お次は熱燗で
「え〜とこの穂波を熱燗で1合」
「あっ、俺も飲むぞ」
「おう、お猪口は2つください。後、このおでんの盛り合わせとそれとエイヒレの炙りで」
「はい、穂波の熱燗を1合とおでんの盛り合わせ、それとエイヒレの炙りですね?」
「はい」
「かしこまりました」
男性の店員は失礼しますといって襖を閉めていった。いや〜、和食の居酒屋来たら熱燗は外せない。1合づつ種類を変えて何度か頼むとしようと奏太は決意する。
「いいね〜、熱燗! それにいい組み合わせだ」
「だろ? それになんだか最近結構食べれるようになってさ。まだまだ食べ足りないんだよな」
「お前もか? いや〜俺もなんだわ! あの日以来さ、俺だけじゃなくてカミさんと子供もよく食うようになってさぁ。種族的なもののせいかね? それにお前は若返ったからじゃね? 肉喰え肉! でかくなれ!」
斎藤はそういって唐揚げの乗った皿をこっちに渡してくる。奏太は差し出された皿から箸で唐揚げを掴み口へと運ぶ、口の中にジュワッと広がる旨味、そしてグラスに残ったビールを一気に飲み干した。
「ぷっは〜、美味いな!」
「ははっ、本当にいい食べっぷりだな!」
「いや実際背縮んじゃったからよ。しっかり食べてこの際できれば前より身長高くなりたいと思うわけよ」
「そういや確かに縮んでんな〜。奏太って前身長いくつだったんだ?」
「170。今は160くらいだからなぁ」
「へ〜」
斎藤は興味なさげに相槌をうった。
「いいよな〜、元から背がでかいやつは180くらいあるんだっけか?」
「おお、正確には182だな」
そこでノックがされ、扉が開いた。男性店員が徳利に入った熱燗とエイヒレの炙りを持って来た。
「お待たせしました。穂波の熱燗とエイヒレの炙りです」
「ありがとう」
店員が去ったところで話題を変える。
「そういえばさ。今日年休取ってステータス登録して来たよ」
「ああ」
「15歳って登録された」
「プッ、まじか?」
「まじだ」
奏太が頭を抱えて言うと斎藤は腹を抱えて笑った。
「ヒィ…ヒィ…。あ〜笑った! まっ、あれだよ? あとでちゃんと登録し直しにいった方がいいじゃないか? 今後はあの登録内容が身分証に反映されていくってテレビでやってたぜ」
「まじか…。やっぱ早めに訂正してもらいにいって来た方がいいかな?」
「おう、面倒ごとは早めに終わらせとけ。ほらっ」
奏太はそうだなっと返事をしつつ斎藤から徳利でお猪口に酒を注いでもらい、日本酒を飲む。
「か〜、美味い!」
スッキリとしたの辛口で奏太の好みの味だった。
「飲みやすくて美味いな〜、エイヒレにもよく合う」
斎藤の口にもあったようだ。
「だろ? やっぱ日本酒は辛口が一番だわ」
奏太がエイヒレと熱燗で幸福に浸っていると斎藤が切り出した。
「そういやよ。奏太はダンジョン行ってみたか?」
「え? ダンジョン? 行かないよそんなとこ」
「そうか…実は俺、何度かダンジョン行ってるんだ」
「まじ? 何で?」
驚いた声で奏太は斎藤に聞いた。話を聞くとなんと斎藤はダンジョンでスタンピートが起き始めた際、行動を起こした側の人間であることがわかった。つまり、ダンジョンの魔物を倒してスタンピードが起こるのを未然に防いだということだ。
「ネットで同じ地域の人に呼びかけした奴がいてよ。俺はそれに賛同してメンバーに加わったんだ」
斎藤の話によると地域の若い者たちを主力としたメンバーでスタンピードを防ぐために今もダンジョンの巡回を行なっているとのことだった。モンスターは倒すとアイテムを落として消えるそうだ。落とすアイテムは魔石と呼ばれている石と魔物の一部であったり、薬や変わった品であったりするらしい。それを聞いた奏太はますますゲームの世界みたいだと思った。
「出てくるモンスターを倒すとよ、レベルが上がって能力値も上昇するんだ。スキルとか増えるやつもいる」
「は〜、本当にゲームみたいだな〜」
奏太がびっくりしたように呟くと斎藤は真剣な目で斎藤に忠告した。
「ゲームじゃないんだよ、奏太。これは現実だ。確かにモンスターは倒すと消えてアイテムを残して消える。まるでゲームみたいによ。でもな、殴った感触も殺す感覚も間違いなくリアルだ。何より相手は明確な敵意を持っている。怪我したやつもいれば殺されたやつもいる。俺はダンジョンに行くたび思うんだ。レベルを上げてスキルを身につけないといつか大切なものを守れなくなるってな」
そこで喉を潤すように徳利に入った酒を斎藤は飲み干してから言った。
「だから奏太。お前もある程度はダンジョン行っとけ。ガチで今世間で騒がれているような冒険者になる必要なんてない。せめて自分を守れる力はつけとけ」
「…ああ、俺もちょっと甘くみてたかもしれないな」
そこで斎藤は笑って奏太に言った。
「まぁ、ダンジョンに潜る気になったら俺に言え。付き合ってやるよ」
「ああ、ありがとう」
「たとえお前が漏らしたって内緒にしてやるよ」
「…てめっ、バカにすんなよ? 俺だってやりゃできんだからな?」
「フハハッ、それは一人でお化け屋敷に入れるようになったら言うんだな」
「くぬっ…」
奏太はお化けが苦手なのだ。いやその存在は信じていないのだが怖いものは怖いのだ。
「で、カズはレベル今いくつなんだ? ダンジョン行ってレベル上がったんだろう?」
「あぁ、俺は今レベル8だ」
「まじか! 結構上げてんだな〜」
「ほれ、これが俺のステータスだ」
そう言って斎藤は奏太にステータス画面を見せてきた。
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名前/斎藤一馬
種族/獣人(熊)
年齢/35
レベル/8
職業/拳闘士
HP : 50/50
MP : 40/40
物理攻撃力 : 85
物理防御力 : 80
魔法攻撃力 : 20
魔法防御力 : 30
敏捷 : 65
スキル 怪力 嗅覚 爪撃 堅守 自然治癒向上 拳術
称号 剛力の戦士
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「うおっ、強そうだなこれは…」
「だろう?」
斎藤はふふんっと自慢するように胸を張った。
「ん? ちょっとカズ…拳闘士って書いてあるんだがお前どうやってモンスター倒してるんだ?」
「どうって拳に決まってるだろ?」
斎藤は力拳を作って言った。その様子を見てやれやれという風にに首を振りながら奏太は言った。
「…まじか? 俺初めて尊敬したわお前のこと」
「どういう意味だ!?」
「いや、なぜに拳を選んだんだ? あ、そう言えば昔空手やってたんだっけか?」
「おう、高校までは空手部だったぜ! やっぱ自信があるものが一番だからな」
「ほ〜」
感心したように奏太は声を出した。
「それにな。最近話題になってる冒険者教会に登録するとよ? 武器が買えるようになるから今は籠手を装備してるぜ。だから素手で直接は殴ってないぜ」
「前は素手で殴ってたんだ?」
「殴ってたな!」
「…そうか」
あっさり返されて奏太は思わず自分がおかしいのかと思ってしまった。斎藤は自分と同じ写真サークルに所属していたが自分とは違ってもやしっ子ではなかったことをまじまじと認識させられた。奏太は運動は苦手ではないがスポーツだの武道とは無縁で、中学・高校も文科系の部に所属していたのだ。
「でも武器とか買うのにも金かかるだろ?」
「まぁ、そりゃあな。だがモンスターがドロップするアイテムも冒険者協会で売れるから収支はプラスになってるぞ」
「ほう」
「政府も冒険者協会に登録することを進めてるから公務員でも副業として認められてるのはありがたいしな。お前にとっても悪い話でもないだろ?」
「むむむ、確かに魅力的な話でもあるな」
奏太にとって今の収入でも足りてなくはないのだがもう少し収入があれば趣味に投じるお金が増やせるのにとも思っていたのだ。
「そうだ、お前のステータスも見せてくれよ」
「おう。いいぞ」
そう言って奏太はステータスを出し、斎藤に見せた。
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名前/二木奏太
種族/人間(?)
年齢/15
レベル/1
職業/無職
HP : 20/20
MP : 1000/1000
物理攻撃力 : 30
物理防御力 : 20
魔法攻撃力 : 200
魔法防御力 : 150
敏捷 : 200
スキル 空間把握 索敵 回避 逃走 隠密 危険察知
称号 ー
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「おいおい奏太…お前なんだよこれ?」
「ん? どうかしたか?」
奏太のステータスを目にした斎藤はそのステータスを驚愕の顔で凝視していた。
「どうかしたか? ってなんだよこのステータスは? まだレベル1なのにこの数値やらスキルの数おかしくないか?」
「ん〜、そう…なのか?」
奏太はその言葉に首を傾げた。冒険者協会でトップを張って戦っている人たちはもっとすごいステータスをしていると彼は思っていたからだ。
「特にMPと魔法に関する数値! なんだよこの数値? 今のトップレベルなんじゃないか?」
「え? そんなに? でもそもそも魔法なんて使えないしな〜。意味なくないか?」
斎藤は机に体を乗り出しものすごい勢いで奏太に詰め寄った。
「いやいやダンジョンでレベル上げたり、モンスターのドロップアイテムで身につけられるから!」
「そ、そうなのか?」
「そうなんだよ!」
そういうと斎藤は席に深く座りなおし、ため息をついた。
「全くこれだから困るよ。お前たまにズレてっからさ〜」
「ひどい言い草だな、おい」
「でもこれならダンジョンで組んでも問題なさそうだな」
そう言ったあと斎藤はふと思い出したかのように言った。
「そういや今教師連中の間で話題になってるんだが、今度ステータスがダンジョン探索に向いている子供たちを集めて早いうちに対抗できる人材を作ろうって話を政府が進めてるんだとさ〜」
「へ〜、そりゃすごいな。まぁ確かにスタンピードはやばいもんな」
そう、今後またスタンピードが起こらないという保証はないのだ。対抗しうる人材を早いうちから育てる必要性があることは世界中で騒がれている。それこそ日本だけでなく海外までもだ。
「ああ。それによ? もしかしたら呼ばれるんじゃねーか? お前」
「はぁ!? なに言ってんだよ! 俺もう大学卒業までしてるぜ?」
「ははは、まぁ今のはさすがに冗談だけどさ。お前の今登録されてる年齢でそのステータスだったら対象になりそうだと思ってな?」
楽しげに笑いながら言う斎藤の言葉に奏太はため息をついて答えた。
「全く、冗談でもやめてくれ! 心臓に悪いわ!」
この時、斎藤と奏太はそんなことは起こり得ないと思っていた。この時までは。
斎藤と飲んだ翌日、奏太の家に冒険者学校の入学通知が届いた。
読んでいただきありがとうございました。




