報酬
お待たせしてすみません。やっと第1章が終わった感じです。
奏太が目を覚ますと、どこか懐かしい少し鼻を突く消毒液の匂いがした。目を開けると白い天井が見える、少し身じろぎするとやや硬めの弾力あるベッドの感触がした。
「よかった。目が覚めたんですね」
起き抜けで上手く働かない頭で、奏太は声のした方に顔を向ける。そこにいたのは玲奈と美緒の二人だった。
「ああ、ここは?」
「学校の保健室よ。ダンジョンの奥で倒れてたあなたを先生たちが運んでくれたの」
美緒の答えを聞いてようやく奏太の頭が覚醒しだした。ダンジョンの奥で一つ目の巨人が消滅したところまで思い出す。
「みんなは無事か? あれ? 無事……だよな?」
玲奈に涙目で睨みつけられ、問いかける奏太の声は尻すぼみになっていった。
「はぁ〜、みんな無事よ。あたしが救出した人達も、もちろん恵や玲奈たちもね」
「そうか」
少し呆れたかのように美緒が言う。その答えに奏太は安堵の息を吐いた。どうやら何とかなったらしい。そう思っていると玲奈が言う。
「一番酷かったのは奏ちゃんです。体中傷だらけで、頭からは血を流してて本当に危なかったんですからね!」
「うっ」
その剣幕に奏太は恐れおののいた。それに疲れ果てて満身創痍になっていた記憶ならあるが、頭を怪我していたとは奏太自身驚いた。
「そうよ。特に額の部分を強く打ち付けていたみたいでね。運ばれてきた奏ちゃんを見て玲奈が泣いちゃったんだから」
「ち、ちがっ! あれはビックリしただけで……」
玲奈は顔を真っ赤にして美緒の言葉を否定する。
「と、とにかく! 心配したんですから! 一人で無茶しないでくださいね」
「ああ、悪かったよ」
そう答えながら奏太は頭を巡らす。大体の攻撃は避けてたし、頭に攻撃が当たった記憶なんてない。そうして自分の額に手を当てるが、傷はないようだ。
「傷はあたしが魔法で治癒してあげたんだから。感謝してよね?」
「おっ、そうか。それは助かった。ありがとう」
奏太がお礼を言うと、美緒は少し照れたように「構わないわ」と言った。
(ん〜、あれ? もしかして、巨人が消滅した時、頭打ってた? ありえるな。あの後から意識朦朧としてたし……)
奏太は頭の傷について思い当たるものがあった。それは奏太が一つ目の巨人に向かって攻撃をしようと突っ込んだにも関わらず、巨人が消えてしまったので勢いそのままに地面にぶつかってしまった記憶だ。もし奏太の推理が正しければ、その時に地面にぶつけて発生した傷が危険な傷だったようだ。
「どうしたんですか? 頭がまだ痛むんですか?」
「い、いや何でもないよ」
奏太は笑ってごまかすことにした。幾ら何でも、一番酷い怪我が自爆で負った怪我でしたなんて恥ずかしくて言えやしないのだ。
奏太は体を起こして、周りを見ると少し離れたところにこちらを伺っている彰と恵がいた。それを見て、奏太はちょいちょいと招くように手を動かして二人を呼んだ。
「奏太、無事でよかった」
「ああ、何とかな。彰達も無事でよかったよ」
近寄ってきた彰はどこか申し訳なさそうにしている。その隣にいる恵は、何故か今にも怒られるのを待っている子供のようにビクビクしていた。
「恵」
奏太が名前を呼んだだけで、恵は肩をビクッと反応させおずおずと一歩を踏み出してこちらに近づいてきた。
「奏太、メグは……」
奏太は手を上げて、彰が何か言おうとするのを止めた。そして今にも泣きそうになりながらも奏太の目から目線を逸らさない恵を見つめた。
「あ、あの……」
恵が言うより早く奏太は、恵に向かって頭を下げる。
「悪かった」
「え?」
それに恵は戸惑った声を上げる。奏太は顔を上げて、恵の目を見て言う。
「まず、謝らせてくれ。このパーティーのリーダーはお前だ。それだって言うのに、今回は俺が少しでしゃばり過ぎたんだと思う。そのせいで恵の成長する機会を奪ってしまったことを反省してる。すまない」
最後にもう一度奏太が頭を下げて言うと、恵は首を振って言う。
「そ、そんなことない! 私が! 私が自分勝手に行動して、そのせいであなた達を危険な目に合わせてしまったわ。ごめんなさい!」
恵はそう言って、奏太に向かって頭を下げた。
「恵、頭を上げてくれ」
恵は目に涙を溜めながら奏太を見て言う。
「それと、パーティーのリーダーは奏太にお願いしたいの! わっ……私が抜けたほうがいいなら、私はパーティーから抜けるわ」
恵は正義感が強い子だと奏太は思うし、別にそれが悪いことだとは思っていない。あの場面で助けに行くことが本当に悪かったとも言えない。きっと、先行していた人たちを見捨てていたら後味の悪いものになっていただろう。
「なぁ恵、俺はお前の選択が間違っていたとは思わないよ。もう少し相談とかはして欲しかったけどな? だからお前にパーティーを抜けて欲しいとは思っていないよ。みんなはどうかな?」
奏太は周りにいるパーティーメンバーを見渡す。
「私は恵さんとパーティーを組みたいです」
「あたしもよ」
「僕もだ。というか言ったでしょ? 僕はメグについていくって」
みんなが真剣な顔で恵に答える。
「みんな……」
涙を流す恵に奏太は言う。
「恵、お前が何を焦っているのか俺にはわからない。まだ、パーティーを組んだばかりだ。彰と違ってお互いのことをよく知っているわけでもないだろ?」
「うん」
「でも、それはこれから知っていけばいいことだ。お互いにな」
「うん」
恵は手で涙を拭って答えた。続けて奏太は言う。
「だから恵にはパーティーリーダーを続投してもらうつもりだ」
「え?」
「恵にはリーダーとしての考えを身につけてもらいたいと思っている。俺たちは意見は言うが、それをまとめるのはお前だ」
奏太は、今回みたいに自分が指示しないよう気をつけないといけないと自らに戒めながら言う。
「まずはパーティーの安全を第一に考えろ。時には非情な判断を下せ。今回みんな無事だったのはたまたまだ。俺もお前も運がよかったから、たまたま生き残っただけだ。それを忘れないでくれ」
「うん」
「みんなもそれでいいかな? って、ここも俺が仕切っちゃったけど……」
パーティーメンバー全員が笑顔で頷いた。
「さて、少しいいかな?」
話がまとまったところで、高梨先生が声をかけてきた。いつの間にか近づいてきていたようだ。ちょっと青春ぽいことをしてたのが恥ずかしく、奏太は頰をかいて照れを隠す。
「みんな反省しているようだから、今回のことはこれ以上追求するつもりはないが、私からも少しだけ言わせてもらう。君たちはまず、自分の命を守れるようになりなさい。ダンジョンについてはまだまだ未知数だ。それは、君達だけでなく私たち教師も同じことだ。わからないことがたくさんあって、それ故に教えることができないこともある。だから、まずは君たち自身が強くなって自分を守れるようになりなさい。誰かを救うのはそれからだ」
高梨先生の言葉を聞いて、奏太達は頷いた。まだまだ自分たちだけでは誰かを救うことが難しいことが今回の探索で各々が痛感しただろう。奏太もこのメンバーとダンジョン探索していけるように強くなりたいと今回の探索で思うようになった。
「さて、説教じみた話はここまでだ。今回の報酬の話をしよう。二木が取得したこのアイテムを簡易鑑定スキル持ちの先生に鑑定してもらったんだ」
そう言って、高梨先生は奏太の見覚えがある簡素な造りのビンを取り出した。ビンの中には無色透明の液体が満たされている。それは奏太が一つ目の巨人が消えた後に、報酬として木の箱から取得したものだった。
苦労の割にショボそうな感じは何なんだろうかと、奏太達パーティーメンバー全員から残念な感じを漂わせている。みんな期待はしていないのだろう。
「神酒ルガーディアと出た」
「お酒……ですか?」
パーティーメンバー全員の疑問を代弁して、玲奈が聞き返す。てっきり回復薬か何かだと思っていたので、予想外の答えに戸惑っているのだ。
(え!? お酒? ダンジョン産の飲めるやつなの!?)
そんなみんなとは違って、奏太の目は輝きだした。ダンジョン産のお酒、しかも神の酒と書いて神酒。飲んでみたいと奏太の心が叫んでいる。
「ああ、ただし飲んでも効果は何にもないそうだ。普通のお酒と同様にアルコールが含まれてるので酔いはするらしい。というのも実は過去に、2本ほどこれと同じ酒が海外市場に出回ったことがあるので情報があったんだ。つまり、これはただの美味しい酒だそうだ」
「おお〜」
奏太以外のパーティーは想像と違ったからか、少し残念そうな顔をしているが、奏太は違った。効果とかそういうのはどうでもよくて、美味しいお酒ということであれば今回の報酬としてはそれはそれで問題なかったのだ。ダンジョン産のお酒だから人類が発明したお酒と同じくくりで考えていいのかわからないが、無色透明な液体であることから蒸留酒なのではないかと推測する。
早く飲んでみたいと思った奏太だが、ふと気づく。これは今回のパーティー報酬ではなかろうかと。そして奏太が恐る恐るパーティーメンバーを見ると、彰が苦笑しながら言った。
「奏太が手に入れたんだから奏太のものでいいんじゃないかな? お酒だっていうならパーティーで持ってても仕方ないしね」
玲奈と美緒と恵も異論はないようで笑って頷いてくれた。
「マジか!? ありがとう!」
それを聞いて奏太が嬉しそうに神酒の入ったビンに手を伸ばしたところで、高梨先生がヒョイと引っ込めてしまった。そのせいで奏太の手は空を掴む。
何事かと奏太が高梨先生の顔に目を向けると、どこか申し訳なさそうな顔で頰をかく姿が映った。
「あ〜、悪いんだがこれは没収だ」
「え!?」
高梨先生の唐突な発言に奏太は唖然とする。没収とはただ事ではない。
「実はこの学校の校則に、学校のダンジョンでの取得物に未成年に相応しくないものがあった場合、それに見合った金額で買い取るか、冒険者協会主催のオークションで競売にかけることとする決まりがあるんだ」
「おっ俺、未成年じゃありませんよ!」
奏太はここぞとばかりに、自分の年齢をアピールしようとする。先生達が知らないかもしれないが、奏太の実年齢は35歳だ。今後のことも考えて、自分の年齢を公表して認識してもらえるよう動こうとした。しかし、高梨先生はそれを遮るように言う。
「実は君の特殊な事情について少し聞いている。ただ正直申し訳ないとは思っているが、この学校に所属している今、君にも校則に従ってもらわないとならない」
「そんな!」
奏太は絶望の声を上げる。事情を知っているにも関わらず取り上げるなんてという非難の目を向けるも、高梨先生は澄まし顔で流して続きを言う。
「さすがにお酒は学校の備品にもできないからな。オークションで売って、その売れた金額を後日君たちに振り込む形とさせてもらうことになる。ちなみに以前の記録によれば1本目が売れた金額は100万円くらいの金額だっただそうだ」
「ほう」
美緒の目がその金額に輝く。他のパーティーメンバーも存外高価な値段に驚いている。
「そして2本目が300万円くらいで売れてるとのことだ。どうも1本目を飲んだ人物がとても気に入ったらしく高値がついたらしい」
「わぁ!」
パーティーメンバー全員がワッと湧いた。それなら最低でも100万以上で売れる可能性が高い。パーティーでその金額を割れば20万。奏太が過去高校の時、1ヶ月のアルバイトで4万くらい給料をもらっていたことを鑑みると、アルバイト5ヶ月分くらいの金額となる。学生にとっては大金だろう。
「くっ、それは……ますます、自分で飲んでみたいですね」
そんな金額のお酒なんて飲んだことないので、むしろ奏太としては自分で消費したいくらいだ。奏太は歯噛みする。
「私としても飲んでみたい気持ちはわかるんだが、今回は諦めてくれ。報酬は君たち5人で等分した額を振り込む形でいいかな?」
パーティーメンバーの視線が奏太に集まる。奏太は先程報酬でいいという話になっていたのを思い出した。
「いいですよ。パーティーで得た報酬ですからね」
お酒を報酬としてもらえないのなら、みんなで分配した方がいいと奏太はすぐに答えた。
「さすが奏ちゃん、太っ腹!」
それを聞いて美緒が奏太に抱きつく。甘い香りと柔らかい感触ににやけそうになるも、平静を保って答える。
「お、おお」
「こ、こら美緒!」
奏太に抱きついた美緒を玲奈はすぐに引き離す。もう少し抱きついてくれてても良かったんだけどなぁと思いながら、そう言えばと奏太は言う。
「むしろ先生の分はいいんですか?」
「ん? ああ、今回の引率は教師としての仕事だからな。そこで得られた報酬は生徒達のものとなっているんだ」
それを聞いて奏太達は気まずそうな顔をした。今回の1番の立役者は高梨先生だったことをみんな理解しているからだ。
「そんな顔しなくていい。私は自分の探索でちゃんと稼げているよ」
「それは……そうですよね」
そう言われて奏太は、高梨先生1人で一つ目の巨人と戦闘していた場面を思い出す。確かにあれだけの実力があれば、既にダンジョンで相当稼いでいるのだろう。
奏太以外のメンバーも高梨先生の実力を今回の探索で垣間見たので、同じように納得しているようだった。そして報酬を何に使うかを話し出す。
それを横目に奏太は未練がましく、高梨先生が持った神酒の入ったビンをチラリと見てため息を吐いた。
「はぁ、神酒……飲んでみたかったなぁ」
読んでいただきありがとうございました。




