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セーラー服と昇り兎 - 2

目覚めてみればヤクザ映画の修羅場みたいなところに放り込まれた桜里子と贅理部御一行様。


異世界?

言ってみればコレも異世界?

「……半!」

「シソウの半!」

 バタァァァァァァァァッン! 四方の襖が外から蹴り飛ばされ、潜んでいた用心棒が姿を現す!

「ひぃぃぃぃっ!」

 無理! 無理無理無理無理無理無理無理無理! こんなのどうにもならない!

 ギラリ光る日本刀に、チャカを構えた奴らまでいるし! 完全に袋のネズミです私たち!

「改めさせてもらうデェ!」

「ひっ!」

 真っ先に飛び込んできたチンピラさんが、ドスを裁断機みたいにしてサイコロを真っ二つ!

「ホレ見てみ…………はァっ????」

 イカサマを確信していたチンピラ――言葉に詰まる。紅潮した血の気も引いていく。

「ぼ、首領ボスッ!……何の変哲も!」

 そんなはずはない、とボス自身が検分しても、

「うっ!」

 やはり【証拠】は見受けられず。

「見縊ってもらっちゃあ困るよ兎さん!」

 ここぞとばかりに悠弐子さんとB子ちゃん、着物の裾を翻し、啖呵を切る!

「こちとらなぁ!」

「天下無双の!」

「―――――女子高生様よ!」



「うひー!」

 生きるか死ぬか(1 or 8)の一発勝負とか、どうかしてますよ!

 勝てる可能性は五割もあるなんて勝ったから言える戯言です!

 私、膝はガクガク喉はカラカラ変な汗が止まりません。

 だもんで控室に備えてあったルームサービスに手を伸ばし……

「桜里子!」

 ガチャァァーン!

「なっ、何するんですか悠弐子さん!」

 ……かけたところを払われた!

 あーもう、綺麗なカーペットがジュースで大変なことに! ぶちまけられてビシャビシャです!

「宮本武蔵」

「は?」

「かの剣豪が佐々木小次郎との決闘に遅れたのは何故?」

「そういう戦術ですよね? 心理戦みたいな? ワザと遅れることで相手の平常心を奪う系の」

「ちっがぁぁぁーう!」

「ひぃぃぃぃぃ!」

 床の間にディスプレイされていた日本刀を振り回すのは止めて下さい悠弐子さん!

 装飾用にしても危ないじゃないですか!

「武蔵は兵法者として最も大事なことを守ったのよ!」

「……守った? …………破った、んではなくて?」

 だって約束を反故にしたんですよ? 決められた時刻を守らない人は悪い人ですよね?

「桜里子」

「はい?」

「剣豪として名を残すため、最も大事なことは?」

「そりゃ抜群に剣の腕が優れていることじゃないんですか?」

「不正解ぞな!」

 悠弐子さんの刀を真剣白刃取りしてた私は、バッサリ斬られてしまいました。

 後ろからB子ちゃんに。模造刀なので帯の紐一本斬れやしませんが。

「それズルいですB子ちゃん……後ろから斬りかかるとか武士の風上にも置けません」

「甘いぞな桜里子――――死人に口なし!」

「そう、死人に口なし」

 あ…………そういうことですか?

「死んではだめなの。生き延びられなければ歴史から消える」

「いくら最高のソードマスターであっても、死ぬときは死ぬぞな」

 とか言いながら首筋(人の急所)に刃を当てるのは止めてB子ちゃん……模造刀だと分かっていても変な汗が流れちゃいます。

「で宮本武蔵よ。どうして遅刻魔の汚名を被ることを承知で遅れたのか?」

「なぜでしょうか?」

「それは逃げるためなの」

「へ?」

「首尾よく佐々木小次郎を討ち果たしたとしても、そこで小次郎の弟子たちに襲われたら?」

「ひとたまりもないですよね……」

「剣豪の誉れ高い武芸者であっても、多勢に無勢は鉄壁の普偏則」

 いくら勇猛果敢な悠弐子さんやB子ちゃんであっても――仮に私のクローン十人から一斉に襲いかかられたら、勝ち目はないですよ。個の実力が勝るのは前提条件が等しい時だけです。

「それも師匠を殺されて怒り狂う弟子よ?」

「考えるまでもなく最悪の相手ですね……」

「リアルバーサーカーぞな」

「だから武蔵は瀬戸内海の潮流まで計算して挑んだの――生き残るために!」

 悠弐子さん模造刀を投げ捨てて断言する。

「遠足と一緒。決闘は安全地帯まで逃げ延びることができて、初めて勝ちなの!」

「生きてお家に帰り着くまでが果し合いぞな!」

「歴史書とは勝者の言い訳集よ。『これこれこうだったから自分には正当性がある』と書けるのは生き残った者だけ! 敗者の言い分は一切載らないわ!」

「『不都合な真実』は綺麗サッパリと抹消ぞな!」

「生き延びてこそモノが言えるし、どんな卑怯者でも己を英雄と喧伝できる!」

 てことはつまり……悠弐子さんとB子ちゃんが言いたいのは……

「ゆにばぁさりぃ(私たち)は――――――――まだ勝っていない?」

 ジュースの入ったピッチャーを逆さに傾けながら悠弐子さんは頷いた。



 敵の「鳥籠」に留まってなどいられるか! とばかりに飛び出す私たち!

「うわ……」

 高級料亭みたいな回廊を抜けると――――そこは夢の国だった。

 ズラリと並んだスロットマシーンに、羅紗の緑が映えるルーレット、ポーカー、バカラのテーブルでは色とりどりのチップが跋扈している。

「ええと、日本でカジノって合法化されたんでしたっけ?」

「日本でなければいいのよ」

「ここ日本じゃないんですか?」

 ディーラーも客も日本人に見えるんですけど? 飛び交う言葉も日本語じゃないですか?

「桜里子、あれあれ」

 B子ちゃんが指差した窓の外は…………海!

 しかも水平線の彼方まで広がる大海洋! 地球の丸みを視認できてしまいそうな外海です!

「もしかして船? なんですかここ?」

 いわゆる巨大なホテルを丸ごと載っけたみたいな旅客船ですか?

「外国船籍の船が公海上に出ちゃえば日本の法律も及ばんぞな」

「だからみんな堂々と賭け事を…………いやちょっと待って下さい!」

 てことはてことは!

 つまり結局私たちは!

「袋の鼠!」

 周りに島影も見えない海洋上ならば、逃げ場所なんてないじゃないですか!

「死人に口なし、には格好のシチュエーションぞな」

 縁起でもないですよB子ちゃん!

 これじゃ怒り狂った小次郎の弟子に撲殺される運命です!

 帰りの船を失ったマヌケな武蔵ですよ私たち!

 五輪の書を書く前に呆気なく海の藻屑にされちゃいますよ!

「おい、そっちにいたか?」

(((!!!!!!!!!!!!!)))

「控室は蛻の殻でしたぜ兄貴!」

 曲がり角の先から聞こえてくる怒声。夥しい靴音が風雲急を告げてくる!

「洗い浚いぶちまけてでも探し出せ! どうせ小娘どもに逃げ場なんてねぇんだ!」


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