安で仕方がない。


日記は置いていく。


僕がここに居た証明を残したいからだ。


さようなら



「…………………………………」


マドナは日記を閉じると、そっと机に閉まった。


「何か見つけた?」


「えぇ、存在の証明を」


ヒガナは捜索が一段落した所で、気分転換にマリファナを吸った。


「タバコは何であれ毒ですよ」


マドナの言葉にヒガナはわかってるよ、と返す。


「ところで質問なんですが……」


「なぁに?」


スラッグ弾を装填し、薬室へシェルを送り込む。


「あのアンドロイド……さっきまでさっきまであんな位置に居ましたか?」


「いや居なかった!!!」


銃口を向けられたアンドロイドは、腕だけで這いずり、ヒガナ達へ襲い掛かる。


3発の銃声と共に、頭部を失ったアンドロイドは機能を停止する。


寮の周りからガシャガシャと音が聴こえ、赤い弦が巻き付いたアンドロイド達が、寮を攻撃対象にする。


「アルファ隊へ、こちらマドナ応答願います」


「………………」


ノイズ音だけしか聴こえない無線のインカムを外し、戦闘体制へ移行する。


「馬鹿みたいにいるよ!」


机とソファで簡易的な防衛陣地を構築し、室内へ侵入するBP感染アンドロイド達を迎え撃つ。


「さぁこい!同族のよしみで皆殺しにしてやる!」

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