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第七章 僕らが旅から帰る理由 - 3

 最後の最後にアウディの贈り物?

 (ゆにばぁさりぃが)能動的に何かを為したワケでもないのに正義執行! のオチですか?

 棚から牡丹餅もいいところだと思うんですけど?


 戸惑う桜里子たちを他所に【正義の執行者】の姿は既になし。

 ひと足お先にドロンさせて頂きます、とばかりに帰っていきました。

 自宅へ。

 海と陸の間にある異世界空間へと。

 綺麗さっぱり――足跡一つも残さずに。


 となれば、後処理は残った者がやらなきゃいけない。

 そういうことですよね?


『官邸を狙ったドローンですが、撃墜された破片から毒物のカプセルが確認されました』

 事の顛末は臨時ニュースで速報された。

『ドローンには官邸の上空で毒物を撒くように、プログラミングが施されていた模様です』

 画面切り替わり、望遠カメラが過激派アジトへと突入する特殊部隊を映す。

『なお、当該ドローンは都内の屋外遊戯施設で撃ち落とされましたが、毒物による汚染は確認されておりません』

『撃ち落としたのは都内近郊の女子高生とのこと。お手柄ですね』




「桜里子、タイが曲がっていてよ?」

 そりゃ曲がりもしますって! 手足震えっぱなしですもん、さっきから!

「それより何故こんなとこにいるんですか、私たち?」

 霞ヶ関まで黒塗りの高級セダンで送迎された上、テレビカメラに囲まれているんですけど?

「どうも公安は過激派の計画を事前に掴んでたらしいぞな」

「なのにアジトへ踏み込んだら、あのドローンは既に飛ばされてしまっていて……」

「まさに失態。面目丸潰れ」

 ショーファードリブンの高級車を降りると、映画祭のレッドカーペットと見紛うお出迎えが。

「そこで敗戦を隠すのは英雄の役目なの」

「使い古された手法ぞな。古今東西常套手段」

 スーツの職員さんたち数十人に、女優顔負けの営業スマイルを振り撒きながら、小声で呟く美少女二人。

「でもあれは英雄的行動でも何でも…………」

 しー。

 血色の良い唇に指を当て、ウインクで沈黙を迫る。

 それこそ常套手段ですよ悠弐子さん。

 見目麗しい美女に秘密の共有をせがまれて、断れる子がいるんでしょうか?


 黙秘を迫られたまま、いかにも国家の中枢機関を担ってますよ的な庁舎内へ案内されると……

「ああ、申し訳ありませんが、確認いいですか?」

「は、はいぃぃぃぃ!」

 案内役の職員さんから、不意に質問が飛んできた。

「今回の表彰を受けるお友達の――欠席なさってる方の名前はアウディさんでいいのかな?」

「はぃぃぃぃぃぃぃ!」

「苗字は何と仰る?」

 ……苗字? 苗字って言われても……

「ふわとろでぇぇーす♪」

「ふわとろ!?」

 いくらなんでも適当すぎませんかね悠弐子さん?

「霞城中央高校一年のアウディふわとろさん……どういう字を充てるんですか?」

「アウディはカタカナで、東山道不破の関のふわに、長瀞のとろ」

「帰国子女の方なんですか?」

「ハーフの短期留学生でーす♪」

「どちらからおいでになったの?」

「空間を超越する井戸を通って異世か……」

「あー! イスラエルですよイスラエル!」

 何を言い出すんですかB子ちゃん! ここで本当のこと言ってどうすんですか!



 そしてセレモニー用の応接間へ招かれた私たち、

「感謝状 アウディ不破瀞 殿」

『アウディさんはイスラエルからの留学生で、現在は帰国途上とのこと。本日は同じ部活の皆さんが代理で受け取ります』

 メディアのカメラが多数居並ぶ中、アナウンスで紹介されます。

「君たちアーチェリー部なの?」

「あ、いや、その……」

 なななんて応えればいいんですか悠弐子さん? B子ちゃん?

 まさか『私たち、日本の秩序を守る秘密結社です!』とかバラせないし!

 SOSのアイコンタクトを両側に立つ二人へ送っても、アルカイックスマイル。

「ははは、そんなに緊張しなくてもいいよ」

 完全にオラついてる私を大臣さんがフォローしてくれましたけど……

(うああぁ……この人をウイドーメーカー号へ拉致ってたんですよね、私たち、つい先日!)

 その当人を前に平然としていられる方がどうかしてます!

「あの……あの……あのあのあの……」

 だめだこりゃ! 自分で言うもなんですが、とてもテレビには映せない程の挙動不審。

 こういう役こそフロントマンがやるべきなのに!

「ヒューマンネイチャリング部です、綿貫大臣」

 さすが悠弐子さん、ハッタリかまさせたら日本一の女子高生。

「ボーイスカウトみたいなもの?」

「はい」

 大臣相手でも平然と。いやぁ無理無理、真似できないですそういうとこ。

「では留学生の彼女にも、よろしく伝えてくれ給え」

「わわわ分かりましたぁぁ!」

 変な汗をダラダラ流しながら大臣と握手を交わせば、目も眩むようなフラッシュの雨に溺れた。




「おー、今日も再生数伸びてるなー」

 ネットへ上げた新曲PVの閲覧数は、過去に類を見ないほどの鰻登り。

「出ちゃいましたからね、テレビとかネットとか」

 案の定、「ニュースにめちゃくちゃ美人の女子高生が出てる!」とネットで話題沸騰、その日のうちにバレましたから、曰く付きインディーズバンド『Y』のボーカルとDJだって。お約束通り、私に対する言及はゼロでしたけど!

「でも今回は、少し風向きが……」

 音楽活動とは何の関係もない露出なんかしちゃったら、「売名行為だ!」とか「音楽の才能がないからこんなことしてる!」みたいな罵詈雑言が書き込まれてもおかしくないんですが……

 例の【二度と関わりたくないクズバンドを晒すスレ】を斜め読みしてみると、


 「『Y』のドラマー、異常に上手くなってない?」「ヘルプのパーカッショニストらしい」「いつものドラマーは後ろでマラカス鳴らしてるぞ。微かに」「どうやってこんな超絶技巧パーカッショニストを? コネ? 金? それとも枕?」「ボーカルとDJの色香に惑わされた説が濃厚」「とある有名ドラマーが名を隠して演ってるらしい」「あの産廃バンドには猫に小判! 豚に真珠!」「正体は誰なの、このパーカッショニスト?」etcetc……


 PVには姿は映ってないので、あることないこと憶測が飛び交ってます。

「……アウディ……」

 サンプリングの音源は、たった一度だけのセッション。iPhoneで録音してた音をB子ちゃんがリミックスしたものです。

 聴けば思い出されるアウディの息遣い――心から音を楽しんでる顔。

(練習……しとこう)

 今度は、ついていけるように。あなたの演奏と気持ちよくセッションできるように。次こそは。

 上手くなっておこう。

 私、頑張るからねアウディ。


「あのパーカッショニストはUFOに乗って宇宙へ帰ったわ!」

 部室の外から穏やかじゃない声が。

「今後あたしたちのバンドに参加することないし、正式メンバーでもないし!」

 苛ついた悠弐子さんが携帯に怒鳴っていた。

「金輪際電話してくんな!」

 悠弐子さんをキレさせるまで食い下がる……音楽関係者?

「でも悠弐子さん、クレジットするくらい構わない気がするんですけど?」

 どう考えても、あの演奏はアウディの音楽性に触発されたセッションでしたし。

「――分かってないな桜里子」

 子泣き爺の体勢で負ぶさってきたB子ちゃんに突っ込まれた。

「あたしたちのドラマーは桜里子……あんただけなんだから」

 蹌踉けた私を抱き留めて、悠弐子さんは諭す。

 本気ですか?

 テクニックの引き出しも乏しいマラカス女子ですけど?

 全然みんなの役に立ってない味噌っかすですけど?

 それでも私を選んでくれる?

「当たり前でしょ」

 ど、どうしよう?

 嬉しい――心の底から万歳三唱したい衝動が沸き上がってくる。

 いやいやいやいやいやいやいや!

 戯言かもしれないぞ? 姫の気まぐれかもしれない!

 迂闊に喜んだら「なに本気にしてんの? ぷぷぷ」って鼻で嘲笑われちゃうかも?

(ででででも……)

 嬉しい嬉しすぎる、世界が薔薇色のお花畑に染まるくらい!

 抑えきれない感情で彼女と彼女にハグし返そうとした――――ところで、


「あのう……」


 一瞬、空耳かと思った。

 だってこの部室を訪れる「生徒」はいない。原則として。

 霞城中央高校の生徒たるもの、「贅理部」の室名札は魔界領域。

 ひとたび迷い込めば「獲って食われ」かねない魔女の森と、共有認識される部屋です。

 自分で言うのもなんですが……

 やたら尾鰭のつきまくった伝説の持ち主、彩波悠弐子。

 存在自体が謎のバースデイ・ブラックチャイルド。

 そんな二人が棲む――さながら贅理部室は魔女の森なのです。


 贅理部室そこへ制服の来訪者など。


「あのー……」

 僅かに開いた扉から、おずおずと顔を覗かせた……小動物みたいな女の子。

「あの……まことにきょうしゅくなのですが……」

 ギロリ!

「ひぃぃぃ!」

「悠弐子さん!」

 なーに睨んでるんですか? いたいけな女子に向かって!

 がるるるるるるるる!

「B子ちゃんも!」

 来訪者に対して警戒心全開の「おもてなし」で対処するから、変な風評が蔓延するんですよ?

「ようこそ贅理部へ……どんな御用でしょう?」

 冷静に理性的に、これ以上二人(悠弐子&B子)の評判が悪くならないよう、丁重に……

「実は、折り入ってお願いがあるんですが……」

「お願い?」

「うちは奉仕部なんかじゃないけど?」

「帰れ帰れ!」

「悠弐子さん! B子ちゃん!」

 もうほんとこの二人!

 いいんですか、今以上に危険人物扱いされちゃっても?

 悪い意味で学内一近寄りがたい場所って言われてるのに、贅理部室ここは!

 霞城中央のサルガッソー、もしくはバミューダ・トライアングルと呼ばれてるのに!

「ごめんなさいね、この人たち機嫌悪くて……」

 【部室棟給電停止事件】以来、外からの干渉には過敏反応しまくりの悠弐子さんとB子ちゃん、

 この二人、冷房のためなら人を殺めかねないほど暑がりなので。

 もはや事件の当事者は霞城中央を去ってしまっているのに……

「それで……どのような用件でしょ?」

 軽く涙目の女子へ優しく促せば、

「じ、実は……」

 ぽつりぽつり彼女は本題を語り始めた。



 一通り《 小さな依頼者 》の話を聴き終えると、

「桜里子!」

「桜里子!」

 悠弐子さんとB子ちゃん、私の肩に手を置いて、

「チャンス到来!」

「到来!」

「チャンスってまさか?」

「誤った世を正しく導く……正義執行のチャンス到来だよ!」

「ゆにばぁさりぃの本懐ぞな!」

 鮮やかなフラワーガーデンで主役を張る、大ぶりのダリアみたいな笑みで私を促す。

「チャンス! ユー・ガッタ・チャンス!」

「ユー・ガッタ・チャンス! トゥナイ!」

 ああ、もう嫌な予感しかしないです!

 今度はどこ行かされるんですか私? どんな修羅場へと飛ばされるんですか?


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