転生者の弊害
ある日、冴えない顔をした男がギルドに来た。
歳は18歳。色白で線が細く、どこか頼りがいのない雰囲気を漂わせていた。
その男は、転生者と名乗っていた。
トラックに轢殺された後、死後の世界で出会った女神から「優れた能力」を1つだけ与えられてこの世界に来たという。
その能力とは、どのような武器であっても1度触っただけで完璧に使いこなすというものだ。
剣、鈍器、槍、弓矢、斧、ブーメランなど、ありとあらゆる武器を使いこなし、魔物を屠り、多くの人達から賞賛を得ていた。
さらに、その男には不釣り合いとも言えるような見麗しい少女が2人付きまとい、彼女達は、男に対して好意を向けていた。
次の日、1人の男が来た。斜に構えた目立ちたがりの男だった。
彼も同じく転生者で、何かしら1つの能力を持っていた。さらに、その男1人を明るい雰囲気を纏った5人の少女たちが囲っていた。のみならず、昨日の男と同様に少女たち全員が彼に対して好意を寄せていた。
この前の日と同じく、女性に相手にされなさそうな雰囲気をまとった男だった。見た目は勿論のこと、喋り方もどこか生理的嫌悪感を催すもので、愛されるどころか近寄られることもなさそうな男だった。
それでも沢山の女性を引き連れているということは、きっと少女たちは、転生者達の能力に心惹かれているのだろうと人々は思った。
次の日、また次の日と再び転生者が来た。毎日のようにギルドにやってきた。自慢の能力、チートを持ち、美しい多数の少女を引き連れて。
彼らは集い、当時人々を困らせていたとされる魔王は倒された。
人々は転生者達に感謝した。これで平和が続くと思っていたからだ。
しかし、事態はこれまで以上に深刻になった。絶対的な力を持つ転生者達が横柄の限りを尽くし始めたのだ。
人間というものは、承認欲求を満たすことなく生きていける程強くは出来ていないものだ。それが例え、チート能力を持つ転生者であっても。
一度、比較出来ない程の称賛を浴びた転生者達は、更なる名誉を求めてギルドに押し寄せクエストを奪い合い始めた。
なるべく難しいクエストをよこせと叫び、それを瞬時に達成するとギルド内で大声で賞賛を求め始めた。
転生者達による上級クエストの独占は、彼らの出現によって自信を失っていた上級の冒険者達に追い打ちをかけることになった。
これまでやってきた上級のクエストが出来なければ、残っているクエストは中級及び下級のみ。これらのクエストは、揃って駆け出しの冒険者が行うのだ。
冒険者は、その仕事に従事しただけ腕が立つ一方でプライドも高くなっていく。肉体労働を行う者にありがちな思想だ。
上級の冒険者達は、自分の中のプライド故に上級クエスト以上のクエスト以外を受けようとしなかった。
そのため、熟練の冒険者達の大半は失業に追い込まれた。
多くの人は再就職が出来ず、路上生活を余儀なくされ、中には自殺した者もいた。
転生者の横柄な態度は、仕事だけでは留まらなかった。
道行く娘を囲って犯して辱めを受けさせたり、ギャンブルで不正を働き1人勝ちをしたり、路上生活を送る者に唾を吐きかけたりと、自分本位な態度が目に見えるようになった。
カルルの姉もまた、転生者達に犯され汚され心をズタズタに引き裂かれ、失意のあまり自殺をした。
このような彼らを国は止めることは出来ない。
何故ならこの国が、「転生者の優遇」を法律で定めてしまったからだ。
転生者は、逮捕されることも取り調べを受けることもない。税金を払う義務もない。それどころか「転生者」というだけで、毎月生活費が支給されるのだ。証拠は「チート能力」だ。国に設けられている役所に「チート能力」を有していることを認めてもらえば、それだけでもう何もすることなく生きていられる。
この法律を制定した国王が愚かだった。
魔王の侵略を恐れるあまり、救世主たる転生者を、過保護とも言える程の法律で守ってしまったことが問題だったのだ。
この法律の改正及び棄却を求める声もある。しかし、国王から王位を継承された新たな王ーーー転生者によって全て棄却されているのが現状である。
王となった転生者は、絶対王政を展開している。王に対して反対意見を述べた者は即刻処刑され、王にとって気に入らないとした者も処刑にかけられる。
年老いていながら温和で優しいと評判だった、退位した前王も処刑された。現在の王に対して意見をしたという理由だ。
王にとって気に入った者ーーー容姿端麗な女達などには豪邸を与えて優遇する。それ以外のどうでも良い奴には、かびだらけのパンをちぎって投げてやるような、極めて自部本位な政治が執り行われているのだ。
転生者が来る前の世界は民主主義を重んじており、どのような者であっても意見をすることが許されていた、寛容な世の中だった。
しかし、今や見る影も無い。
ーーー魔王の侵略に怯えていた方が平和だった。
転生者以外の、この世界を生きる者達の頭からその考えが離れることはなかった。