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歪な世界の反逆者(改変バージョン)  作者: ドライアイス
第一章
4/14

魔物図鑑

それから。


カルルは、森の周辺を歩き回り、一定数の魔物を仲間にしていった。


カルルの能力を適応させるために必要なトドメは、途中で試行錯誤はしたものの、思いのほか難しくはなかった。


やり方は簡単だ。まずは、従えている複数の魔物に指定した敵を殺す寸前まで叩かせる。能力によって、そのような加減をさせることも可能だ。


それまでカルルは手出しをしない。下手に前に出たら怪我をする恐れがあるからだ。


魔物の変えはいくらでも効くが、カルルという人間は1人しか存在しない。出来る限り、安全な方法を取ることは何よりも優先されるべきだと考えている。


そして、一斉攻撃を受けて虫の息になった魔物に対し、カルルがナイフで攻撃をして直接トドメを指す。このようにして、複数の魔物を味方に加えていった。


森の中の洞穴に住んでいたゴブリン、歩行する肉食の植物、毒の牙を持つモモンガといった、様々な魔物がカルルの仲間になっていった。


途中、ギガントと呼ばれる大型の魔物を見かけたが、これには触れなかった。何故なら、カルルの命を1度奪った存在だからだ。


一般的な住居1軒と同じ背丈のその魔物は、森に自生する大木を5本もまとめて運べるほどの怪力を持つ。能力を使って戦ったとしても、その魔物に勝てるかどうか怪しい。コボルトやゴブリンの群れを突っ込ませたとしても、容易く蹴散らされるだけだろう。


幸いにも、性格は温厚でこちらから手だしをしなければ襲われることはない。更には草食であるため、食われる心配もない。なので、この巨大な魔物は避けて他の魔物を手中に収めて行った。


様々な魔物を味方にするために、かなりの魔物___特にコボルトが死骸と成り果てたが、それについては何とも思わなかった。


魔物は、あくまでカルルの目的を果たすための武器に過ぎない。剣士であれば剣。魔法使いであれば杖のようなものだ。


武器と手を取り合って会話をしたり、手を組んで歩いたりするだろうか?


そんなことをするはずがない。魔物は生きてはいるが、カルルにとっては戦闘を行うための手段に過ぎないのだ。


使えなくなれば新しい物を手に取る。新たな物に取り替える。こんなことは常識だ。


それから、カルルは街に向かった。


森から歩いて10分のところにあるその街は、賑やかな雰囲気で溢れていた。


カラフルな石畳の上を人や馬車が行き交い、道の脇に軒を連ねる店では、商人と見られる大きな腹をした男達が、果物や鮮魚などを売り捌いていた。


カルルは、そのような雰囲気を横目に1人で歩いた。


魔物達は森に帰らせた。人目の多い場所で魔物を連れ歩くという目立つマネはしたくなかったからだ。


それに、能力を使って呼び出せば10秒と経たないうちにカルルの元に来るので、連れて歩く意味がない。


暫く歩き、カルルは書店に立ち寄った。


店内はシンと静まり返っていた。見渡す限り、客はカルルを除いて1人もおらず、店の奥では年老いた店主が退屈そうに欠伸をしていた。


いつもは混んでいるのだが、たまたま空いている時間にやってこれたようで、己の幸福に感謝した。


書店とは言うものの、店には本は1冊も置いていない。あるのは、店内の両脇に置いてある長細い机と、その上に等間隔に鎮座している水晶玉だけだ。


カルルは、黙って水晶玉に近づくと、手の平をかざして一言呟いた。


「魔物図鑑・上」


その言葉に呼応するように、水晶玉から光が放たれた。光はカルルの胸の前に集約され、徐々に形が作られていく。


光が消える頃には、カルルの手の平に分厚い本が置かれていた。タイトルは魔物図鑑・上だ。


この書店では、このようにして本を入手する。水晶玉に手にかざしながら、希望する本のタイトルを呟くというスタイルだ。


すると、現在発行されている本に限り、呟いた本人の手元に届けられるのだ。


どこかの魔法使いがこの水晶玉を発明したらしいが、それに関しては興味がないので全く知らない。


とにかく、後はその本を店主の前に持って行き、会計を済ませれば買い物は終わりだ。


カルルは店主の前に図鑑を置くと、自分の親指の皮膚を噛み切った。そして、カウンターの端に積み重なっている羊皮紙を1枚手に取り、そこに血判を押した。


店主のいる後ろの壁に、料金の後払いをする方法について書いてあった。カウンターの脇の羊皮紙に血判を押すことで、支払いを後回しにできるというものだ。


今はお金がないが、これから新たに味方につけて行くべき魔物の情報を知る必要がある。カルルは冒険者をしていたとはいえ、魔物の知識を網羅しているわけではない。


それに、能力の関係上、魔物の最低限の知識は必須である。何も知らずに使ってしまえば、能力を最大限に活用出来るとは思えない。


血判の押された羊皮紙を差し出すと、年老いた店主は黙ってそれを受け取った。


こういった業務には慣れているのだろう。手早く後方にあるコルクボードに羊皮紙をピン止めしながら、一言しゃがれた声で言った。


「お支払いは出来る限りお早めにお願いしますよ」


こうして、カルルは魔物図鑑・上を手にして店を後にした。

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