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人殺しの英雄と不吉な目の少女  作者: 鳴都伊鶴
第1章 異質な出会い
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第4話 軍人の少年

ラギア法国兵士の爆発から飛鳥を庇ったとき、俺は死を覚悟していた。


戦闘を始めた時に感じた違和感、それを危機であるとわかっていれば結果を覆すことができていたはずだ。


だから、意識が覚醒したとき、はじめはここが天国か地獄かのどちらかであると思っていた。


しかし、あまりにも現実的であり、そして庶民的でもある状況、それから病院特有のツンとする消毒液の匂いから、どうやら死なずにすんだのだと安堵した。


体に感じる痛みや倦怠感、動く気はどうしてもおきなかったが、状況把握に努める必要があった。


そこで登場したのが、今俺の目の前にいる少女である。


フィヨルカ語を話した彼女は名前をセレスティア・グレース・エルラントと名乗った。


フィヨルカ語であるからこの場所がエルラント王国の病院であることが確定した。


爆発を受け、川に流されたのだろう。


生きていたことが自分でも不思議に思う。


帝国にとって、エルラント王国は敵国であることに間違いはない。しかし、帝国はこの国を戦略目標には入れていなかった。


“歴史が長いだけの農耕国家”


昔、軍学校にいた時に教官がそう話していたのを覚えている。


正規軍は存在するが、剣や弓の兵士がその多くを占めーー騎士、と言ったかーー銃兵は僅かであると把握している。


だからこそ、連合国軍への派遣も少なく、国家防衛に力を注いでいる。


そんな国の国名を性にもつセレスティアは虹彩異色として生まれたから災いをもたらす不吉な存在として扱われた。


王族の血を引きながらも、こんな辺境の地にいるのもそれが理由だろう。



「夕食を用意しました」



考え事をしていると、外は真っ暗になっていた。

火の魔法を帯びた魔鉱石の柔らかい光が部屋を満たすなか、セレスティアがお盆を持って現れた。



「ありがとう」


「お口に合うと良いのですが」



起き上がろうと試みたが、体に力を入れただけで激痛が走る。


簡易の机がベッドの上に置かれ、そして、セレスティアの手を貸してもらいなんとか起き上がることができた。



「すまない」


「完治するまでは、私が秀さんの看病をすることになっています。お気になさらずに」


「ここは病院だろう? 君は看護師ではないはずだ」



少なくとも、王女のような地位にあるセレスティアがする仕事であるとは思えない。



「帝国の方の看病を他の方に任せることはできません。というのが、名目上ですが、今このは病院はカーラ先生ともう一人の看護師の2人体制で成り立っていて、人手不足であるのです。だから、秀さんの身の上を知る私が看護を買って出たのです」


「買って出た、だって? 君の負担にならないのかい? 」


「この時期は特にやることがないので。さあ、冷める前に。怪我でスプーンが持てないと思いまして、特別に私が食べさせてあげます」



お盆の上に乗っているのは、麦粥のようなものであった。ドロドロとしていて、上にベリーやシロップがかかっている。


笑顔のセレスティアはそのドロドロのものをスプーンですくい上げ、俺の口に運ぶ。



「じ、自分で食べれるから」


「そう言わず。ほら、あーんですよあーん」



抵抗しようと手に力を込めるが、それは痛みによって阻止された。


恥ずかしさを待ちながらもセレスティアの申し出に応えるしかなかった。


ドロドロとしたものは、オーツを牛乳と蜂蜜で甘く煮たものだった。


ベリーの程よい酸味と相まって美味しいと感じる。



「ど、どうですか? 人のために作ったのは初めてだったので」


「優しい味だね。最近は軍用食ばっかりだったかな、凄く美味しい。君が作ったの? 」



帝国の軍用食はエネルギーや栄養の獲得をいかに効率よく行うかを求めて作られている。


結果、軍用食に味は求めていない。



「そう言っていただけて良かったです。料理は得意な方なんですよ。さあ、どんどん食べてください」



病気の子どもの看病をする母親のようだと思った。実質あまり変わりないのだろうが。


結局、セレスティアに頼らなければ、何もできないのが現状だった。



「何から何までありがとう。このお礼はいずれ」



恥ずかしさの残る夕食の時間の余韻に浸っていた頃、食器を片付けたセレスティアが戻ってくる。



「では、秀さんのお話を聞かせてください」


「俺の話? 」


「はい! 」



ぼんやりとした弱い光は窓から入り込む星明かりの存在を思い出させた。



「今日は満月です。昼は曇っていましたが、晴れて良かったです」



窓から入る青い星々の光、白い月の光が幻想的に部屋を満たしている。


偵察、潜入のためにしか使用してこなかったこの光。星や月の光を楽しんだのはいつぶりだろうか。


嗚呼、でも。


そう、この弱い、でも力を持った光を綺麗だと思えるのは、その光がセレスティアの翠色と紅色の瞳、そしてブロンドの髪と相まってこそなのだろう。



「そうだな。どこから話したらいいかな。

俺が生まれたのは、帝国の北にある小さな町だった。と聞いている。ーーーーー孤児だったんだ。物心ついた時には数十人の同世代の者たちといつも一緒で、育った。8歳の誕生日、軍人が適正のある子どもを軍人にするためにやってきた。

俺を含めた6人が軍の施設に入ることとなった。

後から聞いた話だったんだが、俺が育った孤児院は軍が経営する孤児院だったと聞いた。こんな話を聞いてもつまらないだろう? 」



話していくなかで俺も昔を振り返ることとなった。

物心ついた時から軍人として育った。


しかし、それが苦だと思ったことはない。


軍人として働くことは祖国を守ることであり、暴力から人々を救うためだったからだ。



「つまらないとは思いません! 孤児として育った子どもが軍人になることは多い、と私たちの国でも言われています。国が違っても変わらないのですね」



暗い雰囲気となってしまった。



「ーーーー君が聞きたかったのは食文化だったな。でも、俺が食べてきた料理の中でさっき君が作ってくれた以上のものは思いつかない」



話題を変えようと、笑顔を作って話した。



「それは、嬉しいことを言ってくださるのですね。料理の味がお口に合って良かったです

ーーーーー嘘ではないですよね? 」


「嘘のはずがない。君の他の料理も食べてみたい。また、是非作ってくれないか? 」


「喜んで」



顔を赤らめるセレスティアは俺の見えないところでガッツポーズをしたように見えたのだが、それは見間違いだったのだろう。



「君は帝国をどう思っている? 」



俺は唐突な質問を投げかけた。


戦争が始まって2年の時が経った。エルラント王国は戦争の実害は少ないが、人々の考えの中に被害は出ているはずだ。



「技術の発達した人々の生活が豊かな国であると思っています。......雰囲気が変わったので、どんな質問をしてくるのかと思ってしまいました。秀さんは私が帝国について憎しみの感情を持っているのか知りたかったのだと思いますが、そのような感情は待っていません」



そこで、セレスティアの表情が変わり、真剣なものとなる。



「私はこの戦争においては、連合側に非があると考えています。2年という時間の中で戦争を終わらせる機会は幾度となくありました。しかし、それが成せていないのは、連合国の上層部、貴族階層と軍の上層部の持つプライドが原因であるのです。.......秀さん、私からも質問させてください。もし、帝国を中心とした同盟国が“本気”で軍事行動に出たとしたら、この戦争をいつ終わらせられますか? 」



終わらせる、という言葉に俺はセレスティアの奥に秘める想いを感じ取った。


つまり、戦争で連合国が負けることがわかっているのだ。


そして、少女は戦争に反対している。



「まず、君の言う終戦の定義を聞きたい」


「全連合国が終戦条約に調印する、を定義とします」


「その定義の元だと軍事行動に出たとしても1年以上は必要になる。でも、もし、終戦の定義を“同盟国による連合の占領”と定義するなら、冬になる前には完了する」


「......つまり、あと1ヶ月で終戦になると? 」


「そうだ。技術力、軍事力、経済力において同盟は連合を凌駕している。新型兵器の開発も進んでいる。それこそ、帝国一国で連合国軍を蹂躙することが可能だ」



嘘は言っていない。同盟国は連合に対し、今年は様子見という方針を取っている。


もちろん、軍事行動の兆候が見られればこれに対応する。



「なるほど.....そうですか」


「驚かないんだな」


「いや、それはもう驚いてますよ! ただ、その回答を聞き、私の予想が間違っていなかったのだと確信しただけです」



手を組んでは元に戻したセレスティアは深く深呼吸をした。



「秀さん、私は戦争を終わらせたいと思っています。この、無意味な戦争でこれ以上多くの人が死ぬことがないように終戦させたいと思っています」



その声は、表情はこれまで以上の真剣さを含んでいた。


それこそ、今思いついた突発的なものではなく、もっと、信念として持っているかのようなものである。



「それは、誰もが思っていることではないか? 戦争が終わり、平和な世になることは誰もが願っている」


「はい。でも、願うことだけでは意味がないのです。神々は傍観者です。人間の願いを聞いてくださったとしても叶えてくださることは万に一つもありません。

ーーーーーーこの戦争は人が始めたもの。だからこそ、人が終わらせなければならないのです。願っても意味がない。行動しないと。

私は......私は、これまでは全くの無力でした。王族の血を引きながら、権力はなく。色の違う目で生まれたから、蔑まれ、忌み嫌われ、家を追われた」



立ち上がった少女は窓を開けた。


外は真っ暗であり、開けられた窓から刺すように冷たい風が入り込む。


セレスティアは火照った体を冷ますように深く外の空気を吸い込む。



「でも、私は不幸だとは思っていません。この町にきて、多くの人と出会いました。階級とか家柄とかを気にして生きている貴族社会とは全く違う世界がここにはありました。誰もが笑顔で誰もが誰かを助け合う社会です。.......今日、話してわかったことがあります。私は、もしかしたら秀さんと会うためにこの町で暮らしてきたのかもしれない。そう思いました

ーーーーー秀さん、私の願いを聞いてくださいませんか? 」



その時、窓から強い風が入り込んだ。


その風はセレスティアの髪をなびかせ、部屋の中を駆け回る。



「この戦争を終わらせるのを手伝ってくださいませんか? 」



戦争を終わらせたいと願う少女の願い。


それはわかりきったことではないか。


帝国民の俺にとって、それを断ることは容易だ。

しかし、俺より歳下の少女が待つ願いを叶えるための手助けをしたいと思ってしまった。


それは、セレスティア・グレース・エルラントという人物の持つ魅力、秘めた力に惹きつけられたのかもしれない。


神が願いを無視するならば、人によって叶えるしかない。


そう、だからこそ......



「君がそれを望むなら。俺の持つ全ての力を持って協力しよう」



誰にだって、そんな願いが叶うはずがない。馬鹿げたことだと。と言うだろう。


しかし、馬鹿げたことだとしても願って、叶えようと足掻くことがどれだけ尊いか。


ーーーーー俺は軍人として育った。親を知らず、世間一般を知らず、人殺しの術、戦術を叩き込まれた。


ーーーーー目の前の少女は王族として育った。親に、家族に、忌み嫌われ、追い出された。


異質な組み合わせだが、その2つはどこかで共通していた。


それは、平和な世界を望む願いを持っていたこと。


すなわち、戦争を終わらせること。


人が始めた戦争は人が終わらせなければならない。


戦争は“生き物”に置き換えられる事がある。


生き物? 魔物や悪魔である。


ソレは甘い言葉で人々を騙して掻き立てる。

ソレは恐怖で震え上がらせ、従わせる。

ソレは疑念を与えることなく、全てを戦火に引きずり込む。

平和のために行われるべきソレはいつしか恨み、妬み、憎悪、恐怖、絶望、空虚、を纏って全く別の生き物へと変わる。


タチの悪いことはそこに人間の持つ良心や罪悪感が少なからず絡んでくることである。


ーーーーー人を殺すこと。


臓物をまき散らした死体。

首を切り取られた死体。

バラバラになった死体。

ぐちゃぐちゃになった死体。

手を失い、脚を失い、光を失い、音を失い。


砲弾で銃弾で爆弾で剣で斧で鍬で棍棒で包丁で......様々なモノは兵器となって人間を痛めつけ、殺すことができる。


母親を失い、父親を失い、愛する人を失い、友を失い、子どもを失ったとしても。


絶望して、失望しても戦争は終わらない。



「その道がどれだけ大変か、わかっているかい? この町で暮らしている方が将来は幸せかもしれない」



言葉に間違いはない。


戦争は終わらない......というのは嘘である。


“人が死に過ぎた時”戦争は終わる。



「それでも!! 私は、少しでもこの戦争で死ぬ人を少なくしたいのです。たとえ、この身がどうなろうと......私の中に流れるエルラント王家の血は、国民の命を優先します」



その瞳に輝く光に俺は魅了された。


そして、承諾した。


帝国の兵士でありながら、連合国の一つエルラント王国の王族である少女と手を結ぶこととなる。


俺はこの日のことを生涯の中で忘れることはないだろう。


冷たく、強い風の吹いていたこの夜のことを。



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