隔靴掻痒
え〜と、だいぶ間が空いてしまって申し訳ないです。
更新再開させていただきますので読んでいただけると幸いです。
“東京冒険者学校”、ここはその名の通り冒険者の育成を目的として設立された学校である。
ただし、一応冒険者の学校という形をとっているがまだ出来たばかりなので授業内容は試験的な部分が強いとのこと。座学は冒険者協会が冒険者から吸い上げた情報を元に行われ、実技は実際にダンジョンに潜る実戦形式で学んで行く予定と一限目のホームルームで説明があった。
冒険者学校というものがなぜ冒険者の年齢層がだいぶ若く設定されているのかというとダンジョンが出現したあとすぐのスタンピードを未然に防いだもの達の多くが若者たちだったというのが大きな理由の一つだ。それも10代後半から20代後半ぐらいまでの年齢層が一番多かった。それより年上の者たちは保守的でダンジョンに潜ろうとしない者たちの方が多かったため、若い世代の参入が求められたのだ。もちろん自衛隊や警察などといった組織もスタンピードの対策に動いた。しかしどちらかというと起きてしまったスタンピードを沈めるためや避難民の誘導のために労力を取られてしまい、手が圧倒的に足りていなかった。このとき一早くダンジョンへ踏み出したのは一人の学生、それもまだ大学生になったばかりの青年だったという。
そういったことから批判の声はあるものの早いうちからダンジョンに入れる人材を育成していく方針を政府が固めた訳だ。ダンジョンに潜ることに対して抵抗を持つ前に経験してもらうためだ。
ただし、冒険者学校という名前ではあるが学校の括りとしては高等学校のため、普通の学校と同じく勉学もしっかり行う。決してスキルを磨いてレベルを上げ、冒険者としての実力があれば卒業できるというものではない。
他にも国は各大学にもそれぞれダンジョンについての指導を必須項目に入れるよう動いているがダンジョンだけの専攻は作る気は今のところないようだ。
なぜならダンジョンが出現したからといっていつか消えない保証はないのだ。突然現れたものは突然消える可能性もあるということだ。つまり今後冒険者一筋で生きていけるという確固たる保証などは存在しないのだ。
そのためまだまだ世間からすれば冒険者というものは公的に認められた副業っといった側面が強いのである。そのためこの学校の生徒達も冒険者一本なんて考えはせず、将来就く仕事は別に考えているというのが実情だ。世の中は案外世知辛い。
ダンジョンに潜るだけで生活していきたいというのなら自衛隊のダンジョン探索・攻略部隊に入るのも手だ。もしダンジョンがなくなったら普通の自衛隊員として雇ってくれるので職にあぶれることはない。しかし、若者にとっては普通の自衛隊員になるかもしれないということがネックとなり、入隊数は増えていないらしい。
そもそも学校の教師は冒険者ではあるもののメインは高校教師である。ただし生徒の見本となるようにダンジョンに実際に潜ってもいるが職務は普通の授業を行うことだ。ダンジョンの授業は現役の冒険者が担当する。
つまり何が言いたいかというと…
(あ゛〜! 授業だっり〜! もう卒業してるんだし授業とか免除してくれよ!)
昼休みに入ってすぐ、二木奏太は机に突っ伏した。彼の想像以上に高校生の授業は大変であった。昔通った道とはいえ、もう過ぎ去った過去でしかない。社会人になってから講習会などにも幾度かは顔を出したことはあるがそれくらいだ。そのため久々に受けるまともな授業は思った以上に奏太を疲弊させた。
1時限目はホームルームということでこの学校の簡単な説明の後、軽い自己紹介とともに学級委員だの風紀委員だのを決めるだけで楽だった。しかし、2時限目からは普通の授業だった。ダンジョンや魔法などといった単語は一切出て来ず、まともな授業を受けさせられたのだ。
(くっ、英語の授業とか今更受けて俺にどうしろというのだ!)
「ふふっ、疲れ切ってるね〜」
奏太がぐた〜っと机に突っ伏していると苦笑と共に男子生徒から声がかけられた。男子生徒の知り合いなどいない奏太は恐る恐る顔を上げるとそこには爽やかな印象のイケメンがいた。身長は奏太とほぼ同じくらい、サラサラの黒髪に優しげな目、イケメンだが尖った特徴は他にはなく、どうやら種族は人間のようだ。
(ああ、隣の席の…えっと学級委員になった何とか君か)
学級委員に真っ先に立候補した真面目そうな女生徒に続き、自ら立候補した爽やか系イケメン。本日一限目のホームルームで奏太の印象に残ったのはこの二人だったのでなんとか思い出すことができた。ただし、名前までは覚えられなかった。
「いや〜、高校生とは思ったより大変なものですね」
「そう…かな? まだ今日の授業は中学の延長上って感じでさほど難しくなかったと思うんだけど」
とりあえず奏太が苦笑しながら答えてみると爽やかイケメンは首を傾げた。高一の最初の授業なんて中学校とさしてレベルは変わらないのだから奏太が何を大変といっているのか彼には伝わらなかったようだ。
「まぁ、授業の内容はそこまで難しくはなかったけど…。途中に休憩があるとしても4時間近く授業を行うとか辛いと思わないかい?」
「えっと、…その辺は中学と変わりないんじゃないかな?」
「あ〜、いやまぁそうなんでしょうけどねぇ」
それこそ伝わるわけないかと奏太がははっと乾いた笑みを浮かべる。
「というかさ、同い年なんだからもっとくだけた感じで話そうよ」
「ん? あ〜、そうですかね? …そうだね?」
つい最近まで社会人として働いていたため、初対面の人と話すとどうしても敬語になってしまう癖が抜けきらないのだ。それに下手したら自分の子供といってもいいくらいの年齢の子供といきなりどう話したらいいのか正直戸惑っている面もある。奏太は首を捻りながらなんとかそれっぽい言い方を捻り出した。
「ふふっ、変わってるね君」
そんな奏太のおかしな対応を軽く笑っただけで流してくれるこの爽やかイケメンは結構いい人かもしれないと奏太は思った。
「僕は須藤彰。彰って呼んでよ」
「ああ、俺は二木奏太。二木でも奏太でも好きに読んでくれ」
「うん、じゃあ奏太って呼ばせてもらうね。よろしく、奏太」
「こちらこそよろしく頼むよ、彰」
そんな風に和やかにお互い自己紹介をしているところで突如割り込んでくる影があった。
「ちょっと君!」
「ん?」
「君が二木君よね?」
割り込んできた人を確認するとホームルームで真っ先にクラスの学級委員になった女生徒だった。これでこの場にクラスの学級委員二人が揃ったことになる。話しかけてきた女生徒は制服をきっちり着こなし、髪は少し首にかかるくらいの黒のボブヘアーで生真面目そうな感じのつり目、この子も種族は人間だろう。端正な顔立ちをしているがいかにも私風紀委員ですっといった感じの言いようのない硬さを感じる。そしてなぜか今その女生徒に奏太は睨まれていた。
「はい、そうですが…何でしょうか?」
何か悪いことをしてしまったかと奏太は相手の様子を伺うように聞いてみると女生徒は目を更に吊り上げ答えた。
「あなた、朝から喧嘩したって話を聞いたわよ!」
「あ〜」
奏太は身に覚えがあることなので気まずくなって頭を押さえながら唸った。高校の授業で疲れていたため今朝の出来事がすっかり頭の中から抜けていた。
(さて、なんて説明しようか…)
奏太が頭を捻らせているとますます彼女の奏太への視線が厳しいものとなっていった。
「ストップストップ! メグ、ちょっと落ち着いて!」
“どうどう”といった感じを手でジェスチャーしながら激昂しつつある彼女を抑えるような形で彰が止めに入ってくれた。すると彼女は怪訝そうな彰を一瞥し、言った。
「何よ? 止めるの彰?」
「だって…メグも奏太をよく知ってるわけではないでしょう? それなのに最初から決めつけるのは良くないんじゃないかな?」
「む〜、一理あるわね」
奏太は彰の大人な対応に感心した。彼女も不服はありつつも納得する部分もあったのか渋々ながらも頷いた。
「これからお昼だし、彼と一緒に食べながら話してみなよ。だからさ、ほらっ、メグもお昼ご飯もっといでよ」
「う〜、わかったわ」
彰の言葉に押されるまま彼女は席にお昼ご飯を取りに戻っていった。
「そういうことで、悪いけど奏太もいいかい? 一緒にお昼を食べながら親睦を深めようよ」
「まぁ、俺は構わないよ」
バツの悪そうな顔をしながら聞いてくる彰に奏太は気にするなといった感じに首を振ったあと答えた。どの道ぼっち飯を覚悟していた奏太に断る理由はなかった。話し相手がいるならそれに越したことはない。自分より若い子たちの中に自分で入っていくことは奏太には難しいのでこうやって相手から機会を作ってくれるというのなら逃す手はない。
それになぜだろう、このイケメンとは初めてあったばかりだというのに他人という感じがしない。相手がコミュニケーション能力の高い爽やかイケメンであることを抜きにしてもこの須藤彰という人物に不思議な親しみを感じている自分がいた。はて? どこかで話したことがあるのだろうかというモヤモヤとした思いが心に溢れるが一向に思い出すことができない。
「あたし達もいいかしら?」
奏太がそんな言いようのないモヤモヤした感情を持て余していると新たに声をかけるものがいた。奏太と彰が声の方に振り向くと、そこにはお弁当を片手にした美緒と玲奈の二人の姿があった。
読んでいただきありがとうございます。
え?
ダンジョンにいつ潜るのかって?
…ま、まだまだ先です。




