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鑑定

 朝の会話の内容は、いつの間にか奏太の所属するFクラスのクラスメイト達全員に広まっていた。


「おい、聞いたか? あの二木って奴、ボスモンスターを一人で相手にしてたんだってよ」

「ああ、それどころかダンジョンの罠にわざと自分から掛かって全部破壊してきたらしい」

「マジかよ?」


 といった感じに脚色された話も含まれており、奏太はこの日クラスメイト達から腫れ物に触るような扱いを受けていた。今も噂話をしていた生徒達と目線があったのだが、怯えるようにそらされてしまった。すでに奏太の精神はボロボロになっていた。


(耐えろ……耐えるんだ俺! あと一時限の辛抱だ。そしたら家に帰れる)


 本日の授業は、残すところあと一つ。6限目のダンジョンの授業である。彰はそんな奏太の様子に苦笑しながら話しかけてきた。


「奏太知ってる? 次の授業は、一対一での面談らしいよ」


「へぇ」


 彰は同じ中学校出身の他クラスに所属する友達から聞いたとのことだ。


「なんでも面談でレアなスキルや変わった職業を取得したことがわかった人は、後で鑑定スキル持ちの人に鑑定してもらうことができるんだってさ」


 鑑定スキルは、世界の変革で新たに出現したものを鑑定することができる能力だ。例えば魔物に鑑定をすれば魔物の名前を知ることができ、ダンジョン産のアイテムに鑑定をすればアイテム名や大まかな効果を知ることができる。


 そして、ステータスにも鑑定が使える。普通の人はステータスに表示されたものを眺めることしかできないが、鑑定スキル持ちは違う。ステータスに表示されたスキルや職業に対して鑑定を行うとその効果や役割を知ることができるのだ。


 このことから、鑑定スキルは世界変革の日以降新たに出現した未知の現象を解析する手段として注目されており、鑑定スキル持ちは重宝されている。

 ただ、鑑定スキルにも欠点がある。ダンジョンなどと関係ないものには使えないのだ。ダンジョンに落ちている石を鑑定すれば”石”という鑑定結果が得られるが、ダンジョンの外にある石を鑑定しても鑑定スキルが不発に終わるとのことだ。つまり、骨董品のお宝鑑定とかはできない。


 そして、そもそも鑑定で得られる情報は少ない。奏太が持っているスキルの鑑定結果だとこんな感じになる。


 空間把握:五感に頼らず周囲を把握できる

 索敵:索敵行動に補正

 回避:回避行動に補正

 逃走:逃走行動に補正

 隠密:敵から察知されにくくなる

 危険察知:自身の危機に敏感になる

 魔力感知:魔力を感知することができる


 何もわからないよりはマシだが、なんとまぁ簡素な説明文だろうか。ちなみにこの情報はインターネットで冒険者協会のサイトにいけば一般の人でも見られる。


「そういえば、彰は職業何にするか決めたのか?」


「ん〜、まだ悩んでるところだよ。僕が選べるようになった職業は”探索者”と”研究者”、それと”呪符師”の3つだったんだよね。それで探索者にするか呪符師にするかで悩んでるんだ」


「なるほどね……」


 探索者はダンジョン探索において必要な探索職の中でも、オーソドックスな職業だ。罠発見や敵を発見するようなスキルを習得しやすくなると言われており、人気の職業の一つだ。その人気の理由には訳がある。


「探索者は鑑定スキル習得率高いらしいもんな」


「うん、そうなんだよ。ダンジョン探索するにあたって、色々調べられるスキルってすごく魅力的だよね」


 彰は調べたり、観察するのが好きらしい。それは彰が最初から取得していたスキルからもわかることだ。鑑定スキルは彰の知識欲を満たすことができるいいスキルだろう。


「でも、ダンジョン探索で鑑定はあんまりやくに立たないし、探索者は戦闘能力が低そうだからね。僕らのパーティーは奏太がいるから、探索能力はすでに高いし、呪符師は罠の検知や攻撃のサポートができる探索職と補助職の中間みたいな職業なんだって。だからこっちの方がパーティーの役に立てるかなって思うんだ。使用する呪符っていうのも興味深いし」


 彰はちゃんとパーティーでの自分の役割を考えた上で、どうしたら最善かを考えているようだ。それは確かにいいことだし、奏太達パーティーにとってはありがたい。でも、奏太はそれは何か違う気がした。


「ん〜確かに呪符師は悪くない選択だと思う。けどさ、パーティーの役割も大事だと思うけど、やっぱり肝心なのは彰が何をしたいかじゃないか? ダンジョン探索だけが道じゃないと思うんだよね。今後はさ、ダンジョンの外でもっとスキルやアイテムについての研究が盛んになるだろうし。将来、ダンジョン探索以外で自分が何をやりたいかって視点でも考えてみたらいいんじゃないか? 戦闘用のスキルだったらそのうち探索でスキル習得できるアイテムが手に入るかもしれないし」


 彰は奏太の言葉を真剣に聞き、最後に頷いた。


「うん、ありがとう奏太。もう一回ちゃんと考えてみるよ。自分が何をやりたいのかについてね」


 奏太と彰が、そんな話をしているといつの間にか周囲の視線が集まっていた。なるほどといったように聞き耳を立てているものが大半であった。


「二人とも真面目な話してるね〜。奏ちゃん、後で私の職業相談にも乗ってね」


 いつの間にかやってきた美緒がそう言った。


「ん、まぁ俺でいいなら」


 奏太が返事をしたあと、チャイムが鳴った。


「じゃ、また後で」


 そう言って、美緒は自分の席に戻っていった。


 6限目のダンジョンの授業が始まる。教壇には高梨先生ではなく、このクラスの担任の山川先生が立っていた。山川先生は見た感じ奏太の実年齢と同じくらいの歳のおじさんで、普段は数学の授業を受け持っている。


「今日はこの時間を使って1人づつ面談を行います。みなさんレベルが上がって、職業の選択ができるようになったと思います。選択可能となった職業や新たに取得したスキルを教えいただきます」


 彰の情報通り、面談を行うそうだ。

 最初に山川先生はプリントを配布し、次に黒板へ部屋の配置図を書いていく。おそらく面談が行われる場所だろう、面談場所は5部屋あるようだ。


 冒険者学校では生徒達の情報を定期的に収集すると、入学時に説明されていた。そのため生徒達は今回の面談もその一つだろうと理解していた。


「それでは呼ばれた人は前に来てください。面接場所を伝えますので、聞いたらその部屋に移動してください。それ以外の方はこのプリントを読んで待っていてください」


 出席番号順に1人づつ生徒が呼ばれ、面談場所を伝えられ移動していく。奏太の出席番号は26番だから、当分呼ばれることはないだろう。

 そう考えた彼は配られたプリントに目を落とす。プリントには最新のダンジョンやスキルについての情報が記載されていた。他国や冒険者協会、他の冒険者学校などでわかった情報の中から、有用だと判断された情報が記載されているとのことだ。


(ペーパーレス化の時代なんだから、資料もデータでいいんじゃないかな?)


 奏太がそんなことを考えながら目を通していくと、面白い情報が載っていた。ステータスを一部分だけ表示させる方法だ。名前、種族、年齢、レベル、職業の6項目だけを表示させることができるらしい。この6項目だけを表示させることをイメージしながらステータスと唱えるとできるとのことだ。


 奏太は一部だけ表示、一部だけ表示っと念じながら「ステータス」と言うと確かに、

 6項目だけが表示された。


(こんなこともできるのか……。まぁできてもいいことないけど)


 そんなことを考えながらステータスを消すと、不意に「二木君」と自分を呼ぶ先生の声が聞こえた。


「え?」


 出席番号は五十音順で決まっているので、二木奏太の”ふ”が呼ばれるまではまだまだ先と油断していた奏太は驚いて顔を上げる。そして、ちらりと出席番号が1〜5番の人たちの席を見るも席には誰もいなかった。どうやら全員教室を後にしているようだ。


「二木君、来てください」


 山川先生はもう一度、奏太の方を見ながら奏太を呼んだ。どうやら聞き間違えではなかったようだ。


「あ、はい」


(なんでもう呼ばれたんだろ? それに俺、レベル上がってないんだけどな〜)


 奏太は返事をして渋々前に出て行く。山川先生も今奏太を呼ぶのは、順番的に不自然なことを理解しているようで苦笑していた。


「二木君は相談室に行っていください。場所は保健室の隣にあります。保健室の場所はわかりますか?」


 しかも場所は黒板に記載されている場所ではなく、みんなとは違う場所を指定された。


「えっと、はい」


 保健室は先週の金曜日に行ったので記憶にあり、奏太は頷いた。奏太は自分に集まる目線に胃を痛めつつ、大人しく指示された場所へ向かっていった。


 そして奏太は1階の保健室前についた。保健室の隣にある部屋のドアには確かに”相談室”と書かれていた。奏太はコンコンとノックしてみる、するとくぐもった声で「どうぞ」と返事があった。


 奏太はドアを開け、「失礼します」と言って部屋に入いる。この部屋は、おそらくスクールカウンセラー用に用意されているのだろう。そう広くない部屋に机一つと椅子四つが置かれていた。部屋の奥側の席には2人座っていた。

 1人はダークエルフの女性で、ダンジョン探索でもお世話になった高梨先生だ。もう1人は知らない女性だった。眼鏡をかけた若い女性で、セミロングの髪を茶色に染めている。柔らかい表情に、優しい雰囲気を漂わせた女性だ。

 なぜか奏太が想定した面談と違って一対一ではなく、一対二で行われるようだ。


「どうぞ、席に座ってください」


 眼鏡をかけた女性に促され、奏太は席に座った。


「初めまして、私はこの学校でスクールカウンセラーを担当している来栖です。それと私は鑑定スキル持ちです。よろしくお願いします」


 なるほどスクールカウンセラーか。自分が高校生だった時はあまり縁がなかったものだが、今は切実に頼りたいと思っているものだ。


(精神年齢35歳の俺は一体どんな心持ちで、若い子達に混じって高校に通えばいいのかとか相談したいね! それにしても鑑定スキル持ちの人といきなり面談があるとは思わなかったな)


「あっと、自分は二木奏太です。よろしくお願いします。」


 奏太が挨拶すると来栖さんはニコッと微笑みを浮かべた後、頭を下げた。


「すみません。実は、私たちはあなたの経歴を知らされています」


「あっ、はい」


 まぁ、面談を行うのだからそういった情報は最初に伝えられているだろう。いや、むしろちゃんと伝えられていて良かったと奏太は少し安堵する。


「年齢も変わってさぞ大変な思いをしているでしょう」


「まぁ、はい」


 来栖さんは悲痛な面持ちで奏太に話す。奏太もそれに否定しない。むしろ、かなり大変な思いをしてますと声を大にして言いたいくらいだった。


「君には、いろいろと話さないといけないことがある。だが、まずはステータスを確認させて欲しい」


 高梨先生にそう言いわれ、奏太は戸惑いつつもステータスを表示し、二人に見えるようにした。


「鑑定」


 そう来栖さんは呟いた。そして、「……やっぱり」と言った後、高梨先生と目線を交わし頷きあった。何らかの確信が取れたようだ。

 彼女は奏太を見て言う。


「二木さんは”魔憑き”という特殊な状態になっています」

読んでいただきありがとうございました。

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