称号
東京冒険者学校の授業でダンジョン探索が行われた次の週の月曜日、教室にいるクラスメイト達は朝から大いに盛り上がっていた。それもそのはず、みんなレベル2に上がり職業を選択出来るようになったのだ。
既に職業を選択した者が自分の職業を自慢していたり、まだ何の職業を選択するか迷ってパーティーメンバーや友人に相談している者の姿も見える。
(いいな〜、楽しそうだな〜)
そんな光景を奏太は自分の席から眺めている。本来だったら自分も彼らのように、期待を胸に職業選択を行なっていたはずなのにとため息を吐いた。奏太はダンジョン探索に行ったもののまだレベルアップできていないのだ。今やクラスでレベル2に達していないのは奏太のみだった。
「……ステータス」
奏太は自分のステータス画面を広げて再確認する。レベルはやっぱり1のままで、スキルには魔力感知が追加されている。スキルが増えたのは嬉しいが、勇者とか面倒な単語が出てきてしまったので喜びも半分になってしまった。そして実はもう一つ、彼のステータスで初期とは変わっているものがあった。
称号 回避の達人
なんと称号が新たに追加されていたのだ。称号はダンジョンが認めた証と言われている。まだ詳細はわかっておらず、ステータスの補正など何か効果があるのかまだわかっていないらしい。ただ、突出した何かを持っているとダンジョンが判定した場合に、称号が付与されるのではないかと言われている。そのため、称号を持っているのは実力者であることの証明となっている。
(まぁ、回避するのがうまいってだけじゃ自慢にもならんよな)
奏太はそんな感想を抱きながら、ステータスを閉じた。彼が称号を得たことは彼のパーティーメンバーには伝えたが、そんな思いから他の人には言わないよう口止めしてある。パーティーメンバーには誇ることであっても隠す必要があることではないのでは? と言われたが、彼は公表するのを固辞した。
「おはようございます、奏ちゃん」
「おっはよ〜」
奏太が声のした自分の後ろの席を見ると玲奈と美緒がいた。
「ああ、おはよう二人とも」
どこか元気のない様子の奏太を見て、玲奈と美緒は目を丸くした。
「朝からどうしたのさ? なんか暗〜いオーラが漂ってるわよ」
美緒が前屈みになって奏太の顔を覗き込んだ。青く綺麗な眼と整った顔立ちが近づく、そして長く尖った耳をピョコピョコ動かしなが聞いてくる。
(まつげ長っ! てか耳そんな風に動くの! てか最近の子は距離感近いな!)
突然距離を詰めてきた美緒に、奏太は内心動揺しつつも平静を装う。
「いや。みんな楽しそうだな〜って思っただけ」
奏太の言葉に、美緒と玲奈は周囲を見渡した。そこにはどこの生徒達もステータス画面を表示させて、楽しそうに談笑している姿があった。
「あ〜、そうだね。あたしも気持ちわかるかな。あたしまだ職業決めてないし」
「私はもう剣士にしちゃってますけど、そうですね。気持ちはわかります」
二人は納得した様子で、奏太の意見に賛同する。どうやら彼の動揺は、隠せたようだ。
そこに、同じクラスの生徒が集団になってやってきた。
「ねぇねぇ、柚木さん達がボスモンスターと遭遇したって本当?」
その集団にいる一人の女生徒が質問してきた。先週は奏太が怪我を負って気を失っていたこともあって、奏太達のパーティー以外は先に帰宅させられてしまったのだ。断片ながら情報は得ているかもしれないが、どうやらちゃんとした情報が入っているわけではないようだ。
「え? あ〜、私は見てないんだ。うちのパーティーでボスモンスターと遭遇したのは玲奈、恵、奏太の3人だけだよ」
それを聞いたクラスメイト達は「わ〜、本当だったんだ!」といった感じで、ワッと沸き、そして矢継ぎ早に質問してきた。
「ボスモンスターって、どんな奴だったの?」
「みんな無事だったってことは、ボスモンスターは倒したんだよね?」
「かなりレベル上がったんじゃないの? 二人は今何レベル?」
「ドロップアイテムとかあったの?」
そんな盛り上がるクラスメイト達に玲奈は押され気味に答える。
「えっとですね。ボスモンスターは3mくらいの一つ目の巨人でした。すごく強かったので、高梨先生がメインで戦ってくださって、私たちは主に他にたくさん出てきた通常の魔物と戦ってました」
「お〜!」
「やっぱり、高梨先生強いんだ」
玲奈の回答に更にクラスメイト達は盛り上がる。
「それでレベルは? 結構上がったの?」
「え〜と……」
その質問に玲奈は目線をさまよわせ、やがて奏太の目と視線がぶつかる。奏太は苦笑して頷いた。
「レベルは10に上がりました」
「おぉお〜〜〜!!」
その答えを聞いたクラスメイト達が更なる盛り上がりを見せた。そして、自然な流れで奏太に目線を送ってきた。
「えっと、二木君だったよね? 二木君は何レベルになったの?」
奏太は苗字で質問されたことで、クラスメイトの中にもちゃんと奏太のことを覚えてくれていることに安堵する。
(さ〜て、ここでちゃんと答えないのは変だよな)
期待しているところ申し訳ないなと、少し気まずい感じで奏太は答えた。
「あ〜、……俺はレベル1のまんまなんだよね」
「え?」
奏太の予想外の答えに固まるクラスメイト達。玲奈が10レベルだっただけに、きっと奏太もさぞレベルが上がっているだろうと思っていたらまさかの2レベルにすらなっていなかったことに驚きを隠せないでいる。
「攻撃避けたり、逃げたりで精一杯だっかからさ。ははは……」
「そ、そうなんだ〜」
最初に話しかけてきた女生徒がそういって、気まずそうに目をそらした。まぁ、そうなるよなと奏太が思っていると、集まっていたクラスメイト達の中にいた一人の男子生徒が「はっ」と鼻で笑った。
「なんだ。男のくせに逃げ回っていただけかよ」
男子生徒が奏太のことを見下した感じでそう言い放った。その男子生徒も前回のダンジョン探索でちゃんと戦ってレベルアップしたのだ。自分がその場にいたらきっと戦ってもっとレベルアップしていただろうにと思っているのだろう。その場にいた他の男子生徒も笑っている。
(ははは、まぁその通りなんだよね)
逃げ回っていたのに違いはないので、奏太は苦笑で返すしかなかった。しかし、「それは違うわ!」という女生徒の声が割り込んできた。その声がした方に奏太を含め、その場にいた全員の視線が集まる。
そこにいたのは恵だった。そして彼女は笑っていた男子生徒にズンズンと近づいていき、男子生徒に対峙して言う。
「奏太は囮になってくれたのよ。大きな巨人みたいな魔物とその他にも大勢の魔物を全部連れてね。あなたに同じことができるのかしら?」
男子生徒は恵の迫力に「うっ」と言葉を詰まらせる。恵はレベルが5に上がって新たに“威圧スキル”を手に入れていた。どうやら怒りによって無意識にスキルを作動させてしまっているようだ。
奏太は恵が自身のこと庇ってくれるのを少し嬉しく思った。でも、下手に注目を集めるのが嫌だったので恵を抑えようと声を出す。
「あ、いや…」
しかしそれを遮って、別の人物からも援護が入る。
「そうです! もしも奏ちゃんがあの場にいなかったら、私たちみんな魔物に殺されてました」
玲奈から物騒な発言が出たため、今度はその場にいたクラスメイト達がびっくりした顔で奏太を見る。みんなに一斉に見られ、奏太は胃が締め付けられるような感覚を覚え、「うっ」と呻くように言ってお腹を手で押さえた。そしてさらに別の人物からも援護(?)が入った。
「そうそう! あたしなんか奏ちゃんに罠から守ってもらっちゃったしね。感謝感謝だよ」
美緒はそう言って奏太の後ろに回り、席に座る奏太の肩を両手でもみもみと労わるようにマッサージし始めた。それを見たクラスメイト達の驚きが伝わってきて、奏太の胃はキリキリと痛んだ。最初に嘲笑っていた男子生徒なんて青白い顔をして冷や汗をかいている。
『キーンコーンカーン』
そんな気まずい空気が漂う中、救いのベルが鳴り集まっていた生徒たちは各自の席に戻っていった。
そして、いつの間にか奏太の隣の席には彰が座っていた。奏太と目が合った彰は、両手を合わせて“ゴメン”と口パクで言うのであった。
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