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第七章 僕らが旅から帰る理由 - 2

テキストでもサービスシーンを忘れない心!


 …………ってなつもりはないんですが、やって参りましたプールサイド。

 水着の少女が刹那に夏を消費――できるのは、恵まれた人類だけなのです。

 これまで地球に生を受けた人で、そんな享楽を謳歌できた人は、かなり恵まれた人なのです。

 まずまず、そんな話でした、七章導入は。


 なので、普通の世界(≒自らの身は自分たちで護らないと、簡単に蹂躙されてしまう世界)からやってきたアウディが“在るべき処”への帰還を望むのは当然の話。


 だけど桜里子は、まだ気持ちの整理がつかない様子。


 はてさて、桜里子は円満にアウディを送り出すことが出来るのか?


 ゆにばぁさりぃBlue Blood、いよいよ佳境です。


 ガッシャーン!


 見上げれば野鳥の断末魔…………では、ありませんでした。

 アウディの矢に撃ち抜かれたのは、空飛ぶ小型無人マルチコプターでした。

 激しい衝撃を受けたリチウムイオンバッテリは大爆発。

 巡航ミサイルがヒットしたヘリコプターみたいな、派手な煙を空に残し……残骸はジャポジャポとプールに水柱を作る。

「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「…………」

 踊る水着美少女に目を奪われていた人たちも、呆気に取られて空を見上げます。


「なっ、何やってんのアウディィィィィィ!?!?」

「急に邪悪な気配がしたので……」

「あれって、ただのドローンだよ?」

 見境なくエルフの村を襲ってくる翼竜や猛禽や山賊や悪辣封建領主の類じゃないのに!

 邪悪認定が安易すぎる……


「ていっ!」「そりゃ!」

 ドン! ドン!

「うへぁ!」「ふごっ!」

 私とアウディ、美少女二人に足蹴にされた!

 ええそうでした、ここはウォータースライダーの待機スペース。

 なので蹴落とされるとしたら水の流れるチューブしかありません。

 摩擦係数を減じる流水に促され、滑り落ちてく私とアウディ! ライクアローリングストーン。

「証拠!」「隠滅!」

 全く以て正義の味方らしからぬ悠弐子さんとB子ちゃんの得意技が、炸裂です!

 バックレるチャンスには滅法鋭い嗅覚を発揮するのが、この二人の十八番なのです!

 それに窮地を救われた機会も一度や二度ではありません。

 ――ありませんが!

「ひょわぁぁぁぁぁぁ!」

 心の準備する間もなく突き落とすとか!

(鬼か! 鬼畜か!)

「大丈夫桜里子」

「え?」

「さよならを言う時間くらいはある」

 抱き合ったまま水の回廊を滑るアウディが、耳元で囁いた。

「今までありがとね桜里子」

「アウディ」

 ありったけの想いを込めて、最後のハグ。

「また会える?」

「会える」

 《次元の井戸》は未来永劫開きっぱなしなのか、あるいはいつか閉じてしまうものなのか?

 私たちには分からない。知る術がない。分かれたら永遠に会えない可能性も、否定できない。

 再会の保証は誰にも出来やしない(Nobody Knows)。

「アウディ……」

(だったらウチの子になっちゃえばいいじゃん?)

 最初は片言しか喋れなかった彼女も、今やネイティブ並み。そのくらい喋れたら日常生活に何の支障もないでしょ?


(行かないで!)


 ――でも言えない。

 彼女は彼女の故郷で彼女の幸せを得る権利がある。彼女自身が選ぶ、在るべき場所で。

 それを遮る権利など、単なる異界の女子高生(私)にはない。

「アウディ……」

 いよいよスライダーの斜度も増し、着水面が迫ってくる。

「一番最初に会えたのが、桜里子で良かった」

「アウディ……」

「桜里子が優しくしてくれたから、孤独の毒に冒されずに済んだ。何にも寄る辺ない世界で、絶望に拠る緩慢な死を甘んじたかも知れないのに」

「…………」

「全部、桜里子のお陰だよ」

 行かないでアウディ。折角こんなに仲良くなれたのに。

 ここで別れたら二度と会えないのかもしれないのに……

「大丈夫」

 不意に柔らかい口唇の感触。

「想い合っていれば、必ずまた会える」

 真夏の向日葵みたいな笑顔で、あなたは私に微笑みかけてくれた。




 ザバー!

「…………」

 数秒前まで。

 この腕に収まっていた華奢なエルフは…………跡形もなく消えてしまってた。

「…………」

 容赦ない夏の日差しに照りつけられながら、ドップリと虚脱感に包まれる。

「本当にディメンションドライバーだったんだ……」

 嘘なら嘘で良かったのに。

 ここで『ドッキリ大成功!』のプラカード抱えた悠弐子さんが滑り降りてきても、私は許す。

 この胸の痛みが消えるなら「桜里子、また騙されてやんの!」って、嗤われてもいい。

 誰か、誰か嘘だと……………………嘘だと言ってよ!


 ウィィィィィィーウー、ウィィィィィー……


 近くでパトカーの音がする。

 ご愁傷様。問答無用の狙撃犯なら、もうこの世にはいないよ。

 高名なミステリ作家も真っ青なトリックで、跡形もなく消えちゃったんだから。

「上がって! 早く上がりなさい! 急いで急いで! 早ぁぁぁーく!」

 プールサイドへ雪崩れ込んできた警官が場内の客へと叫ぶ。

「様子がおかしい?」

 異変に気づいてスライダーを滑り降りてきた、悠弐子さんが呟く。

「単なるドローンの物損事故にしては物々しすぎるぞな……」

 続いて降りてきたB子ちゃんも警戒を隠さない。

 美少女の危険察知センサーが【異常】の気配を感知する。

「……まさかバレちゃいました????」

 あたしたちが(ホンのちょ~っとだけ)綿貫議員の身柄を預かった不審者ゆにばぁさりぃの一味だと?

「君たちも早く、早く外へ出なさい!」

 杞憂だった。

 警官は一般客同様、私たち三人をも急いで出口へ向かうように促してくる。

「何か遭ったんですか?」

 素知らぬ顔で悠弐子さんが警官へ尋ねると、

「あの墜落したドローン、過激派が首相官邸を狙ったものだったんだよ!」

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