初めての戦い
「今から対戦相手の抽選を行いまーす。参加者の方は並んでくじを引いてくださーい。」
運営の男が呼びかけをすると、周りにいた大会の参加者たちはいくつもの列になちくじを引いていった。
「あなたは1ブロックの3番ですね。対戦相手は同じブロックの4番の方です。対戦表は奥の方にありますので自分の名前を書いといてください。」
修一もくじを引き言われた番号のところに自分の名前を書きに行った。対戦表の前には多くの人だかりができていて、なんとか名前を書き対戦相手を確認した。
(まだ書かれていないようだな。)
そう思い修一がその場を後にしようとした瞬間、先程修一を転ばせた男が現れ4番のところに名前を書いた。
「スラウス、、、」
書き込まれた名前を修一が呟くように読み上げるとスラウスは修一の存在に気が付いた。
「まさか、この私の大戦相手に書かれている『シュウイチ』とか変な名前のやつはお前か。一戦目からこんないかにも雑魚のような奴と戦うことになろうとは、これでは準備運動にもならんな。なんとついていないのだ私は。」
いちいち含みを持たせながら喋るスラウスに修一はいらだっていた。
「お前こそ、俺に負けて恥でもかくんだな。」
しかし、それを糧にするように修一は眉間にしわをよせ笑いながらそう言い放ちその場を去った。
大会は全部で8ブロックあり、1ブロックにつき一人の代表を決める。決闘をする会場はかなり大きな円型のステージで大理石のようなものでできてその周りを囲むように観客席が設けられていていた。ステージではブロックと同じ数だけラインで区画分けされていて、そこでそれぞれの決闘をしていた。決闘は実剣による一本先取なので大した怪我人は出てはいなかった。
「つづいて、3番シュウイチ選手と4番スラウス選手の試合を始めます。」
「なんだ貴様のその武器はそれで勝つつもりか。」
修一が持っていた剣は大会から無料で借りられるかなりぼろい剣だった。しかし、剣を握っている修一にはそんな挑発にのる様子はなく、ただ勝つことだけを考えている眼をしていた。
(今から人を切ろうというのにまるでためらいを感じない。本当に借り物の体のようだ。)
修一はそう思いながら剣を握った右手を体の後ろにもっていき左足を前に出し体を前に倒した。対するスラウスは両手で自前の剣を握り、前に倒した。二人の間で緊張が走る。
「それでは初め!」
審判の合図で修一はスラウスめがけて突っ込んだ。
「なに、」
修一の速さにスラウスは驚いたが剣を振り下ろした。
パキィーン
両者の剣同士がぶつかり火花が散った。
「うっ、、」
その衝撃に耐えられずスラウスの剣ははじかれ体制を崩した。修一はその一瞬のすきを逃すまいと次の斬撃を繰り出した。
ズバッ
修一の剣はスラウスの鮮血を飛び散らせながら胸元を切った。
「勝負あり。勝者はシュウイチ選手。」
「ふぅー、すっきりした。」
修一は剣を鞘に納め舞台の外へ退場した。一方、スレインは切られたショックで気絶し担架に運ばれていった。
その後修一は順調に勝ち進んでいき1ブロックの代表になった。
「今日はお疲れさまでした。ブロック代表の選手は三日後に本戦があるのでそれまでしっかり休んでください。」
運営の男が終了の言葉を言うと観客も選手も次々に解散していった。修一は代表なりそれなりの賞金が手に入ったので3日間泊まるための宿を探していた。大会が終わったのが日暮れ近かったので受付をやっている宿がなかなか見つからなかった。やっとの思いで宿屋テレスという宿に泊まることができた。
「ふぅー今日は色々あって精神的に疲れたな。あれだけ激しく動いたのに体は全く疲れてないから不思議だよなぁ。なんと言うか便利な体だな。けどまぁ、疲れてなくとも休むのは重要だよな。今日はよく寝れそうだ。」
翌朝、修一は起きてすぐに重要な事実に気が付いたそれは、
「腹減った。」
ぐぅぅぅーーー
「そういえば昨日は丸一日何も口にしなかったからなぁ。ここの宿屋は朝食と宿泊がセットだから食堂にいけば何か食えるだろう。」
修一は自分の部屋を出て階段を下りて食堂へと向かった。食堂は宿屋とは思えないぐらいの席があった。その理由はここは宿屋兼食事処だからである。だから時間が遅くとも受付ができたのである。
「朝食お願いしまーす。」
「はーい。」
修一が注文をすると奥の調理室から返事が聞こえた。注文を終えた修一はカウンターから離れ適当に空いている席に座った。
修一が少し待っていると料理が運ばれてきた。どうやら今日の朝食は、バターロールのようなパンとコンソメスープらしき野菜スープ、それから昨日の余った料理のハンバーグらしい。
「よっし、それじゃーいただきます。あん、、もぐもぐ、、、うまい!」
バターロールは前の世界よりも固いがスープと食べるといい感じに柔らかくなりむしろおいしく感じる。ハンバーグも昨日作ったとは思えないほどジュウシーである。空腹だったこともあり修一は出された料理をすぐに完食した。
「ごちそうさまでした。あぁーうまかった。腹ごしらいも済んだしそろそろ町に出ますかね。」
修一の今日の日程はこうである。まずは武器探し。ブロック戦ではレンタルの剣でもいけたが本戦ではこうはいかないと思い賞金でそれなりの武器を買うつもりである。次に剣術の練習、この体はわりと剣技なら何でもできるようだが感覚的にまだ何かできそうなのでそれの模索である。あとは、町を適当に見回るよていだ。
「とりあえず優先したいのは剣だな。剣士が役職の人が一本も持ってないんじゃ無職同然だからな。」
宿で聞いた腕利きの鍛冶屋に修一は向かった。
鍛冶屋では剣だけではなく盾や斧、クラブ、鎧など様々なものが置いてあった。しかしそのどれもが、
「高い、、残りの二日間の宿代を考えるとかなりギリギリのものが多いぞ。もっとお手頃価格のものないかねぇ。」
修一が低コストなものをさがそうとしたとき奥から店主が現れた。
「いらっしゃい。おや、あんたは確か昨日の大会でブロック代表になっていたひとじゃないかい?」
かなりどすのきいた声で店主が修一に尋ねた。
「はい、そうですけど。」
「やっぱりか。いやぁーあの戦いっぷりはなかなかのうでだったよ。なのに大会が貸している剣を使ってるんだからびっくりだったよ。もしかして、うちの店で買うつもりかい。」
「はい。そうです。宿の人からこの町一番の鍛冶屋と聞いたので。」
「そいつはうれしいねー。そうだなぁーこいつなんかどうだい。」
店主が壁にかけてあった一本の剣をすすめてきた。
「すすめてくれるのはありがたいのですが実はですねー、お金があんまりないんですよ。」
「そうかい。うぅーん。そうだ、あんたの腕を見込んで一本うちの剣から好きなのを譲ってやるよ。」
「ほんとですか!」
修一は思ってもみかったことに喜んだ。
「ただし!二つ、条件がある。一つはこの俺、ガルムの鍛冶屋にこれからもよること。もう一つは大会で優勝してもらう。あんたがうちの剣で勝ってくれりゃ俺の知名度も上がるからな。けどもし負けたなら剣は返してもらう。どうだ、悪い話じゃないだろ。」
「うーん。いいでしょう。その取引に応じます。」
修一はガルムの出してきた条件に少し驚いたが、考えてみれば修一には何の不利益もないわけなのでその話に乗った。
「それじゃー契約成立だ。約束どうり好きなの一本選んできな。」
修一にはどれがいいのかわからなかったが、感覚的にどれが自分に合っているかはわかっていた。たぶん、体は一流の剣士だからだろう。そうして見ているうちにひときは気になる剣があった。修一はそれを手に取り鞘から抜き出した。その剣は刀身がレイピアと片手剣の中間ぐらいの細さがあり淡い水色をしていた。柄の部分は鳥の翼のようなデザインになっていた。
「旦那、そいつでいいのかい。選ばせておいてこういうのもなんだが、あまりそいつはおすすめしないぜ。そいつは切れ味は抜群でものとしても一級品だが振ったときの速度が速すぎてまともに扱えないんだ。」
ガルムは苦笑いしながら剣の説明をした。が、
「これにします。」
修一は迷いなく答えた。
「旦那がいいならいいんだが決める前に試し振りをしなきゃな。」
そういってガルムは修一を丸太が並んだ部屋に案内し一本の丸太を持ってきて切らせようとした。修一は剣を握り丸太に意識を集中した瞬間、剣を振った。
スパァァン
丸太は綺麗に切れた。しかし驚くべきところそこではない。
「だ、旦那、いまいつ切ったんだい。」
そう剣を振った瞬間がわからなかったのである。一瞬たりとも振ったときの刀身が見えることはなかった。
「やっぱりこれを持ってくよ。」
「お、おう。大会頑張ってな。」
修一は鍛冶屋を後にし練習するべく壁の外に出た。
「ここら辺でいいかな。」
修一は剣を取り出し構えをとった。つぎは連続で剣を振るつもりだった。
「ふぅーー、はっ!」
シュシュシュシュシュシュ
たしかに振っている音は聞こえるがやはり刀身は見えない。
「これなら大会もいけるな。」
その後も修一は剣を振った。




