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変わり者

「では、閣議を始めたいと思う」


「まずは、軍事担当官から」


「はい、現在我々を取り巻く地域情勢は緊迫しております」


部屋が暗転し、部屋の中をプロジェクターが照らす。


「これは3日前に無人機が撮影した写真です」


航空写真には、小さな町が多数の武装集団から攻撃を請けている様子を写し出していた。


「このアメムルー町は、15年前から大陸各地に出没した自称国家の1つです」


「バチカンより狭そうだ」


エネルギー担当官の冗談に、ささやかな笑いが起こる。


「この町とは取引関係にあり、農作物や趣向品を輸入しています」


「反乱勢力との戦闘で取引は中断され、現在軍への供給が滞っており、この状況を打開するには軍の介入が必要と思われます」


しかし、周囲の反応は冷やかな物だった。


軍事担当官の要請に多くが難色を示したのだ。


「駄目だ、今月分の食料生産が追い付いていない」


「我が国の食料自給率は約60%、そのうちの30%を外から賄っている」


「そんな時に、大規模な部隊を伴う軍事作戦は容認出来ない」


エネルギー担当の発言に、軍事担当官は怒りに震えた。


もう一度大陸を一つの国にすることが、我々の目的な筈なのに、日和見主義的な考えに囚われ、安定を優先する連中に怒りを覚えていた。


「随分楽観的な様だが、軍の兵士が必死に築き上げた周辺地域との関係が悪化する事になるぞ」


「少し急進的過ぎると言っているんだ、もし村の防衛に失敗すれば、人員と国民からの信頼を一辺に失う事になる」


「だがそれでは!」



「我々の存在意義とはなんだ」



その人物の一言によって、誰もが口を閉じ鎮まった。


「我々はもう一度祖国を取り戻す、そうではないか?」


その人物の言葉には重みと責任感があり、その人物の発する一言は、歴史を変える力を持っていた。


「我々は旧アメリカ軍の遺物、オールドソルジャーと呼ばれ、各地に分散していた」


「それをこの場所に繋ぎ合わせ、再び合衆国軍として集結させたのには意味がある」


「彼らを助けるのに、我々が躊躇う必要など無い。米国民を守るのだ!」


ウォーレンの言葉で、人のみならず空気もメールも一斉に動き出す。


彼らはアメリカ合衆国の残党であり、最も優れた武力を持つ軍事組織である。


人々は、彼らをオールドソルジャーズと呼んだ。





アメムルーにて


「じゃあガソリンをやる代わりに、町の防衛に参加してくれ」


ヒガナ達は、渦中の栗を拾いかけていた。


「どうします?」


「仕方ない、ガソリンが無いと車は走れない」


「決まりだ、お前達は向こうの高台へ着いてくれ」


そう言って、男は仕事に戻って行った。


「何か考えがあるんですよね?」


「当然」


ヒガナ達は、当初ガソリンを入れたら直ぐに、町を後にする筈だった。


しかし、町の体制に意を唱える勢力との戦闘で、燃料が必要となり燃料を売らなくなったのだ。


「集落の人間が燃料はふんだくられるって、言ってましたけど本当でしたね」


「ならこっちは踏み倒してやる」


「何か考えが?」


ヒガナは周りをキョロキョロと見渡し、物陰へ誘導した。


「戦闘が本格的に始まったら、燃料を盗んで逃げる」


マドナは、あらまと言って口をわざとらしく隠した。


「こんなご時世なのに、政治闘争に明け暮れる連中共に付き合う義理はない」


「自分達が住む国が滅んだ理由を知っている筈なのに、また破壊するなんて馬鹿げてる」


「20年前は、その馬鹿げた連中が5000万人居たって話聴きたいですか?」


マドナはそう言って肩をすくめた。


「武器の点検をやった方がいい」


クリーニングキットを取り出し、丁寧に掃除をするヒガナを見てマドナは、脱出ルートを調べると言って町の中央へ向かった。


「土嚢は腰の高さまで積め!」


「俺達がここを守るんだ!」


「敵は多いが我々の闘志は勝っている!」


と、いった具合に、物資は足りてないが士気は旺盛のようで、町の要所に防衛線を構築して敵を待ち構えていた。


防衛陣地は造りが雑だが、素人にしては中々の出来だった。


敵が迫撃砲や航空機を持っていないなら、長く持ちこたえられるという分析結果が出たのが、何よりの証拠だ。


その後も町を調査していると、他の建物より少し高い建物があった。


(推奨 高台から町の観測)


アドバイスシステムの推奨に従い、マドナは建物の中へ向かった。


どうやら店舗のようだが、色々問題を抱えているのか煙草・酒・薬物販売中と書かれてた看板の下に、欲しいなら対価を払え!と真新しいペンキで、殴り書きしてある。


「すみません、何方かいらっしゃいますか〜?」


「………………」


返事は無く、誰も居ないように思ったが、「何も買わないなら出ていけ!」と店の奥の方から怒鳴り声が聴こえてくる。


「買いますから、店の屋上に上がらせて貰えますか?」


マドナがそう言うと、ドカドカと足音が近付き、顔を覗かせる。


「あんた誰だ?」


「マドナです、今は町の防衛に参加してます」


「参加してる?させられたの間違いじゃないのか」


偏屈そうな爺さんがそう言うと、グラスに入った酒を飲み干す。


「まあ……」


「お前が利口な奴なら、逃げた方がいいな」


「どうせこの町は終わる」


酒に酔った男は、カウンターに置かれてカピカピになったパンを千切り、酒で流し込む。


「情けねえ話だぜ、IRAと戦ってアフガンで4年間タリバン共を殺してきたのにクソッタレ!」


「自国民を20人殺すよりはマシですよ」


「何だ、あんたも軍に居たのか?」


「居たと言うより、置かれました私はアンドロイドですから」


酔っぱらいの男は酒をあおると、そうかアンドロイドか、アンドロイドね……


と言いながら、空になった酒瓶を見つめていた。


マドナのメモリーに、酔っぱらいは変なこと言うと記録された。






深夜頃にて


「皆聴いてくれ!」


「町が占拠された時の為に、確保していた逃げ道が封鎖された」


「私達は包囲された、だが!我々の町を守るという思いは誰よりも強い!」


広場で声高らかに叫ぶ男には、最早、戦略や戦術を考える脳がない。


精神論と団結の力で勝とうとしてるのだ。


「どうしようか?」


「仕方ありません、なんとか生き延びましょう」


「生き延びるたって……」


マドナは、不安そうな表情を浮かべるヒガナのほっぺたをつねった。


「ほえ?なぬぃ?」


「一人当てがあります」


そう言ってタイル張りの歩道を、足早に歩いて行く。


ヒガナは、訳がわからず少しの間、その場に立ち尽くした。


マドナの当てとは、


「やぁ、グレートブリテン及びアイルランド連合王国人のおっさん」


先程会ったばかりの酔っぱらいだ。


「あ゛ァ?なんだ?」


店のショーケースカウンターで寝ていた酔っぱらいは、マドナの声で目が覚めた。


「誰この人?マドナの知り合い?」


「簡潔に話します、逃げよう・包囲された・ダンケルク」


「そうか、大体わかった」


そして、目覚めの一杯に、冷めた紅茶へ酒を並々と注いだ。


「このままでは貴方も私もやられる。お互いに協力した方が良いでしょ」


いつもと違う強引な物言いに、ヒガナは更に困惑した。


「マドナ、そういうのは俺に何の得がある!とか言われるのが、オチってことは世界のじょうし〜」


「いいぜ」


「あるうぇ?」


「着いてきな、良いものを見せてやる」


店の奥に案内された二人は、このイギリス人が集めて作った、恐るべき兵器を目の当たりにする。


「まずはこれ、ブレン軽機関銃とその弾薬7.62mm弾3000発拠点防衛に最適だ」


次に見せられた物は、段ボール箱一杯に入った乾電池と豆電球、それからアンドロイド用の人口生命体用液だ。


「完成品がこれ、名付けてチャーチルの体温計だ!」


「踏んだら最後、1000度の炎が噴き出して、足に火がつくぞ!」


両足をバタバタと鳴らし、足に火がつく真似をする。


「火傷は恐ろしいぞ!化膿して足を切断、最後には感染症でお陀仏さ!」


酔った勢いで、ハイテンションで次々自慢の発明品を紹介してゆく酔っぱらいに、マドナはノリノリになり、ヒガナは口を半開きにした。


「さてお次はこれだ」


「ボストン茶会事件号!」


「M197機関砲に対空サイトと肩当てを取り付けて、人力操作を可能にしたハンドメイド品だ」


「弾薬の中に紅茶の葉っぱを入れて、銃身の熱で紅茶淹れられる画期的な発明だぞ!」


「you何とかにアップすれば、人気間違いなしだったのにな」


意気揚々と発明品を披露する酔っぱらいへ、ヒガナは水を差す。


「それって、ちょっと肌を露出した動画アップしたら直ぐにBANされるやつ?」


「あぁ…うん……そうだ.昔は結構自由だったんだが、過剰表現規制法が制定されてから軒並みそうなった」


「だから皆、ポルノサイトでゲーム配信とか料理動画を上げてた」


「そのサイトも、公式アカウント以外全部削除されたけどな」


地下室が微妙な空気になる中、マドナが手を叩き時間が無いから早く始めようと言って、3人は作業にかかる。


「そうだ、まだあんたの名前を聴いてなかった」


「名前?そうだな…英国紳士と呼んでくれ」


「真面目に答えて下さい」


「今のはジョークだぞ、ユーモアが不足してる、役所の婆さんみたいな事を言うな」


「はいはい、それでは社会保障カードを提示して下さい」


「ウィリアムだ、俺の名前はウィリアム」


名前を聴いたマドナは、怪訝な表情をして言う。


「何か、そういう感じがしない」


ウィリアムはため息をついて、ボトルに残った酒を飲み干す。


「だから名前を言うのが嫌だったんだよ」

現実が忙しくなってきたので、更新頻度が少し遅くなります。すまねぇ

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