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エンカウント

「敵集団を確認およそ200、この速度だと10分後に会敵します」


「okマドナ、他の連中にも知らせて」


窓際に取り付けられた、ランタンの光を3回点滅させると、別の家から3回ランタンが点滅する。


光による伝達は滞りなく行われた。


武器を持った町の住人達が移動し、金属のカチャカチャとした音が響く。


「町の人口は7000人、戦闘員は予備を含めて800人」


「敵兵力の予想はざっと1000ってとこです」


「勝てるかな?」


ヒガナは水でふやかしたオートミールを、胃に流し込みながら呟く。


「この町は、ここら辺で一番大きなコミュニティと聴きました」


「そこを襲うなら、それ相応の準備をしている筈ですよ、勝算は低いです」


マドナのCPUが弾き出した計算は、思ったより冷酷だった。


「そういうのって、嘘でも大丈夫とか言わないの?」


「ありませんね、私の軍に導入された理由の1つに、兵士に希望的観測とクリスマスまでには帰れると言う思考にさせないのが、任務に入っていましたから……」


談笑しているとパンパンと音が鳴る。


気の早い奴が、暗闇の中敵目掛けて馬鹿撃ちしてたのだ。


「兵隊の練度はそれほど高くないね」


「それでも立派な戦力です、文句があるならカスタマーセンターにご連らく…………」


「航空機?」


ふと、空を見上げると、数機のセスナがこちらへ近付いていた。


注意深く観察していると、翼下からパッと炎が上がった。


「伏せろ!」


直後、ハイドラロケットが町中に降り注ぐ。


敵機はターボプロップエンジンの音を響かせながら、頭上スレスレを飛行する。


「あれはなに!?」


「セスナ モデル900の軍用バージョン『P/A12ドラゴンフライ』です!」


この航空機は、国内の治安悪化に伴い、航空機と予算の不足に喘ぐアメリカ空軍が、苦肉の策として1000機を改造し、哨戒攻撃機として運用した物だ。


武装は、12.7mm機銃2門に250ポンド爆弾、ハイドラ70mmロケット、FIM-92スティンガー


安価かつ整備が容易、不整地でも離着陸ができ、パーツも民間機だけあって入手しやすい。


そして、そのせいもあってか……



「機銃掃射が来ます!」


銃弾が跳弾し、マドナの体を掠める。


敵機が上空を通過すると、マドナはバレットを構え、対空射撃を実行する。


しかし、いくら優秀なFCSがあるとしても、セミオートライフルでは無理があった。


弾は、機体の上や下を通り抜け、無駄撃ちに終わった。


空を飛ぶ航空機になすすべなし、誰もがそう思ったが、商店に陣を構えるヒガナ達には、アレなら撃ち落とせると思った。


「ティータイムの時間だ!」


ウィリアムが、M197ボストン茶会事件号を操り、反復攻撃に来た敵機を撃ち落とす。


夜空に光輝く曳光弾が飛び、人工天の川を作り出す。


「くたばれ無政府主義者!」


機関砲の登場に驚いた、敵機は怖じ気づいたのか、一目散に西の方角へ逃げて行った。


ウィリアムは、銃身の熱で温められた紅茶を、冷ましながら飲むと、ブレンガンを手に取り、地上から接近してくる敵集団を狙い撃つ。


暗視装置の無いこの暗闇で、驚くべきほど正確な射撃を披露する。


「良く当てられるね」


「夜目を馴らしておけば、暗闇でも動く影が見える」


そう言うと、草むらに隠れて移動する敵へ3〜4発撃ち込み倒す。


このまま行けば、敵は撤退してくれるかな。


そう思いかけた時、新たな脅威が現れた。


「騎馬集団が接近!すごい!」


マドナのガラス製の目には、暗闇の中を駆け抜ける騎馬集団が移っていた。



「ヤー!進め!進めカウボーイ諸君!」


先頭の男が味方を鼓舞し、後続の男達もそれに続く。


先程航空機がバリケードに開けた穴から、騎馬集団が入り込み、町中をかき回し始めた。


まずい!このままでは内側から崩壊してしまう、そう考えたヒガナは、自ら打って出た。


「私が対応する、マドナは援護をお願い」


「え、ちょっとヒガナ!」


M1ガーランドのクリップのように、外へ飛び出すと、屋根の上から敵へ散弾の雨を降らせる。


最初の連射は馬の後ろ足へ、次の連射は騎手の横っ腹へ命中した。


1人目は、馬から転げ落ちて首を折り即死する。


もう1人はあばら骨が5本折れ、その痛みにもがきながら、興奮して暴れ馬となった愛馬に蹴り殺された。


その攻撃に気付いた騎馬集団のリーダーは、名乗りを上げながら突貫してくる。


「私は騎兵のウィンチェスター!!!」


「小娘よ!騎兵の真髄を目撃させてやる!」


「変な連中、西部開拓時代は終わったし、モンゴル帝国は崩壊しましたよっと」


屋根上から銃撃し返答する。


「各騎散れ!女を屋根から追い落とせ!」


騎手達は、革の鞄からダイナマイトを取り出して火をつけると、屋根へポンポン投げ入れ始めた。


ヒガナはショットガンを駆使し、クレー射撃のように、ダイナマイトを撃ち落とす。


騎馬集団は、ダイナマイト漁のように、ヒガナを

追い詰めて行く。


ヒガナが意を決して屋根から飛び出すと、馬の頭が突然吹き飛んだ。


「 ! 狙撃兵だ煙幕散布!」


マドナからの狙撃を避ける為に、煙幕を巻き、まるでミサイルから逃げる戦闘機のように回避機動を始める。


「ちょっと遅かったね」


「お話は後で、敵集団がそれぞれ中隊規模に別れて移動中、回転翼機並みの戦場機動ですよ」


「あ〜統率が取れた連中は嫌い」


「どうして?」


「殺しにくい」


AA12へスラッグ弾を装填し、馬の足音が近付いてきたと同時に、訓練と経験に基づいた射撃を実行する。


馬の悲鳴に紛れて人の絶叫も聞こえる。


耳を突き立て、鼓膜を破られそうになるぐらいの悲鳴が、私の血液を煮えたぎらせる。


「フ゛ァ゛ッ゛ク゛ーーー!!!」


敵は最後の抵抗に、世界一有名な英語を口にしながら、ソードオフショットガンを突き付ける。


ヒガナは銃を蹴り上げ、口の中へバレルを突っ込み、脳味噌を挽き肉にした。


敵の処理に手間取っていると、M1895レバーアクションライフルを構えたウィンチェスターが、ヒガナを狙う。


「クソッタレ!」


弾丸は防弾ベストに当たり、ヒガナはボクサーにパンチを食らったような衝撃を受ける。


その衝撃に臆する事無く、片足を地面へ突き立て片手で散弾銃を撃ちまくる。


スラッグ弾が、ウィンチェスターの肩へ命中し、馬から転げ落ちそうになったが、体勢を建て直した。


弾の尽きたAA12を構え、その鋭い眼差しだけで敵を見つめる。


ウィンチェスターは、レバーアクション特有の排莢動作を行い、ヒガナへ引き金を引く。


「うん?」


しかし、弾丸は発射されなかった。


スラッグ弾の一発が銃へ命中し、破壊されていたのだ。


ウィンチェスターは、己の経験をフル活用して考える。


直線にして50mの距離、この距離を拳銃で当てられるか。


もし、向こうがAA12を装填して撃てば、馬ごとお陀仏だ。


今から、馬を走らせて必中の距離まで詰めるか?いや、向こうの武器が散弾銃だけとは限らない。


そうなれば、やられるのは間違いなく私だ。


「小娘、良い腕だな」


「名は何と言う」


ピンク色の幼き唇は、静かに震え思いがけない名前を口にする。


「ミートチョッパー……そう言われてる」


ウィンチェスターは顔に出さずに驚愕する。


まさか!?噂は本当だったのか。


100人以上を肉塊に変え、東部のならず者集団を壊滅させたあの女なのか!


「フッ噂は本当だったか」


ウィンチェスターは銃を仕舞い、信号拳銃を上に発射する。


オレンジ色の信号弾を見た騎馬集団は、波のように動き退却した。


「この借りは必ず返そう」


ウィンチェスターは、馬と共に町の外へ逃げて行った。


ヒガナは膝から崩れ落ち、その場に倒れる。


防弾ベストを脱ぎ、撃たれた場所を確認する。


「あぁ……最悪」


弾丸はベストで貫通力を失ったが、浅くヒガナの腹へ食い込み、鉄の匂いを漂わせていた。


まだ町の外では、ひっきりなしに銃声が響き渡り、戦闘の終結が見えずにいた。


空に見える、憎たらしいぐらい綺麗な星達へ問いかける。


お前達から見た我々はさぞかし滑稽だろう。


宇宙のどの場所探しても、こんなに酷い化け物達は居ないだろ?


本当に、救いようのない奴らばかりだ。

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