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歪な世界の反逆者(改変バージョン)  作者: ドライアイス
第一章
7/14

処刑の時間

この闘技場におけるルール。


それは、罪人同士の決闘に限り、勝者はどのような罪を持っていてもその場で釈放されるというものだ。


力こそ正義であり、勝者は神に許されると考えられている。それがこの世界の決まりである。


では、敗者はどうなるのか?


「いやだ!やめてよ!やめってたら!」


敗北した格闘家の少女は、闘技場のスタッフの手により衣服を脱がされ、縄で体を縛られようとしている。


その間にも泣き喚いているが、獣耳の少女の能力がまだ解かれていないのか、少しも体を動かすことが出来ないようだ。


少女は瞬く間に裸体を晒し、縄で手足を縛られてしまった。


これから、闘技場における一大イベントが行われる。


それは、敗北者の公開処刑だ。闘技場に参加し、負けた罪人は例外なく処刑されるのだ。


暫くして、神官と見られる男が1人決闘場に現れた。手には何やら紙を持っている。


男は、シンと会場が静まり返ったことを見計らい、紙に目を落としながら以下のような文を読み上げた。


「罪人、ミラース・フール!そなたは親族の暗殺と放火、窃盗及び金銭の奪取を働き、この世界の治安と経済事情を著しく乱した罪で、この場において処刑を執り行う!よって・・・」


と、神父が一呼吸おく。会場にいる客たちも、静かに耳を澄ませている。


「神の御心において、猛獣刑を言い渡す!」


その言葉が放たれた途端、会場中に歓声があがった。


決闘が始まった時とは比較出来ない程だ。けたたましい程の拍手と歓喜が四方八方から響いている。


神官の男が会場から立ち去り、入れ替わるように現れたのは、茶色い毛並みの1匹の猛獣だった。


体長は大人の背丈ほどもある。鋭い2本の牙を剥き出しにして、客席からでも聞こえるような大きさで1度だけ低く唸った。


それから、縄で拘束されて動けない少女に、1歩、2歩と、ジワジワとにじり寄っている。


ーーー猛獣刑。


その名の通り、猛獣を使った処刑だ。処刑を受ける者は、逃げられないように縄で手足を固定され、猛獣が処刑の対象者を食べやすいように予め衣服を脱がせる。


つまり、これから少女は猛獣に食い殺されるのだ。最初から喉を掻き切られ、一瞬で絶命出来ればまだ良いだろう。だが、この猛獣はそこまで優しくはない。


この猛獣は、他の生物とは異なり臓器を好んで食べるのだ。特に、すい臓や腎臓が好物らしい。出来るだけ鮮度の高い物を口にしたいのか、本能なのかはわからないが、まずは「好きな部位から食べる習性」がある。


そのため捕食者は、自分の体を抉られて内臓を食いちぎられるという、形容しがたい苦しみに喘ぎながら死んでいくしかない。


「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」


客たちの声が響く。彼らの興奮は最高潮に達しているようだ。


「い・・・いやだあ!やめてよお!お願いだから殺さないで!!!もう二度と人を殺さないしに盗みもやらない!!!だから見逃して!!!!」


対して少女は、涙を流しつつ声を張り上げて命乞いをしている。


しかし、今更そのような話が聞き届けられるはずがない。


「助けて!ころさ・・・っ」


少女の言葉を遮るように、牙が体に突き立てられた。


少女の嗚咽が響く。


客席から喝采が湧き上がる。


硬いであろう鍛え上げられた少女の筋肉が、まるで紙でも破くように易々と、猛獣の牙や爪で抉られ貪られていく。


ビリッ、バリッ、ゴリッ、ヌチャッ。


体を削られるたび、少女の体から発せられる数々の生々しい音と共に、少女の悲鳴も大きくなっていった。


「ああ!!ああああ!!!!うわあああああ!!!!ああぁあぁああぁ!!!!!!!あああああ!!ぁああぁぁあぁああ!!!!!!!」


人間というものは、絶望的な痛さを感じている時は「痛い」と素直に口に出来ないものだ。ただただ、言葉にならない悲鳴をあげて、その場の苦しさを紛らわすのだ。


最も、叫んだだけで苦痛が抑えられるとは到底思えないが。


返り血で顔を染めた猛獣は、遂に好物であるすい臓を見つけたらしく、片足を少女の肉体に突っ込んで強引に半分程引きずり出した。


それから一度だけ舌なめずりをした後、ガブリ、と齧り付いた。


途端、少女はこの世のものとは思えない絶叫を噴出していた。


決闘を見に来たこともあるが、客たちは、この公開処刑を何よりも楽しみにしていた。


自分以外の人が苦しむのを見るのは実に楽しいものだ。この世界に住む人々の大半はそのように思っている。だから、こうして闘技場が設けられて、公開処刑というシステムが存在しているのだ。


凄惨な刑を見て、苦しむ声を聞いて大いに笑い、日頃の鬱憤を晴らし、ストレスを解消して、そして次の日からは健全な毎日を送るためにも不可欠だと、そのような考えも持っている物が大半を占めているのだ。


彼らに罪悪感はない。なぜなら、処刑される対象は罪人だからだ。罪人は裁かれるべきという真っ当な正義の元、こうして集っている。


悪事を働いた罪人を、どれほど笑ってやろうが許されると思っているのだ。


少女は、全身を血液で染め上げながら、目を白黒させて水揚げされた魚のように口を動かしている。内臓を食い潰されると言った例えようのない苦痛と、まだ死ぬことが出来ないという絶望が現れているようだった。


もちろん、公開処刑に対して「残酷だ」と反対する者もいなくはない。公開処刑そのものに、反対を唱えている集団もいる程だ。


しかし、少数派の意見などいつの時代であっても黙殺される。それに、娯楽の少ないこの世界に、数少ない楽しみをはく奪するなど酷な話である。


この世界では、元々住んでいる者の大半が、一部ではあるが外の世界から来たという転生者が、公開処刑に賛成している。


体を無数に抉られ、もはや原型を留めない少女の肉体に、再び牙が食い込んだ瞬間のことだった。


少女は、一度だけ体を激しく仰け反らせると、そのまま動かなくなった。目と口を大きく見開き、苦悶に顔を歪めながら、仰向けになって倒れていた。


バリバリと、猛獣が少女の体を貪っているが反応はない。恐らく死んだのだろう。


観客達は大きな拍手を送った。


愉快な物を見せてくれてありがとうと、感謝の気持ちが大いに含まれていた。


暫くして、観客達はゾロゾロと席を立った。


処刑が終われば、後は見る者なんてない。次の公開処刑が執り行われる日を心待ちにしつつ、揃って日常に戻っていくのだ。


「・・・これは一生なくなることはないね」


会場に来ていた1人の男はそうポツリと言い、足早に会場を後にした。

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