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異世界トラベラー  作者: 内藤 健
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始まりの別れ

 「俺はなぜこんなところに、、、」

彼はそうつぶやいた。何もない辺り一面真っ白な世界で。

 彼の名は、高橋修一。24歳で独身のビジネスマン。特に不満もなく生きてきた。不満があるのだとすれば、いまの上司がとてつもなく嫌な人ということだけだった。

 ある日、同僚がまるでミイラのような疲れた面立ちで修一によってきた。

「どうしたんだよ。顔がすごいことになってるぞ。」

「いやちょっと昨日上司と一波乱あって。」

「またかよ。で、今回はどんなだった。」

「昨日、上司と契約先のお偉いさんと挨拶に行ったんだがな、その時渡すはずだった資料を上司が忘れたんだよ。それを俺のせいにしてさ、お偉いさんの前で怒られちまった。」

同僚は人がいいので、大抵の人ならば憤慨しながら言うだろうそのことをへらへらっと言った。修一もそれにあわせて苦笑い気味に聞いていた。

しかし、内心では上司への怒りで心がいっぱいだった。今すぐにでもそいつ(上司)を殴ってやりたい。

そんなことばかりを思っていた。

(けど、そんなことをすれば一発アウトだやめておこう。)

と修一は自分に言い聞かせその熱を冷ました。

 いつもこんな感じである。上司のことを聞き業を煮やしては、自分にはどうしようもできないやめておこうと、その熱を冷ます。

「とりあえず、とんけん食堂に行こうぜ。」

修一は自分の気分転換のためにも同僚を食事に誘った。

 今日は何定食にしようか悩みながらとんけん食堂に入ると、例の上司がいた。その姿を見た瞬間、修一の中で先の怒りが込み上げてきたがどうにか抑え適当に空いている席を探すと上司の後ろだけが空いていた。しぶしぶその席に座り注文をすますと上司ともう一人の会話が聞こえてきた。

「いやぁ、先日は本当に困りましたよ。部下の一人がですね資料を忘れてしまったんですよ。もし私がカバーしていなかったら契約先との関係が悪くなっていましたよ。」

どうやら上司は所長と話していて修一たちには気がついていないようだった。けれど、修一にとってはそんなことどうでもよかった。あるのはただ純粋な怒りだけだった。

 次の瞬間、修一は上司の胸倉をつかんでいた。

「おい、あんた。自分のミスをよくも平気で他人に押し付けられるなぁ!押し付けられた側がどんな気持ちかなんてかんがえたことないだろう!」

「き、貴様。上司である私になんてたい、、」

「ごちゃごちゃうるせいな!」

バチン

修一は右手で上司の左頬を力の限り殴った。そして上司が倒れた瞬間目がくらむぐらいの光が修一を襲った。

 気が付くと修一は真っ白の何もない世界にいた。

「ここはどこだ。俺どうなったの。もしかして上司を殴っただけで死んだのか。」

「あなたは死んではいませんよ。」

戸惑っている修一にどこからともなく女性の声が聞こえる。

「え、どっから聞こえてるのこれ。もしかして夢。」

「夢でもありません。どうか落ち着いてください。」

「落ち着けと言われても、、」

まだ落ち着きがない修一のことを気にせずにその声は話を始めた。

「あなたは先の世界での勤めを果たしここに来たのです。」

なんとか頭をおいつかせた修一は質問をした。

「勤め?なんだそれ。俺はこんなところに来るようなことはしてないぞ。」

「あなたの勤めは、あの男を殴ることで果たされました。」

「そんなことでか。だったら誰でも果たせたんじゃないいか。その勤めとやらを。」

「いいえ。あなたがやることに意味があったのです。あなたには様々な世界を旅して、その世界の異分子を排除するという役目があるのです。」

「なら俺達の上司がその異分子てことか?あの人は性格を除けばただのそこら辺にいる一般人だぞ。」

「はい。確かに彼は一般人です。しかし、その性格が異分子だったのです。異分子は大抵の場合、その人や物自体ですが稀に精神だったりするのです。精神の異分子の排除の方が簡単そうですが、これはその人の性格そのものを変える必要があるのでとても困難なことです。まぁ、あなたはパンチ一発で解決できたみたいですが、」

そう謎の声がひとりでに説明している中、修一の頭には大きな疑問が浮かんでいた。

「ところで、その上司や俺の存在はどうなったんだ。俺の葬式とかやってんのか。」

「異分子の対象であった彼は別人になったように勤勉に働くようになりました。」

そう言うと修一の目の前に霧のようなものでできたスクリーンにその上司がせかせかと働いてる姿が映った。

「あなたの存在は()()()()ことになっています。生まれてから今まであなたがしたことはもとから当たり前にあったこととなっています。」

謎の声が説明しているあいだにスクリーンでは修一の家族や友人の様子が映しだされていた。皆、まるで何事もなかったように過ごしていた。それを見ていた修一の眼には涙がたまっていた。

「何を泣いているのですか。あなたは勤めを果たしたのです。喜びなさい。」

「あんた本気で言っているのか。喜べるはずないだろ!今まで俺が大切にしてきたことや楽しかったこと、苦労したことその全てがなくなった上に誰も俺のことを憶えていないなんて、あんまりだ。」

その言葉には怒りなのか悲しみなのかわからないが修一の張り裂けそうな気持ちが込められていた。

「そんなことで感情を振り回されていては、この先身がもちませんよ。あなたはもうつぎの世界へ行かなければならないのです。」

「おい、まさかこんな体験をまたするのか。」

「今回は記憶を保持したまま行ってもらいますからそんなことにはなりません。さぁ行きなさい。」

その瞬間、上司を殴ったときと同じ光が修一を襲った。

「ちょっと待て、話はまだ、、」

 修一が気が付くと見知らぬ草原に立っていた。

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