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人殺しの英雄と不吉な目の少女  作者: 鳴都伊鶴
第1章 異質な出会い
4/10

第3話 虹彩異色の少女

同盟国と連合国は、神星歴395年10月24日(聖アナスイの日)を開戦日として交戦状態に突入した。


開戦に至った理由は些細なことである。

つまり、資源の獲得を争った衝突である。


ザルキア帝国、ニケーア公国と国境を接するいくつもの街が集まった“自由都市群”であるローディア地方は、良質な魔鉱石が豊富にとれる地域である。


太古より帝国と交易があり、ローディア地方の魔鉱石貿易は帝国が殆どを独占していた。


帝国に良質な魔鉱石が集まることを危惧したローゼラント王国は、ローディア地方と隣接するニケーア公国、商業国家シュベルツァー王国と経済三国同盟を結び、ローディア地方の自由都市に帝国との貿易を辞めさせる交渉を開始した。


結果は自由都市の一部を味方にすることができたが、予定していた主要都市の調略には失敗する。


この結果に経済三国同盟は不満を抱き自由都市の併合を目的とした軍事行動を開始した。


商業を中心に発展した都市群であるため主だった軍事力を有していなかった。


これに対し、不当な軍事行動によりローディア地方の民間人に危険が及ぶとした帝国は自由都市群の要請を受けて軍の派遣を決定する。


経済三国同盟は、帝国が軍を派遣したことを戦争行為であると非難するのとともに、ルストラント王国、エルラント王国など、合計10の王国や公国と軍事連合(フィヨルナ条約連合)を結成、神星歴395年10月15日帝国に対し宣戦を布告した。

宣戦布告に抗議する帝国だったが、それは認められることはなかった。


もはや戦争は避けられないと悟った帝国は、ローディア地方の人々の保護を同じ目的とした聖アルクーリ皇国、イクトール連合王国と大東域軍事同盟(帝皇王条約)を締結、神星歴395年10月24日、軍事連合に対し宣戦を布告した。


以降2年が経過したが、軍事的有利を確立している同盟軍はローディア地方の3分の2を掌握し、軍事連合の主要国家の一つ、ニケーア公国の目前まで迫っていた。


同盟国は連合国に対して自由都市との魔鉱石貿易自由化も視野に入れた講和条約の提案を幾度となくしているが、未だになされていない。


よって、終わりの見えない戦争に同盟国は対処に困っているのが現状である。


ーーーーーーーーーーー


神星歴397年11月3日

エルラント王国 レンパラ 夕刻




レンパラにいくつかある教会の中で一番東の端、スペリヌア湖のほとりにトリアノン教会はある。

装飾などはあまりなく、シンプルな教会だがレンパラの人々が自慢だと誇れることが一つある。それは、教会に足を踏み入れたとき、視界に飛び込んでくる様々な色が使われたステンドグラスである。


朝陽を受ければ鮮やかで力のある、夕陽を受ければ柔らかな光の絵画を教会の中に作り上げる。

そんな教会は病院としての役割も持っていた。戦争が始まる直前、帝国領土に近いこの地に負傷兵の治療地として使用するためにエルラント王国王家が国庫からお金を出し高価な医療機材を揃えた。


大部屋と小部屋がいくつかあるが、戦火に巻き込まれることがほとんどないこの地であるため、使われていないベッドが目立つ。


1人部屋として使われる小部屋の一つには負傷した青年が横たわっている。


そして、そのベッドの側に置かれた椅子には少女が横たわる青年の顔を時折心配そうに覗き込んでいた。


「今日で3日目、聞きたいことが山ほどあるというのに、お寝坊さんですね」


「あれだけの傷を負っていたのです。命が助かっただけでも奇跡のようなものですよ。セレスティア様、まだおられますか? 」


「はい、この本を読み終わるまでは」


椅子に座るセレスティアとその隣に立つのは初老の女性、ナタリーである。


「かしこまりました。あまり遅くなってはいけませんよ」


セレスティアが持つ本の分厚さから、遅くなるであろうことを予期したナタリーは一言付け加え、その場を去った。


窓の外に目を向ければ、半分ほど沈んだ太陽と瑠璃色に変わり始める空の両方を見ることができる。


病室に魔鉱石の光を灯もすために看護婦が来たのは、セレスティアが読む本の最終章に突入したときだった。


「今日はここまでにしましょうか」


青年が川辺に流れ付いているのを見つけ、手当てをした。


しかし、セレスティアの頭の中には色々な疑問が浮かび上がった。


まずは、青年の着ていた服装である。レンパラではまず見ることがない兵士の服装であった。


武器らしきものは待っていなかったが、明らかにどこかの国の兵士である。


ーーーーーこの国ではありませんよね。


セレスティアはエルラント王国、そして連合国の兵士を近くで見る機会が幾度となくあった。その記憶の中に青年と同じ服装のものはいない。


「つまり、この方は帝国の兵士ということですよね」


本を閉じ、目の前に横たわる自分と年齢が変わらないように思える青年の事を見る。戦争が始まって、否、戦争が始まる前から帝国は残虐な人々が多いと聞かされてきた。


ローディア地方の人々は武力により隷属させられ、奴隷のような扱いを受けている。と、セレスティアは教育を受けて育った。


しかし、それを自分の目で見たことはない。


そもそも、帝国の人間に会うことすらないのだ。

帝国との国境にあるアルダート山脈は物流や人の流れも制限してしまう。


この青年がレンパラの街の人々、そしてエルラント王国の国民に害となるのか否か、それを見極める必要がある。


そう決意したとき、目の前の青年の瞼がピクリと動いたことに気づく。数秒と待たない間にまた同じように動く。


そして、長い長い夢の世界から現実の世界へ戻ってくるようにゆっくりと瞼が開かれる。



「.........ここは、病院? 」



セレスティアは驚きを隠せなかった。


青年は丸3日間寝続けていたとは思えない瞳をしていたからだ。


そして、もう一つ、青年が発した言葉がエルラント王国の言葉ではなかったからだ。


瞳を巡らせた青年はセレスティアのところで止めた。



「え、えっと、私はセレスティアと言います。ここは、病院です。わかりますか?

ーーーーーこんなことなら帝国の言葉をもっと勉強しておくんだった」



エルラント王国の公用語はフィヨルカ語であり、帝国はロヴィーダ語である。


発音、文字など共通点が限りなく少ない二つの言語であるため、セレスティアも帝国の言葉を話すことはできない。


ジェスチャーを最大限に使用し青年にこの状況を説明しようと試みる。



「わ、私、セレスティア、ここ、病院。あなた、の、名前は? 」




ここに青年以外の人物がいなかったことご幸いであっただろう。


ジェスチャーをするセレスティアの顔は普段の彼女の顔からは想像できないくらい“間抜け”な顔だったからだ。


だから、青年がクスクスと笑ったことに彼女は戸惑いの表情をした。



「安心してくれ。君の言葉は理解している。フィヨルカ語を使っているところをみるに、ここはエルラント王国になるのかい? 」



突然のことにセレスティアは速い瞬きを繰り返し、開いた口が塞がらなかった。



「帝国の方なのに、私たちの言葉がわかるのですか? 」


「違う国の言葉を話せるのはおかしなことかな? 」


「いえ、そういうわけでは。私もロヴィーダ語を勉強したことがありましたが、フィヨルカ語とあまりにも違いすぎて.......」



セレスティアは知っているロヴィーダ語のいくつかを話してみようかと考えたが、発音ができないと諦めた。



「助けてくれたことには感謝している。でも、俺は帝国の人間だ。つまり、この国とは敵同士になる。関わりは少ない方がいい」



青年はそう言ってベッドから起き上がったが、腹部に激痛が走り、苦痛の表情を浮かべる。



「ゲガ人を放っておけるはずがありません! 」



起き上がった青年を制止し、続ける。



「戦争中であることはもちろん知っています。ですが、私たちは同じ太陽の下に生を受けた人です。そこには敵も味方もありません。貴方は死んでもおかしくなかった。それだけ深い傷を負っていたのです。今動いては傷口が開いてしまい、今度こそ死んでしまいます。私に人殺しのレッテルを貼らせたいなら出て行って貰っても構いませんが。私はそれを許しません」


セレスティアの強い言葉、強い表情に軍人の青年とはいえど抵抗できなかった。



「“人の配慮を悟ってほしいものだ” 」



その迷いのない動きに青年はロヴィーダ語で呟いたあと、ため息を吐くのであった。


帝国民が連合国の中でどのように呼ばれているのか青年は知っていた。


残虐人グリーグ》《悪魔のデモニルスク》である。


特に帝国軍人を罵る言葉は無数に存在する。

戦時下で帝国の、それも軍人に手を差し伸べることがセレスティアにプラスになることはないと青年は知っていた。


しかし、その青年の配慮を全く分かっていない目の前の少女は満足気な笑みを浮かべていた。



「改めて自己紹介をしましょう。名前を知らなければ呼ぶこともできません。私はセレスティア、セレスティア・グレース・エルラント。あなたは? 」



次に驚きの表情を浮かべたのは青年の方であった。


彼女が名乗った名前に聞き覚えがあったからだ。



「君はエルラント王家の人間なのか? 」



そう投げかけた青年だったが、その返答はなかった。彼女の目には「まずは名乗りなさい」という強い視線が含まれていたからだ。



「......秀、雉風 秀。もう隠す必要もないな。ザルキア帝国の軍人だ」



彼女は笑顔をつくった。



「秀さん、ですね。いろいろと聞きたいことがありますが、対等にいきましょう。秀さんの言う通り、私はエルラント王家の血を引くものです。しかし、王位につくことはありませんし、そもそも“天の加護無く生まれたので”王家の人たち関わりがない“他人”です。さて、私の情報は開示しました。秀さん、あなたも何か情報をください」



立ち上がったセレスティアは窓の外を眺めた。その表情には、諦めのような表情が見てとれた。



「なるほど。この国の、そうだな、王家と言うべきか。は、君のその目を嫌ったわけだ。特に気にするものでもないだろうに。情報開示か、俺の何を聞きたい? 」



セレスティアの瞳は翆色と紅色である。その左右不揃いの目をエルラント王家は忌み嫌い、不吉な存在として遠ざけた。



「(秀さんは、この目を見ても何も思わないのですね)では、なぜ帝国の方であるのにフィヨルカ語を話せるのですか? 」


「俺が所属している部隊は連合国に潜入することが多い。だから、連合国の言葉は必要だった」


「では、フィヨルカ語以外にも? 」


「日常会話に支障が出ない程度であれば、連合国の主要言語は話すことができる」


「ーーーー驚きました」



連合では合計8つの言語が使われている。中枢国ローゼラント王国の使う“イルラン語”が共通言語になっているが、それは国際会議や国境を越える商人に限られることである。


基本的にそれぞれの国が自国の言語に誇りを持っており、自国内で他言語を話すことを嫌う傾向がある。



「......君は、本当に不思議だね」


「不思議、ですか? 」


「さっきも言ったが、俺は帝国軍人だ。君は敵も味方も関係ないと言ったが、そこまで警戒心なく話すのはおかしくないか。王族と関わりがないとはいえ、性に国名を持つ君だ。この国の中で優先される位は高い。俺が君を人質にとって、政治的交渉の材料にする可能性もあるわけだ」



最後、青年は脅しを仕掛けた。しかし、その脅しは空振りとなる。



「そうですね。私の身一つで今の“無意味”な戦争を終わらせることができるならば、喜んで人質となりましょう」



セレスティアは笑顔を作った。偽りではない素の笑顔である。



「もちろん。秀さんがそんなことをしないとは信じていますが」


「ーーーーーーなぜ、そこまで信用する? 」


「貴方の瞳を見ればわかります。貴方はそんな手段はとらないと、私にはわかります」



セレスティアはそこまで言ってから立ち上がる。



「ここは病院でもあり、教会でもあります。誰にでも解放された場所のため、鍵をかけることはしません。帝国に入るためにはアルダート山脈を越える必要がありますが、止めるものはいません」


「君は、既に一度止めているが? 」


「私以外にはいませんよ」



セレスティアは人差し指を立て、青年の額にコツンと当てた。


その満面の笑みは、青年の心に染み渡るような衝撃となる。



「はぁ、怪我が治るまで、お世話になるよ。礼はする」


「では、早速お言葉に甘えるとしましょう。秀さんのお話しを聞かせてください」


「話し? 」


「はい! 他の国の方に会うことがほとんどないので、秀さんが生まれた帝国のこと、文化や伝統をです。食文化などはわくわくしますね! 」



目を輝かせるセレスティアに青年は戸惑ったが、ため息とともに諦めた。



「本当に不思議な方だ。セ、レ、スティア.....フィヨルカ語の発音が苦手なんだ、何か愛称はないかい? 」



青年は顔を赤らめた。フィヨルカ語はラ行の発音がロヴィーダ語と大きく異なる点であり、そして独特だ。



「よく言われます。では、ティアとお呼びくださいり子どもたちにはそう呼ばれています」


「子どもたち? 君の子かい? 」


「まさか! 私はまだ成人していないので家庭を持てる年齢では......戦争で親を失った孤児たちですよ」



青年の言葉に反応したセレスティアだったが、落ち着いて答えた。



「なるほど。すまなかった。それなら、俺が帝国の人間であることは隠しておいた方がいいな」



敵国である帝国の人間であることを知った時、セレスティアのような反応を示すものは少ないだろう。ましてや親の仇となる帝国の軍人である。



「そうですね。秀さんが帝国の方であることは私たち二人だけの秘密としましょう」


「歩けるようになれば、直ぐにここを去るから安心してくれ」


「完治するまで。ですよ」



また、額をコツンと叩かれた青年は言い返すことができなかった。



「わかったよ......ティア」


「わかればいいのです。秀さん」



会話を交わし、2人は笑いあった。


ーーーーー帝国の軍人と王家の血を引く少女。


これが、敵国同士の2人のはじめての出会いである。



ーーーーーーーーーー

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