始めは処女の如く、後は脱兎の如し
恵がモンスターを退けてできた時間に、バランスを崩していた男子生徒が立ち上がりって体勢を整えることができた。恵は油断なく盾を構えながら状況を把握するため、ザッと周囲を見渡す。
広間は学校の教室と同じくらいの広さで、奥には先に続くであろう大きな穴、そして広間の壁肌には無数の小さな穴が開いており、その穴からモンスター達がこの広間目掛けてやってくるのが見える。奥に続く大きな穴は、おそらく一つ目の巨人が通ってきた道だろう。そこからはもうモンスターは出現していないようだったが、到底安心できる状況ではなかった。
「何故来たんだ霧崎!? 急いで戻りなさい!」
恵へ怒号が飛ぶ。それは奏太達パーティーの引率役だった高梨先生の声だった。高梨先生は一つ目の巨人と激しい戦闘を繰り広げている。
一つ目の巨人は3mほどの巨体に青白い肌、そして筋骨隆々な体をしていた。ボディビルダーのような筋肉が浮き上がった体ではなく、プロレスラーのように筋肉の上に脂肪をつけた厚みのある肉体だ。
そして一目で今の自分では到底相手にならない強さであることを、直感的に理解させられてしまうほどの圧を放っている。それとサシで対等に渡り合っている高梨先生は、この場で1番の実力者であることは間違いない。
また、先行していたパーティーの引率教師は眼鏡を掛けた中年の男性で、恵のクラスの現代国語を受け持つ藤野先生だった。藤野先生は棍棒を手に多くの魔物を相手にしているが、それにも限界があり、生徒のフォローまではできない状況だった。
此処はまさに死地としか言えない状況だった。生徒が一人加勢に加わったところで、状況をひっくり返すことなんて到底できっこない。しかし、恵が来なければ先ほどのタイミングで戦況は瓦解していただろう。そして恵の意思は固く、引くという考えは頭の中から消えていた。
「私には見捨てることはできないわ! ここにいる人達も、私の後ろにいる人達も!」
恵がそう答えている間にもモンスター達は、開いたスペースを埋めるかのように詰め寄ってくる。恵が間合いを詰めてきた狼のような魔物の口に木刀を突き刺すと消滅したが、間髪を入れずバグアントが距離を詰めてきた。盾でバグアントの突進を受け止めるも「ぐっ」と苦しい声が口から漏れてしまう。
恵がレベルの上昇とスキルの取得で多少成長したとは言え、このモンスター数相手では恵だけでは押されてしまう。
「おい、お前! 一旦退がれ!」
残っていた男子生徒の指示に従って、恵は盾を持つ手に力の限りを込めてモンスターを押し返してから飛び退いた。そして、それと入れ替わるように男子生徒が飛び出した。
「オラァ!」
叫び声とともに男子生徒が振るった棍棒が、モンスターをまとめて薙ぎ払う。その一撃は棍棒が当たっていないモンスターをも衝撃を受けたかのように吹き飛ばし、恵の前からモンスターを引き離す。おそらく男子生徒が持つスキルの効果だろう。
その男子生徒は黒い犬耳に整った顔立ちをしていた。ここまで戦い詰だった様子を物語るように、着ているジャージはボロボロで顔からは大量の汗が滴っている。
「助かったわ!」
「お互い様だ! それより、アイツらは無事か?」
恵がお礼を言うと犬耳の男子生徒は吐き捨てるように言う。彼の言うアイツらとは、おそらくさっき会った生徒達のことだろう。
「ええ、安心して! あなた達のパーティーは私たちのパーティーと合流したわ! きっと今は出口を目指してる!」
「そうか……」
それを聞いた犬耳の男子生徒は、袖で顔の汗を拭ったあとニヤッと笑いいった。
「はっ、ならまだやられる訳にはいかねぇな。おい、ケンヤ! まだ行けるか!?」
「ああ、何とかな!」
ケンヤと呼ばれた身長の高い坊主頭の男子生徒が答えて、再び迫ってきたモンスター目掛けて石を投げつけた。その石は見事にモンスターに直撃し、先頭に飛び出ていたモンスターを消滅させた。
「ケンヤは投擲スキル持ちだ! 悪いがお前は俺と二人で前衛を頼む」
「ええ、構わないわ! 私は恵、盾のスキル持ちよ」
「そうか、俺はセイジだ。棒術と強撃のスキルを持ってる。攻撃系のスキルはあるか?」
先ほどのセイジの攻撃は強撃スキルの効果だったようだ。強撃はシンプルで扱いやすいスキルで、自身の一撃に対して威力を倍増させることができる。棒術のスキルと合わせればその威力は高いものとなるだろう。
「いいえ」
少し悔しげに恵は答える。自分にも攻撃スキルがあればこの状況も少しは楽になるのにと、恵自身ももどかしい気持ちをしていた。しかし、話している間にも魔物が恵達を目掛けてやってくる。
「そうか。少し攻撃力が足りないところだが…」
セイジは少し難しい表情をしたが、気持ちを切り替えようとしたところで新たな声がかかる。
「なら私が加勢します!」
その声とともに一つの影が恵達の前を駆け抜け、木刀を横薙ぎに払った。すると横一線に放たれた斬撃で、前に出てきたモンスターが切られて消滅した。セイジと恵はその姿を見てすぐに誰かわかった。
「なっ、玲奈!?」
「玲奈、なんで?」
玲奈は後ろに下がって恵達に並ぶと問いに答えた。
「恵さんを連れ戻しにきたのですが、間に合いませんでした。それにもう悠長なことは言ってられない状況のようですね」
玲奈の言う通り、魔物達はどんどん迫ってきている。
「仕方ねぇ! やれるだけやるぞ!」
声とともに魔物に向かって駆け出したセイジに続いて、恵と玲奈も魔物達を相手に駆け出した。
♢
恵と玲奈が加わったことで戦況は比較的有利に進み出した。最初はバラバラだった即席パーティーも、少しずつ連携が取れ始めている。
(現状、戦力は互角ですが持久戦となると不利ですね)
玲奈は戦いながら冷静に戦況を分析する。合流する前に自身の職業を剣士にしたことで、新たに剣術スキルと一閃と言う新たなスキルを取得することができた。
盾スキル持ちの恵がタンクとして前に出て、玲奈とセイジがアタッカーとして敵を攻撃する。そして後衛のケンヤが3人を援護することで、最初より多くの魔物を相手にすることができている。
(とはいえ少し上手くいき過ぎてます)
そして、玲奈はその上手くいっている要因となっているであろう人物へ目をやった。それは恵だった。
魔物達の多くが、なぜかだんだんと恵を狙い始めているのだ。そして恵が魔物達のタゲを取ってくれているお陰で、玲奈達は攻撃しやすくなり効率よく戦えている。戦況は硬直状態でお世辞にもいいとは言えないが、まだまだ戦える状況が作れているのは恵のタゲ取りとタンクとしての役割がマッチしているからだ。
(恵さんが新たにヘイト系のスキルを取得したのでしょうか?)
ヘイト系スキルとは魔物の敵意を自身に集めるもので、自身が敵から狙われやすくなる代わりに他者を守りやすくなるタンク役には適したスキルだ。玲奈達が今日戦った特異個体のキャタピラーも類似のスキルを持っていたと考えられる。また、現在の戦闘で多くの魔物を倒しているので、経験値を得てレベルが上がって取得した可能性が高い。玲奈自身、自分のレベルが戦闘前より上がっているのを感じていた。
「恵、新しいスキルを手に入れたのか?」
セイジも玲奈と同じ考えに行き着き、恵に質問する。
「……わからないわ。スキルを使っている感覚はないし」
それに恵は少し戸惑いながら答える。実は恵自身も状況的に自身にヘイトが集まっているのはわかるが、ヘイト系スキルを手に入れた覚えはないので戸惑っていた。戦いの最中なのでステータスを確認することはできないが、もしかしたら常時発動型のスキルを手に入れているのかもしれない。
「まぁ、いい! お陰で戦い易いのは確かだ! 悪いがそのまま防御に専念してくれ!」
セイジにそう言われて恵は頭を切り替えて防御に徹することにした。
しかし、それは甘い考えだったと知らされるのはすぐのことだった。
『グァガァ〜〜〜〜!!!』
一つ目の巨人が大きな唸り声を上げ、目の前にいる高梨先生を無視して走り出したのだ。右手に持った棍棒を横薙ぎに払って周囲にいる魔物を散らしていく。その先には恵がいた。
「なっ! 霧崎、スキルを使っているならすぐに止めなさい!」
巨人と戦っていた高梨先生が叫ぶ。
「そんなこと言われても、私自身どうやってるのかわからないわ!」
向かってくる巨人に恐れながら恵が答える。自身でもどうすればいいのかわからず困惑する。
一つ目の巨人にとって周りにいる魔物は仲間ではないらしく、邪魔だと言わんばかりに近場の魔物を蹴散らしながらどんどんと恵の方に進んでいく。玲奈達も恵の周りにいる敵に精一杯で、助けに行くことができない。
「はぁ!」
その行動を許さないため、高梨先生は自分に背を向けて走る一つ目の巨人に向かって飛び上がり、薙刀を上段から振り下ろした。巨人はその一撃を受けてうめき声を上げるも、勢いを止めず右手に持った棍棒を大きく上に振り上げ、恵目がけて振り落とした。
「恵さん、逃げて!」
玲奈がそう叫ぶも恵は目の前に詰め寄せるキャタピラーを抑えていたため、避ける間も無かった。誰もが恵に直撃すると身構えた。
そして"ドン”っという棍棒が地面に叩きつけられる音が広間に響き渡るとともに、衝撃波が玲奈達の体を揺さぶった。もうもうと土煙が立ち込める。
凄まじい威力だったことを物語るそれに一同は悲観的な想像しかできなかった。
しかし、土煙が晴れたそこには地面にめり込んだ巨人の棍棒と、その横に恵の首根っこを捕まえて退避した奏太がいた。
「うひ〜! 怖っ!」
奏太はビビりながら、地面にのめり込んでいる棍棒を見るめた。あと少し遅かったら自分もあの一撃をくらっていたと考えると手が震えてしまう。
「奏ちゃん!」
玲奈が安堵の声を上げる。奏太は心臓がバクバク音を立てるような恐怖と戦っていたので、その声に応える余裕はなかった。ダンジョンに到着したら、なんかいきなりやばそうな状況だったので、なるべく気配を消しながら恵たちに近づこうとしている最中に予想外のことが起きてしまったのだ。なんとか、恵を助けられたが咄嗟だったので今になって恐怖が奏太を襲ってきたのだ。
「と……取り敢えず間に合ってよかったと言うべきだろうか?」
奏太が自分を落ち着けるために言葉を捻り出す。一つ目の巨人を見ると巨人はその大きな瞳でギロリと奏太と恵を睨みつける。そして、奏太が見つめていた棍棒が少しだけ地面から浮いた。まずいと感じた奏太は直感で恵を抱えて上に飛んだ。
直後に"ブウォン”という音ともに自分と恵の下を巨人の棍棒が通り過ぎていくのが奏太の目に映る。その薙ぎ払いで奏太と恵の周りにいた魔物達は一斉に飛ばされていく。
「ひぃ!」
それを見送った奏太は思わず悲鳴をあげてしまう。
(あれあれあれ!? あとは恵抱えて逃げればいいかなとか考えてたけどそうはいかないよね、これ?)
冷や汗をかきながら恵を抱えた奏太は、その後も巨人が振ってくる棍棒を避ける度、悲鳴をあげながらもなんとか紙一重で避け続ける。人一人抱えた状態での回避は想像以上に辛いものがあった。しかし、その奏太の手の中で動きに付き合わされている恵は目を回している。
「くっ、しつこいな!」
退がるに下がれない巨人の猛攻に奏太が悪態をつくと、一つの影が奏太を横切った。そしてそれは一つ目の巨人の瞳に突き刺さった。刺さったのはどこか見覚えのある黒い物体だ。
『グゥ〜〜』
一つ目の巨人が目を押さえて、頭をかがめた。どうやらあの目は弱点であったらしい。だが弱点がわかったとしても3mくらいの高さにある目を攻撃するのは難儀だろう。奏太は退避しながら石が飛んできた方を見ると、玲奈が何かを投げ終えた後の体勢をしていた。そして奏太が下がると同時に、追い打ちをかけるため高梨先生が巨人の正面に回り込み、懐に素早く踏み込んだ。
「セェェイ!」
下げていた巨人の頭を掬い上げるように、薙刀を下から振り上げた。刃先が一つ目の巨人の顎をカチ上げ、その巨体が後ろへと吹き飛んでいった。後ろにいた雑魚モンスターを潰しながら一つ目がひっくり返った。倒れた衝撃で地面の揺れを感じるほど強い一撃だった。これなら巨人にも大きなダメージを与えられただろう。一つ目の巨人は巨体を横たえて停止した。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかね」
それを見て安心した奏太は、そばに近寄ってきた玲奈にグッタリとした恵を預ける。
「しかし、あの物体持ってきてたのか?」
そして玲奈に奏太は言う。
「はい、何かの役に立つかもしれなかったので一応貰っておいたんですが、早速役に立ちました」
あの物体とは、美緒が掛かった罠で飛んできた氷柱状の黒い物体だ。何でできているかわからないが、投擲物としては優秀だったらしい。
「まだ油断するな! すぐにここから逃げるぞ!」
現国の藤野先生がそう言ってみんなの退避を促した。そうだ、一つ目の巨人がまだ倒れているうちに逃げるのが正しい。一つ目の巨人が暴れたおかげで周りの魔物達も大きく数を減らしている。逃げるなら今がチャンスだろう。
全員で出口へ向かって走り出した。しかし、その後ろで“ズシン”と大きな音が響き渡る。奏太は出口を目指しながら後ろを見ると巨人はすでに起き上がっていた。先ほどの音は、巨人が起き上がった際に発生した音だったようだ。
そして起き上がった巨人は、こちらを睨みつける。衝撃で目から抜けたのかすでに黒い物体は刺さっていない。巨人はその一つ目を真っ赤に充血させ、牙を剥き、怒りの表情を露わにしている。
そして、青白い肌が段々と赤くなっていき、奏太の目には一つ目の巨人の体から湯気のような蒸気が立っているのが見えた。
「な、狂化だと」
「狂化ですか?」
「ああ、自分のHPを削り、思考を低下させる代わりに身体能力を上げるスキルだ。そして、極めて攻撃的な暴走状態になる」
そう言いながら高梨先生は一人立ち止まって、巨人の方を向いた。
「君たちは急いで逃げなさい!」
しかし、それはすでに遅かった。
『ゴァアァァアァア!』
一つ目の巨人が大きく開けた口から咆哮を上げると、出口目掛けて逃げていた生徒達の足が止まってしまったのだ。
そして、一つ目の巨人がキャタピラーを掴んで投げてきた。そのキャタピラーは恵の方に飛んできた。どうやら、今の段階に至っても恵からターゲットが外れていないようだ。しかし、間一髪奏太は恵を掴んで、引きずるように横へ跳躍して躱した。
「おい! みんなしっかりしろ! 早く逃げるんだ」
奏太は周りを見渡して言うが、誰一人動けない状態になっているようだった。誰一人逃げようとしない。中にはへたり込んでしまっているものもいた。
「ごめんなさい、体が……上手く言うことを聞かないんです」
「私もよ」
玲奈と恵が力なく答える。奏太自身は特に何もなかったが、他の人はどうやらそうではないようだ。
「あの時と同じか……」
キャタピラーの特異個体と同じようになんらかのスキルで、他のメンバーは行動を制限されてしまったようだ。よく見ると奏太以外にも高梨先生と藤野先生は動けるようだが、この状況では逃げられもしない。
高梨先生は一つ目の巨人を、藤野先生は未だに沸き続ける魔物達を奏太達に近づけないように立ち回っている。
「あなただけでも逃げなさい」
恵は奏太の目を見て言う。その目には諦めの感情が読み取れた。
「そんなことできるかよ!」
そう言いながら一つ目の巨人が再び投げてきた、バグアントを避ける。一つ目は棍棒を手に高梨先生と戦いながらも、なぜか恵を執拗に狙っている。
(逃げたいのはやまやまだが、自分より年下の子供を放って逃げるほど腐っていはいないつもりだ……。にしても何でこいつらは恵ばかり狙いやがるんだ?)
奏太は思考を巡らせながら恵を見る。するとふと、恵のポーチが薄く輝いているのが見えた。なにかわからないがここに答えがある。そんな気がした奏太は恵のポケットを開ける。
「どうしたの?」
そんな声が恵から上がるのをポーチからあるもの取り出した。それは黒い角だった。その黒い角は薄っすらと光を放っていた。
先ほど彰達としていた話を思い出す。これが魔力の光であれば、恵が狙われているのはこの黒い角が原因だろう。そして試しに感じ取れるようになった自分の魔力をゆっくり流し込むイメージをすると、先ほどより黒い角が放つ光が強くなるのがわかった。恵を地面にゆっくり置いた。
「大丈夫だから、少し待っててくれ」
そう言って奏太は周りを見渡しながら恵のそばを離れる。未だ動けるようにならない生徒達、段々と増え続ける魔物達、そして迫りつつある一つ目の巨人。その巨人の目は、今は恵ではなく奏太を捉えていた。
一つ目の巨人を高梨先生が相手をしようと立ちはだかる。しかし、先ほどの狂化スキルで強化された棍棒の一撃に耐えきれず、高梨先生は吹き飛ばされこちらに飛ばされてきた。それを奏太はなんとか受け止めて、着地の衝撃を殺す。
「大丈夫ですか?」
「ぐっ、すまない。私はいいから早く逃げなさい」
奏太が高梨先生に声をかけると、高梨先生は気丈にも立ち上がって奏太を後ろに押して遠ざけた。
ピースが揃っている。
あとは覚悟だけ。
先ほどより多くの魔力を黒い角に流すイメージをする。すると危機察知スキルが働いたのだろうか? モンスターの注意が自分に向いているのを告げるかのように悪寒が止まらなくなった。
奏太は奥に続いているだろう大穴を捉える。
「何をしている! 早く逃げなさい!」
高梨先生が奏太に向かって、目をやったところで奏太は笑った。
「高梨先生、おっしゃる通り俺は逃げるので後のことは頼みます」
高梨先生は怪訝な顔をする。奏太が何かしようとしているのかはわからないが、それが危険なことであることを察したようだ。しかし何をしようとしているのか聞く間もなく、奏太は足を踏み出した。
「待ちなさい!」
高梨先生が叫ぶが、奏太の足は止まらない。ダンジョンの奥にある大きな通りを目掛けて、奏太は全力で走っていく。
ダンジョンの奥に進むごとに魔物達がひしめいているのがわかる。魔力を角に流した感覚から、なんとなくだが自分の持っているスキルの使い方が前よりわかる気がした。
横から迫るバグアントの体当たりを横に飛んで避け、前から迫っているキャタピラーの背を足場に飛び、奥の通路目掛けて走っていく。魔物の群れに入っていくことで、その魔物達を一つ目の巨人への障害物になるよう陣取る。
目で見なくともなんとなくわかるのはスキルのおかげだろう。索敵スキルで敵の位置を把握し、危険察知スキルで攻撃を読み取り、回避スキルで攻撃を避け、空間把握スキルと回避スキルでダンジョン奥の穴までの逃走経路を割り出しながら駆け抜けた。
奏太はついにダンジョン奥の穴の前にたどり着いた。群れの中をかき分けてここまでたどり着いたのだ。流石に無傷とはいかなかったが、まだ走れる。誰かは知らないが自分のステータスを高めに設定してくれた何かに感謝した。
「はっ、はっ……約束……したからな」
奏太は自分の後ろにはバグアントやキャタピラーなどの魔物達だけでなく、ドシドシと大きな音を立てながら一つ目の巨人が迫ってきているのを感じニヤリと笑った。そして、奏太はダンジョンの更に奥へと足を踏み出した。
(さて、頑張って逃げるとしますか)




