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異世界トラベラー  作者: 内藤 健
2/5

初めての異世界

 異世界転移など普通の反応では、喜びや驚きを含んでいるものだか、修一のいまの気持ちはそれと正反対のものだった。

「くそ、まだ言うことは沢山あったのに。人の気持ちをなんだと思っているんだあいつは、絶対に許さねぇ。確か異分子を排除を排除すればいいんだったよな。とっととその勤めを果たしてぶん殴ってやる。」

修一はそう言って落ち着きを取り戻して周囲を見渡した。

 修一の周りは草木が生い茂って森の中だとわかった。あちこちから鳥の鳴き声が聞こえ、木の葉の間から日光が漏れとても幻想的な景色になっていた。

 次に自分の姿を見ると簡素なデザインの麻でできた薄手のシャツとズボンを着ていた。

「とりあえず、人のいそうな所へいくか。この世界のことも知らないといけないし。」

 修一が数十分歩くと森を抜けたようで、視界が一気にひらけた。

「すげいな、、」

そう言った修一の目の前には壮大な景色が広がっていた。空は澄んだ水色をしていて見ている位置が丘の上にあるので遠くの方まで見ることができた。丘の下には町らしき建物が建っていた。

「あそこだったら、人がいるだろう。そこで色々情報を集めるか。」

 町を囲っている壁の関所らしき場所に修一は着いた。壁はすべて形の整った石のレンガでできていて、石と石のあいだには粘土質の土が乾いたものでつなぎ合わせていた。

「あなたは手荷物を持っていないようですが、この町には何の用で?」

そう聞いてきたのは金属のチェストプレートを着て、腰に剣をさげたいかにも門番という感じの男性だった。

「実は僕、記憶を失っていて気が付いたら、あの丘上の森にいてとりあえずこの町に来ました。」

さすがに前の世界のことを言うわけにもにもいかないので、修一は前の世界で読んでいたラノベの主人公が異世界にとばされたときに身元を隠すために言った台詞を言った。

「本当ですか?それは困りましたね。何か覚えている事はありませんか?名前とか。」

(とりあえず名前ぐらいは言っておくか。)

「名前は覚えています。修一です。」

「シュウイチさんですね。そうですねぇー、まずは市役所に行って戸籍を作ってもらって、それから銀行でお金を借りればいいと思います。」

(あれ、名字は言わなくてもいいのか。)

門番の言われたままに修一は町をまわることにした。地図を渡されたのでそれを見ながらまわっていた。町は西洋風の家が建ち並んでいてその一軒一軒が色のついたレンガでできていて、道は一直線になっていた。

 修一は地図に書かれていた場所に向かいながら町の様子を眺めていた。すると、ガラスごしに剣が並んでいるのが見えたので興味本位で覗いてみた。

「凄く凝ったつくりになっているなー。前の世界だったら絶対に見れなかっただろ、う、、な?」

修一がそこを離れようとした瞬間驚くようなものが修一の目に入った。それはガラスに映った姿だった。姿というよりは顔に驚いた。

「これが俺の顔か。前の顔と似てなくもないが、、、」

似てなくもないが、どう見ても24歳の顔ではなかった。おおよそ18から20歳ぐらいの顔だった。

 修一はそういったこともあったが地図にかかれていた市役所に着いた。市役所は周りの建物よりも一回り大きくデザインも凝っていた。中に入るとホールになっていた。中央には窓口らしきものが並んでいて左右対象になるように階段が作られていた。

「すいません、戸籍を作りたいのですが。」

修一は窓口に近づき受付であろう女性に尋ねた。

「はい、ではまずお名前をお願いします。それとお役職を。」

「名前は修一です。役職は、、、ありません。」

修一がそう答えると、その女性は少し驚いたようすだった。どうやらこの世界ではこの顔ぐらいの年齢で役職を持っているのが普通らしい。

「では、まず戸籍作りの前に役職を決めましょう。」

そういって受付の女性は席を立ちどうぞと言って修一を案内し始めた。

 数時間後、、

「で次はなにをすればいいんですか。」

 修一はぐったりした様子で質問をした。女性が修一の今いる場所に着いてから数時間、修一はずっと試験と言われ編み物やら鍛冶やら家の設計図を書かされたりしていた。どうやらこの世界では色々な試験を通してその人にあった役職を与えているらしい。

「次で最後です。最後は()()の試験です。」

女性がそう言うと修一の前に一本の丸太が縦に置かれ、手には金属製のかなり使いまわされたであろう剣をもたされた。要するにこれで丸太を切れということだろう。

「不思議だ。心が落ち着く。まるで今までもこうしてきたような。」

修一は剣を握った瞬間そう思った。さらに驚くべきことに丸太を切ろうと思った瞬間、頭にどうすれば丸太を上手くきれるか、どの角度で、どれくらいの力でその全てが入ってきた。

 スパァァン

そしてついに修一は丸太を切った。右上から左下にかけて剣をはしらされたそれ(丸太)は見事な切り口をしていた。修一はそれを見て驚いていた。しかし、驚いていたのは修一だけではなかった。受付の女性を含め審査をしていたその場の全ての人が修一と同じ表情を浮かべていた。

「あなたいったい何をしたの?」

「何って言われた通り丸太を切っただけなんですけど。普通に。」

困惑しながら質問をした女性に修一も困惑しながらこたえた。

「嘘でしょ。だって、中には金属の芯が入っているのよ。」

「へ?」

間抜けな返事をしながら修一は切ったものの断面を見ると確かに丸太の中心に直径10センチ程度の金属質の芯がみっちりと入っていた。

(嘘だろこんなもの切った手ごたえは全然なかったぞ。)

「と、とにかくこれで試験は終わりです。結果は戸籍を作ったときに報告しますね。」

そう女性に戸惑い気味に言われた後、修一はさっきのホールで結果と戸籍が作られるのを待っていた。修一が待ちくたびれて寝そうになっているとき。

「シュウイチさま、結果が出ました。あなたの役職は剣士です。剣士は護衛や悪人の制圧を主な仕事とします。また決闘形式の大会に出て優勝をして賞金を得たりしてお金を稼ぎます。それとこれがあなたの戸籍です。他の町に行って身分を証明したり土地を買うときに使ったりしますのでなくさないよう気を付けてください。」

「わかりました。ところで剣士の役職ではどうやって稼ぎ始めたらいいですか。」

「そうですね、、、普通の剣士の職に就いた人は町を見回って盗人を捕まえたりして知名度をあげ、それ以外の時間では剣術の稽古したりして剣士として格を上げていき依頼が来るようにするものですが、あなたほどの腕があればいきなり大会に出て優勝するのが良いと思います。丁度今日開催する参加費が無料の大会があるので参加してみては。」

そう受付の女性がいうと門番からもらった地図にここですよと印をつけた。修一は大会会場に向かいながらさっきの試験を思い出し考え事をしていた。

(あの剣を握ったときの感覚といいこの体といい不審なことが多いぞ。どういうことだ、まるで元から用意されていた体に俺という精神が入ったみたいだ。だとすると俺がやったことがないだけでこの体にはできることが沢山あるんじゃないか。特に剣に関して。まぁ、それも大会で剣を使ってみればわかるだろう。)

と修一は色々考えているうちに地図にしめされた場所に着いた。

 大会会場となっている建物はローマのコロッセオと似たような形とデザインをしていた。入り口は二つあり、一つは人の列ができていて、もう一つは腰に剣を下げた人たちが並んでいた。修一は後者の方の入り口に近づいた。

「大会に参加したいのですが、、」

「わかりました、それではあなたの戸籍を見せていただけますか。」

そう言われ修一は先ほど作ってもらったばかりの戸籍を受付の男性に見せた。そうするともう一人の男性が修一を会場内まで案内した。

 修一が歩いていると周りが修一を見ていた。

「おい見ろよ自分の武器も持っていないやつが参加するのかよ。いくら参加が無料だからっていきりすぎだろ。」

「きっと、役職が決まりたてで自分には才能があると勘違いしたんじゃね。」

「「はっははははは」」

皆が修一を見るなり小ばかにしていった。

(バカにしやがって。まぁけど俺の恰好が恰好だけにそう言われてもしょうがないか。)

修一は気分を損ねたが自分の姿を見て割り切った。しかし、

「おっと足が滑った」

と近くにいた男性がそう言って修一の前に足を出してきた。

「うぉっ」

バタン

急なことに修一はその男の足につっかかり転んでしまった。

「くっくくく」

男は倒れた修一を文字どうり見下しながら微笑した。

「テメェ、、」

修一はその男を睨みながら立ち上がった。

「何か文句でも。」

男は一歩も引かず自分の腰に下げた剣を少し鞘から抜き出し修一に突き付けた。さすがの修一も丸腰では何もできないので怒りを押し殺しながらその場を後にした。

「見たかよあの腰抜けっぷり、傑作だったな」

「「「はっははははははははははははは」」」

修一のうしろで大きな笑い声が聞こえた。それを修一は爆発寸前の怒りを必死に抑え込みながら聞いていた。

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