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鉄と血液

空軍基地ロネッサにて


テーブルを囲って、2人と1体が楽しくとまでは行かないが良い雰囲気で夕食をしていた。


「君の父親は英雄だよ、メキシコでは麻薬王を逮捕して、イラン侵攻では弾道ミサイル3基の位置を掴んだ」


「他にもあるぞ、BP支配地域への偵察、反政府組織の拠点52箇所を襲撃、優秀な特殊部隊員だった」


「あいつが死ぬとは……」


昔話に夢中になったせいで、冷めきったステーキが皿の上を悲しく彩っていた。


世界が崩壊した日、私の父は軍を出て行ったっきり、そのまま消息をたったらしい。


金融危機や片寄った大衆の意見が、国家を弱体化させ、そこを血液植物がトドメを刺したのだ。


誰かが掲げた正義を、SNSの閉鎖的なコミュニティが広げ、それに呼応して単純で声のデカい馬鹿が、偽善的かつ欺瞞的な情報に踊らされていたのだ。


食後に出てきたコーヒーを、見てウォーレンがまた昔話をする。


「昔はそれほど裕福じゃなくても肥満になれた良い時代だったよ、肉に魚、パン、チョコレート、アイスクリーム今はどれも高級品だ」


他国から原材料を輸入し、加工販売を行っていた人々にとって、港へコンテナ一杯の原料が運ばれないのは痛手だった。


趣向品の数々は、代用品や個人生産にとって代わり、一部の品物は高級品と化した。


「この窓から発展の光が見えるか?」


基地の周りは、星の煌めきが消滅する程の光を発していた。


長らく見ていなかった地上の星空である。


「あそこが工場だ、空軍で試験途中だった3Dプリンタが幾つもある」


「もう製造していない部品を造るのは、思いの外大変でな」


「3Dプリンタなら図面をデータに残しておけば、ブレードからミサイルまで作ってくれる」


3Dプリンタは、生産ラインを構えずとも部品を低コストで造り出すことが出来た。


一度製造を中止した部品は、大量生産による価格の低下を望めない為、必要な時に必要な分だけ造れる3Dプリンタは、戦時の時以外は予算不足に喘いでいる軍にとって強い味方であった。


だが、どうしても製造出来ない部品もある。


その場合は、砂漠で眠るモスボールされた古い機体から、部品を拝借するので問題は無さそうである。


「おっ?あそこの山には何があるの?」


ヒガナは、遥か彼方に見える小さな山に注目した。


「あれは核弾頭保管施設だ、国中からかき集めた核を保管する」


「そんな事教えても大丈夫何ですか?」


マドナの質問にウォーレンは笑って答える。


「機密は過去の物だよ、鉄道の作業員からピザ屋の人間も皆知ってることさ」


ヒガナは感心した。


彼らはこの20年何もやっていなかった訳でもなく、復興から危機管理までやっていたらしい。


緩やかに崩壊して行った世界は、過去の遺物を残したまま国家と言う主をなくし、その多くが破壊もしくは略奪された。


オールドソルジャー達はその遺物を復元し、かつての生活を取り戻そうとしていた。


だが、その道はまだまだ遠いように思えた。


「私は君のお父さんに随分助けられた、せめて何か恩返しをさせてはくれないだろうか?」


ヒガナは即答した。


「日本へ行きたい」



西海岸血液植物支配地域にて


「UAVが敵防空圏内に突入する、スタンバイ」


RQ2パイオニアが偵察の為に敵地へ侵入する。


「何か近付いてる、あっクソ、ロックオンされた」


ディスプレイからUAVが消失し、約5キロ程飛行した地点で撃墜された。


「今回も地対空ミサイルは撃ってこなかったな」


「無人機を囮にして防空兵器を炙り出す戦術を、完全に理解してやがる」


「データを記録しろ、10分以内にここを放棄する」


BP、ブラッドプラントはこの世界の謎の一つだ。


機械に侵食するこの奇病は、世界が平和と言う時代を謳歌していた時期に出てきたものではない。


丁度平和が終わり、新しい価値観や見解が世を賑わわせていた時だった。


晴れた日の朝、軍事施設や公共インフラ、政治結社の集会にミサイルを撃ち込み攻撃したのだ。


これにより、当時の世論であった軍事費を縮小し、福祉サービスの充実を図ろうとしていた雰囲気が一転した。


政治家達も民衆も、片翼しかない翼と胴をばたつかせ、右往左往する始末だった。


「巡航ミサイル、ドローン、気球、グライダーありとあらゆる物を偵察に使ったが、通れたのは人間だけ……」


「陸からも空からも海からも駄目」


「太平洋への道は閉ざされたままか……」


ジャック、ジミー、アールの3人は部隊をまとめ上げると、コンテナに偽装したUAVコントロール施設を放棄した。


「こちらアルファチーム、偵察任務を完了帰投する」


司令部へ報告を済ませ、了解帰投せよ、の言葉を聴くだけの筈だった。


「こちら司令部、すまないが新たな任務だ」


隊員達は、ビールやベットにありつけない事を知り、落胆した。




空軍基地グレースロニオにて


ヒガナ達は、途中まで航空機によって輸送され、次は陸路で海軍基地に行く予定だった。


M1117装甲車とハンヴィーそれに随伴する兵士も合わさって、基地は普段と違う威圧感を放っていた。


「よし皆聴いてくれ!」


「俺達の目的は彼処にいるお嬢さん方の護送だ」


注目され、照れくさそうに視線を反らすヒガナと、社交的に微笑み返すマドナに、多くの者が不可思議な疑念を抱いた。


「東海岸軍や賊に注意しろ!」


車に乗り込んむヒガナ達のその後ろに、一つのケースが運ばれた。


「おい、ジミーこの黒いケースはなんだ?」


「さぁ?あの女二人と一緒に運べだとよ」


兵士達はシートベルトを締め、車載されているM2機関銃とMk19自動擲弾銃にガンオイルを塗り、アーマライトとコルト社製のライフルをぶら下げ、MP5とUMP45を脇に抱えた。


車列が動き出すと装甲車に乗り込んだ者同士、簡単に自己紹介をした。


「ジャック大尉だ、よろしく」


「で、この無愛想な奴はアール」


「私は坂場ヒガナ」


「日系人か?」


「えぇ、まぁ」


次に、ヒガナの隣に座るマドナを紹介する。


こっちはアンドロイドのマドナ」


「女型はガイノイドって言うんじゃないのか?」


「いや、規定では区別しなかった筈だ、アンドロイドがLGBTの概念も持つ可能性があるって言って」


「変な話だな」


車列はガタガタのアスファルトを突き進み、寂れた住宅街を抜ける。


「昔を思い出すね」


「庭でバーベキューをしながら、特製ドリンクを飲んで酔っ払ってた」


「ウィスキーにエナジードリンクとコーラを入れて……かき混ぜるんだ」


「面白いぐらい酔える」


その後も川を渡り、海軍基地を目指して南下を続ける。


ガソリン携行缶から車へ燃料を入れて、また走る。


出発して車内が菓子とMREの袋で埋まった頃だろうか。


「アルファ1からブラボー2へ、6時の方向に熱源が見える」


報告通り、約5キロ先に複数の車両が見えた。


「ジャック?撃つか?」


ジミーが射撃の是非を問う。


「射程に入ったら威嚇射撃しろ、向かって来たらそのまま撃て」


「了解」


装甲車を先頭に出し、恐ろしいほどのスピードを出す。


「手慣れてるね、貴方達 元デルタ?」


「半分正解だ、元FBIに海兵隊、シールズも居る」


砲塔が旋回して各車迎撃態勢を取る。


この瞬間、鉄の蛇は無数の目と針で覆われた。


「ジャック!無線の調子が変だ、ジャミングを受けてる」


「なに!?」


その直後、車列が攻撃を受けた。


「敵のRPGチームを確認!排除しろ!」


M2とMk19が一斉に声を上げ、鉛の唾を吐き捨てる。


発射炎が見えた瞬間、ロケット弾は一瞬にして目前に近付きハンヴィーに直撃、3号車が車列から脱落する。


「TOWを放て!」


西へ東へ機関銃を向けろ!北へグレネードを!南へ土煙を!


「テクニカル接近!」


猟犬のように接近する敵を、ミサイルで叩きのめし、正面から突っ込んでくる敵車両を、ズタボロにして、装甲車で蹴り飛ばす。


「9時方向敵車両!」


「ヒガナ!ドアを開けてください」


バレットの狙い澄まされた一撃で、トゲを付けた世紀末仕様パトカーが廃車になる。


「やってくる割には大したこと無いな?」


岩の上から大きな影が現れ、車を覆おう。


雨?いやさっきまで雲一つ無かったはず……


ズシン!!!と大きな鉄を叩きつけ、そいつは現れた。


「なんだありゃ!」


現れたのはホウルトラックだった。


「凄い!ウルトラクラスだ!」


ホウルトラックは、そのデカさから想像のつかない速さで迫りくる。


「こっちは100以上出してるってのに、何でついて来れるんだ!?」


襲撃者達がトラックの背中から、銃撃を浴びせてきた。


13tの装甲車が煽られている事実に、車内の人間は凄まじい圧迫感を感じた。


「クソ!アホみたいにかてぇ!」


ありとあらゆる攻撃を跳ね返し、ハンヴィーから放たれたロケット弾を物ともせずに、ただヒガナ達が乗る装甲車目掛けて突き進む。


頭の上で激しく鳴り響いていた砲塔が、突然大人しくなる。


「弾切れだ!」


いよいよ、切羽詰まってきた。


フロントガラスの目の前に、天使か死神が現れ始めたその時。


「援護して!」


ヒガナはそう言うとAA12を担ぎ、ジャンプしてトラックをよじ登る。


「無茶な奴だ」


モンスターの背中によじ登ったヒガナは、射撃に夢中になっている敵へ、お昼の料理番組を放送する。


「観覧注意ですよぉ〜!」


32連装のショットシェルが、ソールズベリー・ステーキを製造する。


90%ヒューマンミートを使用したカニバリスト向け料理の完成だ!


因みに10%は鉄と鉛だぞ!


ヒガナが乗り込んできたことにようやく気付いた運転手が、ハンドルを固定し、運転席から飛び出す。


それに気付いたジャックが、箱乗りしながらUMP45で銃撃する。


銃撃によってハンドルの固定具が取れ、巨体が傾き始める。


「ヒガナーーー!」


間一髪の所で装甲車へ飛び移り、事なきを得た。


トラックは断末魔を上げながら、具材と共にシェイクされ、最後にガソリンコンロでじっくり炭になるまで焼かれた。


「今日の出来事は一生自慢出来るぞ」


ジャックの皮肉に、アールは鼻で笑った。



メポーティス海軍基地にて


歴戦の猛者達も、暫く休暇が必要な程ぐったりしていた。


ここは、オールドソルジャー達の幾つもある拠点のうちの、最も重要な基地の一つだ。


何故?かと言うと……


「空母何て初めて見たよ」


その圧倒的スケールに圧倒され、原子力空母の巨大さにまた圧倒され、中に招き入れられてコーヒー店が艦内にある事にまた圧倒された。


「遥々ようこそ、元海軍大将のマクドナルドだ」


マクドナルドは、ヒガナに握手をしようとしたが、返り血で汚れている事に気付き、少し躊躇った。


マドナが気を利かせて、ハンカチで血を綺麗に拭き取った後、握手をした。


「お客様をシャワー室に案内してくれ」


だるそうにしながら、艦長室を後にするヒガナ達を見送ると、ジミーから黒いケースを渡された。


誰も居なくなった艦長室で、マクドナルドは静かにケースを開けて中身を見る。


「どれだぁ……え〜タコダ作戦?違うな」


「アゼルバイジャン軍に関する報告……これは関連資料だ」


マクドナルドは古ぼけた資料から、1つのファイルを見つけた。


「これだ!あったぞ」



国防高等研究計画局


血液植物の行動理念とそれを利用したコントロールについて

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